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第3節 ヨーロッパ経済

1.持ち直しの兆しがみられるヨーロッパ経済

ヨーロッパ経済は、ユーロ圏の実質経済成長率が2013年4~6月期に7四半期ぶりにプラスに転じた後、7~9月期もプラス成長が続き、英国も13年1~3月期以降3四半期連続でプラス成長となるなど、持ち直しの兆しがみられる。しかし、7月以降、生産や輸出の動きに力強さがみられないことから、今後、景気が着実に持ち直しに向かうか注目される。

本節では、欧州主要国の景気情勢とその回復の持続性について分析するとともに、南欧諸国等の財政再建の進捗状況を概観する。

(1)ユーロ圏

(i)ユーロ圏の経済概況

ユーロ圏では、11年10~12月期以降、南欧諸国等における住宅バブル崩壊の後遺症や財政緊縮の影響等により景気低迷が続いていたが、13年4~6月期に実質経済成長率が前期比年率1.1%増と7四半期ぶりにプラスに転じ、7~9月期も同0.4%増と引き続きプラスとなるなど、明るい動きがみられる(第1-3-1図)。落ち込みの厳しかった南欧諸国も、ポルトガルが2四半期連続プラス成長となり、スペインも10四半期ぶりのプラス成長となるなど下げ止まっている。ただし、フランスは7~9月期に再びマイナスに転じ、イタリアも引き続きマイナスとなるなど、一部の国では依然弱さが残っている。

第1-3-1図 ユーロ圏主要国の実質GDP:ユーロ圏は4~6月期に7四半期ぶりのプラス成長

GDPの需要項目別内訳をみると、13年4~6月期はユーロ圏の個人消費、固定投資の前期比寄与はともにわずかながらプラスに転じているが、国別の動きをみるとイタリア及びスペインではいずれも引き続き減少しており、ドイツがユーロ圏全体をけん引する形になっている(第1-3-2図、第1-3-3図)。ただし、ドイツの固定投資のうち、建設投資については寒波により低調だった1~3月期の反動も含まれる点に留意が必要である。

第1-3-2図 ユーロ圏主要国の個人消費:南欧諸国は減少
第1-3-3図 ユーロ圏主要国の固定投資:ドイツがけん引

4~6月期GDPの伸びに大きく寄与した輸出(財・サービス)については、ドイツに加え、スペインやポルトガルもプラスに転じているが、さらに最近の動きについて貿易統計の財輸出をみると、13年半ば以降は各国ともやや弱い動きがみられる(第1-3-4図)。

第1-3-4図 ユーロ圏主要国の輸出:13年半ば以降やや弱い動き

企業マインドはPMIでみても13年1月以降改善しており7月以降は50を上回って推移しているものの、輸出の不振を受け生産は7月以降やや弱い動きがみられており、ユーロ圏経済の回復の持続性が懸念される(第1-3-5図、第1-3-6図)。

第1-3-5図 ユーロ圏主要国の企業マインド:改善傾向
第1-3-6図 ユーロ圏主要国の生産:やや弱い動き

以下では、ユーロ圏経済が着実に持ち直しへ向かうかどうかを見極めるため、消費、投資、輸出のそれぞれの回復の質について評価する。

(ii)回復の質の評価
(ア)一部で改善がみられる輸出競争力

ユーロ圏の輸出は、世界金融危機後の大幅な落ち込みから順調に回復しており、特にスペインやポルトガルの輸出が大幅に回復している(前掲第1-3-4図)。域内貿易においては各国間の単位労働コストの格差が価格競争力に反映されることから、ユーロ圏各国の単位労働コストをみると、特にスペイン、ポルトガルで低下しており、これが両国の輸出回復の要因の一つとなっていると考えられる(第1-3-7図)。他方、輸出にあまり力強さのみられないフランスやイタリアでは単位労働コストが上昇し続けている。

また、圏外貿易における価格競争力を示す実質実効為替レートをみると、スペイン、ポルトガル、ギリシャの実質実効為替レートは過去数年で大幅に低下しているのに対し、フランスとイタリアはあまり低下していないことが分かる(第1-3-8図)。

こうしたことから、ユーロ圏の輸出の持続的な回復にはフランスやイタリアにおける単位労働コストの引下げ努力が重要となってくると考えられる。

第1-3-7図 単位労働コスト:スペイン、ポルトガルは低下
第1-3-8図 実質実効為替レート:スペイン、ポルトガルは競争力向上

ただし、輸出は貿易相手国の経済動向に左右される部分も大きいため、ユーロ圏の輸出の先行きを考える際にはこれらの地域の景気動向にも留意する必要がある。ユーロ圏の仕向地別輸出をみると、これまで増加していたアメリカに加えて、その他アジア、南米向けについても、13年半ばにアメリカの金融緩和縮小観測による影響で大きく落ち込んだものの、最近では持ち直してきている(第1-3-9図)。輸出の先行き懸念要因となっていたユーロ高も11月のECBの利下げによってややユーロ安に戻したことから、圏外輸出は徐々に力強さを増すことが期待される。

