付注2−2−2(1)  構造的財政収支の推計

1.構造的財政収支の定義

  構造的財政収支は現実の財政収支から景気循環要因(歳出・歳入のビルトインスタビライザー効果)による部分(循環的財政収支)を除いたものと定義される。これは、主として、裁量的政策によって生じる財政収支から成ると考えられるが、これに加えて、制度改正要因(例:制度改正による社会保障給付の調整)やその他要因(例:公債費)も一部に含まれていることに留意する必要がある。

2.構造的財政収支の推計の基本的考え方

  まず、現実の財政収支から景気循環要因を除去するために、経済がその潜在GDP水準を実現した際の財政収支には景気循環要因は含まれていないと考える。ここで用いる潜在GDPは、付注2−2−3(3)において示されるように、過去の平均的な労働量と資本量で持続的に生産可能な値として求められる。本節で用いる構造的財政収支は、過去の税収及び政府支出についてGDP弾性値を考慮して、潜在GDPが達成された場合の政府収入及び政府支出の差から構造的財政収支を導出する。

  以上の概念を整理すると、構造的財政収支は以下の数式として示される。

     数式

      B*:構造的財政収支

      Ti:税収目iの政府収入

      Y:GDP

      Y*:潜在GDP

      G:政府支出

      αi:税収目iのGDP弾性値

      β:政府支出のGDP弾性値

  計算の便宜上、これを書き換えると、GDPギャップ相当分の純政府収入及び純政府支出の差は循環的財政収支であり、これを現実の財政収支から差し引いたものが構造的財政収支であると表現できる。したがって、現実の財政収支は構造的財政収支と循環的財政収支の和であることが確認できる。

     数式

      S:循環的財政収支

      B:現実の財政収支

3.構造的財政収支の具体的推計方法

?潜在GDP(Y*)(付注2−2−3(3)を参照。)を利用してGDPギャップを算出。

?政府収入及び政府支出のGDP弾性値は下記を使用。

 

     GDP弾性値

法人税

1.30

所得税

1.22

間接税

1.00

社会保障負担

0.67

雇用保険支出

0.00

(注)弾性値については、経済企画庁経済研究所編「エコノミック・リサーチ」(1999年12月、No.8)P.95を参照した。なお、弾性値推計の際の方法論について、所得税及び社会保障負担弾性値については、95年度の税・社会保障制度を前提に標準世帯の累進構造を把握し、これを給与所得階級分布で加重平均することにより、一人当たり税収の賃金に対する弾性値をそれぞれ算出し、これを8696年のマクロ変数間の時系列推計によって得られた雇用の実質GDPに対する弾性値、実質賃金の実質GDPに対する弾性値と組み合わせて推計した。法人税の弾性値については、税収の名目法人所得弾性値を1と仮定し、8696年の実質法人所得の伸び率を実質GDP成長率で回帰して法人所得のGDP弾性値を求め、両者を組み合わせて算出している。実質法人所得をベースにした推計のため、法人税における欠損金の繰越し等の要因は加味されない。間接税については、実質GDP弾性値は、1と仮定している。

(データ出典)

経済企画庁 「国民経済計算年報」(平成12年版)

       財政収支:貯蓄投資差額(一般政府)

       法人税:所得税(非金融法人企業)+所得税(金融機関)

       所得税:所得税(家計)

       間接税:間接税(一般政府)

       社会保障負担:社会保障負担(一般政府)

       雇用保険:雇用保険(一般政府から家計への移転明細票)

      

(参考文献)

経済企画庁経済研究所編 「エコノミック・リサーチ」 別冊 「財政収支指標の作り方・使い方」(1998年11月)

Claude Giorno, Pete Richardson, Deborah Roseveare and Paul van den Noord, OECD Economic Studies No. 24, 1995/? “POTENTIAL OUTPUT, OUTPUT GAPS AND STRUCTURAL BUDGET BALANCES”