第2章 第2節

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アメリカ経済の現状点検

FRBが金融政策正常化を検討している背景には、アメリカ経済の回復が続いていることがある。

アメリカ経済は、雇用・所得環境の改善が個人消費の増加に結び付くという好循環がみられ、景気は回復が続いている。実質経済成長率をみると、2014年は年初に寒波・大雪の影響等に下押しされたため、通年では2.4%成長にとどまった。15年1~3月期は、寒波・大雪の影響に加えて、西海岸の港湾施設の労使紛争の影響によるサプライチェーンの混乱や、原油価格下落による鉱業部門の設備投資の減少、ドル高による輸出の減速も影響したため、実質経済成長率は前期比年率0.6%にとどまった。4~6月期は、ガソリン価格低下による実質所得の増加もあって個人消費が大幅に増加したため、同3.9%の高成長となった。7~9月期は在庫の減少等により同2.1%成長にやや減速したものの、個人消費は堅調に推移しており、引き続き景気が回復していることが確認された(第2-2-1図)。

第2-2-1図 実質経済成長率:消費中心の回復
第2-2-1図 実質経済成長率 (備考)アメリカ商務省より作成。

1.量的緩和の効果

世界金融危機後、米国経済が回復傾向を維持している要因としてFRBが導入した非伝統的な金融政策3の果たした役割を指摘する必要がある。FRBは、08年11月に国債やMBS(不動産担保証券)の大規模購入(量的緩和、いわゆるQE1)に踏み切った。大規模な資産購入が計3回(QE1~QE3)にわたって実施され、FRBのバランスシートは大きく拡大した。加えて、このような政策を長期にわたって継続するとのコミットメントが行われた。量的緩和政策の効果の度合いについては、識者によって見解が分かれるものの、一定程度の景気下支え効果があったとみられている。

まず、ベースマネーの推移をみると、FRBがバランスシートを急拡大させた08年後半から09年半ばにかけて大きく増加した。一方、QE2及びQE3実施時は前年の水準が高かったため、QE1の時に比べれば伸び率は大幅に縮小した(第2-2-2図)。一方、マネーサプライの増加ペースは、ベースマネーと比較して緩やかであった。

この間の株価の推移をみると、QE1実施後、世界金融危機後の最安値(09年3月)をつけたものの、その後上昇に転じた。QE1終了後は一時的に下落したものの、10年8月にバーナンキFRB議長がQE2を示唆した後、11年初頭にかけて上昇局面が継続した。QE3実施時には、追加金融緩和を織り込んでFOMC前から株価が上昇し、その後はアメリカの景気回復を背景に、大幅に上昇した(第2-2-3図)。

量的緩和の実施によって、実質利回りが低下したとの分析もある。IMFのエコノミストは、08年から12年の債券買い入れがなければ、10年債の実質利回りが1.4%上昇していたと推計している4

第2-2-2図 マネー関連指標
第2-2-2図 マネー関連指標 (備考)FRBより作成。
第2-2-3図 NYダウの推移:QE実施時に上昇
第2-2-3図 NYダウの推移 (備考)25日移動平均。ブルームバーグより作成。
第2-2-4図 10年債利回りの推移
第2-2-4図 10年債利回りの推移 (備考)ブルームバーグより作成。

FRBによる大規模な緩和と長期にわたるコミットメントは市場参加者等の期待を高め、景気の早期回復に効果があったとの分析もある5

2.好調さが続く家計部門

(1)個人消費と住宅の回復

アメリカ経済は家計部門を中心に好調さが続いている。個人消費は、ガソリン価格の低下によって自動車の販売台数が大幅に伸びていることなどを背景に、増加している。中でも小型トラック(SUV、ミニバン、ピックアップトラック等)の増加が著しく、15年8月以降4か月連続で年率1,000万台を超えている(第2-2-5図)。アメリカの車の平均走行年数は金融危機以降特に増加していることから、潜在的な買い替え需要が拡大していると言われている6。なお、自動車ローンの残高は、15年4~6月期に前年同期比11.2%増となり、はじめて1兆ドルの大台を超えたが、90日以上の滞納はおおむね3%台で推移しており、不良債権が増加している状況とはなっていない7

