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第2章 減速しつつも回復を続ける世界経済

第2節 回復が緩やかとなるヨーロッパ

2.ヨーロッパの景気回復は減速へ

  堅調に推移してきたヨーロッパの景気も、まず06年後半以降、住宅市場が一部の国で調整局面に入り、サブプライム住宅ローン問題に端を発する07年夏以降の国際金融資本市場の混乱を受けて景気の減速がみられる。

ヨーロッパの住宅市場は調整局面入り

  アメリカ同様、ドイツを除くヨーロッパ各国においても、スペイン、英国、フランス、アイルランド等を中心に2000年代に入って住宅価格の上昇が加速した(第2-2-8-1図)。賃貸料や可処分所得との対比でも住宅価格は長期トレンドから上方へ乖離し過熱感がみられた。その背景として、(1)人口や移民の増加による実需の拡大、(2)金融緩和にも支えられた世界的な長期金利の低下(4) と資金供給の拡大、(3)安定した経済成長の下での所得の増加等により住宅への需要が増大したことが挙げられる(第2-2-8-2図)
  しかし、その後、05年12月から07年6月にかけての金融引締め等を背景に、07年には価格の伸びも鈍化するなど調整の動きが進んでいる。先行指標である新築住宅建設許可件数(ユーロ圏各国)や住宅新規受注額(英国)も国によって異なるものの06年後半から07年にかけてピークアウトし、07年以降減少している。こうした住宅市場の調整局面の中で住宅価格は今後さらに大きく下落する可能性もあると考えられる。

金融資本市場のヨーロッパへの波及

   ヨーロッパでも、アメリカのサブプライム住宅ローン関連の証券化商品が金融機関等で多く保有されていたことなどから、07年夏以降、金融資本市場の混乱が続いている。
  ドイツではサブプライム住宅ローン関連証券化商品の値下がりにより大きな損失を被ったIKB産業銀行やザクセン州立銀行が破綻し、政府系の金融機関から金融支援を受ける事態となった。
  国際金融センターである英国ではグローバルな金融取引で金融・ビジネスセクターがこれまで大きな収益をあげ英国経済をけん引してきたが、国際金融資本市場の混乱を受けて07年10〜12月期以降業況が悪化した。こうした金融資本市場の混乱の中で、サブプライム住宅ローン関連商品をあまり保有していなかったにもかかわらず市場からの資金調達に大きく依存していた中堅銀行ノーザン・ロックは、資金繰りが悪化し、ついに経営破綻に陥り、08年2月に国有化された。また、07年10〜12月期のヨーロッパ大手金融機関の決算では、一部の金融機関がアメリカの大手金融機関並みのサブプライム関連損失を計上し、資本増強を迫られることとなった(第1章第1-4-6図参照)。その後、08年1〜3月期決算ではさらなる追加損失の計上を迫られる金融機関も現れるなど問題の長期化が懸念されている。
  サブプライム住宅ローン証券化商品の価格下落を受け、これらの商品の取引に携わってきた金融機関が短期資金の調達を急増させたことなどから、ヨーロッパの銀行間の短期金利は、07年半ばから徐々に高まり、据置きが続いている欧州中央銀行(ECB)政策金利とのスプレッドが拡大した(第2-2-9図)。こうした銀行間金利の上昇により金融機関の資金調達コストは上昇しており、金融機関の貸出金利に影響して実質的な金融引締め効果が生じていると考えられる。こうした状況を受け、ECBは07年夏以降、短期金融市場へ大量の流動性供給(5) を行ってきた。銀行間金利は、こうした流動性供給により07年末の資金需要が充足されたこと等により、08年初には一時的に落ち着いたものの、その後、政策金利とのスプレッドは再び拡大した。
  長期金利については、ヨーロッパでも「質への逃避」による国債買いから国債利回りが低下しているが、社債利回りは高水準で推移しており、国債利回りとのスプレッドが拡大している(第2-2-10図)。 
  金融機関の損失拡大や銀行間金利の上昇を受けて、ユーロ圏内金融機関の貸出基準は、大企業向けや住宅ローンを中心に、07年10〜12月期から急速に厳格化しており、今後、実体経済に及ぼす影響が注視される(第2-2-11(1)図)。ただし、これまでのところマネーサプライ(M3)と金融機関の貸出残高はむしろ高い伸びを続けている。M3の上昇率は、08年4月前年同月比10.6 %となり、ECBの参照値同4.5%を引き続き大幅に上回っている。金融機関による民間部門への貸出残高は、家計部門については住宅ローンの伸びが06年後半から鈍化しているが、企業部門については、短期貸出し、中・長期貸出しともに堅調に推移している (第2-2-11(2)図)。これは、金融資本市場の混乱により、社債やABCPによる資金調達が困難となったことから、企業が銀行からの借入れにシフトしてきていることも影響していると考えられる(6)。ただし、今後、金融機関による貸出態度の厳格化が、企業や家計に対する貸出しを抑制し、消費や投資に影響を及ぼす懸念もある。

物価の上昇

  また、ヨーロッパでもエネルギー価格、食料品価格の上昇を受けて、物価が上昇している。消費者物価上昇率(前年同期比)は、08年5月にユーロ圏では3.6%(ECBのインフレ参照値は2%を下回りかつ2%近傍(7)、英国では3.3%(BOEのインフレ目標は2%)と高まっている(第2-2-12図)。エネルギーと食料品を除いたコアの物価上昇率は比較的安定しているが、エネルギー価格、食料品価格の上昇が継続すれば、全般的な物価水準を高め、賃金上昇とのスパイラルによる、インフレ期待が一層高まることも懸念される。

景気の減速

  住宅市場の調整、金融資本市場の混乱、物価上昇を受けて、07年秋以降景気は減速している。金融資本市場の混乱による景気減速懸念と物価上昇等から、消費者のマインドは07年夏以降悪化しており、ユーロ圏では消費も07年秋以降弱い動きを示している(第2-2-13図第2-2-14図)。また、これまで低下してきた失業率も08年に入って下げ止まり、おおむね横ばいの動きとなっている(前掲第2-2-2図)。一方、輸出、生産は08年に入ってからも比較的堅調であり、設備投資は引き続き増加基調で推移している。しかし、全体としてみれば、ユーロ圏や英国では景気回復は緩やかになってきているとみられる。
  また、金融資本市場の混乱を受け、欧州中央銀行(ECB)は、07年8月の政策理事会で、次回9月の会合における利上げを事実上予告していたにもかかわらず、同会合では利上げを取りやめた。その後は07年夏時点での政策金利が4.00%とアメリカや英国より低かったこともあり、物価上昇のリスクと、景気減速のリスクとの間で慎重な舵取りを行っていくとして金利を据え置いている。政策金利を一時5.75%とやや高い水準まで引き上げていたイングランド銀行(BOE)は、政策金利引下げにより景気減速に対応していく姿勢をみせており、07年12月以降、08年2月、4月に0.25%ずつ引き下げ、現在5.00%としている。

今後の見通し

 景気の先行きについては、住宅市場の調整は続くものの雇用情勢が歴史的にみれば良好であり、輸出、生産も堅調なことから緩やかな回復が続くと見込まれる。
  こうした見通しに対する下方リスクとしては、金融資本市場の混乱が長期化した場合、資金供給面から設備投資、住宅投資、消費が抑制されること、物価高が継続した場合の消費への悪影響、アメリカや世界経済の減速が予想以上のものとなることによる輸出や生産への影響等が挙げられる。


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