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第2章 先進国同時景気後退と今後の世界経済

第4節 世界経済の見通しとリスク

2.世界経済全体の見通しとリスク

 09年の世界経済全体の見通しは、非常に低い成長が予測される。今後の見通しとしては、次のようなメインシナリオが考えられる。このメインシナリオに対し、以下のような上振れリスク及び下振れリスクがあり得るが、リスク・バランスは下振れの方に強く偏っていると考えられる。

(1)メインシナリオ

 世界経済は、09年に大きく減速し、実質経済成長率は全体として1%程度にとどまると見込まれる。先進国は同時後退となる。欧米諸国は、09年はマイナス成長になる。新興国経済も、先進国の成長率鈍化の影響を受け、相当程度減速する。金融危機の影響が09年中に収束することを前提とすれば、10年には、先進国経済は緩やかに回復し、それにつれて、世界経済全体も緩やかに回復していく。ただし、後述する下振れリスクは大きい。
(第2-4-3表) (第2-4-4表)

(2)上振れリスク

(i)中国を始めとした新興国の減速が緩やかなものにとどまる。
(ii)アメリカ経済が、09年後半には急回復する。アメリカのメインシナリオでは、09年終わりに緩やかに持ち直すことが想定されているが、これが早まる。

(3)下振れリスク

(i)金融危機が長期化・深刻化する。金融機関のレバレッジ解消の過程で企業向け・家計向けとも貸出しが大幅に縮小し、消費や投資を押し下げ、実体経済を悪化させる。これが更なる不良債権の増大や株価の下落につながり、金融機関のバランスシート調整を遅らせる、という金融危機と実体経済の悪循環をもたらす。この場合、アメリカやヨーロッパの景気回復が遅れ、10年も回復の歩みは遅く、これらの国々での景気回復パターンはL字型を描く。
(ii)中国経済が大きく減速する。アジアのメインシナリオでは、中国の09年の実質経済成長率は8%程度であるが、これが下振れする場合には、5〜6%程度へと大きく減速する可能性もある。

(4)方向性が不確実なリスク要因

 なお、原油価格や為替相場のように、変化の影響がその国の置かれた状況により逆の効果をもたらすものもある。このため、原油価格や為替相場の変化が世界経済全体に与える影響については、その方向性が不確実なリスク要因となっている。
(i)原油価格
  世界経済のメインシナリオでは、世界全体の景気減速予想を背景に50〜60ドル程度の原油価格水準が続くことを想定しているが、仮に地政学的要因等により、100ドル台以上に反騰することがあれば、先進国の消費の更なる冷え込みが予想される一方、産油国の交易利得増大を通じて、再びソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)によるグローバルな投資や産油国への輸出により先進国経済に対する下支え効果が期待できる。一方、原油価格がメインシナリオより更に下落することがあれば、上記と逆の効果が発生することとなる。
(ii)為替相場
  世界経済のメインシナリオでは、現在程度のドル、ユーロの水準を想定しているが、仮に、大幅なドル安になる場合には、アメリカでは輸出を通じた下支え効果が期待される一方、ユーロ圏及び途上国では、景気後退あるいは減速がより深いものとなる可能性がある。

 以上みてきた見通しとリスクのほかに、現時点では表に出ていない隠れた不良債権の顕在化等の不透明な要素も考えられ、金融危機がどこまで深いものとなるのか、また、それが実体経済にどの程度影響を与えるのかについては、今後の動向に注視していく必要がある。


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