第1-3-9図 ユーロ圏の仕向地別輸出:落ち込んでいた米国向け等が持ち直し
(イ)雇用・所得環境悪化が消費を下押し

南欧諸国等は、雇用削減や賃金引下げによって競争力向上を図ったために雇用・所得環境が悪化しており、これが消費の下押し圧力となっている。ユーロ圏主要国等の雇用者報酬を世界金融危機前の水準と比較すると、スペイン、ポルトガルで大幅に減少している(第1-3-10図)。

第1-3-10図 ユーロ圏主要国等の実質雇用者報酬:南欧諸国で大幅減少

雇用情勢はドイツでは改善が続き、ポルトガル及びアイルランドでは失業率はピークを打ったものの、最近ではフランスやイタリアの失業率が上昇したことから、13年8月及び9月のユーロ圏全体の失業率は12.2%と過去最高となった(第1-3-11図)。特に25歳以下の若年層の失業率はいずれの国も全体の2倍程度となっており、中でも南欧諸国はギリシャ61%、スペイン56.5%、イタリア40.4%と非常に高い水準になっている(第1-3-12図)。ただし、スペインやポルトガルでは家計債務残高が減少し、13年に入り貯蓄率が増加に転じるなど、家計のバランスシート調整は緩やかに進んでいる(第1-3-13図、第1-3-14図)。

第1-3-11図 失業率(全体):ユーロ圏は過去最高水準
第1-3-12図 失業率(25歳以下):特に南欧諸国で高い
第1-3-13図 家計債務残高:一部の国では緩やかに減少
第1-3-14図 家計貯蓄率:一部の国では増加

消費の持続的な回復には雇用・所得環境の改善が不可欠である。特に深刻な状況にある若年失業者問題についてはこれまでもEUレベルで様々な対策が打ち出されてきたが、13年6月のEU首脳会議でも、14年1月から若年層の失業率が25%を超えている国における教育・労働・職業訓練のいずれも受けていない若者(NEETs)への集中的な取組「若年雇用イニシアチブ」が予算80億ユーロ(14~20年)で実施されることが決定された(第1-3-15表)。また、ドイツは二国間協定により毎年5,000人のスペインの若者を職業訓練スキームを通じて受け入れること等で13年5月に合意しており、こうした取組の効果が今後発現することが期待される。

第1-3-15表 欧州の若年失業対策
(ウ)弱い投資の回復力

(ア)(イ)でみたように、南欧諸国等はこれまで賃金抑制等により競争力向上を図ってきたが、景気の持続的な回復のためには賃金上昇率を上回る生産性の上昇によって競争力向上を実現する必要があり、そのためには投資の回復が不可欠である。

しかし、設備稼働率は上昇傾向にあるが依然低水準であり、設備投資計画も増加が見込まれているのはドイツとスペインのみであることから、ユーロ圏全体としての投資の回復力はそれほど強くないと考えられる(第1-3-16図、第1-3-17図)。

第1-3-16図 設備稼働率:依然低水準
第1-3-17図 設備投資計画:スペイン、ドイツのみ増加見込み

南欧諸国では住宅バブルの崩壊と景気後退の長期化により住宅価格の低下が続いているため、銀行の不良債権処理努力にもかかわらず不良債権比率は上昇しており、引き続きバランスシート調整が必要な状況とみられる(第1-3-18図、第1-3-19図)。

第1-3-18図 不良債権比率:引き続き上昇
第1-3-19図 住宅価格:低下が続く

金融環境について資金需給両面からみると、貸出金利(実効ベース)は低下傾向にある(第1-3-20図)。これは、12年夏以降、常設の支援機関であるESM(欧州安定メカニズム)の発足やECBによる新たな国債買取策(OMT:Outright Monetary Transactions)の発表等により金融市場の不安が和らいだことが背景にある。しかし、一部の南欧諸国においては貸出金利が高止まりしている。企業債務も比較

的高水準となっていることから、こうした状況がこれらの国での企業活動のボトルネックとなっていると考えられる。(第1-3-21図)。

第1-3-20図 非金融部門向け貸出金利:低下傾向にある
第1-3-21図 企業債務残高:比較的高水準

このため、銀行の貸出条件は緩和しつつあるものの、企業の借入需要はドイツでさえ依然として弱い状況であり、投資の回復にはまだ時間がかかるとみられる(第1-3-22図)。

第1-3-22図 ユーロ圏銀行の貸出条件及び企業の借入需要:貸出条件は緩和しているが、需要が依然弱い
(iii)金融政策

12年9月に欧州中央銀行(ECB)が新たな国債買取策(OMT)を発表して以降、市場の緊張はおおむね和らいでおり、13年における南欧諸国等の国債利回り(10年物)は12年夏に比べ大きく低下している(第1-3-23図)。

