豊かで安心できるくらし部会報告

豊かで安心できるくらし部会報告(概要)


1 基本的考え方

1) 21世紀に向けた「豊かで安心できるくらし」と社会

《くらしの不安と期待》
くらしの不安
  •  少子・高齢社会の本格的な到来→働き盛りの人口減少、深刻化する介護問題への対応など漠然とした不安
  •  近年の経済成長鈍化、国際競争激化や急激な円高→産業・雇用の空洞化の懸念
  •  阪神・淡路大震災の経験→自然災害への備えに対する不安
くらしの期待
  •  少子・高齢社会の進展がもたらす人口構成の変化→女性や高齢者など意欲あるすべての人が社会の主役として社会参加や自立の機会を手にする可能性
  •  高度情報通信社会の到来→くらしの中で情報化の便益を享受
  •  くらしのグロ-バル化→さまざまな文化にふれる機会や消費生活の充実など

→現在から将来にかけて存在するくらしの不安を解消し、真の豊かさを実感できる「豊かで安心できるくらし」を実現する。

《21世紀に向けた「豊かで安心できるくらし」を実現する社会》
  •  個人が自立・成長し、自己責任の下に多様な選択を行い、一人一人の個性が尊重され、その能力が活かせる社会
  •  自立した個人が人々の繋がりのなかで連帯し、多様な役割を持って参加する社会
  •  実現された経済力の成果が国民一人一人の生活に反映される社会
  •  地球社会と共生し、自然のめぐみや文化を大切にする社会

2) 「豊かで安心できるくらし」の課題

 「豊かさ」には、経済活動の成果に加えて、文化の創造・享受、充実した日常生活の営み、旬の食べものやおいしい水に恵まれたくらし、環境への負荷が少なく循環を基調とし自然・生物と共に生きる生活、美しい風土、静謐な生活環境、慈愛や奉仕といった社会活動の成果が含まれる。
 「安心」には、健康の維持、治安、安定した収入、セ-フティネットとしての社会保障、くらしの基盤である住宅や社会環境などの平常時の安心に加えて、災害に対する予防対策や災害時の迅速な対応が含まれる。

→1)個人の対応、2)人々の助け合いや協調による対応、3)企業や政府をはじめとした社会全体による対応を適切に組み合わせることによって実現
→「豊かさ」と「安心」は表裏一体のものであり、豊かさが安心を生み、安心が豊かさを育てる。20世紀のラストステ-ジを生きる私たちは、「豊かさ」と「安心」を確固たるものとし、これを将来の世代に確実に引き継ぎ、世代を越えて分かち合えるものとする義務がある。

2 柱となる施策

(1) 「男女共同参画社会」など「意欲あるすべての人が社会参加できる社会の実現」のための方策

  •  男女の固定的役割の見直し
  •  男女の職業生活と家庭生活との両立支援(育児休業制度、介護休業制度等)
  •  高齢化に対応した雇用環境の整備等(65歳までの継続雇用等)

(2) 家庭時間、労働時間、地域時間のバランスのとれた「ゆとりある生活時間と自己実現確立」のための方策

  •  年間総労働時間 1,800時間の達成・定着→年次有給休暇の取得促進、完全週休二日制の普及促進、所定外労働の削減
  •  創造的・自律的かつ効率的働き方→裁量労働制の対象業務拡大、フレックスタイム制の普及
  •  ゆとりある通勤の実現(2000年には東京圏の鉄道混雑率を180%程度に改善)
  •  自由な生活時間の充実→ボランティア活動、生涯学習、文化環境の整備

(3) 自助、共助、公助の適切な組合わせによる「自立のための社会的支援システムの構築」のための方策(国民、企業、政府が適切に対応)

  •  健康の維持、寝たきり防止など、社会的支援ニーズの発生そのものの抑制

<国民の対応>

  •  健康の知識、簡単な介護技術の習得、住宅のバリアフリ-化等自助能力の向上
  •  ボランティアやNPO(民間非営利団体)の活動の支援
  •  利用者負担の適正化、能力に見合った公平かつ適正な負担

<企業の対応>

  •  企業の社会的支援サ-ビス市場への取組み支援
  •  企業の社会貢献活動の促進

<公的部門の対応>

  •  雇用、年金、医療・保健、福祉、住宅施策等の連携及び資産や所得等の適正な活用による社会的支援サ-ビスの充実(自立した生活を送るために必要な基礎的部分への公的サ-ビスの充実等)
  •  高齢者保健福祉、子育てにかかる総合的な社会的支援の基盤整備
  •  社会的支援における地方の役割重視、措置制度の再検討

