付注1-1-5() 慎重度係数(プルーデンス係数)の推計方法

1.基本的考え方

 効用関数の仮定として2次関数を仮定することは最も一般的な方法の一つであるが、この場合限界効用は逓減的となり、効用関数の3階の導関数はゼロになる。しかし、効用関数の3階の導関数がゼロであるとすると、限界効用はある消費水準でゼロに達しその後はマイナスとなってしまうなどの問題があり、実際には効用関数の3階の導関数はゼロでなく正値になると考えられる。

 3階の導関数が正であると、U’(C)がCの凸関数になるため、図の通り[U’(CA)+U’(CB)]/2>U’([CA+CB]/2)となる(図中点D>点D)。このとき、将来所得に対する不確実性が上昇する(CA及びCBがCA’及びCB’に移行)と、現在の消費が削られ、貯蓄が押し上げられる(図中点D3>点D2による)。このような貯蓄は予備的貯蓄として知られている。この貯蓄動機の強さを示すのがプルーデンス係数であり、3階の導関数を1次の導関数で割って基準化したもので表される。

 すなわち、

  絶対的プルーデンス係数=-U’’’(C)/U’(C) 

  相対的プルーデンス係数=-CU’’’(C)/U’(C)

2.推計方法

 異時点間の予算制約、及び時間選好率=利子率=一定などの仮定のもとで、時間的に分離可能な効用関数の極大化を図る家計があると仮定する。

 家計の効用関数が相対的危険回避度一定の場合、

オイラー方程式U’(Ct)=Et[U’(Ct+1)]の2次のテイラー近似をとると、

E[△ln(Ct+1)]E[β/2(△lnCt+12]が導かれる。

 ここで、βは相対的プルーデンス係数となっている。消費支出のt期からt+1期にかけての変化△lnCt+1は、t期における貯蓄が予備的動機のために大きくなっていたことを反映している。また、消費支出の変化分の2乗(△lnCt+1)2は労働所得の不確実性を反映していると考えることができる。

 したがってβ>0ならば、家計は労働所得の不確実性に対しての予備的な動機によって貯蓄を行っており、βが大きいほどその動機は強く、家計は慎重であり、β=0ならば、家計の消費・貯蓄行動は不確実性と無関係となり、予備的貯蓄が存在しないことを示す。

 推計においてはパネルデータ(693世帯)を用い、操作変数については98年における世帯属性を採用した。またCについてはデータの制約から耐久財支出を含んでいる。

 なお、例えば98年についてβ=1.7という結果が得られたが、これは自らの1年先の消費に関する家計の不確実性の標準偏差が0.1であれば、予備的貯蓄は消費の期待伸び率を1/2*1.7*(0.1)すなわち0.85%押し上げ、その分現在の貯蓄を増やすことになる。

図 効用関数の3階の微分が正であることが消費の限界効用の期待値に与える影響

慎重度係数図 


 

 参考文献

 Dynan K.E. "How Prudent Are Consumer" Journal of Political

                                                   Economy,vol.6 1993

 Kimball,M.S."Precautionary Saving in the Small and in the Large,"

                                                    Econometrica,vol.58  1990                                                           

 デビッド・ローマー「上級マクロ経済学」(堀、岩成、南條訳)日本評論社 1998