第1-3-23図 南欧諸国等の国債利回り:12年9月以降低下

しかし、13年5月にアメリカの金融緩和縮小観測が生じて以来、主要国の長期金利は上昇傾向に転じている(前掲第1-1-6図(1))。加えて、3年物流動性供給オペ(LTRO:Long Term Refinancing Operations)の早期返済に伴い、ECBのバランスシートは縮小し流動性が引き締まる結果となっている(第1-3-24図)。

このような金利の高まりは景気の回復の兆しがみえ始めたばかりのユーロ圏経済にとって好ましくないことから、必要な限り金融政策スタンスを緩和的に維持するとして、ECBは13年7月の政策理事会において、新たにフォワード・ガイダンス(将来の政策指針)の導入を決定し、長期間にわたり低金利を維持する方針60別ウィンドウで開きます を示した。また、10月の消費者物価上昇率が大幅に低下したことを受け、11月の政策理事会では、政策金利を25bps引き下げて過去最低水準の0.25%とし、これに伴って限界貸付金利を1.00%から0.75%に引き下げる一方、中銀預金金利は0.00%に据え置いた(第1-3-25図)。さらに、欧州政府債務危機の深刻化に伴って実施してきた固定金利での無制限流動性供給に関し、当該措置を1年延長することを決定した61別ウィンドウで開きます

こうしたECBの決定やアメリカの金融緩和縮小観測が後退したことを受け、10月以降、欧州各国の長期金利は再び低下してきている。

第1-3-24図 ECBのバランスシート(資産側):LTROの早期返済により縮小傾向
第1-3-25図 政策金利:フォワード・ガイダンス導入や金利引下げ等、緩和スタンス維持

なお、10月の消費者物価上昇率が0.7%と大幅に低下したことを受け、一部ではデフレを懸念する見方もあるが、これまでの物価上昇率低下は大部分がエネルギー価格の上昇率の低下によるものであり、ECBもユーロ圏がデフレに陥っているとはみていない。

(2)英国

(i)経済概況

英国では、実質経済成長率が12年7~9月期にロンドン・オリンピックの経済効果から前期比年率2.5%増と一時的にプラスとなったが、12年全体としては欧州政府債務危機や家計のバランスシート調整等の影響から前年比0.1%増にとどまった。しかし、13年に入ってからは、3四半期連続でプラス成長と景気は持ち直している(第1-3-26図)。

第1-3-26図 英国の実質GDP:景気は持ち直している

需要項目別にみると、個人消費は13年4~6月期にかけて7四半期連続で増加している。月次でも小売数量が増加傾向にあり、自動車販売も継続的に前年比プラスで推移していることが確認できる。個人消費が最近の英国の成長を支えている姿がみてとれる。

固定投資については、13年4~6月期に2四半期連続で増加している。このうち、設備投資は弱いものの、後述の住宅取得促進策の効果等を背景に民間住宅投資が増加しており、固定投資は全体として堅調に推移している。

外需については、13年4~6月期は、輸出が増加したものの輸入も増加しており、純輸出の寄与はほぼゼロとなった。また、最近の動きについて貿易統計で財輸出の動向をみても、7~9月期は前期比マイナスとなっており、GDPの押上げ要因とはなっていないとみられる。

(ii)回復の質の評価
(ア)個人消費を支える要因

好調な個人消費を支えている要因として、住宅価格の上昇による資産効果や家計のバランスシート調整の進展が挙げられる。

まず、住宅価格については、12年初めから上昇を続けており一部の統計では既に世界金融危機以前のピークを超えている。その要因としては、12年7月から開始したイングランド銀行(BOE)及び財務省による家計・非金融企業向け貸出促進策(FLS:Funding for Lending Scheme)、13年4月から開始した政府の住宅取得促進策(Help to buy)62別ウィンドウで開きます、住宅金融組合の競争を背景とした住宅ローンの実質金利の低さ等が考えられる。こうした住宅価格の上昇が資産効果を通じて個人消費を刺激していると考えられる(第1-3-27図)。

次に、世界金融危機後、重荷となっていた家計のバランスシートをみると、債務残高の対可処分所得比は徐々に低下してきており、バランスシート調整は進展していることが確認できる。また、貯蓄率も13年に入り、徐々に低下しており、こうした債務返済圧力の軽減により消費者マインドの強さも合わせて、個人消費を下支えしていると考えられる(第1-3-28図)。ただし、家計の債務残高は、対可処分所得比でいまだ140%を超えており、110%程度のアメリカや100%を下回っているドイツ、フランス等の諸外国の水準に比べると、依然高い水準にある。したがって、家計のバランスシート調整が終了したとみることは難しく、依然、貯蓄率の低下に対して抑制的な要因となっており、最近の貯蓄率の低下は、景気が持ち直しに転じた13年以降、景気回復への期待から家計が予備的な貯蓄を減らしたことを反映していると考えられる。

