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第I部 海外経済の政策分析

パート1:中国経済5つのトピック

1.正念場を迎える国有企業改革

● 国有企業とは
 中国では計画経済の下で基幹産業を中心に企業の所有形態は全人民所有制とされ、これら国有企業(1)は中央から地方レベルまでの政府による管理監督の下で経営を行ってきた。しかし、1978年から改革開放政策に転じ、市場経済への移行が開始されると、集団所有制企業(労働者や農民、行政単位が共同出資・経営する企業)、私営・個人企業(民間資本が所有・経営する企業)、株式会社、外資企業等多様な企業形態が出現するようになった。こうした改革の進展とともに国有企業が工業生産額に占める比率は78年の77.6%から99年には28.2%(2)まで低下しているが、工業従業員数に占める比率は2001年で47.5%と大半を占めており、国有企業の経済的ウェイトは依然として大きい(トピック1-1図)。

● 改革の必要性
 国有企業の経営は1990年代に入ると市場競争の激化とともに急速に悪化した。98年には赤字企業数の比率が他の所有形態を上回る41.4%に達した(トピック1-2図)。国有企業の経営悪化の原因としては、以下のようなことが挙げられる。
 第一に、そもそも国有企業は政府の管轄の下で、地方経済の発展とともに雇用確保、従業員の福利厚生、社会保障機能の役割を担ってきた点である。このため市場競争の激化する中で高い労働コストが収益を圧迫した。国有企業が余剰人員を抱えていたことは、先に触れたように国有企業の生産シェアの大幅な低下の一方で、雇用者数の減少は緩やかであったことからもわかる。
 第二に、市場経済化への対応の遅れである。長年計画経済体制下にあった影響から、国有企業が生産した製品が市場の需要に合わなかったり、価格面での競争に敗れたりして在庫となって売れ残るケースが発生した。また、エネルギーや素材産業等では政策的な配慮から長く製品価格が低水準に押さえられ、赤字の原因となった。
 第三に、経営が悪化した場合でも、国有企業の整理は制限され、国有企業は国有銀行による融資で延命されてきた点である。このようなソフトな予算制約の下で、投資効率を無視した過剰投資が発生し、国有企業の赤字はますます拡大した。
 国有銀行の不良債権はこうした構造の下に発生しており、国有企業改革と不良債権処理は同一問題とみることができる。

● 改革方法
 こうした国有企業の業績の悪化に対して、90年代後半から以下のような方法を中心に改革が実施されている。
 第一の方法は、経営の悪化した国有企業の整理である。従来政府は国有企業の整理には慎重であったが、特に1997年から98年にかけて国有企業の業績が著しく悪化すると、朱鎔基総理の方針もあり経営不振企業については倒産や合併が加速した。同時に、余剰人員の整理も推進されるようになったが、解雇ではなく、レイオフ(一時帰休)の形がとられている。98年より、レイオフ対象者は3年間、企業内に設置された再就職サービスセンターに登録され、基本生活費が支給されるとともに、職業訓練、職業紹介を受ける。3年以内に再就職できない場合は、失業者となり失業保険制度の対象となる。実際にはレイオフされても再就職できる場合は少なく、また一部では国有企業の資金難から基本生活費の未払いや支払い遅延も発生している。政府は再就職サービスセンターを順次廃止し、最終的には失業保険制度へ一本化する方針であるが、失業者の大幅増に伴う失業保険給付額の急増が懸念されている。
 第二の方法は、国有企業の民営化である。これは国有企業の赤字により財政が悪化した地方政府による中小国有企業の民営化から始まった。95年に打ち出された「抓大放小(大をつかみ小を放つ)」(大企業に重点を置き、中小企業を自由化する)政策で中小企業の民営化は事実上容認された。97年の第15回党大会では「国有経済の戦略的調整」が打ち出され、民営化推進の方針が確認された。民営化方法としては、中小企業では当初従業員集団による買取りが行われた。しかし経営の再建より利潤の分配が優先されるなどの弊害が生じたことから、やがて主流は地元金融機関の支援を受けた経営幹部による買取りへと移っていった。大企業については、株式会社への改組・上場と、国有株の出資比率引下げの二段階による民営化が主流となっている。元来国有株の売却は厳しく規制されていたが、近年社会保障基金が資金不足に陥り新たな財源の開拓に迫られたことから、政府は売却代金を充当する目的で2001年6月に国有株の売却を発表した。
 第三の方法は、外資の導入である。大企業では政府の支援の下、基幹産業育成・競争力強化のための外資導入が進められており、自動車や家電メーカー等で外資との提携の動きが活発になっている。また、これまでは合弁が主流であったが、政府は外資による国有企業の買収も本格的に推進する方針である。

● 改革の成果
 政府は1998年、赤字の大中型国有企業を3年以内に黒字にするとの目標を掲げていたが、2000年末には97年末に赤字だった6,599社のうち、およそ7割を占める4,391社が黒字転換したと発表され、改革の成果が強調された。この要因としては、企業の閉鎖や合併、民営化による国有企業の減少、雇用調整等のリストラの進展によるところが大きいが、政府の景気刺激策の効果や原油価上昇に伴う石油製品価格の引上げ等外部環境の変化も挙げられる(トピック1-3図)。
 一方、デフレの進行が企業収益を圧迫しているとみられ、赤字企業比率は2001年に再び増加に転じるなど、企業を取り巻く環境は依然として厳しい。また、大型国有企業民営化に大きく貢献すると期待された国有株売却は、2002年6月に最終的に断念された。株式市場が未成熟なこともあり、売却発表後に需給悪化懸念が生じ株価が急落したことが原因であるが、売却の断念による民営化の停滞が懸念されている。
 今後、WTO加盟による競争激化が予想され、国有企業改革は正念場を迎えている。赤字企業数を減少させる意味で、改革はまずまずの成果を挙げているが、一方では失業者の増加等の弊害が生じており、改革の余地は依然として大きい。今後は非国有企業育成による失業者の吸収や、外資のさらなる積極的な活用による競争力強化が求められている。


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