<給付と負担>

  •  社会全体の負担の抑制(予防的施策の充実、各施策の連携による効率化)
    ←租税や社会保険料等の公的負担と民間サ-ビス購入や家族が介護等を行う私的負担を総合的にとらえる必要

(4) 国民の生命を守る観点からみた地震、台風、火山噴火、異常渇水等の「災害に備えたくらしづくり」のための方策

  •  人命救助を第一とし、予防、応急、復旧、復興の各段階を念頭においた災害対策の実施
  •  首都の防災性の向上(首都圏における都市防災構造化、首都機能移転の積極的検討、分散型国土構造の形成)
  •  今後の震災対策の方向(発災時の情報収集等、災害救助、ボランティア活動の支援、災害復旧・復興、国土・まちづくり、防災マニュアル、国際協力、調査研究等

(5) 規制緩和、競争政策の促進などによる「消費生活の充実のための内外価格差是正・縮小」のための方策

  •  規制緩和の推進、競争政策の積極的展開(独占禁止法の厳正な運用)
  •  適切な公共料金政策(料金の多様化、弾力化等)
  •  輸入・対内直接投資促進等

(6) モビリティを確保し、情報通信インフラを整備する等「地域の多様性に応じた社会環境等の整備」のための方策

  •  社会資本整備の推進→公共投資基本計画の着実な実施
  •  社会資本の整備目標
     1)快適な生活環境の形成、2)安全で安心できる生活の確保、3)新しい日本経済の発展基盤の構築の政策目的に資する社会資本の整備や各地域における政策目的に資する整備
  •  地域の特性に応じた個性豊かな社会資本の整備等

(7) 生活の質の向上を目指した「ライフスタイル等の多様性に応じた住宅及び住環境の整備」のための方策

  •  良質で多様な住宅ストックの形成
  •  資産形成よりも利用面を重視した住宅選択
  •  職住が近接したゆとりあるくらしの実現
      ←都心居住の推進(160万戸の供給目標)
      ←業務機能の地方分散等の多極分散型国土形成の推進
  •  良好な住環境の形成←良好な宅地供給、住民の参加

(8) 環境配慮を内在化した経済社会システムを構築するなど「環境と調和したライフスタイルの確立」のための方策

  •  ごみゼロ社会の構築→容器包装の事業者責任によるリサイクルの実施等
  •  地球温暖化問題を踏まえた省エネに向けたライフスタイルの確立
  •  くらしの中の環境配慮が生きる経済社会システムの構築

豊かで安心できるくらし部会報告

- 目 次 -

I.21世紀に向けた「豊かで安心できるくらし」の実現のための基本的方向

1.豊かで安心できるくらしと社会
(1)くらしの不安と期待
(2)21世紀に向けた「豊かで安心できるくらし」を実現する社会
2.「豊かで安心できるくらし」の実現に向けた政策課題
(1)「豊かで安心できるくらし」の課題
(2)豊かで安心できるくらしの8つの要素
(3)豊かで安心できるくらしの実現のための政策の総合化

II.豊かで安心でき、自己実現ができる社会と生活に向けた具体的施策

1.意欲あるすべての人が社会参加できる社会の実現
(1)施策の基本的な考え方
(2)女性の社会進出に対応した雇用環境の整備
(3)高齢化に対応した雇用環境の整備
(4)障害者の雇用促進のための環境整備
(5)社会参加を行うための自己啓発支援
2.ゆとりある生活時間と自己実現確立のための方策
(1)施策の基本的な考え方
(2)ゆとりのための労働時間の短縮
(3)ゆとりある通勤の実現
(4)自由な生活時間の充実
3.自立のための社会的支援システムの構築
(1)施策の基本的な考え方
(2)国民の対応
(3)企業の対応
(4)公的部門の対応
(5)公平かつ適切な給付と負担のあり方
(6)情報通信システムや技術革新の動向を踏まえた社会的支援の充実
4.災害に備えたくらしづくりのための方策
(1)施策の基本的な考え方
(2)阪神・淡路地域の復旧・復興への政府の取組み
(3)東京一極集中の是正・全国的視野にたった分散型国土構造の形成
(4)今後発生が予想される災害への取組み
5.消費生活充実のための内外価格差是正・縮小
(1)内外価格差是正・縮小の基本的な考え方
(2)内外価格差是正・縮小のための施策
6.地域の多様性に応じた社会環境等の整備
(1)施策の基本的な考え方
(2)社会資本整備の推進
(3)大都市圏における豊かなくらしの実現
(4)地方都市における豊かなくらしの実現
(5)中山間地を含む農山漁村における豊かなくらしの実現
7.ライフスタイルの多様性に応じた住宅及び住環境の整備
(1)施策の基本的な考え方
(2)生活者の多様なニーズに応じた良質な住宅及び住環境整備
(3)都心居住の推進
(4)良好な居住環境の形成
8.環境と調和したライフスタイルの確立のための方策
(1)環境と調和したライフスタイルの確立に向けた基本的な考え方
(2)ごみゼロ社会の構築
(3)省エネに向けたライフスタイルの確立
(4)くらしの中の環境配慮が生きる経済社会システムの構築