第1-3-27図 英国の住宅価格とローン金利:住宅価格指数は金融危機前の水準まで上昇
第1-3-28図 英国の家計の財政状況:バランスシート調整が進展

所得環境について、可処分所得の動きをSNAベースの実質可処分所得でみると、これまでのところ減少傾向で推移している。13年4~6月期は4四半期ぶりに前期比プラスとなったが、これは、所得税の最高税率が引き下げられた13年4月に一時金の支払いが集中したことによる一時的なものと考えられる。月次統計でみると、労働者の平均賃金が前年比で上昇しているものの、消費者物価上昇率がそれを上回って上昇しているため、実質賃金上昇率はマイナスとなっていることが分かる(第1-3-29図)。

以上をまとめると、英国の景気の持ち直しは、個人消費に支えられている部分が大きい。これまでの個人消費の回復は、住宅価格の上昇による資産効果と経済状況の改善に伴う消費者マインドの改善からくる予備的動機による貯蓄の取り崩しによって支えられている。実質所得が増加しない中、こうした個人消費のモメンタムの持続には、労働市場の改善による所得の上昇が重要である。失業率は7%台後半から低下しているものの、そのペースは緩やかであり、労働市場が引き締まり、賃金上昇によって家計の所得環境が改善するには、時間がかかると考えられる(第1-3-30図)。

第1-3-29図 英国の実質賃金:物価上昇が重荷
第1-3-30図 英国の失業率:このところ低下している
(イ)投資の先行き

設備投資は、設備稼働率が低下していることを背景に13年4~6月期に前期比▲2.7%となるなど、弱い動きとなっている(第1-3-31図)。こうした中、政府は、13年度予算において、研究開発費の控除率引上げやエネルギー分野等の重点分野の基盤整備への財政支援等の投資促進策を進めており、政策効果による下支えが期待される。ただし、今後の設備投資の回復は、個人消費や主要な輸出先であるEUや米国の景気回復の持続性に左右されると考えられる。輸出受注、新規受注ともに改善傾向にあり、今後、設備投資が持ち直していくことが期待される(第1-3-32図)。

第1-3-31図 英国の設備稼働率と企業投資:低水準で推移
第1-3-32図 英国のPMI:新規受注・輸出受注ともに改善傾向
コラム1-1:英国の財政再建と経済成長の両立の取組

英国政府は、11年4月に財政責任憲章において、5年間の見通しの期間内で公的部門の構造的経常的財政収支(投資的経費を除く)を均衡化する「主目標」と15年度に公的部門の純債務残高(GDP比)を減少させる「補完的目標」を設定した。

そのため、10年から5年間(15年度まで)で、総額約1,300億ポンドの財政再建計画を策定し、計画3年目にあたる12年度末までに約740億ポンド(計画の60%程度)の財政調整を進めてきたところである。この財政再建計画は、歳出面に重点を置いており、10年以降社会保障の削減や公務員の昇給制限等の削減策により公的部門の総支出は抑制されている。一方、歳入面からも付加価値税率の引上げを行う等の取組を行っており、総収入は緩やかに増加している(図1)。

欧州委員会のデータで構造的財政収支の改善幅をGDP比でみると、英国は09年▲9.2%から12年▲6.5%と4年間で2.7%ポイント改善しており、同期間のEU27か国平均の2.5%ポイント改善より若干早いペースで財政再建を進めていることが分かる。しかし、予算責任庁の見通し(13年3月時点)では、構造的財政収支(投資的経費を除く)の均衡化は16年度、純債務残高(GDP比)が減少に転じるのは17年度にずれ込む見込みである(図2)。

財政再建と並行して、マクロ経済の安定、税制改革、規制緩和、インフラ整備の4つの柱から成る成長戦略を実施しているものの、13年2月及び4月には中期的な成長見通しの弱さ等を理由に民間格付け会社が英国債の格付けをトリプルAから一段階引き下げるなど、財政再建と経済成長の両立は容易ではない。

図1 公的部門の収支、図2 財政ターゲット
(iii)金融政策

BOEは、13年8月に「金融政策のトレードオフとフォワード・ガイダンス(Monetary policy trade-offs and forward guidance)」と題する文書を発表した。これは、13年3月にオズボーン財務相からの権限付与(Remit)において、他国の例を踏まえつつ、インフレ目標に対する中間目標的なしきい値を設けることの評価等の見解を示した上で、フォワード・ガイダンス63別ウィンドウで開きますの導入の適否を検討、報告するという求めに対して回答するものであった。

BOEは同報告で、無期限(Open-ended)、期限付き(Time-contingent)、条件付き(State-contingent)の3タイプについて検討した上で、条件付きが最も適切であると判断し64別ウィンドウで開きます、しきい値として失業率を採用した。失業率をしきい値に採用した理由として、失業率が経済の余剰量(the amount of slack)に直接関係していることや他の指標よりも安定していて広く知られていることなどを挙げている。また、失業率がしきい値に達していない場合でも金融政策を変更できる条件65別ウィンドウで開きますを合わせて設定した。

