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1 アメリカ     United States of America
<2003年>

アメリカ経済のこれまで


<2004年の経済>
 2004年全体では4%台半ばとなる見込みである。(民間機関57社平均4.4%(2004年10月)、政府見通し4.7%(2004年7月)、議会予算局4.5%(2004年9月))。民間機関の見通しは半年前(2004年4月時点4.6%)と比べ、下方修正となっている。
 2004年前半は1〜3月期に前期比年率4.5%の成長を遂げ、また、非農業雇用者数が3月、4月と2か月連続で30万人を上回る増加となったが、4〜6月期は同3.3%と成長率がやや低下し、雇用の増加も鈍化した。この背景としては、原油価格の高騰による先行き不透明感から、企業が新規雇用に慎重になった可能性や、エネルギー価格の高騰や税還付の一巡により消費が一時減少したことなどが挙げられる。ただし、企業収益の水準は高く、設備投資は増加が見込まれることや、一時ほどではないものの雇用の増加も続いていることなどから、先行きについては堅調に推移するものとみられ、2004年後半は3%台後半の成長が見込まれている。
 輸入が引き続き大幅に増加する一方、輸出は2003年後半ほどには伸びておらず、経常収支赤字は拡大しており、2004年4〜6月期にはGDP比5.7%と過去最高となっている。

アメリカの主要経済指標

<2005年の経済見通し>
 成長率は2005年全体で3%台半ばとなることが見込まれている(民間機関57社平均3.5%(2004年10月)、政府見通し3.7%(2004年7月)、議会予算局4.1%(2004年9月)、IMF見通し3.5%(2004年9月))。経常収支赤字はやや縮小するものの、依然として高水準で推移すると見込まれている。物価上昇率は安定的に推移するものとみられる。
 下方リスクとしては、高水準の原油価格が続くことのほか、雇用が十分に増加せず、消費を安定的に増加させるために必要な所得の増加が達成されないことが挙げられる。

実質GDP成長率の実績と見通し

<金融政策の動向>
 Fed(連邦準備制度理事会)は、2004年前半はインフレ率が低いことと、生産要素の利用が軟調であることを理由に、フェデラル・ファンドレート目標水準(FFレート)を2003年5月より続く過去最低水準である1.00%に据え置き続けてきた。しかし、6月下旬に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)では、FFレートを0.25%ポイント引き上げ1.25%とすることが決定された。続いて8月中旬、9月下旬に開催されたFOMCにおいても、FFレートを0.25%ポイントずつ引き上げる決定がなされ、FFレートは1.75%となった。
 Fedがそれまでの超低金利維持から利上げに政策転換した理由の一つとして、インフレ率が今年に入って幾分上昇したことが挙げられる。2003年終わりから2004年始めにかけてコア・インフレ率(エネルギー・食料を除いた物価上昇率)の伸びが鈍化したことで、Fedはインフレ率が好ましくない低下をする可能性を懸念していた。ところが、2004年に入りエネルギー価格が上昇する一方で、コア・インフレ率も加速した(コアCPI前年同月比:1月1.1% 6月1.9%)ことにより、利上げ開始直前5月上旬のFOMCでは、物価動向について好ましくないインフレとディス・インフレが起こる可能性は均衡している(すなわち、物価動向は安定している)との判断を示した。また、もう一つの理由として、雇用が春先に前述のような回復を見せたことで、生産要素利用の緩みに対する懸念が後退したことが挙げられる。これを背景に、最初の利上げとなった6月下旬のFOMC声明では、それまで用いられていた生産要素の利用は軟調であるとの記述は削除された。
 ただし、Fedによるここまでの利上げは、物価上昇率の上昇に対応する中立的な金利水準に向けた引上げと考えられ、FOMC声明では、現行の金融政策は依然として緩和的なものであるとされている。また、今後の金融政策の方針について、インフレ率は上昇してきたものの比較的低水準にあることなどから、緩和的な金融政策のとりやめは慎重なペースで行うことができるとされている。今後の見通しとして、市場は2004年末のFFレートを2%程度(FFレート先物金利の動向より)と織り込んでいる。

フェデラル・ファンドレート目標水準の推移

<財政政策の動向>
 2004年度の財政収支は、2004年9月に公表された年央財政見通しでは、過去最大4,450ドル(GDP比▲3.8%)の赤字と見通されている。予算教書時の行政管理予算局(OMB)の見通しでは、5,210億ドル(GDP比▲4.5%)の赤字と見込まれていたが、歳入が見通しを上回ったことで、赤字幅は縮小する見通しとなった。
 歳入が当初の見通しを上回ったのは、景気回復の進展による税収増加による。個人所得税収は減税により前年度を下回っているが(2004年8月:前年同月比▲18億ドル)、法人所得税収は前年度を大きく上回っている(2004年8月:前年同月比451億ドル)。
 歳入が前年度を上回る一方で、歳出も大きく拡大した。歳出の中ではとりわけ軍事費、社会保障費の増加が大きかった。
 2004年の2月の予算教書演説等でブッシュ大統領は、重点目標として今後5年間で財政収支赤字を半減させる方針を示した。経済財政年央見通しは、景気回復の進展により財政収支見通しが改善している現在の状況を「一部は大統領の経済政策の成功を基にした、財政赤字半減への着実な前進」と述べている。
 一方、歳出抑制のための手段として2005年度予算教書において提案された、pay-as-you-go原則とCap原則の復活については、上下院で方針が対立し議論が続いている。グリーンスパンFRB議長は2004年9月に下院予算委員会で行った証言において、「予算策定における歳出と歳入の調整を図る上での効果的なフレームワークを再確立することは優先度が高い事項だろう」としている。
 FRB議長はまた、「財政悪化は金融市場に大きな影響を与えていないものの、ベビーブーム世代が数年後に退職年齢に達し、医療向け支出が増加すれば、現行政策のままでは財政収支は大きく悪化する」と指摘するとともに、「医療向け支出の急増にあたり、税制と支出プログラムの中での優先順位決定や、双方間での調整といった政策担当者にとっての重大事項が、先延ばしになっている」と指摘するなど、財政運営の先行きに対して改めて懸念を示している。
 FRB議長の指摘のみならず、OMBが見通しを示していない2010年以後の財政収支について、議会予算局(CBO)が9月に発表した見通しでは、赤字幅を1月時の見通しより拡大修正するなど、長期的な財政運営に対する懸念は強まっている。
 

財政収支見通し

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