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第I部 第2章のポイント

1.オランダではワークシェアリングが雇用創出に大きな貢献

●ワークシェアリングとは雇用の分かち合いを意味し、時短によって仕事の機会を増やすのが典型的な方法である。雇用維持型と雇用創出型に二分できる。
●82年末以降推進されたオランダは、短時間雇用を生み出す雇用創出型が基本。パートタイム労働者(フルタイムで働く雇用者に比べて労働時間が短い正社員)を中心に、サービス分野で雇用が増加した。雇用の増加は女性労働力率の急速な高まりによって支えられた。この結果、経済危機に見舞われていた80年代前半の失業率は12%程度に達していたが、2001年には3%を下回るまでに低下した。
●他方、85年から実施されたドイツのワークシェアリングは雇用維持が基本であり、雇用者数はほとんど増加しなかった。フランスでは、99年から法律によって時短が推進されているが、大きな効果は未だ観察されていない。

2.オランダの生産性の伸びは低く、労働コストは高い伸び

●90年代以降についてみると、3か国とも実質賃金上昇率は低い伸びに抑制され、労働分配率の上昇は回避されている。ドイツの分配率は低下傾向が明らかである。
●生産性上昇率は、オランダの伸びが低く、ドイツ、フランスを下回っている。これは短時間労働による能力発揮の制約や勤務交代の非効率等によるのではないかと考えられる。
●この結果、オランダの単位労働コストはドイツ、フランスを上回る勢いで増加した。2000年以降、オランダのGDPデフレータは4%前後の高い伸びとなる。

3.ワークシェアリングを支える施策―オランダ

●パートタイム労働者の均等待遇が進められ、年金、失業手当、健康保険などに関してフルタイム労働者と同等の権利が付与された。
●同一の職務をこなす者は時間当りの賃金が同じでなければならないという同一労働同一賃金の原則が確立された。
●減税や社会保障制度改革を行い、労働者と事業主の負担を軽減すると同時に、給付額の削減等を行った。これによって、多様な形態の就業を支援した。
●職業紹介業の規制緩和を行い、公共職業紹介所の民営化、民営職業紹介所の設立規制の緩和等によって、民間職業紹介サービスを推進した。また、若年失業者や長期失業者への職業訓練の充実を図った。

4.選択の幅を拡げ、働き方の多様化に向けて

●ワークシェアリングが単に企業の労使間の分配問題にとどまらず、弾力的で多様な雇用形態を通じて労働力の移動を促進し、資源配分の効率化をもたらす可能性が重要な点である。単なる仕事の分かち合いだけでは、活性化に限界がある。
●働く意欲と能力のある人々の働き方を制限するのでなく、選択の幅を拡げ、多様なライフスタイルにも対応した働き方を拡げていくことが、雇用の緊急避難にとどまらず、中期的に雇用を守っていくことにつながる。


第I部 世界に学ぶ−日本経済が直面する課題への教訓

第2章 ワークシェアリングの成果 ―オランダ、ドイツ、フランス

 我が国の失業率が過去最高に達するなど厳しい雇用情勢が続くなかで、雇用を守るためのワークシェアリングについて関心が高まっている。本章では、ヨーロッパの経験に即して、ワークシェアリングとは何か、またワークシェアリングはこれまでどのような成果があったのかについて考察する。
 以下では、まずヨーロッパでの経験を概観する。次に、ワークシェアリングの経済効果を調べるために主要国の雇用動向を回顧する。最後に、最も大きな成果が上がったオランダについて、関連する施策やその考え方を整理する。
 なお、本章では、OECDの定義等を参考にして、フルタイムで働く雇用者に比べて労働時間が短い正社員を「パートタイム労働者」と表現している。


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