付注2-2-2(2) Barro(1979,1986a,b)における『課税標準化理論』の検定結果

1.理論的背景

 Barro(1979,1986a,b)における『課税標準化理論』においては、政府は課税による資源配分の歪みを最小化するように行動するので、政府の意思決定は課税によって生じる資源配分の歪みをコスト関数Cで表すと、

  (1)数式

   subject to

  (2)

但し、Yt≡t期における実質GDP(以下添え字のtはt期を意味する)

   Bt≡実質国債発行残高

    ≡実質利子率

   t ≡政府のt期における情報に基く条件付期待値

   Gt ≡国の実質一般支出(補正後ベース、除国債費、地方交付税)

   Tt ≡政府の実質税収

と定式化される。ここでコスト関数Cは租税額Ttに関して凸な増加関数であるとすると、

  (3)数式

(但しa≧0及びb>0)となり、政府がBt-1、Yt+j及びGt+j(但しj≧0)を所与として(1)式を(2)式の下で最小化するような税率を選択する限りにおいて、全てのjに対して

  (4)数式

となる。以上の関係より、国債の実質残高の増額は

  (5)数式

但し、G、Yは恒常的な国の実質一般支出及び実質GDPとする。すなわち、『課税標準化理論』の下で国債が増加するのは、国の実質一般支出が一時的に増加する場合と課税ベースである実質GDPが一時的に減少する場合である。国債の利払費rBt-1が他の値に対して相対的に小さい場合には

  (6)

となる。ここでDBt=Bt-Bt-1とすると、

  (7)数式

となり、この式をもとに以下の推計を行う。

2.実証分析

2-1 推計式の定式化

 (7)より

  (8)数式

と推計式を導く。ここでは恒常的部分は過去の系列をHPフィルターで平滑化することによって算出した。

2-2 推計期間

 1965年度~98年度。

2-3 検定結果

数式
 (7)の理論式より(8)においてα=1、β=-1が成立するか否かを検定する。最小二乗法により①の推計結果が得られる。


以上より、α=1、β=-1は有意に棄却できないが、D.W.が低い値となったために、t値が過大評価されている可能性がある。そこで(8)式の差分形を

  (9)数式

数式
とし、最小二乗法で回帰すると、①’のようにβのt値及び決定係数が低い結果となった。


2-4 単位根・共和分検定

 ここで、(8)式の各説明変数、被説明変数が定常であるか否かを検定した上で、長期的に(8)式のような安定的な関係が成立するか否かを検定する。

 先ず、(8)式の各変数に対してAugmented Dickey-Fuller testを行うと、②のように各変数には単位根が存在するという仮説を有意に棄却できず、各変数が非定常であるために「見せかけの相関」が存在している可能性を排除できない。

数式
 


 続いて(8)式を最小二乗法で回帰した残差μtに対して単位根検定を行うと、③のようにμtには単位根が存在するという仮説を有意に棄却できないことから(8)式のような共和分関係が成立していない。すなわち、我が国の財政赤字は課税標準化理論では説明できないことがわかる。④に実績値と理論値をそれぞれプロットしたが、87年度以降は両者の間に大きな乖離がみられることがわかる。

数式
 


(参考文献)

浅子和美他(1993)「日本の財政運営と異時点間の資源配分」『経済分析第131号』、

        経済企画庁経済研究所。

Barro, Robert J.(1979)"On the Determination of the Public Debt," Journal of Political Economy, 87, 940-971.

             (1986a)"The Behavior of U.S. Deficits," in R.J. Gordon ed., The American Business Cycle: Continuity and Change, Univ. of Chicago Press for the National Bureau of Economic Research.

             (1986b)"U.S. Deficits Since World War ," Scandinavian Journal of Economics, 88, 195-222.