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第1章のポイント

1.急速なグローバル化の進展により国際競争が厳しさを増すなか、競争力の源泉としてイノベーションが不可欠

●急速なグローバル化、IT化の進展により厳しさが増す国際競争に勝ち残るため、企業・国家戦略に対する関心が高まっている。国内に存在する企業が付加価値の高い製品を提供し長期的に国民生活水準を向上していくような環境を作りだすことが、国としての競争力を向上させることとなる。産業レベルでは、国際的に競争力の強い産業等、各国が有する資源を踏まえて得意分野の競争力を伸ばす戦略が有効と考えられる。
●ミクロレベルで競争力を担う主体は企業であり、競争力のある企業は国際競争に生き残ることができる。こうした企業の競争力、優位性の源泉は、イノベーションの創出にある。

2.イノベーションの創出と競争優位の向上に寄与するクラスター

●競争力の源泉として「クラスター」に注目が集まっている。クラスターとは、地域に集積した企業、大学、研究機関等が、多層的なネットワークを形成し、協調と競争関係の中でダイナミックにイノベーションを創出し、地域の競争力を高めている仕組みである。
●クラスターの中では企業や大学がネットワークでつながっていることが信頼と連携を強め、知識のスピルオーバーや暗黙知の共有・活用を通じてイノベーションを創り出している。
●クラスター形成の過程で政府が重要な役割を果たした成功例は少なくない。外部経済性を有するネットワーク形成への政府による支援はクラスター形成促進の中心となる機能を持つ。さらに、研究開発や産学官連携に対する公的資金の供給等も重要な役割を果たす。政府は過度の干渉を避けながらクラスターが自律的に発展する道筋をつける役割が期待される。

3.海外でのクラスターの形成と発展:成功事例に共通すること

●クラスターの形態は多様性に富んでいる。既存の産業集積を基に発展した内発型クラスター、政府が形成の初期に関与した外発型クラスターがある。海外の成功事例の共通事項として指摘できるのは、(1)長期間にわたって目標となるビジョンが共有され、プロジェクトをけん引する中心人物が存在したこと、(2)クラスター内のネットワーク活動を支える支援組織が有効に機能したこと、(3)中小企業向けの政策支援策が効果的に活用されたこと、等が挙げられる。

4.イノベーション創出型中小企業向け政策支援

●中小企業向けの政策的な支援には、起業段階から事業化まで様々な局面を通じて、資金調達、技術移転、政府調達等多様な支援手段が挙げられる。これらの支援策はクラスターのような集積に属する中小企業群に対して戦略的に投入されることでより一層大きな効果を生むことができる。
●クラスターのダイナミックな発展を支える手段として、起業を促す仕組みであるインキュベーションの重要性が増している。海外においては、質の高いインキュベーション・マネージャーが起業の成功の鍵を握る存在であることが広く認識されている。
●創出されたイノベーションを事業化にまで結びつける公的支援策の在り方としてはアメリカのSBIRのような工夫も必要と考えられる。


第1章 競争力の源泉としてのクラスター:産業集積からクラスターへ

 急速なグローバル化の進展により国際競争は厳しさを増している。こうした環境の下で競争力の源泉としての地域における産業集積が注目されている。
 「クラスター」という概念で整理される地域に集積した企業、大学、研究機関等の集合体は、イノベーション(1)の創出を通じて地域の競争力を高めている。このようなクラスターは企業や大学が多数存在するだけでは成立しない。地域内部で企業を中心とする多層的で有機的なネットワークが形成され、協調と競争関係の中でダイナミックにイノベーションが創出される状態がクラスターであり、世界的にもこのようなクラスターの実態の解明が進みつつある。
 クラスターを構成する企業の中でもベンチャーも含む中小企業群の果たす役割は大きい。クラスター内の中小企業は産学官の連携を通じた研究開発の成果を活用する主体である。一方、世界的にイノベーションの担い手としての中小企業は着目されており、インキュベーション(2)、研究開発、資金供給等、様々な局面での中小企業支援策が展開されている。こうした支援策もクラスターという環境の下でより一層充実した効果を上げることができると期待されている。
 本章では国際競争という観点からのクラスターの位置付けを整理し、海外のクラスター展開の実例を紹介した後で、クラスター環境の下での中小企業支援策の在り方について考察する。


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