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まえがき

 「世界経済の潮流」は、世界から日本経済や政策運営にとって意義深いトピックを取り上げ、政策論議に貢献することを目的として、本年春に創刊しました。秋号では、第I部で中国経済と欧州の年金改革に焦点をあてました。中国経済には脅威であるとの見方、先行き悲観の見方があり、今後の行方に大きな関心が寄せられています。また、年金については、2004年改正を控え我が国で活発な議論が続いています。
 本書の分析による主要な結論は、次のように要約できると思います。
 第一の中国経済については、改革を通じてWTO加盟による便益を速やかに手にすることができれば、今後も高成長の持続が可能であると考えられます。
 中国は78年以降の改革開放政策の下で年平均9%の高成長を実現し、「世界の工場」の地位を獲得しました。中国の高成長をもたらした最も大きな要因は、90年代に急拡大した直接投資の流入です。それが、非国有部門の資本形成、技術移転を通じた生産性の向上を通じて経済成長に大きな役割を果たしました。WTO加盟を踏まえ2010年を見通したシナリオを考えると、投資が加速する場合には今後年平均8〜9%の成長も達成可能と考えられます。
 第二の欧州の年金改革については、スウェーデンの事例が日本に示唆を与えています。
 ドイツとスウェーデン両国とも急速な少子高齢化に直面し、現役世代に年金負担が重くのしかかり、年金制度の持続可能性が問題となっています。ドイツでは90年代の度重なる改革の後、2001年にも改革が行われ、給付水準の引き下げ、保険料率の長期的な抑制、助成金を付与した貯蓄奨励策等が実施されています。しかし、年金に対する国民の不信感は払拭されていません。
 スウェーデンでは99年に大改革が実施され、概念上の拠出建て賦課方式という新しい制度を導入し、制度の安定性を確保すると同時に信頼回復を図りました。ポイントとしては、負担と給付の対応を図り保険料率を長期に固定したこと、さらに、将来を見通して年金財政が不均衡に陥る場合には給付水準を自動的に引下げるメカニズムを組み込んだことが挙げられます。新制度はまだ導入されたばかりですが、日本の改革にとっても学ぶ点があると考えられます。
 さらに、第II部では今後の世界経済の展望を行いました。2002年前半の世界経済を牽引したアメリカ経済は、後半には回復力が弱くなっています。その大きな要因は、企業部門の調整の遅れから投資の回復が大幅に遅れ、雇用なき回復が続いていることが挙げられます。こうしたことから世界経済は2003年にかけて緩やかな回復にとどまり、2003年後半に向けて成長率が高まる姿が中心シナリオになると見込まれます。
 中国経済や年金改革について理解を深めていただく上で本書が一助となれば幸いです。

平成14年11月

内閣府政策統括官
(経済財政−景気判断・政策分析担当)
岩田 一政

 

 

 


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