[目次]  [戻る]  [次へ]

4.アメリカ経済の見通しとリスク

 アメリカ経済は、現状では弱い回復が続いているが、以下ではアメリカ経済の先行きにかかるメインシナリオとそれに対するリスク要因について概観する。

(1)経済見通し(メインシナリオ)‐緩やかな回復にとどまる

 アメリカでは、個人消費の持ち直しや設備投資の増加などがみられるものの、家計のバランスシート調整の継続や失業率の高止まりなど家計の所得・雇用環境の改善が緩慢であることに加え、特に州・地方政府における緊縮財政の進展により政府支出が縮小していることなどから、弱い回復が続いている。

 先行きについては、物価の上昇が落ち着く一方、失業率の高止まりが続くなど雇用の回復が遅れる見通しであることから、消費は緩やかな伸びにとどまると考えられる。設備投資は、回復傾向にある企業収益を背景に堅調な伸びが続くと見込まれる。一方、政府支出については、州・地方財政では地域経済の回復の遅れや連邦政府による財政支援の縮小から厳しい財政運営が続くとともに、連邦政府では2011年予算管理法に基づく財政赤字削減が12年以降本格化することから、全体としてはマイナス寄与が続くと予想される。この結果、12年は緩やかな回復となる見通しであり、12年全体の実質経済成長率は前年比2%程度となる可能性が高い45。国際機関等においても、同程度の見通しが示されている(第2-2-74図)。

第2-2-74図 アメリカ経済の見通し
第2-2-74図 アメリカ経済の見通し

 なお、失業率は、景気が緩やかな回復にとどまるほか、労働需給のミスマッチ解消に時間を要すると考えられることから、改善の足取りは重いと考えられる。この結果、12年は9%前後とアメリカの構造失業率(5~6%)を大きく上回る高い水準で推移する見通しである。

以下、個別の需要項目について概観する。

(i)個人消費

 物価上昇率が安定し実質購買力への下押しは和らぐものの、家計のバランスシート調整の継続に加えて、雇用・所得環境の改善が緩やかなペースでしか進展しない見通しから、消費の伸びは緩やかなものにとどまると見込まれる。なお、現行の政策による下支え(社会保障税減税、緊急失業保険給付の延長措置等)が11年末で終了する場合には、消費の伸びがさらに抑制される可能性がある。

(ii)住宅投資

 住宅市場は過剰在庫を抱え、住宅価格の下落ないし低迷が当面続く見通しであり、さらには、家計のバランスシート調整の継続や雇用・所得環境の改善の遅滞などが見込まれることから、住宅需要は弱い状況が続くと考えられる。住宅投資は引き続き軟調な動きが続く可能性が高い。

(iii)設備投資

 設備稼働率は低い水準にあるものの改善しており、また企業収益も良好であることから、設備投資は堅調な伸びが続くと見込まれる。なお、設備投資減税が11年末に終了し延長されない場合には、12年以降、設備投資の反動減が生じるおそれがある。

(iv)政府支出

 11年8月に成立した2011年予算管理法に基づく財政赤字削減が12年以降本格的に実施されることから、連邦政府支出の縮小が見込まれる。また、州・地方政府では、地域経済の回復の遅れや連邦政府による財政支援の縮小から緊縮的な財政運営が続く見通しである。政府支出全体としては、マイナス寄与が続くと見込まれる。

(v)外需

 世界経済の回復は弱まっており、中でもヨーロッパ地域の成長が鈍化すること、またアメリカ経済は緩やかな回復となることから、輸出入は緩慢な伸びに留まると見込まれる。

(2)経済見通しにかかるリスク要因

 見通しに係る下振れリスクは半年前に比べて弱まっているものの、リスクのバランスは依然として下方に偏っており、具体的には以下のものが想定される。

(i)欧州政府債務問題の悪化と実体経済への波及

 ギリシャをはじめとするヨーロッパのソブリン問題への対応が進展せず、金融資本市場が動揺し混乱が広がる場合には、金融資産の価値下落、信用収縮の拡大等を通じて、実体経済に悪影響を及ぼすおそれがある。また、ソブリン問題によりヨーロッパの実体経済が想定以上に悪化し、さらにリスク回避によるドル高が進展する場合には、輸出が減少するおそれがある。

(ii)雇用の回復の遅れ

 雇用のミスマッチが解消されず、失業率の改善が進まない場合には、所得環境の悪化を通じて、消費や住宅等の家計部門の需要がさらに縮小するおそれがある。

(iii)住宅価格の更なる下落

 住宅価格が更に下落する場合には、住宅需要の回復の遅れや逆資産効果を通じた消費の抑制が生じる可能性がある。また、差押え物件の資産価値の低下により金融機関のバランスシートが大きく毀損される場合には、ローンの貸出態度の厳格化等の影響が懸念される。

(iv)財政緊縮の影響

 連邦政府においては、想定以上に景気の回復が遅れる場合には、2011年予算管理法に基づく歳出削減が景気動向に照らして過度に緊縮的となり、景気を悪化させるおそれがある。また、景気回復の遅れから税収が十分に確保できない場合には、政府支出の更なる減少等を通じて景気を下押しするおそれがある。一方、増税措置が強化される場合には、可処分所得の減少を通じて消費を下押しする可能性が高い。

 また、州・地方政府においても、地域経済の回復の遅れにより税収不足が拡大し、あるいは連邦政府の財政赤字削減によって財政支援が縮小する場合には、歳出削減等の更なる財政緊縮をもたらすこととなり、ひいては地域経済を更に悪化させるという悪循環に陥る可能性がある。

(v)新興国経済の成長鈍化

 先進国経済の減速を受けて新興国経済の成長が鈍化する場合には、輸出の減少を通じて、景気が下押しされる可能性がある。

 上記のほか、10年秋の中間選挙の結果、連邦議会は上下両院で過半数を占める政党が異なる「ねじれ状態」にある。11年春以降の景気減速を受けて、新たな雇用対策やインフラ投資、減税措置の延長といった提案が政権側からなされているものの、議論は膠着しているなど政策運営をめぐって激しい対立が続いている。12年秋に大統領選挙を控え、与野党の対立による政策の停滞が景気に及ぼす影響が懸念される。


45 12年の見通しについては、11年末に終了する社会保障税減税、緊急失業保険給付等の延長を前提としている。
[目次]  [戻る]  [次へ]