まえがき

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「世界経済の潮流」は内閣府が年2回公表する世界経済の動向に関する報告書です。

今回の報告書「世界経済の潮流2016II」は、先進国を中心に広がりを見せる低金利・低インフレの背景や、そうした状況下での金融・財政政策等のあり方を論じるとともに、アメリカ、ヨーロッパ、アジアの3地域ごとにそれぞれの地域の経済に特徴的な政策課題を洗い出し、今後の展望やどのような政策対応が望ましいかについて議論しています。

第1章では、世界金融危機以降、先進国を中心に低金利かつ低インフレの状態が広がりを見せていることの要因の分析、金融危機以降の先進国のマクロ経済政策の政策ツールの概要やその評価、展望等をサーベイしています。アメリカの新政権の政策に対する期待等から、昨今では長期金利はやや上昇していますが、過剰な貯蓄と投資不足や安全資産志向の高まりと債券市場の需給のタイト化等、本章で指摘した低金利の背景に大きな変化はなく、今後の金利の動向が注目されます。先進国ではいわゆる非伝統的な金融政策を次々と実施してきましたが、こうした政策についての議論も整理しています。併せて本章では、2000年代以降のアメリカの金融政策の変更が新興国経済にどのような影響を与えたのか、特に新興国の資金流出入に及ぼしたインパクト等を定量的に分析・評価しています。

第2章では、主要地域別に経済の現状と見通しを整理するとともに、地域に特徴的な話題を取り上げ分析しています。まずアメリカについては、7年半に及ぶ景気回復を続けていますが、長期的にみると、高齢化の影響や労働生産性の低下等を背景に、実質経済成長率は低下傾向にあります。今後成長力の強化が一層重要となる中、これまでアメリカ経済の成長の原動力とされてきた、企業の新陳代謝等の動きが依然として活発であることを指摘し、こうした企業のダイナミックな動きの維持や強化が重要であることを、日米比較等の分析を通じて議論しています。ユーロ圏については、景気回復が続いているものの力強さを欠き、一部の金融機関にみられる財務体質の脆弱性や硬直的な労働市場等、潜在成長力向上の妨げとなる構造問題が根強く残っています。ユーロ圏諸国間でも経済格差や不均衡が拡大していますが、例えば早期に労働市場改革に取り組んだドイツでは、その効果が競争力の回復に寄与したと評価することができます。中国については、成長の減速が世界経済の下押し要因となってきましたが、政策効果に支えられ当面は持ち直しの動きが続くと見込まれています。今後は、民需主導の自律的な回復の実現が重要と考えられますが、中国国内では、構造不況業種と成長業種の立地の地域間の偏りが大きいことから、地域の実情に合った政策の実施や、地域間労働移動の障害を取り除くことが、今後の成長のために必要と考えられます。

世界金融危機後、世界の景気回復は緩やかなペースにとどまっています。世界経済の成長を通じた生活水準の持続的な向上と、成長の果実の適切な配分のためには、構造改革や貿易・投資の自由化を通じた生産性や潜在成長率の引上げが不可欠の課題です。本書の分析がこうした課題に対する今後の展望を考えるための一助となれば幸いです。

平成29年1月

内閣府政策統括官(経済財政分析担当)

井野 靖久

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