第2-2-5図 自動車販売台数:小型トラックを中心に堅調
第2-2-5図 自動車販売台数 (備考)アメリカ商務省、ブルームバーグより作成。

金融危機の要因となった住宅市場は回復が遅れていたが、ネガティブ・エクイティ物件(住宅の評価額がローン残高を下回っている物件)の調整が進んだことから、持ち直している。住宅着工件数は14年後半から年率100万戸の大台を回復してきており、15年1~3月期は寒波・大雪の影響で減少したものの、4~6月期は同114.4万戸と前期の反動もあって持ち直した。アメリカでは、雇用・所得環境が改善する中、若年層の独立等により、25~34歳を中心に世帯形成数が14年半ば以降増加傾向にあり、住宅着工件数が増加する余地は大きくなっている(第2-2-6図)。住宅価格は12年半ばを底として15年11月現在前年比5%程度で緩やかに上昇しており、05~06年のような急激な価格上昇にはなっていない(第2-2-7図)。

第2-2-6図 住宅着工件数と世帯形成数:住宅着工は緩やかに増加
第2-2-6図 住宅着工件数と世帯形成数 (備考)アメリカ商務省より作成。世帯形成数と住宅着工件数はいずれも3MA。
第2-2-7図 住宅価格の動向:住宅価格は緩やかに上昇
第2-2-7図 住宅価格の動向 (備考)スタンダード・アンド・プアーズより作成。

(2)雇用と物価-FRBの二大責務の達成状況

次に、FRBの二大責務である雇用の最大化と物価の安定について確認する。

イエレンFRB議長が政策判断の際に重視すると言われる9つの雇用関連指標(いわゆる「イエレン・ダッシュボード」)をみると、非農業部門の雇用者数、自発的退職率、解雇率の3つについては、世界金融危機前の水準を回復している。労働参加率のように、人口要因もあって危機当時からの改善を期待しにくい指標があるものの、他の指標もおおむね改善の方向にある(第2-2-8表)。

15年8月、9月と2か月連続で、雇用の安定的な回復の目安とされる前月差20万人増を下回った(第2-2-9図)。業種別の内訳をみると、鉱業や製造業が減少しており、原油価格下落やドル高が影響しているとみられる。一方、製造業の中でも自動車は増加しており、好調さがうかがえる。

10月、11月は20万人増を回復したものの、労働参加率が15年11月現在62.5%と史上最低水準で推移する中、雇用者数が毎月20万人以上増加し続けるのは難しくなってきているとの指摘もある8。労働力人口と雇用者数を景気の谷から並べてみると、今回の回復局面では前回に比べて、雇用者数は堅調に増加しているものの、労働力人口は伸び悩んでいることが示される(第2-2-10図)。

第2-2-8表 イエレン・ダッシュボード
第2-2-8表 イエレン・ダッシュボード (1) 非農業部門雇用者数増減 07年10~12月期 9.9万人 14年7~9月期 23.7万人 15年7~9月期 17.1万人 (2)失業率 07年10~12月期 4.8% 14年7~9月期 6.1% 15年7~9月期 5.2% (3)労働参加率 07年10~12月期 65.9% 14年7~9月期 62.8% 15年7~9月期 62.5% (4)長期失業者の割合 07年10~12月期 18.0% 14年7~9月期 32.0% 15年7~9月期 27.1% (5)広義の失業率 07年10~12月期 8.5% 14年7~9月期 12.0% 15年7~9月期 10.2% (6)求人率 07年10~12月期 3.0% 14年7~9月期 3.3% 15年7~9月期 5.6% (7)自発的退職率 07年10~12月期 2.0% 14年7~9月期 1.9% 15年7~9月期 2.9% (8)解雇率 07年10~12月期 1.4% 14年7~9月期 1.2% 15年7~9月期 1.8% (9)入職率 07年10~12月期 3.7% 14年7~9月期 3.5% 15年7~9月期 5.4% (備考)1.アメリカ労働省より作成。 2.(4)~(9)は、以下の式で定義されている。 (4)27週以上の失業者÷失業者 (5)(失業者+求職意欲喪失者等+経済的理由によるパートタイム労働者)÷(労働力人口+求職意欲喪失者等) (6)求人数÷(雇用者数+求人数)、(7)自発的離職者÷雇用者数、(8)解雇者数÷雇用者数、(9)入職者数÷雇用者数 3.前回の景気の山が2007年12月(全米経済研究所)であることから、当該期間を含む07年10~12月 を目安水準とした。 4.数値は3か月平均。
第2-2-9図 雇用者数の増加と労働参加率:労働参加率は低下傾向
第2-2-9図 雇用者数の増加と労働参加率 (備考)アメリカ労働省より作成。
第2-2-10図 労働力人口と雇用者数:労働力人口は伸び悩み
第2-2-10図 労働人口と雇用者数 (備考)(1)1.全米経済研究所及びアメリカ労働省より作成。 2.前回の景気循環サイクルの開始時期は01年11月。 (2)1.全米経済研究所及びアメリカ労働省より作成。 2.今回の景気循環サイクルの開始時期は09年6月。

