目次][][][年次リスト

第1章 物価安定下の世界経済

第3節 物価安定下の金融政策

2.主要国の金融政策の特徴

まとめ
 90年代以降の世界的な物価安定には、経済構造の変化、生産性向上や国際競争の高まりによる企業の価格設定行動の変化等の影響があるが、政策も重要であり、財政政策運営が規律を重視するようになったこと、より中長期的な要因として金融政策運営が物価安定をより重視するようになったことも寄与していると考えられる。
 主要国の中央銀行(FRB、ECB、BOE)について、最近の金融政策動向をみると、物価上昇率と需給要因の両方を考慮しつつフォワードルッキングあるいは予防的な政策運営が行われるようになっている。例えば、FRB、ECBによる直近の金利引上げ局面では、足下の物価上昇率は安定している状況の中で、GDPギャップがマイナスからプラスに転ずる時点で既に引上げ(金融政策の緩和的水準から中立的水準への移行)を開始したと考えられる。
 また、金融政策運営についてみると、各国ごとの相違もみられるものの、物価安定の重要性の認識の高まり等を背景に、特に90年代半ば以降、中央銀行の独立性及び金融政策の透明性が向上している。また、政策の先行きに関するシグナルを市場に与えることにより人々の期待形成に影響を働きかけることを重視するようになり、それにより金融政策の有効性を高めるようになったという共通した特徴がみられる。これらは、中長期的な物価安定及び経済のボラティリィティの縮小に寄与したと考えられる。
 金融政策運営で期待形成に働きかけることが重要となるのは、期待が変化することで、短期金利のみならず、長期金利等実体経済に影響するほかの重要な経済変数にもより影響力を及ぼすことができるようになるためである。そのためには中央銀行は透明性の向上に加え、市場との対話を適切に行い、中央銀行の行動が人々に理解されるようになることが重要である。
 最近話題となっている政策手法の一つにインフレーション・ターゲティングがあるが、これは中央銀行のコミットメントの内容を明確にし、期待形成に働きかける上でもより分かりやすいという意味で、透明性向上の一つの有力な手段と考えられる。ただし、各国の中央銀行の導入を巡る議論の中では幾つかの課題も指摘されており、財政・金融政策全体の枠組みの中で、実効性を考えつつ導入の必要性について判断することが重要である。
 金融政策運営は、これまでも経済・金融情勢の変化に応じ変化してきており、今後も日々変化していくと考えられる。実際、各国では日々中央銀行や学者等による研究発表、意見交換等が行われている。諸外国の経験は、各国にとっても重要な情報である。今後もさらなる研究、議論が期待される。


目次][][][年次リスト