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第3章のポイント

 世界経済は2004年は着実に回復を続け、2005年はやや成長率は低下

●世界経済は2003年後半から主にアメリカ、中国経済の拡大にけん引され、着実に景気回復を続けており、2004年は前年を上回る3%台後半の成長が見込まれている。2005年はこれらの国々の経済成長率の低下が世界経済全体に波及するため、3%半ば程度に低下するものとみられる。

●原油価格(WTI)の動向をみると、2004年春までは30ドル台で安定的に推移していたものの、その後大幅に価格が上昇し、10月は50ドル半ば近辺で上下した。ただし、これまでのところ、原油価格の高騰が直接的に経済を失速させるというような兆候はみられていない。

●原油価格の上昇が長期化した場合、インフレ圧力が生じ、消費者や企業のマインドを悪化させることから、経済に悪影響を与える可能性も懸念される。ただし、過去のエネルギー危機の時と比較すると、経済全体のエネルギー効率の改善等によりその影響は少ないものとみられる。

●原油価格の高騰の長期化以外に考えられるリスクとして、世界経済をけん引してきたアメリカ経済、中国経済の急減速、及び米国の巨額の経常収支赤字の為替レートによる大幅調整が挙げられよう。しかしながら、中心シナリオとしては、2005年は、アメリカ経済が潜在成長率をやや上回る水準を、アジアや欧州も過去の平均的な成長率を実現するものと考えられる。


第3章 2005年の経済見通し

 世界経済(日本に関係の深い22か国・地域)は2003年後半から着実な景気回復を続けている。世界経済のけん引役を果たしてきたアメリカ経済は景気拡大を続け、2004年前半には雇用者数の大幅な増加も確認された。中国では2004年に入ってから一部業種について固定資産投資の過熱が発生し、これに対して引締め政策が実施される状況となったものの高水準の経済成長率が続いている。このような中国の景気拡大はアジア経済全体を押し上げる役割も果たしている。一方、ヨーロッパでは依然として緩やかな景気回復が続いている。世界経済の2004年の成長率は前年を上回り、3.8%程度となると見込まれる。
 2005年の世界経済は全体として成長率が低下し、3.4%程度となると予測される。これまで世界経済の回復を牽引してきたアメリカと中国の成長率の低下が世界経済全体に波及するものと見込まれる。本章では、2005年の経済見通しのポイントを地域別に検討する。検討においては民間機関の平均的な見方(10月10日までの公表分)を参考とした(第3-1-1表)。なお、国・地域別のより詳しい動向は別添の資料を参照されたい。

1.アメリカ

 2004年の成長率は4%台半ばと見込まれる。これは家計の堅調な消費が続く一方で好調な企業収益を背景に設備投資も増加し、景気拡大が続くことによる。
 2005年の見通しは3%台半ばに低下するものと予測されるが、依然として潜在成長率(米政府、議会予算局共に3.1%)を上回るとみられる。

●雇用は増加に転ずるも2004年前半の増加ペースは続かず
 アメリカ経済は2003年後半から高成長を達成してきたが、2003年中は経済成長に見合った雇用の増加に結びつかず、「雇用なき景気回復(ジョブレス・リカバリー)」とも表現される状態が続いた。これはIT化の進展等により労働生産性が上昇し、企業の労働需要が以前と比べ低く抑えられたことによる面もあったが、社会保障関係費等も含む雇用コストの上昇も雇用増に対して下押し圧力となったと考えられる。新規雇用は固定費を増加させることにつながるため、景気の先行きに対して企業が確信を持てないような局面では、新規雇用に対して慎重な姿勢をとっていたことによると考えられる。
 しかしながら、2004年に入ってから雇用の増加は確実なものとなり非農業者雇用者数でみると3、4月は2か月連続で30万人を上回る増加となった。しかし、この増勢には年後半に入り陰りが見られ、以前ほどの高成長が期待できないなか、今後の雇用情勢が注視される。

●高騰した原油価格
 原油価格の動向をWTI(スポット取引価格)でみると、それまで30ドル前後で推移していたのが、2004年春以降40ドルを超える水準にまで上昇し、10月には50ドルを超える高価格となっている。このような原油価格の上昇は、マクロベースでの産油国への所得移転、原材料・中間財価格の上昇を通じたインフレ圧力の高まりなどの経路を通じて、経済に悪影響を与えることが懸念される。
 これまでのところ、原油価格の高騰を直接の原因とした経済の失速という状況には至っておらず、2004年を通じた成長率も潜在成長率を上回る伸びが見込まれている。この要因としては、過去のエネルギー危機の時に比較して経済全体のエネルギー効率が改善したこと、原油の相対価格が低下していることなどが指摘されている。これまでのところ原油価格の上昇がコア・インフレを押し上げているという兆候はないが、高水準の原油価格が今後のアメリカ経済に与える影響については注視する必要がある。原油価格の高騰が長引けば、消費者や企業のマインドに対する悪影響も懸念され、これが個人消費や設備投資、雇用の増加等への下押し圧力として作用すると、成長率のさらなる低下につながるおそれもある。


