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第1章 2007年の経済見通し


1.アメリカ

●住宅建設の減少等により、景気は減速
   アメリカ経済における06年の経済成長率は前年比3.3%となり、05年とほぼ同程度の成長となった。1〜3月期には前期比年率5.6%と高い伸びとなったが、住宅投資の減少等により、4〜6月期には同2.6%、7〜9月期は同2.0%と伸びが鈍化した。10〜12月期は住宅投資の減少幅の拡大や設備投資がマイナスに転じた一方、個人消費の伸びが高くなり、純輸出がプラスに転じたことから同2.5%となった。
07年に入ってからは1〜3月期には個人消費が堅調に増加したが、設備投資が小幅なプラスにとどまり、また、住宅投資の減少が続いたことや純輸出がマイナスに転じたことから、同0.6%(暫定値)と減速した(第1-2図)
  需要項目別にみると、個人消費は比較的良好な雇用・所得環境の中で増加している。また、設備投資は好調な企業収益や高水準の設備稼働率を背景に堅調に推移していたが、06年10〜12月期には減少するなど弱い動きが続いている。住宅投資については、後述のとおり、減少が続いている。
   生産面では、鉱工業生産は06年年半ばまで増加基調を続けた後、自動車等を中心とした在庫の積み上がりによる生産調整等を背景に頭打ちとなり、おおむね横ばいとなっている。 
雇用面では、非農業雇用者数は、06年の増加数は226.3万人と05年をやや下回ったものの、サービス部門を中心に引き続き堅調に増加している。また、失業率が07年4月時点で4.5%と依然低い水準にある中で、時間当たり賃金は相対的に高い伸びが続いている。
   物価面では、06年半ばまで原油価格が過去最高水準を更新する中、消費者物価、生産者物価ともに総合指数で前年同月比4%台と高い水準で推移した。その後、需給ひっ迫懸念の後退により原油価格が9月以降下落したため、上昇率は一時低下したが、07年に入ってからは、原油価格の上昇等もあり、再び上昇している。一方、総合指数からエネルギー価格等を除いたコア物価の上昇率については緩やかな上昇が続いている。
   金融政策では、06年8月に開催された連邦準備制度理事会(FRB)の連邦公開市場委員会(FOMC)において、政策金利(フェデラル・ファンドレート)の誘導目標水準が引上げ局面から2年3か月ぶりに据え置かれ、以後、政策金利は07年5月時点まで据え置きが継続している。

07年の成長率は06年を下回る見込み
   07年のアメリカ経済は、比較的良好な雇用、所得環境の中で個人消費が引き続き堅調に推移するとみられる反面、住宅市場の減速が続いていることや、製造業を中心とした企業の在庫調整等から、年前半を中心に緩やかな成長になるとみられている。07年通年の経済成長率は、06年を下回る前年比2.3%程度の成長になると見込まれる (2)

●減少傾向が続いている住宅投資
   アメリカにおける住宅投資は、2000年のITバブル崩壊とそれに伴う一時的な景気低迷期においても拡大を続けるなど、02年以降長期間にわたりほぼ一貫して増加し、住宅価格も大幅に上昇した。しかし、06年に入ってからは住宅価格の上昇率が明確に低下傾向となるとともに、住宅着工件数も減少傾向となり、住宅市場はピークアウトした。
   住宅価格について、アメリカ連邦住宅貸付機関監督局(OFHEO)が四半期毎に公表している住宅価格指数をみると、住宅価格の上昇率は04年半ば以降前年比二桁の上昇が続いたが、05年4〜6月期をピークに06年に入ってから上昇率の明確な低下傾向が続いている。さらに、アメリカ商務省が公表している新築住宅中位価格及び全米不動産協会(NAR)が公表している中古住宅中位価格をみても上昇率は低下傾向となり、06年後半には前年比でマイナスにまで落ち込んだ。
   また、住宅着工件数をみると、05年には207.3万件まで上昇したが、06年3月には1年ぶりに年率200万件を割り込み、07年1月には約10年ぶりの低水準となる同139.9万件まで低下した。(第1-3図第1-4図)
   これに伴いGDPベースの住宅投資は、05年10〜12月期から減少している。直近の07年1〜3月期においても前期比年率17.0%減となるなど4四半期連続で二桁のマイナスが続いており、06年4〜6月期以降において、アメリカの経済成長率が減速した最大の要因となっている。
 今後については、住宅建設の大幅な減少傾向が続いているにもかかわらず、住宅在庫は依然高い水準となっており、住宅市場の調整は当面の間続く可能性がある。また、新たな問題として、信用力の比較的低い債務者向けを中心とした住宅ローンであるサブプライムローン(3) について延滞率が上昇するなど住宅金融機関の経営悪化が懸念され、その結果、融資基準や条件を厳格化する動きがみられており、それに伴ってサブプライム住宅ローン市場が縮小した場合には、住宅需要がさらに減少することも考えられる。
   いずれにしても、住宅市場の動向については、個人消費等他の部門への波及や経済全体への影響も含めて引き続き注視する必要がある。

