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第3章 世界経済の見通しとリスク

第2節 ヨーロッパ経済の見通しとリスク

2.経済見通しに係るリスク要因

  見通しに関するリスクのバランスは依然として下方に偏っており、特に、ソブリン・リスク再燃が金融システムに与える影響は深刻なリスク要因となっている。

(1)下振れリスク

(i)ソブリン・リスク再燃による金融システム不安の再拡大
  ギリシャの財政再建は予定通り進まず、市場では債務再編(デフォルト)の懸念が高まっている。ギリシャの債務再編の懸念は、ギリシャ同様に財政状況の悪化が著しいアイルランド、ポルトガルへと伝播する可能性もある。これらの国々の更なる国債利回りの上昇(国債価格の急落)やソブリンCDSの急騰により、金融市場の混乱が深刻化するリスクがある。また、これらの国々の国債保有や対外与信残高の多い金融機関の経営に対する懸念へと広がり、信用収縮を通じて景気回復が停滞するリスクがある。

(ii)物価上昇の加速
  エネルギー価格と食料価格の高騰を背景に、消費者物価上昇率(総合)は上昇している。エネルギー価格等の高騰が今後も続く場合においては、物価上昇が加速する懸念がある。
  エネルギー価格等の高騰の影響は、価格転嫁の度合いや賃金決定行動を通じた二巡目効果(second-round effect)の大きさによって異なる。例えば、エネルギー等の高騰が価格転嫁されれば、消費者物価上昇率が高まり、実質可処分所得の減少を通じて消費を抑制する可能性がある。他方、賃金の物価スライド制が取られている国においては、賃金が物価上昇とともに上昇するので、実質消費に対する影響は限定的となるが、企業収益を圧迫する。
  また、ECBは、物価安定の維持を金融政策の唯一の目標としており、インフレ参照値として、消費者物価上昇率(総合)を2%を下回りかつ2%近傍に保つこととしている。これを達成するために、利上げを加速した場合には、企業における資金調達コストが高まるため、設備投資等の減少を通じて実体経済の下押し圧力となる。さらに、第2章でみたとおり、現在のユーロ参加国における消費者物価上昇率(総合)にはばらつきがあるので、ドイツやフランスといった消費者物価上昇率の伸びが低い一部の国々にとっては、利上げによる実体経済への影響が過大となる懸念がある。

(iii)英国、スペインにおける景気回復の停滞
  英国、スペイン経済では、依然として住宅バブルの後遺症から回復しておらず、家計のバランスシート調整や金融システム不安が残っている。このため、英国では景気が足踏み状態にあるほか、スペインでは実質経済成長率は低い伸びとなっている。これらの国々における景気回復が停滞すれば、比較的経済規模が大きいことからヨーロッパ経済全体の伸びを押し下げるとともに、主要な貿易相手国からの輸入の減少や英国金融機関の対外与信の縮小等を通じて、ヨーロッパ経済の下押し圧力となるリスクがある。

(iv)アメリカ、アジア経済の減速に伴う輸出の減少
  ユーロ圏における輸出の増加を支えているアメリカ経済やアジア経済が、これまでより減速した場合、景気のけん引役である輸出が減少する上、輸出の増加を背景に持ち直していた生産や個人消費への影響も考えられ、景気を下押しするリスクがある。

(v)雇用情勢の想定以上の深刻化
  ヨーロッパ全体の失業率は改善がみられるものの、依然として10%近傍で推移しており、高止まっている。景気が自律的な回復に至らず、失業率がこれまで以上に上昇した場合には、所得環境や消費者マインドの悪化を通じて、個人消費を更に下押しするリスクがある。

(2)上振れリスク
  上記のメインシナリオに反して、以下の場合には予想外に速い景気の回復ペースとなる可能性もある。

世界経済の想定以上の回復に伴う輸出拡大

  主要な輸出先であるアメリカ、中国の景気が力強いものになった場合、輸出から生産、雇用、消費へとその恩恵が波及し、景気の回復ペースは比較的速いものになる可能性がある。


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