付注2-1-1(4) 技術知識フローおよびストックについて

 ここでは、生産活動における技術進歩を、企業が不断に研究開発を行い、その成果が集積された結果である、技術知識の累積(以下「技術知識ストック」)という観点から捉えている。

1.ある年に行われた企業の研究開発への投入は、数年間の懐妊期間を経てその成果が顕在化する。この過程を以下のような仮定のもとで定義し、顕在化する成果(以下「技術知識フロー」)を推計した。

 t期の技術知識フロー(R t)=国内自主技術知識フロー(RD t)+海外導入技術知識フロー(RF t

  数式

  数式

RD:国内自主技術知識フロー

RF:海外導入技術知識フロー

E A:研究開発費(基礎研究)

E B: 同 上 (応用研究)

E C: 同 上 (開発研究)

E D:対価支払額(海外からの導入技術)

a:基礎研究が成果として顕在化するまでの期間

b:応用研究      〃

c:開発研究      〃

・各研究開発費、対価支払額は総務庁「科学技術研究調査報告」のデータによる。なお基礎研究、応用研究、開発研究の定義は、総務庁「科学技術研究調査報告」に基づく。

abcについては、社団法人経済団体連合会「産業技術力強化のための実態調査」(98年)、日本開発銀行設備投資研究所「民間企業の研究開発に関するアンケート調査」(87年)を参考にした。前者により、98年現在、5年前、10年前の開発リードタイムが業種別に分かるが、リードタイムは多くの業種で短縮傾向にあることから、業種別に3時点の値を線形回帰して毎年の値を推計した。後者により、87年時点での基礎・応用・開発研究別、業種別の期間がわかるので、これをベンチマークとし、前者で求めた毎年の値を用いて、業種別に各年のabcを求めた。

E AE BE Cについては、abcを小数点1桁の年数として、例えばaaiajaiは整数部分、ajは少数部分)の場合、

数式

と計算した。

・国内自主技術知識フローについては、研究開発費を90年基準研究開発デフレーターで実質化している。海外導入技術知識フローについては、対価支払額のうち新規契約分は当年度のデフレータで、継続分は平均契約年数(6年)を考慮して実質化した。

2.1.で求めた技術知識フローをもとにストックを推計する。t期の技術知識ストックRS tは、技術知識の陳腐化率をδとすると、

  

と表せる。

・技術知識の陳腐化率(δ)は、前述経団連調査より分かる、業種別の98年現在、5年前、10年前の製品ライフサイクル年数より推計した。ここでは、技術知識ストックの陳腐化を、定率法による減価償却パターンと同等(陳腐化に伴う残存価値は原価の10%と仮定)とした。つまり、製品ライフサイクル年数をnとすると、陳腐化率は、

数式

である。製品ライフサイクルは、多くの産業で短期化しており、δは中期的に上昇していると考えられることから、上記より求めた3時点のδを線形回帰して毎年のδを求めた。

・ベンチマークとなるRSは、付注2-1-1()と同様の方法により、74年以降3年間の平均のRの増加率とδを用いて計算した73年の値とした。

参考文献:日本開発銀行設備投資研究所『設備投資研究'84』(「経済経営研究」84年7月)

     日本開発銀行『日本の技術開発と貿易構造』(「調査」第241号、98年6月)