また、同報告書では、フォワード・ガイダンスの導入のねらいとして、主に次の3点を挙げている。第一に、物価上昇率を目標水準へ戻す期間(horizon)と成長及び雇用が回復する速度の間のトレードオフの関係について、金融政策委員会(MPC)の見方をより明確すること。第二に、将来の金融政策について市場関係者等の予想における不確実性を減らすこと。これは、特に回復が軌道に乗り始めた際に、市場の金利が早期に上がるリスクを避ける助けとなる。第三に、物価や金融システムの安定を損なわない限り、潜在成長の達成に向けて取り組むという、金融政策にこれまでよりも大きな対象範囲(scope)を与えることである。

一方で、BOEのフォワード・ガイダンスついては、物価安定のための解除条項を設定したことによりしきい値として失業率の役割が曖昧になったとの指摘や経済の余剰の解消の点から失業率7.0%がしきい値としての適切かどうかを疑問視する指摘等もある。実際、フォワード・ガイダンスを設定した後、英国の失業率は、13年6~8月の7.7%から7~9月には7.6%に低下し(前掲第1-3-30図)、BOEの8月時点の見通しよりも早いペースで低下しており、早期の利上げを見込む市場の動きがみられた。

BOEは、金融危機以後、ゼロ近傍の低金利政策、資産買取ファシリティ(APF:Asset Purchase Facility)による国債等の購入、FLS(Funding for Lending Scheme)による資金供給といった非伝統的政策を主なツールとして積極的な金融緩和を行ってきた。これまで、資産購入規模については、09年1月にAPFを導入後、12年7月に枠を拡張し、9月に償還予定の19億ポンド分の保有資産の再投資を行うなど、バランスシートの拡大を維持している(第1-3-33図)。

第1-3-33図 BOEのバランスシート:緩和姿勢を維持

先行きについては、13年11月のインフレーションレポートにおいて、経済状況の回復を受け、8月時点から経済成長の見通しを上方修正し、失業率の低下のペースについても前倒ししたものの、失業率が7.0%に達するのは最も早いシナリオでも14年10~12月期となっており66別ウィンドウで開きます、金融緩和は当面維持されるものと考えられる。ただし、不動産価格の上昇が続いていることに加え、物価上昇率が目標である2.0%を継続的に上回っており、こうした状況には留意する必要がある。

2.財政再建の現状と安全網整備の進展

12年までのユーロ圏各国の厳しい経済情勢を受けて欧州委員会等が財政再建ペースの緩和に柔軟な態度を示したことにより、ユーロ圏では13年は12年と比べてほとんどの国で財政緊縮による景気の下押し圧力が緩和している(第1-3-34図)。具体的には、スペイン、フランス等では2年、ポルトガル等は1年、財政赤字是正期限を延長することが認められた(第1-3-35表)。こうした動きもあり、これまで厳しい財政緊縮を余儀なくされてきた南欧諸国の13年の成長見通しが改善している(第1-3-36図)。

第1-3-34図 ユーロ圏主要国等の財政収支改善状況:緊縮ペースを緩和
第1-3-35表 欧州委員会の勧告(13年5月):財政赤字是正期限を延長
第1-3-36図 南欧諸国等の13年経済成長見通し:緊縮ペース緩和もあり改善

緊縮ペースが緩やかになったとはいえ、市場の信頼を維持するためには、引き続き着実に財政再建に取り組むことが不可欠である。13年5月に発効した2つの規制67別ウィンドウで開きます(いわゆるtwo-pack)で義務付けられたとおり、ユーロ圏加盟国は10月半ばに翌年の予算案を欧州委員会に提出した。これに対して11月半ばに公表された欧州委員会の審査結果では、安定成長協定で定められた義務に対する深刻な違反のために予算案の修正を求められた国はなかったものの、スペインやイタリア等の予算案については違反のリスクがあることから当局に必要な措置を採ることが勧告された。しかし、ユーロ圏全体としては、これまでの財政緊縮努力が実を結びつつあり、景気回復にも支えられて、14年には安定成長協定で定められたGDP比3%の財政赤字目標を達成できる見込みとした。このような財政健全化に向けた取組と並行して、銀行同盟等のEUレベルでの安全網の整備も徐々にではあるが進められている。以下ではそれぞれの進捗状況について確認する。

