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第I部 第1章のポイント

1. 急速に高まる中国経済のプレゼンス

●中国は、1978年末以降、「改革・開放」路線に沿って積極的に市場化を推進しながらほぼ一貫して高い成長を達成し、四半世紀という短期間のうちに世界経済におけるプレゼンスを急速に高めてきた。貿易や直接投資等を通じた我が国との経済関係も、年々深化してきている。

2. 中国自身が必要とする人民元問題の解決

●同時に、諸外国との間の貿易摩擦も拡大した。とりわけ2001年以降、先進主要国の政府要人による人民元切上げ、もしくは現行の為替制度の変更を中国に求める発言が頻繁に行われるようになった。
●米国の巨額の経常収支赤字の主要因として、中国が事実上ドルにペッグした為替制度を採用しているために人民元レートが現在の中国の国際競争力に比して割安な水準に据え置かれている、などの批判もみられる。
●具体的な人民元の過小評価の定量的な判断については、様々な経済理論的見地から異なる仮定・手法に基づいて議論が展開されているものの評価が分かれており、コンセンサスがあるとは言い難い状況にある。
●一方、中国政府要人による公式発言として、より柔軟な為替制度への移行について、政府として検討している旨が伝えられている。
●中国当局自らが現行為替制度の変更を検討する背景としては、元への増価圧力に対して固定為替制度を維持するための外為介入、及び国内のインフレを抑制するための不胎化介入の続行が困難となる一方で、国内経済のひずみが無視できない程度に至っていることがあるとみられる。
●こうした現象は、(1)自由な資本移動、(2)為替相場の安定、(3)金融政策の独立性、という金融政策の三つの目標のうち、同時に完全に達成できるのは最大二つまでという「開放経済下のトリレンマ」に中国が陥っているためとみられる。この制約条件に従えば、資本取引規制が実質的に効かなくなる傾向にあるなか、国内経済の規模が大きい中国の場合(3)を優先させることが望ましいと考えられる。
●最終的には変動相場制を目指すにせよ、スムーズな移行のためにはなんらかの経過措置的な為替制度をとる必要があろう。現在提案されているいずれの手法も一長一短があり、各々の特性を十分把握した上で欠点を補完するよう複数の手法を経済状況に応じて組み合わせることが望ましい。

3. 持続的な経済発展のための諸課題

●急激かつ高い成長に隠れた形になっているものの、国内市場には持続的な成長に向けて解決すべき課題も多い。長年の懸案である国有銀行、国有企業の経営の効率化問題はWTO加盟の進捗に伴い、国際競争圧力が高まるなかでその早期解決が迫られている。国内の地域間所得格差は農業問題とも関連し深刻度が増している。電力などエネルギー供給力の制約、社会資本不足等の問題も今後の成長のボトルネックとなるおそれがある。


第I部 海外経済の動向・政策分析

第1章 中国経済の持続的発展のための諸課題

 中国経済は1978年末の「改革・開放」以降(1)、計画経済から市場経済への流れを推進しながら、ほぼ一貫して高い経済成長を達成してきた。その結果、中国は短期間のうちにその国土面積や人口規模においてのみならず、経済活動の規模という観点からみても「大国」となった。世界貿易に占める中国の割合も高まるなかで、今やアメリカと並び世界経済を牽引する役割を果たしている。このように中国の世界経済におけるプレゼンスが高まる一方で、これまで標榜してきた「社会主義市場経済」体制(2)と急拡大した経済活動の間にずれが生じ、先進国を始め諸外国との摩擦も表面化してきた。その典型的な例の一つが人民元切上げをめぐる議論の高まりである。
 しかし、急激かつ高い成長に隠れた形になっているものの、国内市場には持続的な成長に向けて解決すべき課題も多い。長年の懸案である国有銀行、国有企業の経営の効率化問題は国際競争圧力が高まるなかでその解決が迫られている。国内の地域間所得格差は農業問題とも関連し深刻度が増している。電力等エネルギー供給力の制約、社会資本不足等の問題も今後の成長のボトルネックとなるおそれがある。
 将来にわたって引き続き中国が高い成長を持続していくことは、単に中国一国のみならず、世界経済全体にとっての重大な関心事項となっている。日本にとっても中国は貿易関係をとおして経済連携が強まるとともに、多数の日本企業が経済活動の拠点を確保していることからも、中国の持続的な経済成長に対する期待は強い。
 本章では、中国経済のプレゼンスの高まりとともに議論が活発化してきた「人民元問題」について概観した上で、その背景にある中国経済の抱える諸課題について考察する。


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