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1  アメリカ    United States of America

アメリカ経済のこれまで


<2001年の経済>
 2000年後半以降IT関連産業を中心に始まった景気の減速は、2001年前半までに広く経済全般に波及し、3月以降景気は後退局面入りした。その後、IT関連産業の減速が緩やかになったことや景気刺激的な財政・金融政策から夏頃には減速のペースは緩やかになったが、9月11日の同時多発テロの発生により、景気は再び急速に冷え込んだ。
 同時多発テロの影響は、直後には消費や旅行の手控え、物流の停止、金融市場の閉鎖といった経済活動の停滞をもたらした。そうした直接のショックはほどなく収まったものの、テロ事件は消費者信頼感や企業の景況感の悪化をもたらし、更なる在庫調整、雇用調整につながった。この結果、7〜9月期の経済成長率は1.3%減と8年ぶりにマイナス成長となった。
 同時多発テロにより落ち込んだ消費者信頼感・企業の景況感は、アフガニスタンでの軍事行動が予想外に早く収束に向かったこと、原油価格の安定、財政・金融両面からの政策効果等により、10〜12月期には早くも回復し始めた。また、ゼロ金利キャンペーンによる自動車販売の大幅な増加や政府支出の拡大から、経済成長率はプラスとなり、IT関連産業の生産は拡大に転じた。

アメリカの主要経済指標

<2002年の経済見通し>
 景気は2002年には回復し、2%台半ば程度の成長になると見込まれる(民間機関55社の平均2.5%(2002年4月)。なお、政府見通し0.7%(2002年2月)、議会予算局1.7%(2002年3月))。民間予測機関の平均的な見方としては、1〜3月期に4%以上の高い成長となり、その後年末にかけて3%台後半の成長を見込むというものとなっている。
 今年に入ってからの動きとしては、テロ後の雇用削減が一段落したことや低金利を背景に、消費が回復し、住宅建設も高い水準となっている。生産及び雇用も下げ止まり、景気は回復の動きがみられる。
 今後の回復過程について、標準的なシナリオとしては、消費が堅調に推移するとともに、年前半は在庫が取り崩し局面から積み増し局面に移行する過程で高い成長となり、在庫の寄与が剥落していく年央以降は、設備投資が緩やかに回復することで持続的な成長軌道に戻るとみられている。
 消費は、2001年末に引き続き今年初も高い伸びになるものと見込まれる。この背景には住宅ローン金利の低下やエネルギー価格下落の影響があったとみられ、一時的に本来のトレンドよりも押し上げられているものと考えられる。今後はこうした要因が剥落していく一方で、減税による可処分所得の増加や雇用環境の改善等から堅調に推移していくことが見込まれている。在庫は、昨年後半に急速に在庫調整が進んだことから年初時点ではかなり低い水準となっており、また今年に入り既に積み増し局面に移ってきていることから、年前半に大幅なプラスの寄与となるものとみられている。設備投資は、企業収益の伸び悩みからまだ回復の動きはみえていないが、先行指標である資本財受注や出荷がプラスに転じており、企業の景況感も回復していることから、ほどなく回復に転じるとみられている。

実質GDP成長率の実績と見通し

 経常収支については、2001年は景気が減速傾向であったことから、輸出・輸入とも減少したが、輸入の減少幅がより大きかったことから赤字幅が縮小した。2002年については、米国の回復が他地域より早くかつ急速なものになるとみられることから、輸入の伸びが輸出を上回り、経常収支赤字は拡大に向かうとみられている。
 物価については、2001年はエネルギー価格の下落を受けて年後半に低い伸び率となった。2002年については原油価格が上昇に転じておりエネルギー価格はむしろ上昇圧力となることが見込まれること、需要の堅調な伸びが見込まれることから、年後半にかけて2%台前半の上昇率になるとみられている。
 雇用については、2001年は年前半から雇用調整が進められていたが、9月の同時多発テロ以降はさらに急速な雇用削減が行われた。2002年については景気の拡大につれて雇用者数は増加するが、失業率については年央まで緩やかに上昇していくことが見込まれている。
 2002年の見通しにおける下方リスクとしては、企業収益の回復の遅れにより設備投資の回復が遅れる可能性がある。年前半に高い成長をもたらすとみられる消費・在庫は、年央以降伸びが低下すると見込まれており、もし設備投資の回復が遅れるならば、年後半の成長率はかなり低いものに留まる可能性がある。また、内需が高い伸びを示したとしても、輸入の大幅な増加につながるならば外需が大きくマイナスに寄与する可能性がある。この他のリスクとしては、経常収支赤字拡大がドルの減価材料になる可能性や、家計や企業のバランスシートが悪化していることが回復にマイナスの影響を与える可能性等がある。
 逆に明るい材料としては、高い生産性の伸びが企業収益の回復に与える影響が挙げられる。昨年後半には、急速な雇用削減を背景に生産性は高い伸びを示しており、単位労働コストは低下している。このため、予想外に早く企業収益は回復する可能性があり、また3月に決定された景気刺激パッケージの効果も見込まれることから、現在見込まれているよりも早いタイミングで設備投資が回復する可能性がある。

<財政金融政策の動向>
 財政収支は、97年の「財政収支均衡法」等の財政赤字削減努力および90年代後半以降の長期景気拡大により、98年度より黒字となった。2001年6月にブッシュ政権は大統領選時の公約でもあった大型減税を決定し、財政黒字を家計に還元するとともに減速していた景気の浮揚を図った。また、金融政策は、2000年末より緩和しており、2001年前半は財政・金融とも景気配慮型の政策スタンスとなっていた。
 9月に起きた同時多発テロにより、直後は当面の緊急対応が大きな政策課題となった。まず財政政策では、9月14日に400億ドルの緊急歳出、19日には航空業界の支援策を決定した。これらの結果、財政収支の見通しは、今後2004年度までは赤字になると見込まれている。一方、金融政策としても、主要国と協調した緊急利下げが9月17日に行われ、その後も12月までに3回、計1.25%の積極的な利下げが行われた。こうした政策対応は、景気の底割れを防ぎ、消費者・企業のマインドの回復に寄与したものと考えられる。
 2002年に入ってからは、財政・金融とも政策スタンスは徐々に中立型に向けて変わりつつある。財政政策については、昨年秋より初年度1,000億ドル規模の大型の景気刺激パッケージがブッシュ政権の提案を受けて議会で審議されていたが、3月に、当初の規模から縮小し初年度510億ドル規模で決定された。これには時限的な特別減価償却制度や失業保険給付期間の延長が盛り込まれており、設備投資の促進やセーフティネットの拡充により景気回復を支えることが意図されている。
 金融政策も2002年1月のFOMC(連邦公開市場委員会)会合ではまる1年ぶりに金利は据え置きとされ、さらに3月のFOMC会合での声明ではリスクは均衡しているとし、政策スタンスをそれまでの景気低迷警戒から中立へと移行した。今後は、景気回復につれて年末にかけて徐々に引締めに転じていくのではないかとの見方がマーケットで支配的になっている。


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