以上のように雇用情勢は量的な面では改善傾向にある。一方、質的な面での改善状況を点検するために賃金の動きをみると、世界金融危機後の賃金上昇率はおおむね横ばいで推移してきたほか、平均時給よりも半年程度先行する雇用コスト指数についても、14年1~3月期以降基調としては上向きとなっているものの、15年4~6月期、7~9月期ともに前年比2.0%にとどまった(第2-2-11図)。また、賃金を業種別にみると、賃金水準の高い業種と低い業種で賃金の伸びが平均を上回っているのに対し、中間の業種では伸び悩んでいる(第2-2-12図)。この背景には、専門サービスは雇用のひっ迫感に伴って賃金上昇率が高まっていること、小売やレジャー・接客では最低賃金引上げの動きが広がっていることなどがあると考えられる。

第2-2-11図 賃金動向:雇用コスト指数は基調としては上向き
第2-2-11図 賃金動向 (備考)アメリカ労働省より作成。
第2-2-12図 業種別の賃金動向:水準が中間の業種の時給が伸び悩み
第2-2-12図 業種別の賃金動向 (備考)1.アメリカ労働省より作成。 2.時給は民間部門で、14及び15年の8~10月期の平均値を使用。 3.円の面積は、民間業種別の構成比を指す。15年10月時の数値を基に、政府部門は除外して算出。

賃金の上昇率が伸び悩む中、物価上昇率は原油価格下落の影響もあって、15年10月には総合で前年同月比0.2%、コアは同1.3%と、FRBの目標である2%を下回って推移している(第2-2-13図、第2-2-14図)。FRBは16年の物価見通し(15年9月時点)を1.5~1.8%、17年の見通しを1.8~2.0%としており、目標である2.0%を達成するには時間を要するとみられる。物価の上昇ペースが緩やかであることが見込まれているため、利上げが開始されたとしても、その後の利上げペースは緩やかなものになると予想される。FRBの政策金利の見通し(15年9月時点)では、16年末の中央値が1.375%、17年末が2.625%となっている。15年12月から17年末までに会合は18回開かれる予定となっており、総計2.5%の利上げを見込むと、2回に1回のペースで25ベーシスポイントずつ引き上げることになるが、これは過去の利上げペースと比較しても緩やかなものである。このようなシナリオに対し、失業率が既にFRBの長期見通しに沿った水準まで下落していることから、賃金の上昇ペースは加速し始めるとの見方も一部にある。この場合、利上げペースはメインシナリオよりも速いものになると見込まれる。

第2-2-13図 PCEデフレータ:コア物価上昇率はおおむね横ばい
第2-2-13図 PCEデフレータ (備考)アメリカ商務省より作成。
第2-2-14図 PCE総合と原油価格:原油価格が下押し要因に
第2-2-14図 PCE総合と原油価格 (備考)1.アメリカ商務省、ブルームバーグより作成。 2.FRB目標値は前年比。WTI価格は15年10月までの値(月中平均値)。

3.製造業を中心に弱めの動きもみられる企業部門

企業部門をみると、原油価格下落やドル高の影響を受けて製造業には自動車や航空機関連を除いてやや弱めの動きがみられる一方、非製造業はおおむね堅調に推移している(第2-2-15図、後掲第2-2-25図)。

