付注2-2-3(1) 中立命題の検証について

1.モデル

 経済企画庁(1995)、本間正明他(1987)で用いられた消費関数、貯蓄関数を用い中立命題の検証を行う。中立命題が成立するならば政府支出の課税による調達と公債による調達の代替は消費に影響を与えず、貯蓄のみに影響を与えることが考えられる。ここでは政府支出の調達手段としての課税と公債発行の代替を一般政府経常受取及び一般政府収支(TX,TXX)で表し、これらの変化が消費及び貯蓄に影響を与えるか否かを検証する。

 具体的には、消費、貯蓄を可処分所得YD≡Y-TX-RE+TR+GINTの関数とし、これを以下のように拡張する。

(ⅰ)消費関数

(1-1)消費関数(1-1)>

(1-2)消費関数(1-2)>

 (ⅱ)貯蓄関数

(1-3)貯蓄関数(1-3)>

(1-4)貯蓄関数(1-4)>

   

但し、 C≡民間最終消費支出(家計+対家計民間非営利団体)

    S≡民間貯蓄(家計+対家計民間非営利団体)

    Y≡国内総生産―固定資本減耗

    TXX≡一般政府収支=TX-G-TR-GINT

    TX≡一般政府経常受取(所得支出勘定の受取合計)

    G≡政府最終消費支出+一般政府総固定資本形成

    TR≡一般政府経常移転

      (補助金+社会保障給付+社会扶助金+対家計民間非営利団体への経常移転

       +無基金雇用者福祉給付+その他の経常移転)

    GINT≡一般政府支払利子

    RE≡法人企業貯蓄(非金融法人企業+金融機関)

 なお、C,Sは民間最終消費支出デフレータで、Y,G,TR,TX,RE,GINT,はGDPデフレータで実質化し、総人口で除した一人当り実質値を用いた。なお、データは経済企画庁『国民経済計算』、総務庁『人口推計』による。

2.推計期間

 一般政府の貯蓄投資差額がマイナスに転じる74年度を境として、

1957年度から73年度まで

1974年度から98年度まで

の期間をそれぞれ推計する。

3.推計方法

 可処分所得YDの定義式よりYD≡C+Sとなることから、TXのパラメータの制約としてa13+b13=-1及びa23+b23=-1をおき、両モデルの撹乱項に相関関係がある可能性を考慮して(1-1)と(1-3)及び(1-2)と(1-4)をそれぞれSURを用いて推計を行う。中立命題が成立しているならば、a13=0及びb13=-1またはa23=0及びb23=-1となる。また、推計は各関数を一階の差分形とYとの比率形に変形しておこなう。

4.推計結果(付表2-2-3(1)参照)

 一般政府経常受取TXは①の期間においては消費にのみ影響を与えるが、②の期間においては消費関数のTXのパラメータの絶対値は①の期間に比べ減少して統計的に有意にゼロと違わないものもある一方で、貯蓄関数におけるTXのパラメータの絶対値は消費関数のそれよりも大きくなっている。また消費関数の決定係数は②の期間においては①より悪化している。

 一般政府収支TXXは①の期間においては消費にのみ影響を与えているが、②の期間においては消費関数のTXXのパラメータの絶対値が①に比べ減少し、貯蓄関数のTXXのパラメータが統計的に有意となっている。また消費関数の決定係数は②の期間においては①より悪化している。

 以上より、弱いながらも近年では中立命題が成り立ちやすくなっていることが示唆される。

(参考文献)

経済企画庁(1995)『平成7年度年次経済報告』、大蔵省印刷局。

本間正明他(1987)「公債の中立命題:理論とその実証分析」、『経済分析第106号』、

        経済企画庁経済研究所。