平成15年度

年次経済財政報告

(経済財政政策担当大臣報告)

−改革なくして成長なしIII−

平成15年10月

内閣府


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第1節 金融機関と企業が抱える問題

1 間接金融の機能低下

●間接金融を主体とした我が国の金融システム
 我が国の金融システムは、金融機関が仲介する間接金融の占める比重が大きい(2)。例えば、企業(非金融法人企業)側からみると、負債残高に占める金融機関貸出は39%で、株式や社債を通した直接金融の割合は36%とほぼ拮抗している。しかし、我が国の金融機関は、企業と密接な関係を築く中で企業の株式や社債を保有してきた。そこで、金融機関が保有する株式・出資金、その他の証券を貸出に加えたものを間接金融関連とすると、企業の資金調達の50%が間接金融関連、26%が直接金融関連となる。
 この背景には、経済発展に必要な資金配分を、金融機関を強化することによって行ってきたという歴史的経緯がある。また、その中で、金融機関と企業が密接な関係を構築し、金融機関が貸出だけでなく社債・株式等の引受けも行うなど、いわば直接金融が間接金融の枠組みの中で多く行われてきたという事情もある。さらに、間接金融中心の金融システムが形成されたために、直接金融の発達が遅れたという面もあろう。
 間接金融にとって特に重要な意味を持っていたのは、主要な取引銀行である「メインバンク」である。メインバンクは、株式持合いや役員派遣等を通じて長期的な関係を築き、企業の経営状態を継続的にモニターしながら貸出を行ったが、それは他の金融機関の貸出を促進する役割をも担った。また、当該企業が経営不振に陥ったときには、企業再建や清算にあたって主導的な役割も果たしてきた。

●間接金融の機能低下

 我が国の経済発展を支えてきた間接金融は、バブル崩壊後、その機能が低下した。例えば、金融機関の貸出は、毎年減少を続け、1991年に比べ、2002年の貸出額は、82%の水準となっている。こうしたことは、直接金融へのアクセスが限られているなかにあっては、我が国の金融システム全体の機能低下をも意味した。
 間接金融の機能が低下した背景には、金融機関における不良債権の問題と、企業における過剰債務の問題があったと考えられる。
 一方では、バブル崩壊に伴って、金融機関に多額の不良債権が発生した。また、経済が不振を続けるなか、新たな不良債権が毎年発生した。このような不良債権の存在は、自己資本の毀損を通じて、金融機関の経営の健全性を大きく脅かすことになった。このため、金融機関はリスク許容力を大きく低下させることになり、設備投資等への貸出に対して慎重な姿勢をとるようになった。メインバンクとしての機能も、金融機関がこのような困難を抱えるなかで変質を遂げた。
 他方で、金融機関にとっての不良債権の発生は、企業が過剰債務を抱えていることを意味する。過剰債務の存在は、企業の経営を圧迫してきた。このことは、金融機関からみれば信用リスクの高まりを意味するので、金融機関からの資金調達も困難になった。このため、企業は、バランスシートの調整を迫られることになり、設備投資等の新たな資金需要を抑制するとともに、債務の返済を優先するようになった(第2−1−1図)。
 このように間接金融の機能低下の背景には、金融機関側の事情と企業側の事情の両方があったと考えられる。次に、設備投資の決定要因を分析しながら、この点を実証的に確認してみよう。


