世界経済の潮流　2002年春

３　　中　国　　　　People's Republic of China

中国経済のこれまで

＜2001年の経済＞
　2001年の経済成長率は通年で7.3％となり、景気の拡大は鈍化した。2001年は第10次５か年計画（2001～2005年）の最初の年であり、積極的な財政政策が展開された。第１四半期には前年からの好調な輸出と生産、さらに大規模な公共投資による固定資産投資の下支えにより、実質ＧＤＰ成長率が前年同期比8.1％となり景気の拡大テンポはやや高まった。
　世界経済の鈍化による影響は年央から現れ、輸出が６月には前年同期と比べマイナスの伸びとなり、年初来２桁の伸びを続けていた鉱工業生産（付加価値ベース）が８％台に鈍化した。さらに輸出の不振から家電や携帯電話等の工業製品で、前年からの供給過剰が一層強まり、緩和傾向にあったデフレ圧力が再び一段と強まることとなった。

中国の主要経済指標

＜2002年の経済見通し＞
　景気の拡大テンポは鈍化しており、７％前後の成長になると見込まれる（政府見通し７％前後、民間機関の平均7.2％）。民間機関の見通しは、半年前(2001年10月時点7.4％)に比べてわずかに下方修正されている。
　成長を支える要因としては、比較的堅調に推移している消費が挙げられる。道路やダム建設等ため、政府は前年に引き続き2002年も1,500億元の国債を発行することとしており、公共投資の拡大が雇用を創出し内需を拡大するものとみられる。輸出は2001年12月には前年同月比で11.5％増と回復している。
　下方リスクとしては、アメリカ経済のダブルディップによる輸出の伸び悩みが懸念される。過剰生産の根源である国有企業の抜本的な構造改革が進まない中で、さらにＷＴＯ加盟による関税の撤廃が輸入品の価格低下をもたらすなど、今後も続くとみられるデフレ傾向も懸念材料となっている。

＜財政金融政策の動向＞
　2000年から続いている西部大開発計画により、中西部地域への重点的な投資が行われている。現在、一人当たりＧＤＰで約13倍（上海市34,547元、貴州省2,662元）となっている地域間格差を是正し、内陸部の経済発展を促すことを目標にしている。年間1500億元発行される国債のうち約500億元を西部大開発にあて、雇用促進と内需の拡大を目指している。
　2001年４月と10月には消費刺激策として、公務員給与引上げが行われた。４月には、１月に遡り月額100元、平均引上げ率約30％、10月には平均15％の引上げと基本給１か月分のボーナスが12月に支給された。
　金融政策としては、中国人民銀行は2002年２月20日、２年８か月ぶりとなる利下げに踏み切った。内需を下支えし、失業者の増加やデフレ進行を抑えることが目的とされている。

＜中期政策と2002年の目標＞
　第10次５か年計画（2001～2005年）では前５か年計画の時のような外的要因による成長（アメリカ経済の拡大を中心とする世界的な需要増加）が望みにくいとしており、「内需拡大」政策への方向転換が目新しい。東部地域主導での成長は地域間の所得格差を拡大させたことから、開発の遅れている中・西部地域に対し重点的に投資し、この地域の需要の拡大を目指している。計画期間内の最大の課題はＷＴＯ加盟を契機として、産業構造を中心とした経済構造調整を推進することとされている。これまで国有企業のみに独占させてきた通信、保険分野等への参入自由化や、規制による保護の撤廃によって市場競争力の高い企業を育成する。これにより競争力の低い企業が自然淘汰されるシステムを作り出し、経済・産業構造の効率を高め、資源の有効な配分による長期的な成長を確保しようとするものである。
　2002年３月の全国人民代表大会では、政府が取り組む重点的な活動として以下の８項目を挙げている。
　１．内需拡大と経済の高成長維持
　２．近代化・効率化による農業強化策と農民収入増加
　３．経済構造調整と経済システム改革の積極的推進
　４．ＷＴＯ加盟への国内的対応と対外開放の促進
　５．市場経済に関するルールの策定
　６．教育科学技術立国戦略と持続可能な発展戦略、精神文明建設強化
　７．政府部門の効率化と汚職撲滅
　８．外交
　今回の活動方針は、第10次５ヵ年計画で決定された方針からさらに掘り下げたものではあるが、ＷＴＯ加盟や国有企業改革等の経済構造改革がもたらす負の側面等にも考慮しつつ、経済成長持続の前提となる農村経済改革等、社会の安定に関する措置に力点が置かれていることが特徴である。

2002年の政府目標(全人代、2002年3月)

　具体的にみると、内需拡大については、特に都市・農村住民、特に低所得者層の収入を拡大し、購買力を培う。公共投資のしかるべき規模を維持（2002年の建設国債発行予定額1,500億元、ＧＤＰ比1.6％）し、これを呼び水に固定資産投資の高い伸びを支える。税制・徴税業務の効率化のため、税制の安定を維持し、租税徴収・管理の強化に努める。通貨政策では引き続き、金融機関に対する監督・管理を強化する。農業分野では、「三農」問題という言葉に代表される、①農産品価格の低迷、②農産品の低い市場競争力、③困難な農民の収入増という問題を抱えている。これに対しては、農業と農村経済の構造調整及び企業化、機械化等近代化への転換を積極的に推進する。西部開発戦略を引き続き実施し、地域の調和のとれた発展をはかる。これらが主要な政策となっている。

＜ＷＴＯ加盟＞
　86年にＷＴＯの前身であるＧＡＴＴに「復帰」（中国はＧＡＴＴ元加盟国であるとの認識を持っているため）を申請以来、15年にわたる加盟交渉を経て、2001年にようやくＷＴＯに加盟することとなった。ＷＴＯ協定は、最恵国待遇と内国民待遇を基本原則とし、二国間での取り組みは全加盟国に適用され、外国の製品、人、企業に対する差別を禁止しており、中国の市場経済システムの機能を高める役割も担っている。
　今回の加盟議定書でも、貿易に関する統一的な行政手続を通じた透明性の確保や全分野にわたる独立した司法審査を遵守するよう求められている。また、これまで特定の企業にのみ与えられていた貿易権を、加盟後３年以内に外資系を含む全ての企業に付与すること、外国人・企業に対する公共サービス料金等の差別的な二重価格制度を廃止することなど、外資系企業に対する差別の撤廃も定められている。
　物品の関税は、全品目7,151品目の関税率（単純平均）を98年の17.5％から2010年には9.8％に、その中でも鉱工業製品は16.6％から8.9％に、農産物は22.7％から15.0％に段階的に引き下げるとしている。ＩＴ関連では情報技術協定（ＩＴＡ）への参加を表明し、関税率を最終的に０％（2005年頃）にする。ＷＴＯ加盟後は土地集約型農産物の輸入増大による影響と、さらに補助金の上限が農業生産額の8.5％（発展途上国：10％、先進国５％）となったことで、農業部門の改革は急務となった。
　サービス業では、これまで地方政府の許可による外資の進出例はあるものの、中央政府ベースでは、限られた大都市、経済特別区で小売業について試験的な進出が認められているに過ぎなかった。今後は、流通、保険、銀行、電気通信につき、外資規制の削減、撤廃を予定している。銀行業では、外資系銀行が2004年までに中国企業に対して、2006年までに中国人顧客に対して人民元を取引できるようになった。ただし、中国は1994年に経常取引のための支払い及び資金移動に対する制限の禁止を謳ったＩＭＦ８条国に移行しているが、資本取引については未だ自由化しておらず、今回のＷＴＯ加盟にあたってもその姿勢は変えていない。

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