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まえがき

 「世界経済の潮流」は2002年春に創刊し、年2回公表しています。第4号にあたる本書は3章から構成されています。第1章では2003年央に上昇した長期金利の特徴を分析し、金融政策の新しい課題を明らかにしました。第2章では世界各国の景気回復力に違いをもたらした消費の動向について検討しました。第3章では2004年の見通しを中心に世界経済の展望を行いました。さらに、資料として国・地域別の経済見通しを掲載しています。
 本書のポイントは次のように要約できます。
 (1)長期金利:2003年6月以降、アメリカの長期金利は上昇に転じました。過去の長期金利上昇局面と比較すると、これまでの上昇は、アメリカ経済の見通しの改善によるものであり、インフレ期待の芽生えではないという特徴があります。長期金利は市場で形成される期待によって変動するため、金融政策においては、透明性を高め、対話を通じて市場の期待に働きかけることが重要となっています。2003年度に我が国でも発行される物価連動債は、期待インフレ率に関する重要な情報を提供してくれるものです。今後、物価連動債が、その市場の厚みを増すことにより、金融政策において活用されることが期待されます。
 (2)消費:2001年の世界同時不況後、世界各国は2002年から景気回復局面に入りましたが、その回復力には違いがみられました。アメリカ、イギリス、カナダでは消費が底堅かったため、景気回復力は他の先進国と比較すると強かったといえます。本書ではなぜこれらの諸国で消費が底堅かったのかを所得、資産の動向から検討しました。これら諸国では、一時的に所得が減少しても将来にわたる所得の増加の見込みが低下しなかったことや、住宅価格の上昇が信用供与の増加を通じて消費を支えた側面があったことが分かりました。アジアでは、中国とタイで消費が堅調に増加し、景気が拡大しています。その大きな要因として、雇用の増加に伴い、所得が増加していることが挙げられます。
 (3)世界経済の展望:2003年4月のイラク戦争終了とともに先行き不透明感が払拭され、景気回復の展望が開けました。アメリカでは、企業部門にも回復がみられるようになり、2003年後半には年率4%台の成長が実現されると見込まれています。アジアでは新型肺炎の流行により2003年前半に一時的に景気減速の動きがみられましたが、中国やタイを中心に景気は拡大しています。一方、ヨーロッパの景気はユーロ高の影響などにより停滞しています。2004年は、アメリカが世界経済を牽引することにより、アジアでも成長率が一層高まり、ヨーロッパにおいても輸出の増加を通じて景気が回復することが期待されます。
 長期金利や消費の動向、さらには世界経済の展望について理解を深めていただく上で本書が一助となれば幸いです。

 平成15年10月

内閣府 政策統括官(経済財政分析担当)
谷内 満       

 

 


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