2 設備投資への影響

●設備投資の決定要因の変化
 設備投資がどのような要因によって決定されているかについてみるため、1988〜2001年度の製造業上場企業を対象に、パネル分析を行った(付注2−1)。
 設備投資は、基本的には、資本生産性と資本コストによって決まると考えられる。そこで、設備投資を被説明変数とし、説明変数として、総資産収益率(ROA)と有利子負債利子率(それぞれ資本生産性と資本コストの代理変数)を説明変数とするモデルを考えた(3)。また、資本ストック調整圧力の存在を考慮して資本ストックも説明変数に加えた。その上で、設備投資が資金面での制約を受けたかどうかをみるために、キャッシュフロー、長期借入金、社債を説明変数として加えた。さらに、メインバンクの有無が資金面での制約に影響しているかどうかもみるために、ダミー変数を加えた(4)。なお、計測期間は、バブル期(1988〜92年度)、バブル崩壊後(1993〜1997年度)、近年(1998〜2001年度)、の3期間である。
 主たる結果は次のとおりであった(第2−1−2表)。
 第1に、資本生産性は1988年以降の全期間を通じて有意にプラスに、また資本コストはバブル期以降の期間において有意にマイナスに効いている。これは、設備投資を決定する基本的な要因が影響していることを確認するものである。
 第2に、資本ストックは、バブル期は有意でなかったが、バブル崩壊以降は有意でマイナスとなっている。このことは、バブル崩壊以降、資本ストック調整圧力が設備投資に影響を与えてきたことを示している。
 第3に、キャッシュフローは、バブル期には設備投資に有意にプラスであったが、バブル崩壊後は有意にマイナスとなり、近年は有意でなくなっている。キャッシュフローの増加は、通常は設備投資を促進すると考えられるが、この結果は、バブル崩壊後にはキャッシュフローが負債返済に回り設備投資が抑制されていたこと、近年になっても積極的に設備投資を増加させようとする意欲がみられないことと整合的である(第2−1−3図)。
 第4に、長期借入金は、バブル期には有意でなかったものの、バブル崩壊後は有意にマイナスとなっている。これは、バブル崩壊後は、過剰債務の存在のために設備投資が抑制され、負債返済が優先されてきたことを示している。なお、近年になると、再び有意でなくなっているが、これは製造業においては過剰債務が基本的に問題とはならなくなっていることを示唆している。
 第5に、社債は、バブル期からバブル崩壊後にかけてプラスで有意であった。これは、バブル崩壊後、キャッシュフローや長期借入金が設備投資にマイナスに効くなかで、社債を発行することが可能な企業は、それによって設備投資を行ったことを示している。こうした企業の多くは、総資産規模が大きい優良企業である(第2−1−4図)。ただし、近年には社債も有意でなくなっている。これは、キャッシュフローや長期借入についてみたような資金面での制約がなくなったことに対応しているものと考えられる。
 第6に、メインバンクの存在は、バブル期には有意ではなかったが、バブル崩壊後は有意にプラスになり、逆に近年になると有意にマイナスとなっている。これは、バブル崩壊後は、キャッシュフローが一般的には設備投資に向かわないなかで、メインバンクの存在が企業に設備投資を促す効果がみられたが、近年は逆に、メインバンクをもたない企業と比べて、設備投資を抑制させる方向で作用していることを示している。
 以上の結果から、製造業の上場企業では、基本的には資本生産性と資本コストに基づいて設備投資に関する意思決定が行われているが、加えて、バブル崩壊後(1993〜1997年度)は、過剰債務の存在を背景に、負債の返済を優先させる傾向がみられてきたことが分かる。他方、この間、メインバンクは、資金面での制約を緩和させるように貸出を増加させていたことが示唆されている。このなかには、いわゆる「追い貸し」といった現象も含まれていると考えられる。
 近年(1998〜2001年度)になると、キャッシュフロー、長期借入金、社債など資金面の制約を示す変数は、いずれも設備投資に影響を及ぼさなくなっている。これは、全体として設備投資が抑制されていることを反映しているものと考えられる。他方、メインバンクは設備投資に対して抑制的な影響を及ぼしているが、これは、不良債権問題によってメインバンクのリスク許容力が低下し、貸出に慎重になったことを示唆している。このような金融機関の慎重な姿勢については、いわゆる「貸し渋り」といった批判もみられる。


3 中小企業金融への影響

●中小企業向け企業間信用の低下
 中小企業は大企業と比べて企業の経営内容について情報開示が限定的であり、資本市場へのアクセスにも限界があるため、中小企業金融には、本来、経営内容を適切に審査して資金供給を行う間接金融が適していると考えられる。
 しかし、中小企業向け貸出をみると、総額は減少が続いており、2000年には235兆円だったのが、2002年末には199兆円になっている。資金繰りや金融機関の貸出態度、借入金利水準をみても、90年代末以降、中小企業は総じて厳しい金融環境におかれていることが分かる(第2−1−5図)。このような状況は、金融機関のリスク許容力の低下と過剰債務を抱えた中小企業の信用リスクの上昇が、中小企業向け貸出にマイナスの影響を及ぼしたためと考えられる。
 特に、中小企業においては、設備投資資金もさることながら、運転資金などの短期資金調達においても厳しい状況にあると考えられる。金融機関からの貸出に代わる短期資金調達として企業間信用があるが、中小企業の場合には、90年代に大企業や中堅企業と比べて企業間信用が大きく減少している。また、与信回転期間(信用供与/売上高)も短期化している(第2−1−6図(1))。
 1990年代以降、金融緩和政策により貸出金利が低下してきているが、その中で、以上にみてきたように、中小企業向け貸出や企業間信用が低下してきている(第2−1−6図(2))。
 このようなことからも、中小企業がおかれた厳しい金融環境がうかがわれる。

●中小企業金融円滑化に向けた政策対応

 以上のような状況を踏まえ、政府は、中小企業に対する資金供給の円滑化を図るため、2000年12月に、セーフティネット保証・貸付制度を創設した(5)。また、2001年12月に、売掛債権担保融資保証制度を創設し(6)、2003年2月からは、資金繰り円滑化借換保証制度を実施している(7)
 さらに、日本銀行は、近年、金融機関のリスク許容力が低下していることにかんがみ、2003年6月に売掛債権を含む裏付資産を持つ資産担保証券(ABS)を買入対象資産に加えることを決定し、同年7月末より実施している(8)
 売掛債権を裏付資産とするABS等は、我が国の売掛債権残高に占める割合が約2%とまだ規模は小さい。しかし、企業(非金融法人企業)の資産全体に占める受取手形と売掛金の比率は依然として17%であり、市場の発展可能性は大きい(第2−1−7表)。したがって、こうした施策は、中小企業の資金調達手段の多様化に寄与すると考えられる。また、証券化を前提とした売掛債権が増えることによって、企業間信用の減少自体を抑制する効果も期待される。

 以上、金融機関と企業の抱える問題が設備投資や中小企業金融に及ぼしている影響をみてきた。そのなかで浮かび上がってきたのは、不良債権と過剰債務の存在のために、間接金融がうまく機能していないという姿である。こうした問題の影響は、証券発行による資金調達が可能な大企業と比べて、企業の経営内容について情報開示が限定的である中小企業に特に強く表れているといえよう。
 このような状況から脱するためには、金融機関の不良債権問題を解決することによって間接金融の正常化を図る必要がある。また、企業の過剰債務削減や早期事業再生を進める一方、収益性の向上に向けた努力も必要と考えられる。第2節及び第3節では、金融と企業の再構築に向けた現状と課題について分析・検討を行う。


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