2.アジア

 2004年前半は中国を中心に景気拡大が続いた。2005年は中国、アメリカの景気減速もあり、アジア経済全体も減速するものと予測される。

 (1)北東アジア(中国、韓国、台湾、香港)

 2004年の見通しは7.3%程度と見込まれている。中国の景気拡大がけん引する姿となっている。
 2005年は6.6%程度に減速が見込まれる。これまでアジア経済の景気拡大を支えてきた中国の減速とともに韓国なども減速が見込まれている。

●高成長が続く中国
 2004年の成長率は8.8%程度が見込まれる。2003年からの景気の拡大が続くなかで鉄、アルミ、セメントなど一部業種に過熱が生じ、2004年前半には固定資産投資全体の前年比伸び率が40%を超える状態となり、原材料価格の高騰、電力供給不安の懸念などをもたらした。過熱業種での非効率な過剰投資に対する懸念などから政府当局は引締め策を実施し、固定資産の伸びは減速へ向かった。引締め効果はマクロ面にも波及し、鉱工業生産やマネーサプライなども年初に比べると伸びは鈍化を示した。こうした動きは政策当局の意図した引締め政策の効果として評価される一方で、マクロ面での引締めが過熱している業種以外にも広く及び過度の効果が出ているとの懸念もある。
 経済成長率は2004年前半までは依然として10%近い伸びを続けたものの、2005年は8.1%程度に減速すると予測されている。
 台湾、香港は中国向けの好調な輸出等に支えられる形で景気は拡大を続けている。2004年の成長率は台湾は5.5%、香港は6.1%と見込まれている。しかし、2005年は中国経済の減速に連動しながら台湾、香港ともに4%台半ばまで減速すると予測される。

●景気回復が続く韓国
 2003年末にかけて持ち直しの動きが見られた韓国は、2004年春頃から回復局面に入った。中国向けの輸出増加に支えられた外需依存型の回復となっており、クレジット・カード債務を抱えた家計部門の消費回復の動きは依然として鈍いものとなっている。輸出向けの生産が増加しているもののそのための投資財、原材料などは輸入に依存する面が強く、自律的な回復の姿とは言い切れない状況が続いているものの、2004年の成長は5.1%程度と見込まれる。
 2005年は、中国、アメリカ経済の減速からIT関連輸出の伸びの鈍化が見込まれており、韓国の成長率も4%台後半に減速が予測される。

 (2)ASEAN:
  シンガポール、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン


 2004年の成長率は5.8%程度になると見込まれている。2005年は4.8%に低下すると予測される。

●地域全体で景気は拡大
 シンガポールはアメリカ、中国向けの輸出が増加するなかで景気の拡大が続き、雇用に回復の兆しがみられ、2004年の成長率は7.4%程度が見込まれる。2005年は輸出の伸びの鈍化等から4.5%へと減速が予測される。
 タイでは鳥インフルエンザや南部の治安悪化などから2004年前半に消費マインドの低下がみられたが、好調な生産に支えられた設備投資の増加を反映し、全体としては景気は拡大している。2004年の成長率は6.4%、2005年は5.8%となると見込まれる。
 インドネシア、マレーシア、フィリピンでも景気は拡大している。これらの国では、アメリカ、中国向けの輸出が好調で景気を押し上げている。2004年中は景気の拡大が続くものの、2005年には減速が予測される。


3.欧州4か国
(ヨーロッパ4:ドイツ、フランス、イタリア、英国)


 欧州では、アメリカ、アジアの景気拡大には遅れながらも、緩やかな回復を続けている。他方、英国は堅調な回復を示している。

●外需依存型の回復を示すユーロ圏
 ユーロ圏では、フランスでは好調な消費等を背景に内需中心の景気回復がみられる一方で、ドイツ、イタリアでは外需中心の緩やかな景気回復にとどまるなど、域内での回復にはばらつきが見られる。ドイツでは構造改革が進む中で消費者の将来に対する不安が払拭されにくい状況となっていることなどから個人消費の低迷が続いており、景気回復の力強さが欠ける要因となっている。
 ユーロ圏の2004年の成長率は前年の0.5%から1.7%程度に加速すると見込まれる。2005年の成長率は2.1%程度と予測される。