第2-2-15図 鉱工業生産:自動車は全体を上回るテンポで増加
第2-2-15図 鉱工業生産 (備考)FRBより作成。

(1)原油価格下落等の影響

原油価格下落の影響を確認するため、リグ(原油の採掘を行うための掘削設備)の稼働数をみると、原油価格の下落にラグを伴い15年に入ってから低下し始め、5月以降おおむね横ばいで推移している(第2-2-16図)。このような状況を受け、鉱業関連の設備投資は14年10~12月期以降、マイナスが続いている(第2-2-17図)。一方、設備投資全体としては、鉱業以外の投資が堅調に推移しているため、持ち直している。

また、企業の収益動向をみると、全体と比較してエネルギーや資源等のセクターで減益が目立っており、中でも金属・鉱業が大幅に悪化している(第2-2-18図)。鉱工業生産指数をみても、一次金属は14年10~12月期から15年1~3月期にかけて前期比5%減少し、以降低水準で推移している。

第2-2-16図 原油価格とリグ数:原油価格の下落を受けリグ数は減少
第2-2-16図 原油価格とリグ数 (備考)ブルームバーグより作成。
第2-2-17図 設備投資動向:鉱業以外が鉱業関係の下押し圧力を上回る
第2-2-17図 設備投資動向 (備考)1.アメリカ商務省より作成。 2.鉱業関連の民間設備投資には構築物投資と機械機器投資を含む。
第2-2-18図 S&P500におけるエネルギー、資源等セクターの収益動向:金属・鉱業は悪化
第2-2-18図 S&P500におけるエネルギー、資源等セクターの収益動向 (備考)1.ブルームバーグより作成。 2.業種分類は、S&P500種のサブ・インデックスによる。また、各四半期毎での直近12か月の1株当り利益(EPS)を基に算出。

(2)ドル高の影響

14年半ばから15年初めには大幅なドル高が進行した。国際機関では、ドル高の継続によって15年~16年にかけてアメリカの実質経済成長率が1%ポイント程度押し下げられると試算している(第2-2-19表)。

輸出の動向を確認すると、ドル高が進んだ14年半ば以降、ラグを伴って輸出が伸び悩む傾向がみられる(第2-2-20図)。また、ドル高は企業収益の下押し要因となる傾向がみられる(第2-2-21図)。

第2-2-19表 ドル高の影響(国際機関の試算)
第2-2-19表 ドル高の影響(国際機関の試算) IMF 各年の経済成長率への下押し寄与度 15年 ▲0.7%pt 16年 ▲0.8%pt 試算の前提 14年8月から15年2月にかけてのドル高が継続する前提 OECD 各年の経済成長率への下押し寄与度 15~16年の2年で▲1.3%pt 試算の前提 名目実効為替レート(10年=100) 15年:113.336 16年:113.156 世界銀行 各年の経済成長率への下押し寄与度 15年 ▲0.8%pt 16年 - 試算の前提 14年中頃から15年3月にかけてのドル高(15%増価)が継続する前提 (備考)IMF(2015)、OECD(2015)、世界銀行(2015)より作成。
第2-2-20図 実質実効為替レートと輸出動向:ドル高が輸出に影響
第2-2-20図 実質実効為替レートと輸出動向 (備考)アメリカ商務省、BISより作成。
第2-2-21図 実質実効為替レートと企業収益:ドル高は収益に重石
第2-2-21図 実質実効為替レートと企業収益 (備考)1.アメリカ商務省、BISより作成。 2.企業収益は、税引き前利益/名目GDP。

アメリカの輸出は5割弱がアメリカ大陸(NAFTAや中南米)向けとなっている(第2-2-22図(1))。カナダやブラジルでは資源価格の下落の影響で経済が減速しており、これらの国向けの輸出も減少している。一方、前述の中国経済の減速の影響については、アメリカの輸出依存度は世界平均より著しく低く、中国向け輸出比率も限られていることから、アメリカ経済への波及効果は限定的であると考えられる(第2-2-22図(2))。