(1)南欧諸国等の財政再建の現状

(i)イタリア

イタリアでは、13年の財政赤字目標をGDP比▲2.9%としていたことから、5月にはマーストリヒト基準である財政赤字の名目GDP比▲3.0%を年内に達成見込みとして、09年から適用されていた過剰財政赤字是正手続68別ウィンドウで開きますの解除が欧州委員会より勧告されていた。しかし健全な財政運営に加え成長促進を進めているレッタ政権では、若年層の雇用対策の実施や7月の導入を予定していた付加価値税(VAT)の延期69別ウィンドウで開きます等により財政赤字が拡大した結果、9月にマーストリヒト基準である財政収支の名目GDP比▲3.0%を超える見込みがイタリア政府やIMFより示された。そのため10月に閣議決定された14年予算案では歳出削減や税制改革等により、14年の財政赤字目標を▲2.5%とし、引き続きマーストリヒト基準を順守することを目指している(第1-3-37図)。しかし、イタリア政府の債務残高はGDP比127%(12年)と安定成長協定で定められた基準(GDP比60%)を大きく上回り、ユーロ圏内でもギリシャに次ぐ高さとなっている(第1-3-38図)。

第1-3-37図 イタリアの財政状況:13年は▲3.0%を超える見込み
第1-3-38図 欧州各国の政府債務残高:イタリアはギリシャに次ぐ高さ

銀行部門では、長引く不況により主に企業部門の不良債権が増加している。住宅価格は、モンティ前政権が進めていた緊縮財政により主たる住宅への税である不動産税が12年より導入されたこともあり下落していたが、連立政権内での反対により13年8月に同税は撤廃され、今後の動向は不透明である(第1-3-39図)。

また、イタリアの国債市場の規模は、ドイツを超えて欧州最大である(第1-3-40図)。債務危機の際は国債の売り圧力を抑えようと国内の銀行部門が買い支えたことにより、短期的には国債価格の急落を防ぐことになったが、国内の保有比率が増えたことで銀行の財務状況に影響している。

第1-3-39図 イタリアの住宅価格と不良債権残高:不動産税導入により住宅価格は下落
第1-3-40図 欧州各国の国債市場規模:イタリアは欧州最大
(ii)スペイン

スペインの13年の財政赤字目標は、当初、GDP比▲4.5%とされていたが、13年5月の欧州委員会による勧告で▲6.5%に修正され、▲3.0%以下の達成時期も14年から16年に先送りされた(前掲第1-3-35表)。13年の新たな目標である▲6.5%は達成できる見込みである(第1-3-41図)。

第1-3-41図 スペインの財政状況:13年の目標は達成できる見込み

9月に閣議決定された14年予算案では14年の財政収支見込は▲5.8%と欧州委員会の勧告に沿った形となっている。12~13年の時限的な措置としていた個人所得税及び固定資産税の引上げ等を14年も継続するものの新たな増税の予定はなく、中小企業を対象にした利益再投資の税額控除等の景気刺激策を盛り込み、景気回復による財政目標達成を見込んでいる。実際、13年7~9月期の実質経済成長率は10四半期ぶりのプラスに転じ、14年の経済成長見通しも0.5%から0.7%に上方修正された。

12年6月にユーロ圏財務相会合(ユーログループ)に対し金融機関の資本増強のための財政支援を要請して以降、スペインの金融機関再編は同年7月に合意された覚書(MoU)に則して着実に実施されており、13年9月の第4回トロイカ審査でも「プログラムは順調に進んでおり、スペインの金融市場はより安定化した」と評価されている。

住宅価格の下落が続く中、9月の不良債権比率が過去最高の12.7%となるなど銀行部門の健全化は一進一退となっているものの、11月に公表されたスペイン中銀の分析によれば不良債権による損失を穴埋めするための十分な引当金が手元にあるとされており70別ウィンドウで開きます、予定どおり13年12月で支援プログラムを終了することが11月のユーログループで確認された(第1-3-42図)。

第1-3-42図 スペインの不良債権比率:健全化は一進一退
(iii)ギリシャ

7月に行われた第4回トロイカ審査では医療保健における歳出超過問題に対する改革の遅れが指摘され、ガス公社の民営化にも失敗するなど、改革の一部に遅れがみられたものの、その他についてはおおむね順調に進捗しており、融資も滞りなく供与された。今後は7月に成立した公務員削減を含む緊縮法案が着実に実施されることが求められている。

10月に公表された14年予算案では13年の財政収支赤字は▲2.4%と目標(▲4.1%)を上回り、14年も▲2.4%と目標(▲3.3%)を上回る見込みを示した(第1-3-43図)。併せて13年の成長見通しを▲4.5%から▲4.0%に上方修正し、14年は0.6%と7年ぶりのプラス成長を見込んでいる。

しかし、9月に開始された第5回トロイカ審査は、14年予算案の財政目標とのかい離幅に関するトロイカとギリシャ当局との認識の相違等から一時中断された。審査は11月5日に再開されたものの、両者が合意に至るかは不透明な状況となっており、追加(第3次)支援に関する議論の行方とともに注視する必要がある。

第1-3-43図 ギリシャの財政状況:目標を上回る改善
(iv)ポルトガル

これまで順調にプログラムを推進してきたが、7月に財務大臣が辞任したことから政局不安が高まり、ポルトガル政府は7月に予定されていた第8回トロイカ審査の延期を申請した。結局、7月24日に内閣改造を行うことで政局不安は決着したが、8月には憲法裁判所によって公務員解雇を可能とする法案に違憲判決が下されるなど財政再建の進捗状況に懸念が生じており、ポルトガル政府は14年の財政赤字目標を▲4.0%から▲4.5%に緩和することを求める方針を確認していた。

