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第II部 世界経済の展望――2003年前半は弱い動き

第1章 2003年の経済見通し

 2002年の海外経済は緩やかに回復し、成長率は3%台半ばとなった。2003年について成長率は同程度にとどまるとみられており、成長の加速は厳しい状況にある。本章では、2003年の経済見通しのポイントを主要地域別に検討する。検討においては民間機関の平均的な見方(4月10日までの公表分)を参考とした(第II-1-1表)。なお、国・地域別のより詳しい動向は別添の資料を参照されたい。

1.アメリカ

 2003年の見通しは、2.4%と昨年秋時点と比較して下方修正(0.6%)されている。これは、イラク情勢が緊迫する中で昨秋以降個人消費の伸びが鈍化傾向にあり、2003年に入って景気の回復力が弱まっていることによる。また、設備投資は持ち直しているが、先行指標である資本財受注は減少傾向にある。こうしたことから、年前半の成長率は1%台後半から2%程度の低いものにとどまるとみられる。しかし、年後半に、原油価格の下落、消費者マインドの回復などを背景に個人消費の勢いが回復してくれば、生産の回復基調も明瞭になり、成長率が高まるものとみられる。

●これまでの回復を支えた家計部門の牽引力に陰り
 個人消費が鈍化傾向を示すようになった大きな要因として、消費者マインドの悪化がある。その背景としては2点指摘できる。(1)雇用環境が厳しさを増していることである。2002年夏以降、雇用者数は減少傾向にあり、とくに2003年春には大幅な減少が続いた。(2)2002年秋以降はイラク情勢が緊迫し、それが原油価格の上昇や株価の下落をもたらし、先行きの不透明感を高めたことである。こうした中で、個人貯蓄率は2001年平均の2%強に比べ2002年秋以降は4%程度に上昇している。
 2003年3月中旬にイラク戦争が開始され、その後4月中旬には戦争による悪影響はほぼなくなっているが、消費者マインドの改善は緩やかである。マインドの改善にとっては、雇用環境の改善が持続することが必要であるが、それを裏打ちするような動きは未だみえない。こうしたことから、年前半の消費が勢いを取り戻すかどうかについては悲観的にならざるを得ない。
 住宅建設は、歴史的な低金利を背景に高水準が続いており、景気回復を支えている。しかしながら2003年初には過去最高の水準に達しており、また、仮にモーゲージ金利が上昇すればこれまでのような水準を維持することは難しく、今後の成長への寄与は大きくは期待できない。
 こうしたことから、2003年前半においては、これまでの景気回復を支えた家計部門の牽引力は弱いものになると見込まれる。

●企業部門の回復は年後半以降に力強さを増す可能性
 2002年後半からの消費の伸びの鈍化は生産の減速へと波及し、企業の設備投資及び雇用への意欲を抑制しているとみられる。企業景況感は2003年3月に好不況の分かれ目である50を下回り、マインドが低下している。とくに、生産や受注に関係してマインドの低下がもたらされている。こうした状況を反映して資本財受注も減少しており、2003年前半の企業部門は低調な動きになるものと見込まれる。
 一方、企業収益の回復には、足元でようやく明るさがみられる。2002年10−12月期には、ちょうど1年ぶりに前期比でプラスになった。また、翌3月から原油価格が下落に転じたこと、低金利が続いていることも収益環境にとって追い風と考えられる。今後、個人消費など需要の増加が生産回復、稼働率上昇につながっていけば、年後半には設備投資の回復が力強さを増してくるものと期待される。
 減税やイラク戦費支出拡大等を通じて拡張的な財政政策が景気を支えている。その結果、財政収支赤字は2003年にGDP比5%近くに達すると見込まれている。他方、2003年の経常収支赤字は史上最高を更新し5%を上回ると予測されている。こうしたことから、「双子の赤字」がアメリカ経済の先行きにとって不透明感を高める一つの材料となっている。


