付注1-1-5(1) ライフサイクル恒常所得に基づく消費関数の推計

(消費関数の定式化)

 消費関数を次のように定式化する。

t=α(Wt+Ht)+λYDt+vt

t:t期における家計消費

t:t期首における実質非人的資産

(純金融資産および住宅・土地・耐久消費財ストックの合計)

t:t期における実質人的資産

数式

μ :家計が実質人的資産を計算する場合の割引率(家計が将来の実質労働所得に対して抱く不確実性から生じるリスクプレミアムを含む)

t+k:t+k期における税引後実質労働所得

t( ):t期において家計が利用し得る情報集合に基づく条件付数学的期待値

YD:t期における実質可処分所得

t :t期における誤差項

α  :ライフサイクル恒常所得仮説に基づく家計について、総資産から消費される割合。

λ  :経済全体の実質可処分所得に対する流動性制約を受ける家計の実質可処分所得(消費)の割合。

(α、λはパラメータ)

なお、ここでは耐久消費財も住宅等と同様に実物資産であるとみなし、耐久財を「投資」として、耐久財ストックから派生する帰属サービス(耐用期間を7年と仮定して算出)を「消費」に加えた系列を作成した。また、耐久財ストック、住宅資産ストックについては、Newton-Raphson 法により算出した減耗率をもとに、1970年国富調査のデータをベンチマークとしてPerpetual-Inventory 法により算出し、土地ストックについては年データをGoldstein Khan法により四半期化を行った。

数式

 次に、(t-1)期における実質人的資産(Ht-1)は、

数式 

数式

(2)式は以下のように書き直すことができる。

ここで、t期に利用可能な新しい情報に基づき、家計が将来の実質労働所得に対する期待修正を行った差額の現在価値を次式で定義する。

数式

 

(4)式を用いて(3)式を変形すると、

数式
 


右辺第一項は、Htに等しいから、次式の定義方程式により、Htの動きが規定される。

t=(1+μ)(Ht-1-yt-1)+et …… (6)

(1)式を一期ずらし、(1+μ)を乗じ、(1)式から差し引いた後、(6)式を代入すると

t=(1+μ)Ct-1+α[wt-(1+μ)(wt-1+yt-1)]

 +λ[YDt-(1+μ)YDt-1]+ut …… (7)

 ただし、ut=vt+αet-(1+μ)vt-1

となる。YDtとCtは同時決定なので、ここでは、この(7)式について、以下の変数を用いた非線形操作変数法により推計を行った。

  Ct-2、yt-2、YDt-2、wt-2、Mt-1、Gt-1

 ただし、Mt-1:1期前の実質マネーサプライ(M2+CD)

      Gt-1:1期前の実質政府消費支出

 なお、各変数は定常性を保つため、消費の平均伸び率でトレンド除去を行っている。

(資産収益率の推計)

 以下のような非人的資産(土地、住宅、金融資産、耐久財)の蓄積式を用いて実質期待収益率の推計を行った。

   W=(1+ρ)(Wt-1+yt-1-Ct-1)+εt

ρ:(非人的)資産からの期待収益率

ε:誤差項

(家計が抱く将来所得のリスク)

 消費関数により推計したμは、家計が将来の期待所得を現在の価値に計算し直す際の割引率であり、期待収益率ρとはかい離がある。このかい離は、家計が将来の所得に対して不確実性を感じることから生じると考えることができる。不確実性を強く感じるときほど、家計は将来所得をより割り引いて少なめに見積もって考えるようになる。つまり、期待収益率ρに家計が抱く不確実性の分(リスク・プレミアム)を上乗せをしたものが割引率μとなる。

(参考文献)

竹中平蔵・小川一夫「対外不均衡のマクロ分析」(東洋経済新報社、1987年)

経済企画庁「平成8年度年次経済報告」

       「平成10年度年次経済報告」