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第1章 世界経済の回復の持続性

第3節 アメリカ経済

1. 持ち直しに向かうアメリカ経済

   アメリカでは、失業率が10%を超えて上昇するなど、引き続き深刻な状況にあるものの、政策効果もあり、景気は下げ止まっている。
   07年12月以降、アメリカ経済は景気後退局面に入ったが、08年4〜6月期にはドルの減価等を背景とする輸出の増加や戻し減税による個人消費の下支えなどにより景気の一時的な持ち直しがみられたものの、同年9月のリーマン・ブラザーズ破たんを契機とする金融危機に見舞われた結果、08年10〜12月期の実質GDP成長率は前期比年率▲5.4%と大幅な減少となり、08年全体でも前年比0.4%と、前回の景気後退期に当たる01年(同1.1%)以来の低成長となった。その後、09年1〜3月期も前期比年率▲6.4%と大幅な減少になり、4〜6月期も同▲0.7%と減少幅は縮小したものの、4四半期連続のマイナス成長となった。しかし、7〜9月期には後述する政策効果もあって同2.8%と大きく上昇し、5四半期ぶりのプラス成長に転じた(第1-3-1図)。
   需要項目別の動きをみると、GDPの7割を占める個人消費は、雇用情勢の悪化に伴う所得環境の悪化等を背景に07年12月の景気後退入り以降減少傾向が続いていたが、景気刺激策や09年7〜8月に実施された自動車買換え支援策等の効果により、7〜9月期には前期比年率2.9%と07年1〜3月期(同3.7%)以来となる大幅な増加となった。耐久財(自動車を含む)を除いた消費も、非耐久財消費が同1.7%、サービス消費が同1.0%となるなど大きく持ち直している。また、住宅投資は、過去3年以上にわたり二けたの減少が続くなど低迷していたが、住宅ローン金利の低下や住宅取得減税の実施などを受けて住宅取得環境が改善したことから、09年7〜9月期は前期比年率19.5%と23年ぶりの大幅な上昇となった。設備投資については、構築物投資が引き続き大きく落ち込んだものの、機械設備・ソフトウェア投資が7四半期ぶりのプラスとなったことから、7〜9月期は前期比年率▲4.1%とマイナス幅が縮小している。さらに、政府支出は、州・地方政府による支出が再びマイナス(前期比年率▲0.1%)に転じたものの、連邦政府の景気刺激策による公共投資の拡大(同14.4%)を受けて、7〜9月期は同3.1%と2四半期連続の増加となっている。一方、外需は、08年以降、輸出の減少と同時に輸出を上回る輸入の減少が続いた結果、プラスの寄与が続いていたが、7〜9月期は他の需要項目の動きを反映して輸入が大きく拡大したことから、前期比年率寄与度は▲0.8%と4四半期ぶりのマイナスとなっている。
   生産の動向をみると、内需の緩やかな回復の動きを反映して持ち直しの動きがみられる。07年12月をピークに生産は減少に転じ、09年6月には98年7月以来の水準にまで低下したが、7月以降は4か月連続で前月比増となっている(第1-3-2図)。産業別にみると、自動車販売の不振を受けて自動車関連部門の生産が低迷し、09年6月には91年4月以来の水準まで低迷していたが、09年夏の自動車買換え支援策の実施を受けて自動車生産は拡大している。ハイテク部門も、昨秋以降減産が続いていたが、中国等の海外需要が次第に持ち直しをみせていることから、下げ止まっている。

●景気循環の分析
   アメリカの景気循環については、非営利の研究機関である全米経済研究所(NBER)が設置した景気日付委員会が判定し、景気の山谷の時期を特定している。NBERでは、景気の後退は「経済全般にわたる活動の著しい低下が数か月にわたって続くこと」と定義し、実質GDP、鉱工業生産、雇用、実質所得、卸・小売売上高に基づいて景気の山谷を判断している。なお、NBERが景気の山谷を判断するに当たっては実質GDPの動向を重視しているが、その他の指標も含めた総合判断を行っている。後述する01年11月の景気の谷の判定のように、すべての指標で改善がみられなくても景気の谷を判定する場合もある。直近では、景気循環の山を07年12月と判定しており、以降、アメリカ経済は景気後退局面とされている。
   最近の実質GDPの動きをみると(前掲第1-3-1図)、09年7〜9期にはプラス成長に転じている。その他の4指標の動きをみると、雇用者数、実質個人所得は減少傾向が続いているものの、実質総売上、鉱工業生産については09年半ばには底入れしており回復基調に入っている。足元では、雇用者数は減少幅が縮小傾向にあり、今後、実質個人所得と雇用者数がプラスに転じ、その他の指標についても回復傾向が持続すれば、09年中にも景気の谷を迎える(あるいは迎えている)可能性がある。
   過去の景気後退局面をみると、90年代以前の谷では、景気の谷とほぼ同じタイミングですべての指標が下降から上昇へ転換する傾向がみられたが、01年の景気の谷では、実質個人所得、雇用者数は景気の谷から1年以上のラグをおいて下降から上昇へ転換している(第1-3-3図)。今回の景気後退局面においても雇用の改善が遅れており、ジョブレス・リカバリーとなった01年と同様の傾向がうかがわれる(詳細は後述)。NBERが景気の回復期と判断した局面においても、雇用の回復の遅れが継続する場合には、ジョブレス・リカバリーとなろう。


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