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第3章 世界経済の見通しとリスク

第3節 アジア経済の見通しとリスク

2.経済見通しに係るリスク要因

 アジア経済の先行きに関しては、以下の上振れ、下振れの両方のリスクが考えられるが、リスク全体でみると、上方と下方は均衡している。

●下振れリスク

(i)先進国の景気回復の遅れに伴う輸出の低迷
 欧米では、景気は回復に向かっているものの、そのペースは緩やかであり、さらに雇用情勢等の下押し圧力に加え、ソブリン・リスクを始め景気の下振れリスクは依然として少なくない。欧米の景気回復の遅れにより、国内市場の小さい韓国、台湾、シンガポール等において本格的な景気回復が遅れるおそれがあり、中国の成長率についても下振れするおそれがある。

(ii)中国における金融引締め強化による資産価格の急速な下落や内需の急激な冷え込み
 中国では、緩和的な金融政策を背景にマネーサプライの高い伸びが続いている。こうした状況の下、インフレへの警戒や、一部の地域を中心とした不動産価格の上昇が続いていることを背景に、当局は預金準備率の引上げや不動産向け貸出を中心とした金融規制の強化等、金融引締めの方向に動いている。今後、インフレが顕在化した場合あるいは不動産価格の上昇が更に加速した場合、明確な金融引締めへと転換していく可能性がある。仮に、その効果が予想以上に強く現れた場合には、資産価格の急速な下落や内需の急激な冷え込みをもたらし、景気減速につながるおそれがある。さらに、中国の景気減速により、中国向けの輸出の増加が現在の景気の回復の一因となっている韓国、台湾等の景気をも減速させるおそれがある。

(iii)インドにおけるインフレの加速やそれに対応した金融引締め強化による内需への影響
 インドでは、内需の力強い回復や、国際商品価格の上昇の影響により、物価上昇圧力が高まりつつあり、広範な一般物価の上昇、すなわちインフレへの転換が懸念されている。今後インフレが加速した場合、金融引締めが強化されることが想定され、その効果が予想以上に強く現れた場合には、内需に影響を及ぼすおそれがある。

(iv)過度な資金流入
 先進国における緩和的な金融政策が、先進国と比較してアジア等新興国の好調な成長見通しと結びついて資金流入をもたらしている。こうした資金の大量な流入が、インフレや資産価格の急速な上昇をもたらし、金融システムの安定性を脅かす可能性も考えられる。

●上振れリスク
 メインシナリオにおける想定以上に、景気の回復テンポが加速する場合の要因としては以下が考えられる。

世界経済の想定以上の回復に伴う輸出拡大
 世界経済の回復に伴い想定以上に欧米諸国の需要が高まる場合には、輸出を通じて、景気回復が加速する可能性がある。


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