こうした状況の中、9~10月に行われた第8回及び第9回トロイカ審査の結果、景気に回復の兆候があることから、13年の財政赤字目標▲5.5%は達成可能とされ、14年の財政赤字目標の修正は認められなかった。4~6月期及び7~9月期の実質経済成長率はプラスとなったことから、13年の財政赤字目標は達成可能とみられている(第1-3-44図)。

14年予算案では、財政収支目標(GDP比▲4.0%)を達成するため、公務員給与削減や年金改革等の歳出削減と自動車税増税等によりGDP比2.3%の財政緊縮の実施を予定しているが、14年の経済成長見通しは0.6%から0.8%に上方修正している。こうした経済情勢の改善等を受けて、一部格付け会社は11月にポルトガルの格付け見通しを「ネガティブ」から「安定的」に変更した。

第1-3-44図 ポルトガルの財政状況:13年の目標は達成できる見込み

前述の政局不安を受けて国債利回りが一時8%を超えたが、11月下旬には5%台まで低下してきており、追加支援なしで予定どおり14年半ばに支援プログラムを終了できる可能性もみえてきたが、引き続き財政再建の進捗状況を注視する必要がある。

(v)アイルランド

アイルランド経済は、13年4~6月期に4四半期ぶりプラス成長となった。こうした経済の回復を受け、一般政府の財政収支は、12年はGDP比▲7.6%の赤字と目標の同▲8.6%を上回り、13年も目標である同▲7.5%を達成する見込みである(第1-3-45図)。15年には、過剰財政収支是正目標である▲3%を上回る見通しである。

10年11月に開始されたアイルランドへの財政支援プログラムについては、第12回(最終)トロイカ審査において、順調に経済調整プログラムが進捗しており、国債利回りも正常化した旨の評価を得た。13年11月、ユーロ圏財務相会合においても、この審査結果を支持し、3年間という当初の予定通り、プログラムを終了することが決定された。この間、アイルランド政府は、10年11月の国家再生計画(11年から14年の財政4か年計画)に基づいて、公共部門の人員削減や賃金カット、社会保障の削減、VATの標準税率の引上げ、所得税の課税ベースの拡大、不動産税の導入等の歳出削減策及び歳入増加策に取り組んできた。また、支援要請時のコミットメントをおおむね履行し、トロイカから予定されていた850億ユーロ規模の支援を受けた。こうした中、アイルランド政府は、13年10月に公表された14年度予算案において、財政目標を達成できる見込みであることや金利支払いの剰余金が生じたことなどから、財政調整幅を当初予定の31億ユーロから25億ユーロに緩めることとし、緊縮財政を緩和する動きをみせている。なお、財政4か年計画とは別に政府・与党が掲げていた政治改革の一環として注目されていた上院廃止については、13年10月に国民投票が行われ、反対多数で否決されている。

第1-3-45図 アイルランドの財政状況:財政収支は着実に改善

アイルランド政府は、支援プログラム脱却に伴い、完全に国債市場復帰することになる。13年3月にアイルランド国債管理庁がトロイカ支援後初めてとなる約50億ユーロ規模の10年国債発行を行った際には利回り4.15%で落札されるなど、財政支援要請後のピークでは14%を超えていた10年物国債の利回りは最近では4%を割り込む水準まで低下しており、市場復帰はスムーズに進む見込みである。また、EU及びIMFによる融資返済期限延長措置(13年3月)やIBRCの約束手形の長期国債への交換(13年2月)といった措置により71別ウィンドウで開きます今後10年間で必要な借入総額が400億ユーロ程度削減されていることに加え、アイルランド政府には、200億ユーロ以上の十分な手持ち国庫資金があり、資金の調達にすぐに問題が生じる可能性は低い。

(vi)キプロス

キプロス政府は、ギリシャ国債の減免措置等により銀行部門の損失が拡大し、多額の資金注入が必要となる事態を受け、12年6月にユーログループやIMFに金融支援を求めた。その後、支援の規模や銀行預金課税の方法等の条件をめぐり調整が難航したが13年3月にユーログループにより総額最大100億ユーロ支援が合意され、その後第1-3-46表のとおり支援が進められている。

13年3月以降、キプロス政府は、銀行部門の再編に取り組み、銀行預金課税等に関する法案を可決し、ライキ銀行の破たん処理等2大銀行の再編を進め、13年7月までにベイルインを通じた銀行部門の処理手続を終えた72別ウィンドウで開きます。また、預金流出防止のために13年3月に実施した海外送金の上限設定等の資本規制の解除を進めていくためのロードマップを13年8月に策定した。今後は、本ロードマップに従って、信用協同組合の合併完了等により国内外の送金に係る制限の解除を徐々に実施していくことになる。13年11月に終了した第2回トロイカ審査においては、こうした金融部門の再編の進捗を始め、対キプロス支援の覚書(MoU)に盛り込まれた改革について、着実に進捗していると評価がなされたところである。

