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第 I 部 海外経済の動向・政策分析

第2章 高成長が続く中国経済の現状と展望

第2節 拡大する不均衡への対処と課題

 前節でみたように、2000年代の経済成長において、投資と輸出は大きなけん引力となる一方、過剰投資や貿易黒字の急拡大といった不均衡も生み出している。ここでは、そうした不均衡に対する対処と課題について、過剰投資の解消、過剰流動性への対処、過剰貯蓄の解消の三つの点から述べる。

1.過剰投資の解消

●中国政府の「マクロコントロール」
 過剰投資による供給過剰懸念については、現在のところ世界経済の回復による外需の伸びもあり覆い隠されている面もあるが、今後、仮に世界経済の減速や貿易摩擦問題(元高圧力ともなり得る)により需要が鈍化するような場合(5)には、供給過剰が顕在化し、デフレの発生、企業収益の悪化、ひいては不良債権の問題等につながっていくことも懸念される(6)。銀行の不良債権比率は不良債権処理の進展等に伴い低下傾向が続き(06年6月末で7.5%(国有商業銀行に限れば9.5%))、従来に比べれば問題は沈静化しているとみられるが、供給過剰の問題は、現在の貸出債権が将来不良債権化するという潜在的なリスクとなり得る。
 中国政府は、過剰な投資に対して「マクロコントロール」と呼ばれる産業政策、金融政策の2本からなる政策を実施してきている(付表2-1)
 産業政策としては、05年12月には「産業構造調整指導目録」等を公表し、産業・項目を「奨励類」、「制限類」、「淘汰類」の三つに分類し、特に小規模で効率の悪いもの、資源の濫用となるものについて構造調整を進める方針を述べている。また、06年3月の「生産能力過剰業種の構造調整加速に関する通知」においては、設備過剰が明確な産業として鉄鋼、電解アルミニウム、自動車等を列挙し過剰投資抑制のための適切な法的運用等を打ち出しているほか、不動産市場の過熱抑制に関する方針の発表等、累次の対策が実施されている。また、銀行部門に対しては、06年8月に銀行監督管理委員会が、16の主要銀行のうち06年前半の貸出が急増した銀行に対して新たな目標を設定するなど、資金の貸手側に対する政策も実施している。
 金融政策については、中国人民銀行によって、二度の貸出基準金利の引上げ(06年4月及び8月)等が実施されている。

●過剰投資の抑制にはマクロコントロールの効果の兆しも
 06年1〜6月は、こうした政策の効果がなかなか現れてこなかったが、足元では若干の変化がみえ始めている。固定資産投資(都市部)の伸びは、1〜6月累計の前年比31.3%に対して、7〜9月期は同22.8%(7)とこのところやや伸びの鈍化がみられる。業種別の動向をみると、かねてから伸びが鈍化していた電気・ガス・水道のほか、過剰業種といわれる自動車(輸送機械)、鉄金属等で伸びの鈍化や減少がみられている(第2-2-1図)
 このような調整は、短期的にはデフレ圧力として働く可能性もあるが、いずれにせよ過剰な投資が今後も持続できるとは考えにくい。一般に、過剰が大きくなるほどその後の調整に係るコストも大きくなることから、経済の状態が比較的良好なうちに対策を打っておくことが重要である。
 足元では過剰投資抑制の兆しがみえ始めた。しかしながら、今回と同様に「過熱」と指摘されたのはわずか2〜3年前の03〜04年にかけてのことであり、地方が競い合って重複投資を行うという政治的な問題や、企業、銀行のガバナンスやリスク管理能力の問題といった体質的な面も背景としてある(8) (コラム参照)。今後も、この過剰投資抑制の流れを継続していくことが重要であり(9)、また、過剰業種、衰退業種の調整、淘汰は、中長期的には第3節で述べる産業高度化へとつながっていくものである。単なる短期的な景気変動への対処にとどまらず、将来的な中国経済の体質強化につなげていくことが期待される。

コラム なぜ過剰な投資がなされるのか?〜地方政府の要因について〜

 中国の固定資産投資(10)のうち、インフラ投資が高い伸びを続けている背景には、農村振興策によるものや鉄道等のインフラ投資が挙げられ、その多くはいわゆる実需に基づいたものである可能性が高い。しかし過剰な投資として問題視されているのは、投機的な不動産開発投資や、各地域において重複投資され、生産能力が過剰となっている分野(鉄鋼等)の投資である。そのような分野においてなぜ引き続き過剰な投資がなされるのか、背景としては以下のような地方政府の特徴が挙げられる。
1.経済成長率等の実績に基づく地方政府指導者の業績評価
 地方政府の指導者の業績評価においては、地域の経済成長率をいかに高めたかが大きなウェイトを占めるといわれており、経済の量的拡大のみを追及する傾向がある(11)。経済成長率を高めるための最も手っ取り早い手段は大規模な投資であるため、開発区を乱立し企業誘致を図るなど、経済合理性に基づかない投資へのインセンティブが生じる。また、5年に一度の中国共産党大会開催に伴う中央及び地方指導者の人事交代後に一斉に投資プロジェクトが開始されやすく、この政治サイクルは西暦末尾に3か8がつく年に発生しやすいといわれる(近年では2003年に投資過熱が生じ、04年に引き締められた。)。
2.地方財政の不備
 中国の地方財政制度において、県以下の末端の地方政府になると財源分配の仕組みが確立されていない中、地方政府の財政負担となる義務教育の普及等により国民に関係する公共サービスは増加していることなどから、地方政府の財源は逼迫している。そのため、地方政府は農民から土地を違法に(あるいは不当に安い価格で)収用し不動産開発業者に高値で売却することなどを財源確保の手段としており、また生産増や機械設備の購入等による増値税(付加価値税)の税収増も期待される。
3.各地における「政府=金融機関=政府関連企業」一丸となった抱合せ融資(packaged loan)による投資プロジェクトの実施
 地方政府が関与している投資プロジェクトの実施は、地方政府が出資している企業によることが多い。一方、金融機関は豊富な資金を有しているものの、国内資本市場が未発達で運用先が限定されることやリスク管理能力の問題等がある。そのため、地方政府の保証のある投資プロジェクトを低リスクの魅力的な融資先としてとらえ、収益が上がらない場合には補填や救済を期待するなど、地方政府が主導する投資プロジェクトに傾倒しやすいといえる。

 このような地方政府の粗放的な投資行動に対して、抜本的な制度改革が必要なのはいうまでもないが、当面の投資抑制策としては、中央政府がどの程度効果的な投資抑制策を実施していくかがかぎとなろう。

(参考)World Bank (2006)、田中(2006a)


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