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3.ヨーロッパ経済の見通しとリスク

 ヨーロッパ経済をみると、国ごとにばらつきがあるものの、ヨーロッパ全体でみると、景気は持ち直しのテンポが緩やかになっている。以下では、ヨーロッパ経済のメインシナリオと、それに対するリスク要因についてみていく。

(1)経済見通し(メインシナリオ)‐極めて緩やかな持ち直しが続く

 ヨーロッパ経済をみると、急速な景気回復を示してきたドイツでは回復のテンポが緩やかになり、主要国であるフランスや英国でも足踏み状態にあり、ヨーロッパ全体でみると、景気は持ち直しのテンポが緩やかになっている。特に、南欧諸国等では、景気の低迷と財政状況の悪化が続いている。

 先行きについてみると、極めて緩やかな持ち直しが続くと見込まれる。国際機関等の見通しをみると、12年に0~1%台の成長率が見込まれているが、こうした見方はおおむね妥当と考えられる(第2-1-80図、第2-1-81表)。

第2-1-80図 ヨーロッパ地域の実質経済成長率
第2-1-80図 ヨーロッパ地域の実質経済成長率
第2-1-81表 国際機関等の見通し
第2-1-81表 国際機関等の見通し

 内外需に分けてこの背景をみると、まず内需では、歳出削減や税収増といった財政再建による景気下押し効果、雇用の悪化による個人消費の下押し圧力が見込まれる。また、高水準で推移している失業率は、ユーロ圏では12年にも引き続き10%台の高水準で推移することが見込まれる。

 これまで景気の回復をけん引してきた輸出についてみると、主要輸出先であるアメリカ向けや、近年シェアを高めてきたロシア、中・東欧向け、アジア向け輸出は伸びが鈍化し、輸出全体の伸びは緩やかなものにとどまると見込まれる。

(2)経済見通しに係るリスク要因

 見通しに係るリスクのバランスは依然として下方に偏っており、次に示すように特にヨーロッパにおけるソブリン問題の深刻化は極めて大きな下振れリスク要因となっている。

(i)ヨーロッパにおけるソブリン問題の深刻化

 ヨーロッパにおけるソブリン問題は、ギリシャやポルトガルといった小国に留まらず、大国であるイタリアやスペインにも及んでいる。そうした国々における財政状況の悪化の影響は、ユーロ圏及びEU全体に波及するとともに、特にフランス等に影響が及ぶと、ソブリン問題解決に向けた枠組みや取組の実効性を損なう可能性もある。

 ヨーロッパにおけるソブリン問題の深刻化は、ヨーロッパ経済全体に対する不確実性を高め、企業や消費者における先行き見通しの悪化等を通じて、景気に対する大きな下押しリスクとなる。

(ii)金融システム不安の再拡大

 ヨーロッパにおけるソブリン問題が深刻化した場合、財政不安のある国々の国債利回りの上昇(国債価格の急落)やソブリンCDSプレミアムの上昇は、リスク回避による国債利回りやソブリンCDSプレミアムの更なる上昇につながり、金融市場の混乱を深刻化させる可能性がある。

 また、これらの国々に対する債権の多い金融機関の経営に対する懸念が高まっている。ヨーロッパの金融機関では、不良債権を処理し、自己資本比率の引上げによる資本の増強が求められているが、金融機関が貸出を抑制した場合は、信用収縮を通じて景気に対する下押しリスクとなる。

(iii)財政赤字拡大による長期金利上昇

 財政持続可能性に対する懸念から、被支援国のギリシャ、アイルランド、ポルトガルのみならず、イタリアや、スペイン、フランスでも国債利回りが上昇している。財政赤字が拡大し国債利回りの上昇が続き、金融資本市場全体にその影響が波及すると、企業や家計の資金調達コストが増加し、消費や投資が抑制され、景気に対する下押しリスクとなる。

(iv)過度な財政再建による景気の下押し

 景気動向に十分留意し、財政再建と経済成長と両立できるように、適切なタイミング及びペースで財政再建を進めなければ、政府支出の削減や課税強化等といった財政再建の取組は、景気に対する下押しリスクとなる。

(v)アメリカ、アジア経済の減速による輸出の減少

 ユーロ圏の主要輸出先であるアメリカ経済や、近年シェアを高めているロシア、中・東欧、アジア経済が、これまでより減速した場合、景気のけん引役である輸出が減少する上、生産や消費に対するマイナスの波及効果が考えられることから、景気に対する下押しリスクとなる。

(vi)雇用情勢の想定以上の深刻化

 ヨーロッパ全体の失業率は、依然として10%台という高水準で推移している。失業率がこれまで以上に上昇した場合は、所得環境やマインドの悪化を通じて、個人消費を更に下押しするリスクがある。

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