第1-3-46表 キプロス支援の状況

(2)安全網整備の進展

債務危機への対応の一環として進められている、単一監督メカニズム(SSM:Single Supervisory Mechanism)、単一破たん処理メカニズム(SRM:Single Resolution Mechanism)、共通預金保証からなる銀行同盟の創設に向けた動きは遅々としているが、銀行同盟の第1の柱であるSSMはようやく発足のめどが立った。

12年末までに採択されることが求められていたSSM法案は、予定から大幅に遅れて13年9月に欧州議会で採択され、10月にEU財務相会合で承認された。これにより、14年11月からECBがSSMの任務を開始できるようになった。

SSM稼働前に銀行に対する包括的評価(監督上のリスク評価(Supervisory risk assessment)、資産評価(Asset Quality Review)、ストレステスト)が行われることになっており、今後各銀行が引当金の積み増し等による資本増強を進めると考えられることから、欧州の銀行セクターの信頼回復につながることが期待される。評価の結果、資本増強が必要になった場合の対応策(バックストップ)については、初めに民間、次に国家、最後にユーロ/EUレベルの手段という定められた損失負担の順序が適用されることになるが、ユーロ圏諸国については、ESMによる加盟国に対する融資という形での通常の金融支援があり、SSMの発足後はESMによる直接資本注入も利用できることが11月のEU財務相会合において確認された。

ただし、SSM稼働後に可能になるESMから銀行への直接資本注入については、13年6月に運営枠組みの主要事項については合意されたものの、この運営枠組みは「破たん処理指令案」及び「預金保証指令案」が欧州議会で採択され次第完成することになっており、いずれも採択までは時間がかかる見込みである。

SRMについては、単一破たん処理委員会や単一銀行破たん処理基金の設立を内容とする提案を13年7月に欧州委員会が行った。この提案について、13年末までにEU加盟各国で合意、欧州議会選挙(14年5月)前までに欧州議会で採択、15年1月から適用することを目標としているが、実現は難しいとみられている(第1-3-47表)。

第1-3-47表 銀行同盟の進捗状況

3.ヨーロッパ経済の見通しとリスク

ヨーロッパの景気は依然弱さが残るものの、持ち直しの兆しがみられる。以下では、ヨーロッパ経済の先行きに係るメインシナリオとそれに対するリスク要因について概観する。

(1)経済見通し(メインシナリオ)-14年以降緩やかに回復

主要国の動向をみると、ドイツ及び英国において持ち直していることに加え、南欧諸国等でも下げ止まっており、全体として持ち直しの兆しがみられる。

先行きについてみると、金融市場の緊張の緩和及び財政再建ペースの減速に加え、アメリカ等の域外経済の回復に伴って輸出が増加することによって、南欧諸国等でも持ち直しの動きがみられるようになり、14年以降緩やかに回復するとみられる。国際機関等の見通しをみると、14年はプラス成長が見込まれているが、その達成は前述のとおりアメリカ等の域外経済の動向に依るところが大きいと考えられる(第1-3-48図、第1-3-49表)。

第1-3-48図 ヨーロッパ地域の実質経済成長率:14年以降緩やかに回復
第1-3-49表 国際機関等の見通し

(2)経済見通しに係るリスク要因

経済見通しに係るリスクバランスは下方に偏っており、特に欧州政府債務問題が再び深刻化した場合は、世界経済にも重大な影響を及ぼす可能性がある。

(i)欧州政府債務問題の深刻化

各国の財政再建に向けた取組やECBを中心としたユーロ圏レベルでの様々な対策により、12年10月以降南欧諸国等の国債利回りやソブリンCDSは低下しており、欧州政府債務問題は落ち着いた状態であった。しかし、ギリシャに対する追加支援問題等、先行きに対する懸念は依然存在している。欧州政府債務問題が深刻化した場合は、ヨーロッパ経済全体に対する不確実性が再び高まり、企業や消費者の先行き見通しの悪化等を通じて、景気に対する大きな下押しリスクとなる。

(ii)アメリカ、アジア経済等の減速による輸出の減少

ユーロ圏の主要輸出先であるアメリカや、近年シェアを高めているロシア、中・東欧、アジア経済が減速した場合、景気のけん引役である輸出が減少する上、生産や消費に対するマイナスの波及効果が考えられることから、景気に対する下押しリスクとなる。

(iii)雇用情勢の更なる悪化

ユーロ圏の失業率は引き続き12%超の高水準で推移している。失業率が更に上昇した場合は、所得や消費者マインドの悪化を通じて個人消費を更に下押しするリスクがある。また、内需の更なる低迷による企業収益の悪化は、失業率を更に上昇させるという悪循環をもたらす。

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