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第 I 部 第2章のポイント

1.低金利政策等により多くの先進国で起きた住宅ブーム

●1990年代後半以降、アメリカ、英国を始めとした幾つかの先進国で住宅価格は上昇傾向にあったが、2000年のITバブルの崩壊後の低金利政策等を受けて上昇率が加速した。
●住宅価格上昇率は国ごとに異なるものの、中でも高い伸びとなった英国、オーストラリアでは04年以降上昇率は低下しており、住宅ブーム(住宅価格の大幅な上昇)はほぼ終息している。スペイン、フランス、アメリカは05年に入ってからも、依然2桁台の高い上昇率となっている。
●住宅価格と経済のファンダメンタルズとの関係では、一般的に用いられる指標として、(1)実質住宅価格のほか、(2)住宅価格/賃貸料比率、(3)住宅価格/可処分所得比率がある。アメリカの住宅価格の動向をこれらの指標でみると、05年に入ってからも他国に比較して著しく高いものとはなっていない。
●住宅価格上昇の背景としては(1)世界的な低金利、(2)金融市場の規制緩和により進展したモーゲージ(住宅ローン)市場における取引コストの低下、(3)モーゲージ市場の整備や住宅取得促進策による持ち家比率の上昇、そのほか、(4) 人口要因、(5) 土地規制等による供給制約等が考えられる。

2.アメリカ、英国の住宅価格上昇による資産効果を通じた消費拡大効果

●住宅価格の上昇は、住宅投資に加え資産効果を通じて消費を拡大させる効果があり、特にアメリカや英国では、ITバブル崩壊後の景気を下支えする役割を果たしてきた。
●住宅価格上昇による資産効果の大きさは国ごとに異なっており、アメリカ、英国で大きい。その背景として、両国では多様なモーゲージ商品が提供されていること、住宅を担保に家計が容易に借入れできることなどが挙げられる。
●今般の住宅価格上昇局面において、両国とも家計のモーゲージ債務残高は拡大した。英国では、借入れ増の多くが直接消費に向かわず、金融資産取得に向かっており、住宅ブームはハードランディングすることなく終息している。一方、アメリカでは住宅価格の上昇は比較的緩やかであるものの、05年に入って貯蓄率がマイナスまで低下していることから、借入れ増による消費拡大効果が英国と比べ大きくなっている可能性もあり、同じ住宅価格の変化でも英国より大きな影響が生ずると考えられる。

3.低インフレ下では資産価格変動と金融政策の関係が一層複雑に

●ITバブル崩壊後、アメリカ経済が比較的早く回復した背景には、大規模な減税に加え、大幅な金融緩和策による住宅価格の上昇を通じた資産効果の景気下支えがあった。このような資産効果を通ずる政策を活かし、経済のレジリアンス(柔軟性)を高め景気の安定化を図る方策として、モーゲージ市場をアメリカや英国並みに整備し、金融政策の有効性を高めようという考え方が国際機関等で議論されている。
●住宅等の資産価格の動向は必ずしも物価動向とは連動しないが、今般のような低インフレ期には両者の乖離が一層拡大する。このため、近年、物価の安定を目標とする金融政策と資産価格との関係のあり方について、欧米を中心に活発に議論されている。
●資産価格を金融政策の目標とする中央銀行はいまだない。しかし、その大幅な変動が経済に与える影響は大きく、無視できるものでもない。また金利の変動に対して過度に住宅市場が反応することにより景気変動が増幅され、金融政策運営を却って難しくしている側面もある。


第 I 部 海外経済の動向・政策分析

第2章 住宅価格の上昇と消費拡大の効果 ―アメリカ、英国を中心に―

 1990年代後半以降、アメリカ、英国を始めとした幾つかの先進国において住宅価格上昇が続き、いわゆる「住宅ブーム」と呼ばれる現象が起こっている(第2-1-1図)。また、ITバブル崩壊後のアメリカ経済において、堅調な消費拡大を続けることができたメカニズムとして、住宅価格上昇が資産効果(1)を通じて消費に与える効果があったことが着目されている。
 本章では、まず、第1節で、こうした住宅ブームの現状とその背景について分析した後、第2節で、特に住宅価格の上昇に2004年以降加速のみられているアメリカ、及びブームがほぼ終息したとみられる英国における消費拡大効果についてみる。最後に、第3節で、住宅ブームに際して行われた、低インフレ期の金融政策の在り方に関する議論について、論点整理を行う。


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