平成12年度

年次経済報告

新しい世の中が始まる

平成12年7月

経済企画庁


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おわりに

深く、厳しかった不況もようやく終盤に入り、前途に明るさが感じられるようになってきた。景気は、各種の政策効果に下支えされて99年の春に下げ止まり、回復に転じて以降、おおむね政府の想定してきた姿で推移してきた。アジア経済の回復にも支えられて、99年の後半には企業部門に前向きな行動がみられるようになり、情報技術革新の動きや、新しい金融市場の動きも注目されるようになってきた。こうして2000年に入ると設備投資も総じて下げ止まり、自律的回復に向けた動きも徐々にみられるようになってきた。99年度の実質経済成長率は0.5%とほぼ政府の見通しのとおりになった。2000年初夏には、景気の改善が家計にも波及し始め、家計の所得も緩やかながら増加に転じたとみられる。消費者マインドが改善してきているところからみて、今後家計消費も緩やかな増加段階に入っていくことが期待される。景気は、今年度後半には、民間需要中心の自律的な回復軌道に乗っていくことが期待される。

 

但し、景気の今後を考える上では、今回の景気回復は過去の回復局面と比べていくつかの点で異なることに留意する必要があろう。

まず、深刻な落ち込みから各種の政策によって下げ止まり、回復に向かったということの含意である。各種の強力かつ大胆な政策を総動員したことによって、日本経済は危機的状況を脱し、自律的回復に向けた動きがみられるところまで改善してきたが、この過程で財政赤字は大幅に累積し、その行き先に関する国民の不安が増している。また、金融政策の面でも緊急避難的状況を脱した後の政策をどのようなものにすべきかについて関心が集まっている。

第2に、企業は体質強化の努力を続けており、景気が回復に転じた後も、経営効率への志向性は強いことである。特に、マクロの成長率という点でも、またミクロの売れ筋という点でも将来の不確実性が高い中では、雇用面も含め、固定費の増加を伴うような行動には比較的慎重なことが予想される。こうしたことなどから、雇用環境には未だ厳しさが残っており景気改善の家計への波及が弱い一因となっている。

第3は、情報技術を始めとする、新技術の影響を受けた回復であるということである。情報技術の進展を生産性や生活水準の上昇に結び付けて行く可能性が開けてきた。設備投資は、期待成長率、設備過剰感などとの関係から想定されるよりは早目に下げ止まったが、これは情報技術など新技術の発展に促されたところが大きいとみられる。新技術の活用のためには、業態の有り方、組織のあり方も含め、企業経営の広範な見直しも必要であろう。

 

90年代は日本経済にとって栄光の時代とは言い難い状況であったが、20世紀全体を振りかえると、経済面での我が国の発展は目覚しいものがあった。いたずらに悲観論に陥ることなく、いかに時代の変化に柔軟に対応していくかについて前向きな検討が必要であろう。

 

折しも、世界経済には情報技術に代表される新しい技術革新の波が押し寄せてきている。この波が今後世界の経済・社会に及ぼすインパクトの大きさについてはまだ十分に評価できないが、2章1節でみたように、新しい技術はこれまでの大量生産型技術に比べていくつかの新しい特徴をもっていることがわかりつつある。我が国が出遅れた分野もあるが、こうした特徴を踏まえて考えると、日本の事情に即した発展の分野は十分に残されていると思われる。新技術はもともと不確実性の大きな分野であることもあって、技術開発を促進し、その可能性を十分に発現させ、企業活動の活性化や消費者の利便に結び付けていくためには、行政も知的競争のための環境を整備することに特段の努力を傾注する必要があると思われる。

 

一方、深刻な不況がようやく一段落するに伴って、中長期的な公的部門の姿をどう考えその中で財政の位置付けをどのようにしていくか、についての検討を行い幅広い合意を作っていくことの必要性が高まってきている。この点についての安心感が醸成されれば、日本経済の将来に関する信頼が増し、経済成長にも好影響を与えていくと思われる。2章2節では、国際的比較を念頭におきつつこうした観点から検討を行った。もとより、最終的な選択は主権者である国民が民主的なプロセスのもとで行っていくべきものであるが、この白書での諸分析を踏まえれば、①景気の本格的回復を確実にしつつ、②民間部門の潜在的な需要を発現させる諸政策を講じつつ、③政府部門の効率化を促進しつつ、公的部門の改革を進め、中長期的な観点から財政赤字を削減していくことが望ましいと考えられる。

 

経済の国際化や情報化に伴って、21世紀は不確実性の高まる時代になろう。これを不安の増大に結び付けるのでなく、可能性・希望・挑戦の増大に結び付けていくことが、日本が経済発展を続け、国民生活を改善し、世界への貢献を高めていく上で大きな課題であろう。


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