2.アジア

 中国の高い成長がアジア経済に好影響を及ぼし、アジアでは緩やかな景気拡大が続いている。しかし、輸出が鈍化している一方、重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行が不透明感を高めており、アジアの経済見通しは昨年秋時点に比べて下方修正されている。

(1)北東アジア(中国、韓国、台湾、香港)

 2003年の見通しは、昨年秋時点に比べやや下方修正(0.3%)されているものの、引き続き6%程度の景気拡大が見込まれている。しかしながら、このところは下方リスクが高まりつつある。中国、韓国においては、これまで内需拡大と輸出増加の両面から景気は拡大し、アジア経済全体にも好影響を与えていた。2003年前半にはアメリカ経済の回復力が弱まっていることからアジア各国で輸出の伸びが鈍化すると同時に、とくに韓国ではマインド悪化が投資に影響を与える兆しがみられる。

●中国では高い成長、韓国では景気拡大に緩やかさも
 イラク戦争がマインド悪化を加速させた影響などから、アメリカで消費に弱さがみられ、景気の回復力が弱まっている。アジア各国では対米輸出のウエイトが大きいことから、アメリカ経済の動向から受ける影響は大きい。
 中国では個人消費が堅調に増加しており、活発な外国資本流入と西部大開発などによる政府の積極財政から投資も高い伸びが続くとみられる。その結果、輸出の伸びが鈍化する懸念があるものの、内需を中心に2003年も7%程度の高い成長になると見込まれる。中国はアジアにおける成長を牽引するものと期待される。
 韓国では、景気は拡大しているが、内需の伸びにやや陰りがみえてきている。年前半は、マインド悪化による個人消費や設備投資の伸び鈍化から、景気はやや減速する可能性も考えられる。また、このところの対米を中心とする輸出鈍化が中国向けなどへの輸出増加でどの程度補えるか、今後の景気動向にとって重要な鍵となる。

●悪影響が懸念されるSARSの流行
 2003年春以降流行が広まっているSARSは、アジア各国に影響を与えつつある。中国、香港では多くの患者が発生している。とくに香港では、消費の減少、旅行客の激減、観光業や航空業の大幅減収など顕著な悪影響が生じつつある。香港の2003年の経済見通しは下方修正され、4月に入ってから公表されたものでは1%台にとどまるとの見方も出てきている。イラク戦争に関わる不透明感は低下したが、代わってSARSの影響が先行き不透明感を高めている。

(2)ASEAN:シンガポール、インドネシア、タイ、マレイシア、フィリピン

 2003年の成長率は4%弱程度になると見込まれており、昨年秋時点に比べて下方修正(0.6%)されている。北東アジアよりも輸出の伸びが大きく鈍化しており、また、シンガポールやマレイシアなどではSARSの流行もあり、先行き懸念材料が現れている。

●内需主導の緩やかな拡大に変化も
 ASEANではシンガポールの景気回復が緩やかなものにとどまっているが、その他の国では消費と投資が増加を続けることによって緩やかな景気拡大が続いている。タイでは内需の増加が続いており、景気拡大の基調はしっかりしている。しかし、マレイシアやインドネシアでは、このところ消費にやや弱い動きもみられるようになっている。
 これらの背景としては、2002年後半以降イラク情勢の緊迫等によりマインドが低下していること、アメリカ向けを中心として輸出が減少に転じつつあること、さらにこのところはSARSの流行が悪影響を与えていることなどが考えられる。そのため、今後はこれらの動きが生産を弱め、内需主導の緩やかな拡大に影響を与えることがないか注視していく必要がある。他方、タイやマレイシアでは財政面からの景気刺激が行われており、その景気刺激効果が期待されている。


3.欧州主要4か国
(ヨーロッパ4:ドイツ、フランス、イタリア、イギリス)

