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まえがき

 「世界経済の潮流」は2002年春に創刊され、年2回公表しております。第12号にあたる本書は2部から構成され、第 I 部では、サブプライム住宅ローン問題の背景と影響について、また、地球温暖化に取り組む各国の対応について、それぞれ考察いたしました。第II部では、2008年の世界経済の展望を示しております。
 第 I 部第1章では、「サブプライム住宅ローン問題の背景と影響」と題し、アメリカにおける問題の背景とその影響を検討しつつ、主要各国の住宅市場動向についても俯瞰しています。今回の問題は、住宅ブームにおける住宅価格上昇への過剰な期待、証券化という新たな金融技術の革新、さらには国際金融資本市場のグローバル化とアメリカへの資本流入といった要素が背景にあったといえます。問題の発生以降、住宅市場の調整や金融資本市場の変動等は、アメリカ経済の先行きに不透明感をもたらしており、注視が必要です。また、証券化技術は金融資本市場の信用創造力を高める重要なツールですが、その適切な運用のためには、今回の問題で明らかになったように、証券化にかかわる金融機関、投資家、格付機関等におけるリスク評価・管理や情報開示の在り方、証券化商品に対する価格形成等について改善が必要と考えます。
 第2章では、京都議定書による約束期間(2008〜12年)を目前に、「地球温暖化に取り組む各国の対応」を扱っています。日本は、先進国の中でも温室効果ガスのGDP当たり排出量が少なく、「排出効率」が高いといえますが、最近の排出効率の改善は緩やかなものにとどまっており、一層の努力が必要と考えます。欧州連合(EU)を始め各国で取組が広がりつつある排出権取引制度は、排出量を効果的に抑制できる手段です。ただし、産業別に、また、家計の所得分配にも、多様な影響が生じると考えられるため、こうした影響を十分に考慮して、ほかの手段との得失を比較しながら、導入の適否を十分に議論すべきと考えます。
 第 II 部では「世界経済の見通し」として世界経済の展望を扱っています。2008年の世界経済は回復が続くものの、07年をやや下回る成長になることが見込まれます。さらに、アメリカのサブプライム住宅ローン問題に端を発した金融資本市場の変動を背景として、景気に対するリスクとしては下向きのものが中心となっています。本書では、先行きのリスクとして、(i)アメリカ経済の一層の減速、(ii)国際金融資本市場のさらなる変動、(iii)高騰する原油・各種商品価格全般の高騰や高値持続、(iv)高成長を続ける中国経済の一段の過熱と調整をとり上げています。
 本書が、サブプライム住宅ローン問題の課題や地球温暖化に対する各国の取組、さらには世界経済の展望について理解を深める一助となれば幸いです。

 平成19年12月

内閣府 政策統括官(経済財政分析担当)

齋藤 潤


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