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第I部第1章のポイント

1.海外からの直接投資を梃子に変貌を遂げた中国経済

●中国経済は、90年代に高成長を続け、工業製品の輸出を大幅に伸ばしたばかりでなく、ハイテク製品でも世界輸出に占めるシェアを拡大するなど、「世界の工場」へと変貌した。
●この背景には、90年代に急拡大した直接投資流入が、(i)非国有部門への資本形成、(ii)技術移転等による生産性の向上、を通じて経済成長に大きな役割を果たしたことがあると考えられる。
●こうした中で「中国経済脅威論」がみられるが、我が国ではやや過敏な反応も含まれている。

2.直接投資の呼び込みに貢献した政策と経済的条件

●直接投資が大幅に流入した政策的背景として、改革にあたり市場経済的な制度を徐々に導入することによって、安定的な経済成長を実現したことなどがある。
●特に、80年代から輸出志向の外資製造業の誘致を目的にとられた各種優遇措置は、加工・組立に特化した外資企業の進出を促した。
●さらに、92年の「南巡講話」を機に改革開放政策が加速され、外資企業は国内市場志向の製造業や不動産業、東部のみならず中西部などにも進出した。
●経済的条件としては、国際的にも安い人件費、13億の人口を背景に消費規模の拡大余地が大きいこと、があげられる。農村部の過剰労働力と都市部への人口流入を考慮すると、いずれの条件も容易には失われない見込み。

3.デフレ圧力は継続する可能性

●98年以降続く全国的なデフレ傾向は、国有企業による過剰な生産や過剰な労働力の存在といった、経済の供給面に主因がある。こうした供給面の問題は早期の解決が難しく、今後もデフレ圧力は続くと考えられる。
●90年代の直接投資流入の拡大にもかかわらず、国有企業の硬直的な生産や過剰な雇用体制は比較的温存されている。
●WTO加盟にともない、より多様な外資企業の進出、輸入関税率の引下げ、非関税措置の削減・撤廃が見込まれる。国有企業や農業部門は国際競争に晒されることとなり、大量の失業者が発生すれば、デフレ圧力を高める可能性がある。

4.2010年までの中国経済に考えられる2つのシナリオ

●直接投資の流入が急拡大した90年代前半には外国資本が成長に大きく寄与。
●90年代の経済成長に国内外の資本が経済成長に果たした役割をもとにすると、投資加速シナリオでは今後の10年に年平均8〜9%の成長が達成可能と見込める一方、投資停滞シナリオでは5〜6%の成長にとどまる可能性もある。
●WTO加盟により、これまでの漸進的な手法に比べて急速な国内経済改革の必要性が高まっている。WTO加盟の便益を速やかに手にするために、さらなる市場経済システムの活用を推し進められるかが鍵。


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