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1 アメリカ     United States of America

アメリカ経済のこれまで

<2007年の経済>
 2007年の経済成長率は2%程度と前年の2.9%から減速する見込みである(民間機関54社平均2.1%(07年11月)、IMF1.9%(07年10月))。民間機関の見通しは春時点(2.3%)から下方修正された。四半期別の成長率をみると、1〜3月期には、住宅建設の減少に加え、設備投資も弱い動きとなったことから、前期比年率0.6%の低成長となった。その後も住宅建設の減少は続いたが、設備投資の伸びが回復したことや外需の寄与が大きかったことなどから、4〜6月期には同3.8%、7〜9月期には同4.9%(暫定値)と高い成長になった。ただし、国内民間最終需要は前期比年率寄与度1%ポイント台後半の緩やかな伸びが続いている。
 内需では、個人消費は、住宅市場の調整や原油価格の高騰等による影響が懸念されるが、比較的良好な所得環境の中で緩やかに増加している。設備投資は、構築物投資を中心に増加している。住宅投資は、住宅市場の調整が長期化する中で二桁台の減少が続いている。
 外需では、堅調な海外経済やドル安を背景に輸出が増加していることに加え、国内需要の鈍化から輸入が抑制されており、財・サービス収支の赤字はGDP比で緩やかな縮小傾向にある。
 雇用面では、非農業雇用者数の伸びは06年の前月差平均18.9万人増を下回る同11.8万人増(07年1〜11月平均)と増加テンポが緩やかになっている。失業率は4.7%(11月時点)と低水準になっており、時間当たり賃金も加速感はみられないものの、比較的高い伸びが続いている。
 物価面では、原油価格が史上最高水準に上昇する中、消費者物価、生産者物価の上昇率はともにやや高い水準で推移しているが、エネルギー価格等を除いたコア物価上昇率は、個人消費支出(PCE)コアデフレータが6月以降前年比2%を下回る水準で推移するなど落ち着きがみられる。

アメリカの主要経済指標

<2008年の経済見通し>
 2008年のアメリカ経済は引き続き緩やかに成長するとみられるが、住宅投資のマイナス寄与が徐々に縮小していくとともに、FRBによる政策金利の利下げ効果が遅行的に現れるとみられることから、経済成長率は07年と同程度若しくはやや上回る2%前後から2%台半ばになると見込まれている(民間機関54社平均2.4%(07年11月)、IMF見通し1.9%(07年10月)。
 しかしながら、こうした見方に対しては、住宅市場の調整の深刻化や金融資本市場におけるさらなる変動の可能性等、実体経済への下方リスクが高まっており、これらが現実のものとなる場合には景気が一層減速するおそれも考えられる。

実質GDP成長率の実績と見通し

<金融政策の動向>
 アメリカにおいては2006年半ばまで利上げ局面が続いていたが、FOMC(連邦公開市場委員会)は、2006年8月の会合において、アメリカの経済成長のペースが落ち着いてきたとの景気認識を示すとともに、物価上昇についても金融政策の累積的効果等の要因によりいずれ落ち着く可能性が高いとして、政策金利(フェデラル・ファンドレート(FFレート金利))の誘導目標水準を5.25%に据え置く決定を行ない、以後、据え置きが続いた。
 しかしながら、07年7月下旬からサブプライム住宅ローン問題への懸念等による金融資本市場の変動がみられたことから、8月17日にFOMCは「成長の下振れリスクが目にみえる形で高まった」として「状況を注視し、金融市場の混乱による経済成長への悪影響を軽減するため必要に応じて行動する用意がある」との声明を公表し、同時に、FRB(連邦準備制度理事会)は「金融市場の秩序ある状態の回復を促進するため」として、それまで政策金利より1.0%ポイント高い水準に保たれていた公定歩合を0.5%ポイント引き下げ、5.75%にするなどの政策変更を行ない、市場への流動性供給を強化した。
 さらに、9月に開催されたFOMCでは、「金融市場の混乱により生じうる経済全般への悪影響の一部を未然に防ぎ、長期的に緩やかな成長を促す」として、景気の下方リスクが高まったことに対して予防的な対応を取る姿勢を示し、政策金利の誘導目標水準を0.5%ポイント引き下げ、4.75%とすることを決定した(公定歩合も0.5%引き下げ、5.25%とした。)。また、10月に開催されたFOMCでも、同様の判断から政策金利の誘導目標水準を0.25%引き下げ、4.50%にすることを決定した(公定歩合も0.25%引き下げ、5.00%とした。)。
 今後について、FOMCは、10月の会合後の声明において「今回の措置の実施後は、インフレの上振れリスクと経済成長の下振れリスクはおおむね均衡すると判断」し、「引き続き金融市場やその他の動向が経済見通しに与える影響を見極めつつ、物価安定と持続的な経済成長を促進するために必要に応じて行動する」としている。

フェデラル・ファンドレート目標水準の推移

<財政政策の動向>
 2007年10月に公表された07年度の財政収支は、1,628億ドル(GDP比▲1.2%)の赤字となり、昨年度(▲2,482億ドル)と比較して、854億ドル(前年比▲34.4%)の大幅な赤字縮小となった。単年度の赤字幅としては3年連続での縮小となる。また、2月の予算教書時における行政管理予算局(OMB)の見通しでは、2,442億ドル(GDP比▲1.8%)の赤字と見込まれていたが、歳入が当初見通しを上回ったことで、見通しと比較すると422億ドルの赤字幅縮小となっている。歳入が増加した主因は予想を上回る税収の増加で、個人所得税収及び法人所得税収はそれぞれ前年比で11.5%増、同4.6%増と増加した。なお、歳入の増加を下回るものの歳出についても拡大している。とりわけイラク駐留経費等の軍事費や、メディケアなどの社会保障費の増加が大きかった。
 ブッシュ大統領は、04年2月の予算教書演説等で、今後5年間で04年度赤字見込額(5,120億ドル)を半減させる方針を示していたが、目標年度の09年度より3年前倒しとなる06年度に公約を達成した。このため、次のステップとして、07年1月の一般教書演説において、2012年度までに財政赤字を解消させることを提案し、議会によって特定の使途に留保された約180億ドルの予算(注:earmark(往々にして利益誘導的と言われている。))の削減と、社会保障費を抑制するために社会保険制度や老人医療保険制度(メディケア)、低所得者医療扶助制度(メディケイド)の受給要件の改革を訴えた。
 今後の財政見通しについて、行政管理予算局(OMB)の年央財政見通し(7月)では、08年度に赤字幅が拡大するものの、09年度以降は再び減少に転じ、12年度には黒字に転換すると見込んでいる。一方、議会予算局(CBO)の経済財政見通し(8月)では、10年度までは赤字幅が拡大傾向になると見込んでいる。こうした違いは、財政見通しの前提となる経済見通しの評価が異なることもあるが、OMBの見通しはイラク戦費の抑制等を事前に織り込む一方で、CBOの見通しは推計時点で確定している政策のみを前提にしていることなどの相違があるためである。特に、CBOでは、ブッシュ政権の導入した時限的な減税が段階的に終了(主に10年末まで)することに伴う歳入増を見込んでいることなどから、11〜12年度には財政赤字の大幅な減少を見込んでおり、12年度以降は黒字で推移するとしている。

財政収支見通しの変化(OMB推計)/財政収支見通しの比較

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