まえがき

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「世界経済の潮流」は内閣府が年2回公表する世界経済の動向に関する報告書です。

今回の報告書「世界経済の潮流2017I」は、グローバル化が世界経済の成長や各国の労働市場に与える影響を分析するとともに、アメリカ、ヨーロッパ、アジアの3地域それぞれの地域の経済動向の特徴を整理し、今後の展望や主なリスクを議論しています。

第1章では、グローバル化の進展状況を整理した上で、主要国にみられる所得格差拡大について、グローバル化はその主因ではないと考えられることを指摘し、グローバル化が経済厚生を改善する経路についてサーベイしています。さらに、先進国の中でアメリカとドイツの違いに注目し、ドイツの製造業がグローバル・バリュー・チェーンの中で存在感を高めた一因として、中東欧諸国との国際分業を進め、国内の生産で高付加価値化を進めたことを指摘しています。特に自動車産業では、部品などの中間投入を安く海外から調達し、国内生産は高位モデルに特化したことで、グローバル化のメリットを活かすとともに、雇用についても、労使双方で柔軟な対応がみられたと分析しています。さらに、今後製造業が生産性を高めていく際には、海外サービスの中間投入や海外へのサービス販売強化を進めることが鍵となり得ることを、スウェーデンを例に挙げて議論しています。

第2章では、主要地域別に経済の現状と見通しを分析しています。まずアメリカについては、着実に景気回復を続けていますが、今後の金融政策正常化や、トランプ政権の政策の先行きが経済にどのような影響を及ぼすか注目されます。ユーロ圏については、英国のEU離脱問題などのリスクに直面していますが、全体としては緩やかな回復が続いています。他方、一部の金融機関にみられる財務体質の脆弱性や高止まりする若年失業率、一部の大都市で顕著な住宅価格の上昇等、潜在成長力向上の妨げとなりうる構造的なリスクが残っています。また英国では、EU離脱問題に伴う先行き不透明感によってポンド安が進展し、17年以降物価上昇幅が拡大、それに伴い実質賃金低下や消費に弱めの動きがみられることに留意が必要です。中国では、インフラ投資などの政策効果に支えられ当面は持ち直しの動きが続くと見込まれています。今後は、民需主導の自律的な回復の実現が重要と考えられます。また、中国の貿易は2000年代以降の貿易自由化と対中直接投資の増加を受け、グローバル・バリュー・チェーンの中でも消費財から中間財のサプライヤーへと役割を変え、その世界経済への影響力が高まっています。

世界経済の持続的な成長には、グローバル化の推進が不可欠と考えられます。同時に、政策ニーズに応じて様々な労働市場政策や社会政策を組み合わせることで、グローバル化による成長の果実を適切に配分していくことが重要な課題です。本書の分析がこうした課題に対する今後の展望を考えるための一助となれば幸いです。

平成29年7月

内閣府政策統括官(経済財政分析担当)

中村 昭裕

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