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第 II 部 世界経済の見通し

第1章 2007年の経済見通し

1.アメリカ

 アメリカ経済は拡大テンポが緩やかになっている。経済成長率はハリケーンの影響を受けた05年10〜12月期の低成長の反動もあり、06年1〜3月期には前期比年率5.6%と高い伸びになったが、個人消費の伸びが緩やかになったことや、住宅投資の減少等により伸びが鈍化し、4〜6月期には同2.6%となった。また、7〜9月期には個人消費、設備投資の伸びが高まる一方、住宅投資の減少や純輸出がマイナスに転じたことなどから、同1.6%(速報値)と減速した(第1-2図)
 需要項目では、個人消費は原油価格が高騰する中、住宅市場の沈静化による影響に対する懸念もあるものの、比較的良好な所得環境の中でこれまでのところ緩やかに増加している。また、設備投資は好調な企業収益や高水準の設備稼働率を背景に堅調に推移している。
 雇用面では、06年は非農業雇用者数が1〜10月までの平均で前月差13.7万人増となっており、05年の平均値である同19.8万人増を下回る緩やかな増加となっている。一方、失業率が10月時点で4.4%と低い水準にある中で、時間当たり賃金は上昇傾向が続いており、労働市場は逼迫が続いている。
 物価面では、原油価格が過去最高水準を更新する中で、年半ばには消費者物価、生産者物価ともに総合で前年同月比4%台と高い水準で推移した。ただし、需給逼迫懸念が後退したことによって、原油価格が9月以降下落したことから、足元上昇率は低下している。一方、エネルギー価格などを除いたコア物価上昇率は緩やかな上昇が続いている。
 こうした経済情勢を背景に、金融政策では、04年半ば以降小刻みながら17回連続で引き上げられてきた政策金利(フェデラル・ファンドレート)の誘導目標水準を8月に開催された連邦準備制度(FRB)の連邦公開市場委員会(FOMC)において2年3か月ぶりに据え置くことが決定された。政策金利の据置きは10月時点までで3か月連続となっている。

●07年の成長率は06年をやや下回る見込み
 今後について、06年10〜12月期は原油価格の下落が個人消費等に好影響を与えるとみられる反面、住宅市場の減速が続いていることや大手自動車各社が減産計画を予定していることなどもあり、引き続き緩やかな成長になるとみられている(2) 。06年全体では、1〜3月期の高成長もあって05年とほぼ同様の3.4%程度の成長を確保すると見込まれる。また、07年の成長率は、住宅市場の沈静化等を反映して、06年から0.8%ポイント程度低下し、潜在成長率(3)をやや下回る2.6%程度となると見込まれる。

●高成長からマイナスに転じた住宅投資
 アメリカにおける住宅投資は、2000年のITバブル崩壊とそれに伴う一時的な景気低迷期においても拡大を続けるなど02年以降ほぼ一貫して増加しており、住宅価格も大幅に上昇してきた。しかし、モーゲージ金利の緩やかな上昇を受けた需給の悪化等から、06年に入ってからは住宅価格の上昇率が明確に低下傾向にあるとともに住宅着工件数も減少傾向となり、住宅市場はピークアウトした(第1-3図第1-4図)
 アメリカ連邦住宅貸付機関監督局(OFHEO)が四半期毎に公表している住宅価格指数をみると、住宅価格の上昇率は04年半ばには前年比二桁へ上昇し、さらに05年に入ってからは12〜13%台と高水準で推移したが、05年4〜6月期をピークに06年に入ってからは上昇率が低下している。また、住宅着工件数はそれまでの高水準から06年3月には1年ぶりに200万件を割り込み、8月には03年4月以来の水準である166.5万件にまで低下するなど減少傾向が明確になった。これに伴い経済成長率における住宅投資も05年10〜12月期以降4四半期連続のマイナスとなっている。
 今後については、長期金利が低下傾向にあることに伴ってモーゲージ金利が7月以降低下していることや、住宅価格の上昇率が低下傾向にある中で、名目所得の増加など家計の所得環境も堅調なことから、住宅市場の調整が経済を急減速させるリスクは必ずしも大きくはないとみられるが、個人消費等他の部門への波及や経済全体への影響も含めて動向を注視する必要がある。

●過去最高水準を上回った原油価格の高騰
 原油価格の動向をWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)でみると、2003年までは1バレル当たり30ドル前後で推移していたが、04年春には40ドルを超え、以後は一進一退しつつもおおむね上昇傾向で推移した(第1-5図)。05年8月には、ハリケーンの影響もあり70ドルに迫る水準まで上昇する場面もあったが、北アメリカ地域が記録的な暖冬であったことなどから需給逼迫懸念は相対的に低下した。しかし、06年春頃にはイランの核開発問題といった地政学的リスクの高まり等から原油価格は再び上昇傾向となり、4月には70ドルを突破した。さらに、7月にはイスラエル・レバノン情勢等の影響もあって一時77.03ドル(終値ベース)を記録するなど過去最高水準を更新した。その後、原油価格はしばらく70ドル台近辺で推移していたが、アメリカにおける石油製品在庫の増加等から需給逼迫懸念が後退したことにより一転して下落し、10月は50ドル台後半から60ドル前後で推移した。
 こうした原油価格の高騰に対して、物価上昇圧力等を通じた経済に対する悪影響が懸念された。ガソリン価格の上昇や消費マインドの悪化等個人消費にある程度の影響を及ぼしたと考えられるが、企業の価格転嫁等の動きはそれほどみられず、原油価格の高騰に伴う実体経済への悪影響は軽微にとどまった。
 ただし、エネルギー価格等を除いたコア物価上昇率としては、個人消費支出(PCE)コアデフレータをみると、FRBが望ましい物価状態としているとされている上限の前年比2%を超える水準で推移している(第1-6図)。さらに、労働市場が逼迫する中で時間当たり賃金も上昇するなど、物価上昇圧力は高い水準にあり、今後、原油価格が再高騰するようなことがあれば、価格転嫁の状況次第では物価上昇の加速等を通じて実体経済に影響を与える可能性も考えられる。

●物価上昇圧力を警戒しつつも、政策金利は据置きが続いている
 このような中、FRBは06年8月のFOMC声明において、「経済成長は今年初めの非常に力強いペースから落ち着いてきた」との景気認識を示すとともに、「物価上昇期待の抑制と、金融政策の累積的効果、その他総需要を抑制する複数の要因を反映し、物価上昇圧力はいずれ落ち着く可能性が高い」として、物価上昇に対する警戒姿勢は持続しつつも、物価上昇圧力がいずれ抑制されるとの見通しを示した。これまでFRBは04年6月以降景気拡大を持続させながら物価上昇圧力へも十分配慮するという形で0.25%ずつという小刻みに政策金利の引上げを続けてきたが、8月のFOMC以降は政策金利を据え置いている(現在の水準は5.25%)(前掲第1-6図)
 今後について、FRBは10月のFOMC声明において、インフレリスクに対処するために「必要な追加利上げの時期と程度は、今後発表される指標等に基づくインフレ、景気見通しに依存する」としている。


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