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第2章 先進国同時景気後退と今後の世界経済

 世界経済は、先進国の同時景気後退の様相を呈している。アジアを始めとする新興国経済においても、景気減速や世界的な金融危機の影響が広くみられ、一部の国々では金融危機の影響が特に強く現れている。アメリカ経済の減速にもかかわらず、新興国の成長により世界経済が成長を維持するといういわゆるディカップリング論は当てはまらない。
  先行きについては、不確実性が大きいものの、当面、先進国においては景気後退が続くとみられ、金融危機が長期化、深刻化する場合には、景気の厳しさが増すおそれがある。新興国への影響も次第に強く現れ、適切な政策対応が行われない場合には世界同時不況に陥るおそれもある。
  本章では、アメリカ、ヨーロッパ、アジアの各地域の景気動向と当面の見通し及びリスク要因について論じた上で、過去の世界同時不況を振り返り、今後の景気回復の鍵を探る。

第1節 景気後退局面にあるアメリカ

1.景気後退局面に入ったアメリカ経済

●内需の低迷により、約6年ぶりのマイナス成長

 アメリカでは、景気は後退している。四半期別の実質経済成長率の動きをみると、07年10〜12月期には、住宅市場の調整に加え、エネルギー価格の高騰等の影響を受けて個人消費が減速したことなどから、前期比年率▲0.2%となり、01年7〜9月期以来、6年ぶりのマイナス成長となった。08年に入ってからは、1〜3月期に、前期比年率0.9%と低い成長率になったものの、4〜6月期には、外需寄与が大幅なプラスとなったことなどにより、成長率は潜在成長率程度(1) の同2.8%となった。これは、ドル安の影響もあって、輸出が前期比年率12.3%と大幅に伸びた一方、民需の低迷により、輸入が同▲7.3%と大きく減少したことによる。7〜9月期には、住宅投資のマイナスに加えて、個人消費が大幅なマイナスに転じたことや、設備投資も約2年ぶりにマイナスに転じるなど、民需全体が大幅に減少したため、成長率は前期比年率▲0.5%(暫定値)と再びマイナスに落ち込んだ(第2-1-1図)。特に、個人消費の伸びがマイナスに転じたのは、91年以来であり、これは雇用環境の急速な悪化に加え、原油価格高騰等に伴う物価上昇の影響等による。
  このように、現在、アメリカ経済は、外需依存型の成長パターンとなっており、内需については、この一年間、ほぼマイナスの伸びが続くなど低迷している(2) 。一方、外需については、1%前後から2%ポイントを超えるプラス寄与が続き、景気を下支えする役割を果たした。
  こうした景気情勢の悪化を受けて、政府及び議会は、08年2月に、総額1,680億ドル、GDP比約1.2%)規模の財政支出が盛り込まれた緊急経済対策法(Economic Stimulus Act of 2008)を成立させた。同法においては、個人所得税を還付する戻し減税(1,170億ドル、GDP比約0.8%)や、企業の設備投資を促すための税制優遇措置(510億ドル、GDP比約0.4%)といった個人消費や企業活動を刺激することで成長を下支えする方策が講じられた。08年春頃には、個人への戻し減税措置によって、一時的に個人消費が支えられ、4〜6月期におけるGDPのプラス成長に寄与した(3) 。しかし、その後は減税効果のはく落によって、7〜9月期の個人消費を減少させる一因となっている。
  一方、金融政策では、連邦準備制度理事会(FRB)が、連邦公開市場委員会(FOMC)の決定に従い、実体経済の減速に対処した政策金利(フェデラル・ファンド・レート:FF金利)の大幅な引下げを実施している。07年9月以来、利下げ局面が続いており、現在のFF金利の誘導目標水準は、10月28、29日のFOMC会合における利下げ決定によって、過去最低水準(04年6月以来)となる1.00%まで低下している(4) (07年9月の利下げ以降累計では4.25%ポイントの利下げ)(前掲第1-1-23図)。このように、既に相当に金融緩和的な状況下にあるにもかかわらず、市場では、足元の経済情勢の悪化にかんがみ、FOMCが更なる利下げを行うとする見方も多い(5)

●景気後退局面に入ったアメリカ経済

 こうした中、景気循環に関する判定を行っている非営利機関である全米経済研究所(National Bureau of Economic Research:NBER)は、08年12月1日に、07年12月が景気の山であったとして、アメリカが景気後退に入っているとの発表を行った(6) 。NBERでは、景気後退を経済全般にわたる経済活動の大幅な低下が数か月以上続いている状態と定義し、通常は、実質GDP、実質所得、雇用、鉱工業生産、卸・小売売上高の五つの指標に現れるとしている。そこで、GDP統計を除く四つの指標(移転所得を除く実質所得、非農業雇用者数、鉱工業生産、実質総売上)を指数化したものについて、その動きをみると、いずれも07年秋頃から08年初めを境にして、以後、低下傾向となっている(第2-1-2図)
  NBERは、今回の発表資料において、景気の山を特定する上では、特に、サービス等も含めた国内全体の生産と雇用が概念的には最も重要な指標であるとしている。しかしながら、今回は、実質GDPと実質国内総所得(GDI)については、景気循環の山を明確に特定することができないとしている。一方、雇用をみる上で最も信頼できる非農業雇用者数については、07年12月を境に、以後、毎月減少しているため、この時点が明確な山であるとした。
  以上のように、今回の景気後退局面は、既に12か月間(08年12月時点)続いており、第二次大戦以降の景気後退局面の平均期間である10か月を越えている。さらに、戦後の景気後退局面の最長期間である16か月に近づきつつあり、今回の景気後退局面が戦後最長となる可能性も考えられる(7) 。なお、20世紀以降では、景気後退局面の最長期間は、世界大恐慌の時期に当たる1929年8月から33年3月までの43か月間となっている。


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