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1.アメリカ経済の成長力

(1)アメリカ経済の現状

 世界金融危機発生後に落ち込んだ実質経済成長率は、その後の景気刺激策等により順調に回復したものの、10年後半から11年前半にかけて回復テンポが緩やかとなった(第2-3-1図)。この様子を供給側、需要側の各指標から概観すれば、景気の山からの落ち込みが大きい上、過去の景気回復局面と比べて回復の動きは緩慢である。そうした中、実質GDPや個人消費等の一部の指標については、ようやく世界金融危機前の水準を回復し、景気に明るさがみられるようになった(第2-3-2図)。12年以降も、雇用者数の伸びは鈍化しつつも増加を続けており、また、個人消費も持ち直しが続いていることから、景気の緩やかな回復が続くものと考えられる。一方で、このところ低下してきているものの依然として失業率は高い水準にあるほか、住宅価格は低水準にあり家計のバランスシート調整が継続していることから、安定した個人消費の伸びはまだ期待できない。また、政府は財政再建を喫緊の課題として取り組んでおり、政府支出の減少が景気下押し要因となるリスクも内在している。

第2-3-1図 実質経済成長率の推移:12年以降も緩やかな回復が続く
第2-3-1図 実質経済成長率の推移:12年以降も緩やかな回復が続く
第2-3-2図 現在の回復局面における各種経済指標の動き:GDPや個人消費は危機前の水準を回復
第2-3-2図 現在の回復局面における各種経済指標の動き:GDPや個人消費は危機前の水準を回復

(2)潜在成長率の低下

 アメリカの潜在成長率は2000年代に入るまでおおむね3%超で推移していたが、2000年代に入り低下傾向をたどり、11年には1%台半ばとなっている(第2-3-3図)。これを寄与度分解すると、90年代以降のIT投資拡大により全要素生産性(TFP)の寄与が拡大する一方、90年代と比較して2000年代には労働、資本の寄与が半分程度に大きく低下していることが影響している。

第2-3-3図 潜在成長率の推移:2000年代に入り低下
第2-3-3図 潜在成長率の推移:2000年代に入り低下

 議会予算局(CBO)によれば、12年以降、潜在成長率はやや持ち直し、2%台後半になると考えられているが、内訳をみると、資本の寄与がやや回復するものの、労働、TFPは現在とほぼ同程度であり、労働の寄与が低調なまま推移すると考えられている。資本については、ITバブル崩壊や世界金融危機を受けて資本ストックの伸び率が低下しているものの、景気の回復による設備投資の増加を受けて、将来的にはやや回復すると考えられる。労働については、長期失業によりスキルを喪失した者は職を得るのが難しいことや、高齢化の進展により労働力人口の増加率の低下が見込まれることなどから低調に推移するものと考えられる。TFPについては、国内における企業のR&D投資の縮小といった懸念はあるものの、おおむね現在の水準を維持するものと考えられる。

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