 2002年後半からの景気の減速が2003年前半も継続し、年全体としての成長率も1.2%と昨年秋時点の見通しに比べて大きく下方修正(1.0%)されている。ドイツでは景気後退懸念が指摘されるなど、欧州の景気減速が深まっている。

●景気回復は2003年後半以降にずれ込み
 ドイツ、フランス、イタリアでは、消費者と企業のマインドが大幅に悪化しており、昨年秋時点の見込みよりも景気の落ち込みは大きくなっている。イラク戦争がマインド悪化を加速させたことに加え、ドイツ、フランスでは失業率が上昇傾向にあることも消費者マインドの悪化をもたらしている。この結果、消費、投資、外需ともに成長を支える役割を期待できない状況となっている。さらに、財政赤字の拡大から財政面からの景気刺激は困難であり、金融政策もユーロ導入国のインフレ懸念への配慮等制約に直面している。
 こうしたことから、2003年の経済成長はきわめて低いものにとどまるとみられる。アメリカを中心とする世界経済の回復が明確になることは成長のプラス材料であるが、大幅に落ち込んだ消費者・企業のマインドの回復に時間がかかると見込まれることから、景気回復は2003年後半以降にずれ込む可能性が高いと考えられる。
 イギリスにおいても景気は減速している。2003年に入ってからは、消費者マインドが大幅に落ち込み、それまでの回復を支えた消費がほぼ横ばいと弱まっている。住宅価格は依然上昇を続けているが、下落に転じた場合に家計バランスシートに悪影響を与えるリスクは高まっている。他方で、景気動向に応じて金融政策は弾力的な運営が行われる一方、財政面では自動安定化機能を重視した政策が行われている。こうしたことから、景気減速によっても成長率はユーロ圏ほどには落ち込むことなく、イラク戦争終結等の不透明感の後退とともに景気回復力が増してくるものと期待される。


4.海外経済の概観

 以上の地域別の動向を総合すると、日本にとって関係の深い海外経済全体としては、2003年は3.5%程度と、昨年とほぼ同程度の成長になるものと見込まれる。これは過去10年平均(4.7%)に比べ低い水準である(第II-1-2図)。また、消費者物価上昇率は、2003年は2.1%と、安定した動きになるとみられる。
 また、地域別に過去10年のトレンド成長率と2003年の成長率を比較すると、成長達成度(2003年の成長率/過去10年の平均成長率)は0.6〜0.8となっており、2002年に引き続き緩やかな回復にとどまることが見込まれている。(第II-1-3図)。
 2003年の回復の姿に大きな影響を与える要因として、第一に、イラク戦争の影響で悪化したマインドが今後どの程度の速さで改善に向かうかがポイントである。2002年後半以降のイラク情勢の緊迫は、原油価格の上昇や消費者・企業のマインド悪化などを通じ、世界経済の回復力を低下させたと考えられる。戦争終結に応じてマインドが急速に改善すれば、今後の展望にとって明るい材料となろう。
 第二は、アメリカやヨーロッパで明らかにみられる企業部門の弱さがどれほど克服されていくかがポイントである。2002年以降の世界的な株安、収益環境の悪化等は、ITバブル崩壊を主因とする脆弱な企業のバランスシートを悪化させている。その結果、企業部門は投資や雇用に極めて慎重となり、2001年末以降の景気回復を支えた消費の伸びを持続させることができなかった。2002年後半からの不透明感の高まりによって、このところは主要国の消費に弱い動きがみられるようになっており、消費から投資へのバトンタッチが困難な状況が迫りつつある。
 こうしたポイントを踏まえると、2003年の経済見通しについては中心シナリオとして以下が考えられよう。年前半は欧米中心に世界経済は弱い動きが続くと見込まれる。そして、主要国のマインドが改善に向かう一方で、中国を中心とするアジアの成長が腰折れすることがなければ、世界経済は年後半にかけて緩やかに回復を強めていくものと期待される。


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