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第1章のポイント

1.グローバルな資金の流れとその特徴

世界の金融資本市場は2000年代に大きく拡大した。国境を越えた資金フローも増加する中、グローバル・インバランスを背景に新興国から先進国、特にアメリカへの資金流入が拡大してる。
欧米間で活発な金融資本取引が行われ、欧米と新興国との金融面での結び付きも強固となった。他方、日本は最大の純債権国であるが、アジア諸国、新興国との結び付きは低水準にとどまっている。

2.グローバルな資金の流れの背景

●2000年代にアメリカ国内で貯蓄不足となったのに対し、新興国では貯蓄超過が拡大したため、アメリカへの資金フローがもたらされた。こうした中、アメリカの経常赤字の持続可能性への懸念があり、急激な調整を回避するため各国の構造的問題の解消が求められる。
●また、良好な投資環境と新たな金融技術の普及も資金フローの拡大に寄与した。特に、証券化やCDS取引等は信用リスクの効率的な分散やヘッジを可能とし、金融機関や投資家の信用創造を活発にした。ただし、信用リスクの引き受け手となったヘッジファンド等では高レ、バレッジの投資による過剰なリスクの蓄積を伴った。

3.SWFの台頭とその影響

新興国、資源国での外貨蓄積を背景にSWFが投資主体としての存在感を増している。SWFは、外貨準備と比べリスク許容度が高くより長期の運用が可能とされる。債券・株式への投資だけでなく、デリバティブ、M&A、不動産投資等を行うファンドもある。
SWFは安定した資金供給により金融資本市場の安定化への寄与が期待される。今回のサブプライム住宅ローン問題でも、金融機関の資本増強を支援するなど、金融危機におけるショックアブソーバーとして機能した。
SWFの投資活動に政治的な意図が含まれる可能性があることなど、受入国において警戒感も一部にみられ、国際機関や欧米等ではSWFに関するベストプラクティスや投資原則の策定が進められている。

4.サブプライム住宅ローン問題発生後の資金フローの変化

サブプライム住宅ローン問題は金融資本市場の混乱をもたらし、証券化技術に対する信頼の低下や金融機関の損失拡大によって信用収縮懸念を高めた。金融機関の資本増強や政府当局の対応は金融安定化に寄与したが、広範囲にわたる影響波及は問題解決を複雑にしている。
こうした中、アメリカへの資金流入にも変化がみられている。これまで活発であった債券投資の流入が大きく減速し、欧米間の資金フローも双方向で停滞した。ドル安が進行しているが、一部の新興国の固定的な為替運営により新たなインバランスを生み出すおそれもある。

資金フローの変化は商品市場への投機マネーの流入を加速させ、需給要因等とあいまって、商品市況の高騰をもたらしている。主要国のインフレ懸念を高めるとともに、価格上昇が長期化すれば輸入国で実質所得の流出が進むため、実体経済への新たなリスクとなっている。

まとめ

金融資本市場での緊張が続く中で、新興国は成長のけん引役に加え、堅調な国内貯蓄の伸びを背景にグローバルな資金 の供給者として、市場の安定化に寄与することが期待される。金融資本市場での信用収縮懸念や商品市況の高騰によるインフレの進行には依然留意が必要であり、国際協調の下、ミクロ、マクロの総合的な政策運営が求められる。

 

 


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