付注2 バラッサ=サミュエルソン効果( Ballasa-Samuelson Effect)とは
本理論は、(発展途上国のように)経済成長率が高い経済では実質為替レートが急激に切り上がる傾向にあり、実質所得水準が上昇するほど相対的に物価水準が高くなる傾向にあるという経験的な現象を理論的に説明するものである。
まず、モデルの前提としては、 (1) 貿易財に関してのみ「一物一価の法則」が成立、 (2)貿易財部門の生産性の上昇率は非貿易財部門の生産性上昇率よりも相対的に高い、 (3) 財・生産要素市場では完全競争が成立(小国の仮定、世界金利は所与)している、 (4) 国際間における資本移動は完全である、 (5) 労働の総供給量は一定で、かつ国際間の移動はなく、各々の国において単一の労働市場が存在する、 (6) ワルラスの法則が成立している等がある。なお、いずれの仮定についても、厳密には中国において成立していないことは留意されるべきである。
その上でバラッサ=サミュエルソン効果の概略を述べると、一物一価が成立している資本集約的な貿易財部門(製造業)と成立していない労働集約的な非貿易財部門(サービス業)との間において生産性上昇率格差が生じるものの、賃金はそれぞれの国における単一の労働市場での裁定を通じ等しくなっているため、生産性上昇率格差が大きいほど、非貿易財価格が相対的に高く評価されることとなる。一般に、発展途上国の方が相対的に成長率が高い傾向にあるが、その経済成長が(主に)貿易財部門の生産性の上昇によってもたらされるのであれば、それに応じて賃金、ひいては物価水準が上昇することとなる。仮定 (2)より、生産性上昇率の高いほうの国の 実質為替レート(貿易財価格が共通であるため結果として非貿易財価格の二国間比)が増価することから、「(中国のように)経済成長率の高い国は実質為替レートが増価する傾向にある」という現象が生じることとなる。
また、この現象を「水準」で議論するならば、一般に一人当り所得水準が低い場合、相対的に資本装備率( K/L )も低いものとなり、労働の限界生産性もそれに応じて相対的に低く、実質賃金水準も低く決定されるということになる。したがって途上国におけるサービスの価格は総じて低く、故に実質為替レート (非貿易財価格/貿易財価格) も過小評価される傾向となるといえよう。