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第2章 減速しつつも回復を続ける世界経済

第2節 回復が緩やかとなるヨーロッパ

1.ユーロ圏及び英国の景気回復を支えた要因

ユーロ圏の景気回復を支えた要因は消費、投資等の内需

  ユーロ圏では、景気回復が2005年から力強さを増し、07年の経済成長率は2.6%の成長となった(第2-2-1図)。こうした景気回復は、個人消費の堅調な増加(ドイツを除く)、機械設備投資や建設投資を中心とする固定投資の増加といった内需が主たる要因となっている。その背景として、01年末に始まるアメリカの景気回復に伴って世界経済が回復し、ヨーロッパにもその影響が波及して輸出や生産の増加につながったことが挙げられる。また、ヨーロッパにおいても多くの国で、アメリカと同様に、2000年代に入っていわゆる住宅ブームが発生し、住宅投資の活発化や住宅関連消費の増大等により内需が堅調となったこともヨーロッパの景気回復を支える要因となっている。

雇用情勢が改善

  今回の景気回復局面においては、ユーロ圏の雇用情勢は顕著に改善した(第2-2-2図)。失業率は05年半ばから低下を続け、08年1〜3月期に7.2%、4月には7.1%と99年のユーロ圏創設以降で最も低い水準となっている。また、ここ数年、就業率も上昇し、特に女性や高齢者の労働参加が進むなど働き手の裾野が広がった(1)。07年10〜12月期にはユーロ圏の就業率は66.0%まで上昇しており、うちオランダ(76.4%)、スウェーデン(74.0%)、キプロス(71.5%)、オーストリア(71.3%)、ドイツ(70.0%)の諸国において、目標の70%を達成している。
  こうした雇用情勢の改善を受けた所得環境の好転による購買力の向上が、堅調な個人消費を下支えしたものとみられる。

消費が堅調に推移

 ユーロ圏の消費は03年以降、堅調に推移してきた(2)。この背景には、雇用の創出により就業率が高まる中で、家計の可処分所得が増大して購買力が高まったことのほか、金融緩和による消費者ローン金利の低下等が消費支出に促進的に作用したことがあったと考えられる。また、金利低下を背景に、住宅価格の上昇(後掲第2-2-8(1)図)による資産効果や住宅投資の活発化に伴う住宅関連需要(家具・室内装飾品類、家電製品等)の増加も消費を下支えする要因となったとみられる。雇用環境や経済の先行きに対する消費者の見通しも良好であり、消費者信頼感指数が03年3月を底に07年半ばまで改善を続けるなど、消費者マインドにおいても消費を支える傾向がみられた。

投資が力強く拡大、生産は堅調に推移

 固定投資のうち、機械設備投資については、設備稼働率の上昇による生産設備の不足感の高まり、企業収益の増加や金融緩和により設備投資を行うための資金調達環境が改善したこと、先行きに関する企業景況感が上向きであったことなどを背景に、ドイツを中心に力強く拡大している(第2-2-3図)。また、建設投資については、住宅投資が、住宅ブームを背景にフランス、アイルランド、スペイン等を中心に07年初まで高い伸びを示した。住宅以外の建設投資も06年以降堅調に推移した。
  企業部門の生産動向をみると、01年末に始まるアメリカの景気回復に伴って世界経済が回復し、アメリカ向け輸出や新興国・産油国向け輸出が増加基調にあったことから、特に05年頃からユーロ圏全体として生産の堅調な増加傾向が表れている。国別にみると、ユーロ圏の鉱工業生産の34%のシェアを占めるドイツが全体をけん引する傾向がうかがえる(第2-2-4図)

ユーロ圏域外輸出は新興国及び産油国向けが下支え

   ユーロ圏の域外輸出(前年同期比、金額ベース、ユーロ建て)をみると、04年以降、アメリカ向けや、ヨーロッパの新興国であるEU新規加盟国(3) とロシア向け、あるいは産油国向け等を中心に堅調に推移し景気回復に寄与してきた(第2-2-5図)。06年後半以降、アメリカ向け輸出の伸びが減速又はマイナスとなってからも、EU新規加盟国向け等は堅調である。この背景にはユーロ・レートの影響もある(第2-2-6図)。ユーロ・レートは、05年頃から08年春頃までドル及び円に対し増価が続いてきたが、EU新規加盟国等の通貨に対してはむしろ減価している。また、原油価格の高騰で潤うロシア等旧ソ連圏諸国や中東産油国はユーロ圏からの輸入を増やしており、いわゆるオイルマネーがユーロ圏に還流している面もある。

英国の景気回復を支えた要因は金融セクターにけん引された内需

   英国経済は、1992年7〜9月期から約16年近く(63四半期)にわたり1四半期もマイナス成長となることなく経済成長を続けている。06年から07年半ばまでは、振れはあるものの均してみれば、潜在成長率(2.75%程度)を上回る約3%程度の高い成長を続けてきた。需要項目別では、個人消費や設備投資といった内需にけん引され、セクター別にみれば、金融・ビジネスサービスを始めとしたサービス産業の堅調な成長が景気回復を支えてきた(第2-2-7図)
  企業部門では、設備稼働率の上昇や企業収益の改善等を受け、設備投資が力強く伸びてきた。景気回復に伴う企業収益の堅調さを反映して賃金も年率約4%程度の伸びを続け、消費を下支えする要因ともなった。また、失業率は5%強とドイツ、フランス等大陸ヨーロッパと比べても低い水準にある。消費者物価上昇率(前年同期比)は、06年前半までは1〜2%前後の安定した水準で推移した後、上昇率を高め、07年前半にいったん3%前後に達した。年後半には、物価上昇率の目標である2%前後の水準に低下したものの、年末以降再加速し、08年4月に再び3.0%に達した。


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