第2-2-22図 アメリカの輸出先シェアと輸出依存度(14年)
第2-2-22図 アメリカの輸出先シェアと輸出依存度(14年) (備考)(1)1.アメリカ商務省より作成。 2.中南米はメキシコを除く。 (2)1.アメリカ商務省より作成。 2.輸出依存度の世界平均は世界銀行より作成。

(3)設備投資の動向

アメリカ経済が世界金融危機後6年以上にわたって回復を続ける中、企業が史上最高水準の収益レベルを記録しているにもかかわらず、設備投資の伸びが緩やかなものにとどまっており、中長期の成長実現の観点から問題であるとの指摘がある。

設備投資と企業収益の関係をみると、企業収益の回復にラグを伴って設備投資が増加する傾向がみられる(第2-2-23図)。また、設備投資を分野別にみると、構築物投資が世界金融危機前の水準を回復していない一方で、知的財産投資(研究開発投資、ソフトウェア等)の伸びが高くなっており、設備投資が有形資産への投資から無形資産への投資に移行していることが分かる(第2-2-24図)。知的財産への投資は世界金融危機後にやや鈍化したものの、長期的にみて安定的な増加傾向にある。知的財産投資へのシフトによって、設備投資が景気の影響を受けにくくなることも考えられる。さらに、こうした投資への傾斜が後述のSharing Economyのような全く新しいビジネスモデルを生み出すことを可能にしている面もある。設備投資の動向についてはこのような変化にも注意しながら分析を行う必要がある。

第2-2-23図 設備投資と企業収益の推移:設備投資は企業収益に遅れて増加
第2-2-23図 設備投資と企業収益の推移 (備考)1. アメリカ商務省より作成。 2. 企業収益は、税引き前利益。
第2-2-24図 設備投資の内訳:知的財産投資の伸びが高い
第2-2-24図 設備投資の内訳 (備考)アメリカ商務省より作成。

(4)見通し

アメリカの経済状況にかんがみれば、景気の過熱を抑え景気回復を持続させるために近い将来に利上げが実施される可能性が高いが、その際、どういうパスで景気に影響を与えるのだろうか。90年代以降の各利上げ局面とその後の景気の動向をみるためにISM指数と景気循環日付を確認すると、利上げ開始直後から1年弱の間にISM指数は低下に転じていることが分かる。ただし、毎回そのまま景気後退局面入りしているとは限らず、例えば94~95年の利上げのケースではISM指数は再び上昇に転じている(第2-2-25図)。

利上げが内需に与える重要な経路の一つはモーゲージ金利であり、同金利の上昇は住宅市場にマイナスの影響を及ぼすと考えられる。前回(04~06年)の利上げ局面では、モーゲージ金利の上昇は緩やかなものにとどまったものの、住宅市場が既に加熱していたことから、FFレートが上昇に転じて2年を経てから住宅着工件数は急速に減少していった(第2-2-26図)。今回は前回の利上げ局面と比較して住宅市場は過熱しておらず、前述のとおり利上げペースも緩やかなものになれば、住宅市場へのマイナスの影響は限定的なものとなると考えられる。

アメリカ経済は個人消費の増加を背景に回復が続くと見込まれるものの、利上げが景気に与える影響については注意が必要である。後述する新興国への影響を含め、FRBは市場との適切な対話を行うことが求められる。

第2-2-25図 ISM指数の推移:利上げ開始から1年弱の間にISM指数は低下に転じる
第2-2-25図 ISM指数の推移 (備考)1.全米供給者協会(ISM)より作成。50が景気拡大と景気後退の分岐点となる。 2.シャドーはアメリカの景気後退局面及び過去の利上げ局面を示す。 3.ISM非製造業景況指数は97年7月より公表開始。
第2-2-26図 FFレートと住宅ローン金利と住宅着工件数:前回の局面ではFFレートが上昇に転じて2年を経て住宅着工件数が減少
第2-2-26図 FFレートと住宅ローン金利と住宅着工件数 (備考)アメリカ商務省、FRBより作成。

また、16年11月には大統領選挙が予定されている。候補者選びは既に本格化しており、中間層の底上げ、所得格差への対応、対外経済関係等が経済面での主要論点になりつつある。経済政策の動向にも注視が必要である。

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