●堅調な回復が続く英国
 好調な消費を背景に英国は堅調な景気回復が続いている。一方、良好な雇用環境とともに、これまで消費者マインドを押し上げる方向に働いてきたと考えられる住宅価格の上昇は沈静化の動きを示している。2004年には3.3%の成長率が見込まれるが2005年は2.7%程度まで減速が予測される。


4.世界経済の概観

 以上の地域別の動向を総合すると、日本にとって関係の深い世界経済全体としては、2004年は3.8%程度と前年より高い成長になると見込まれる(第3-1-2図)が、2005年は減速し3.4%程度に低下すると予測される。また消費者物価上昇率は2004、2005年ともに2.5%程度で安定した動きになるとみられる。
 地域別に過去10年のトレンド成長率と2005年の成長率を比較すると、成長達成度(2005年の成長率/過去10年の平均成長率)はアメリカ、北東アジア、ASEAN、ヨーロッパ4すべての地域でおおむね1程度と、すなわち、世界経済全域で過去のトレンドに沿った成長率を達成することになると予測される(第3-1-3図)。
 この結果、2005年の中心シナリオとしては、アメリカ経済が潜在成長率をやや上回る3%台半ばの成長となるなかで、アジアや欧州も過去の平均的な成長率を実現するという姿になると考えられる。
 しかしながら、世界経済を取り巻く環境には幾つかの下方リスクがある。これらによっては上記の中心シナリオの実現が難しくなる場合もあり得よう。

●リスク1:原油価格高騰の継続
 原油価格は、需要面を見ると、好調な経済を反映した中国やアメリカのエネルギー消費の増加を反映して需要が増加する一方、現在の原油生産施設を前提とする限り、原油生産余力が限界に近づきつつあり、投機的な動きによる価格上昇が発生しやすい状況となっている。こうしたなかで原油産出国の政情不安などの要因も重なり、WTIスポット価格でみると2004年10月には50ドルを超える水準にまで上昇し、過去最高水準を更新する状況となった。国際エネルギー機関(IEA)によるマクロ経済モデルを用いたシミュレーションでは、原油価格が10ドル上昇することにより世界経済の成長率を1/2%程度押し下げるとされている。ただし、これまで予想されていなかったような高水準の原油価格が持続すると、消費者マインドの悪化などを通じてさらに各国経済の成長を押し下げるようなおそれもあり、今後の動向に注視する必要がある。

●リスク2:アメリカ経済の急減速
 2004年のアメリカ経済は金利引上げ局面にあるものの、引上げは市場との対話の中で慎重なペースで進められており、引き続き個人消費、設備投資などの内需中心の成長を続けるものと見込まれる。しかし、ほとんどゼロに近い貯蓄率の下、追加的な減税も期待しにくく、一層の消費拡大を見込むことは難しい。また、金利上昇のペース等によっては、これまで上昇が続いた住宅価格の急激な調整がおこり、逆資産効果等を通じ消費に対して悪影響を与えることもあり得る。また、雇用の増加ペースが予想を下回るような場合も、所得の伸びが鈍化し、消費に悪影響を及ぼす可能性がある。このような形で個人消費が失速するような場合には、下支えを失ったアメリカ経済が急減速し、これが世界経済に波及するおそれがある。

●リスク3:中国経済の急減速
 中国経済は一部業種の過熱に対する引締め措置がとられ2004年前半には急増した固定資産投資の伸びが低下した。しかしながら地方での引締め効果については確認が難しく、政府当局は依然としてマクロ的なコントロールは続くことを示唆している。もしマクロ的な引締め効果が問題となっているような過熱業種以外に過度に影響を与える場合には、中国経済全体の成長率の急低下として現れるリスクが懸念される。この場合、特にアジア経済のけん引役を果たしてきた中国向けの輸出の減速を通してアジア経済全体への波及効果が懸念される。

●リスク4:為替レートの急速な調整
 アメリカの「双子の赤字」は依然として解消されておらず、その規模をみても短期間に解消されることを見込むのは難しい状況となっている。ドルについては、現在の好調なアメリカ経済を背景に、大幅かつ急激な調整が起こることは見込まれてはいない。しかしながら、為替の動向は市場の期待に大きく左右されがちであることから、アメリカ経済に対する市場の見方が変化し、アメリカの巨額の経常赤字が急激なドル安により調整される方向で進むことになれば、これまで世界経済をけん引してきたアメリカの家計の購買力が低下することなどにより、世界経済の成長を急減速させるおそれもある。


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