●おおむね横ばいで推移する生産、弱い動きが続いている設備投資
   生産については、06年半ばまで増加基調にあったものの、その後、頭打ちとなり、おおむね横ばいの動きが続いている。この背景として、06年後半においてアメリカ経済の拡大が緩やかになった中で、製造業において在庫が積み上がり、それに伴う生産調整が行われていることがある。製造業における出荷・在庫バランス(出荷の前年比−在庫の前年比)をみると、06年半ば以降在庫の高い伸びが続いている中で出荷の伸びが鈍化し、07年に入ってからは前年水準割れとなるなど調整局面が続いている(第1-5図)
   また、設備投資については、GDPベースでみると03年1〜3月期以降増加が続いていたが、06年10〜12月期にマイナスとなるなど弱い動きが続いている。この背景として、景気の拡大が緩やかになったことや住宅市場の調整が続いている建設業向けの産業機械が減少していることなどが考えられる。
このように企業部門の動向については、今後の在庫調整の進展や設備投資の先行き等に注視が必要である。

06年秋に下落した後、07年に入り再び上昇した原油価格
   原油価格の動向をWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)でみると(第1-6図)、06年春頃にはイランの核開発問題といった地政学的リスクの高まり等から原油価格は上昇傾向となり、7月にはイスラエル・レバノン情勢等の影響もあって一時77.03ドル(終値ベース)を記録するなど過去最高水準を更新した。9月以降は一転して下落となり、暖冬の影響等によるアメリカの石油製品在庫の増加等から需給ひっ迫懸念が後退したため、07年1月には50ドル近辺まで低下した。その後、アメリカで寒冷な気候が続いたことなどによる需給ひっ迫懸念から原油価格は再び上昇し、4月には60ドル台前半から半ばで推移した。
   06年秋以降の原油価格の下落は、ガソリン価格の下落や消費マインドの改善等によって個人消費をある程度押し上げたと考えられる。しかし、07年に入ってから原油価格が再び上昇傾向に転じたことなどにより、総合物価の上昇率は上昇している。また、エネルギー価格等を除いたコア物価の上昇率として個人消費支出(PCE)コアデフレータをみても、FRBが望ましい物価状態としているとされる上限である前年比2%を超える水準で推移している(第1-7図)
   時間当たり賃金上昇率も相対的に高い水準で推移するなど物価上昇圧力は依然として残り、また、夏場のドライブシーズンを控えてガソリン価格の上昇もみられており、物価動向には引き続き注視が必要である。

●物価上昇圧力を警戒しつつも、政策金利は据置きが続いている
   FRBは04年6月以降景気にも配慮しつつ物価上昇圧力を抑制するため、0.25%ずつという小刻みな政策金利の引上げを続けてきた。しかし、06年8月のFOMCにおいては、「経済成長は今年初めの非常に力強いペースから落ち着いてきた」との景気認識を示すとともに、「物価上昇期待の抑制と、金融政策の累積的効果、その他総需要を抑制する複数の要因を反映し、物価上昇圧力はいずれ落ち着く可能性が高い」として、政策金利の誘導目標水準を据え置く決定を行った。以降、政策金利は5.25%の水準に据え置かれている(前掲第1-7図)
   今後について、FRBは07年5月のFOMC声明において、「委員会の政策運営上の最も重要な関心事項は、引き続き、インフレが期待通りに落ち着かないリスクにある」として物価上昇に対する警戒姿勢は維持しつつも、「将来の政策調整は、今後発表される指標等に基づくインフレ、景気見通しに依存する」として、将来の政策調整の方向性が上下いずれか明示することは回避した。


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