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第2章 緊急避難的な経済政策からの出口戦略

第3節 金融政策の出口戦略

3.非伝統的金融政策の出口に向けた動き

●アメリカにおける出口戦略の考え方
   金融市場の安定化が図られつつあることを背景に、アメリカでは非伝統的金融政策の出口に向けた動きがみられる。09年9月にアメリカ財務省が公表した政府の金融安定化策等に関する報告(9) においても、政府やFRBによる金融安定化策等により、アメリカは金融システムの支援の段階から、安定化・再興・再構築への段階に移行しつつあるとされた。
   FRBのバーナンキ議長は09年7月21日の信用緩和策の出口戦略に関する議会証言(10) で、出口のタイミングについて、需給ギャップが解消し、雇用環境が改善し始めるなど持続的な回復の兆候がみられるかどうか、また、インフレやインフレ期待の兆候がみられるかなどに注目しているとし、将来的にインフレを助長しないようにするために、必要に応じて適宜円滑に撤退するとした。加えて、09年8月(11) 及び9月(12) のFOMC声明文では、撤退の際に「市場の変動を円滑にする」ため買取ペースを緩める方法を採用することが示され、出口戦略を実施する段階では、買取対象になっている個々の資産市場の安定性に配慮する姿勢がうかがえる。これまでのところ、各種資産の買取制度のうち、市場が安定的に推移している国債の買取りに関しては09年10月に終了したが、その後も金利や応札倍率については落ち着いた動きとなっている。
   さらに、バーナンキ議長は前述の議会証言で、非伝統的金融政策は、経済の回復と金融市場の緊張緩和により、ある程度は自動的に解消されるだろうとの見通しを示した。実際、ABCPを買い取る金融機関に貸出を行う制度やCPの買取制度については、これまでみてきたように市場の安定化により、09年2月以降貸出・買取額が減少している。こうしたこともあり、FRBは、09年6月にこれらの制度の実施を10年2月1日で終了すると発表した。また、金融機関の流動性対策として導入されたPDCFやTSLFについても実施を10年2月1日で終了する一方で、TAFやTSLFの入札の規模を減額したり、受入れ担保の範囲を縮小したりしている。
   一方、ABS市場における流動性を回復するために実施しているTALFについては、市場の回復が遅れており、受入れ担保の拡大後も制度の利用は限定的にとどまっている。これを受けて、09年8月にFRBは、09年12月末としていた制度の終了時期を、ABSおよびレガシーCMBS(13) を担保とする貸出については10年3月末に、新規CMBSについては10年6月末に延長することを発表した。また、MBS等の買取りは、10年3月末に終了するとしているが、市場の自律的な回復が遅れていることもあり、実施期間や買取規模について今後の動向を注視する必要がある。

●ECBにおける出口戦略の考え方
   ECBのトリシェ総裁は、09年9月及び10月の講演で、出口戦略に対する考え方を表明し、出口を考える際の視点として二つの視点を示した。第一に、物価安定という金融政策目標との関係を考慮すべきということである。例えば、当該政策が物価安定を脅かすものであれば政策の巻き戻しが急がれる。第二に、非伝統的政策の性質を考慮する必要性である。例えば、ECBの場合、流動性供給策等の多くの施策は金融市場の安定化に伴いある程度自然に巻き戻されることや、カバード・ボンドの買取り(600億ユーロ)はそれ程規模が大きくないことを考慮する必要があるとしている。
   非伝統的金融政策を解除する具体的な時期については言及していないが、09年9月3日の政策理事会後の記者会見において、引き続きこれまでの非伝統的金融政策等によって金融システムを支えるべきであり、最近の金融市場の落ち着きや経済指標の改善をもって「平時(business as usual)」に戻すべきだという考え方は全く誤っていると述べている(10月の会見でも同旨の発言をしている)。また、同年9月28日の欧州議会の公聴会において、出口戦略の必要性に言及しつつも、「今はその時ではない(now is not the time to exit)」と述べた(14)

●BOEにおける出口戦略に関する当面の見通し
   BOEは、非伝統的な金融政策の解除に向けた当面の見通しとして、出口戦略は平時と同様にインフレ目標と比べた中期的な物価の見通しによって決定されるとしている。いずれ実施されるとみられる買入れ資産の売却や、政策金利の引上げの具体的なタイミングや手法等については、これまでどおり毎月のMPC(金融政策委員会)で判断していくとしている。

●各国による協調
   各国中央銀行が独自の出口戦略を模索する一方で、為替の大幅な変動等、大規模な資本移動の発生を防ぐため、出口戦略のタイミングについて国際協調が必要との議論がある。09年9月に行われたG20財務相会合では、財政金融政策の出口戦略について、規模、時期及び順序が、国や政策手段の種類によって異なることを念頭に置きつつ、協力的でかつ調和した(cooperative and coordinated)出口戦略を策定する必要性が指摘された。さらに、同月に行われたG20サミットでも、出口に向けて準備しつつ、その時がきたら(when the time is right)、異例の政策を協力的かつ調和した方法で転換することが表明された。
   一方、金融政策は、自国のマクロ経済やインフレ、資産価格の状況等各々の経済情勢に配慮した運営も重要となる。これまでに、オーストラリア準備銀行は09年10月及び09年11月にそれぞれ0.25%の利上げを実施し、ノルウェー銀行も10月に0.25%の利上げを実施している。今後の出口戦略については、国際協調と自国の経済運営とのバランスを図ることが重要となる。


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