I.21世紀に向けた「豊かで安心できるくらし」の実現のための基本的方向

1.豊かで安心できるくらしと社会

(1) くらしの不安と期待

 21世紀に向け我が国国民のあいだには、くらしの不安とともに将来のくらしへの期待が混在している。
 少子・高齢社会が本格的に到来する中で、働き盛りの人口の減少、深刻化が予想される介護問題への対応など、漠然とした不安が指摘されている。また、我が国は近年、経済成長の鈍化、国際競争の激化や急激な円高による産業・雇用の空洞化の懸念、阪神・淡路大震災などの自然災害への備え、無差別テロ事件の発生や頻発する銃器を用いた凶悪犯罪に対する不安などの問題に直面している。さらに地球環境問題への対応も迫られている。
 他方、少子・高齢化の進展がもたらす人口構成の変化を背景に、女性や高齢者など意欲あるすべての人が社会の主役として社会参加や自立の機会を手にすることが可能になり、また、高度情報通信社会の到来により、誰もが情報化の便益を享受できるようになるとともに、人的・経済的な国際交流の活発化によるくらしのグローバル化により、さまざまな文化に触れる機会や消費生活の充実が図られるなど、国民の将来のくらしへの期待も高い このような21世紀に向けたくらしに対する不安と期待は、いずれも現在の我が国社会に根ざしているものである。これからの社会とくらしの変化を展望しつつ、現在から将来にかけて存在するくらしの不安を解消し、真の豊かさを実感できる「豊かで安心できるくらし」を実現する必要がある。

(2) 21世紀に向けた「豊かで安心できるくらし」を実現する社会

 「豊かで安心できるくらし」がどのようなものかは、もとより一概に決定することはできないが、自由で活力ある経済社会の創造と密接な関係を有するものである(別添「21世紀のくらしのビジョン」参照)。このような「豊かで安心できるくらし」は、くらしの主役である個人一人一人の尊重からはじまることが基本であり、次のような社会において実現されると考えられる。
(i)個人が自立・成長し、自己責任の下に多様な選択を行い、一人一人の個性が尊重され、その能力が活かせる社会
(ii) 自立した個人が人々の繋がりのなかで連帯し、多様な役割を持って参加する社会
(iii) 実現された経済力の成果が国民一人一人の生活に反映される社会
(iv) 地球社会と共生し、自然のめぐみや文化を大切にする社会

2.「豊かで安心できるくらし」の実現に向けた政策課題

(1) 「豊かで安心できるくらし」の課題

 「豊かで安心できるくらし」を構成する「豊かさ」と「安心」には、 (i)心の豊かさ老後や不測の事態への備えなど個人一人一人が対応して実現するもの、 (ii)家庭生活の幸福、地域の人々の助け合い、地域文化の醸成など人々の協調の中で実現するもの、 (iii) 活力ある経済活動の成果であるストックとフロ-の充実、社会の連帯で支えられる
 社会保障の充実、社会資本の整備、環境と調和した持続可能な経済社会システムの基盤づくりなど企業や政府をはじめとした社会全体で対応して実現するものがある。これらを適切に組み合わせて「豊かで安心できるくらし」の実現に向けて取り組む必要がある。
 また、「豊かさ」には、経済活動の成果に加えて、文化の創造・享受、充実した日常生活の営み、旬の食物やおいしい水に恵まれたくらし、環境への負荷が少なく循環を基調とし自然・生物と共に生きる生活、美しい風土、静謐な生活環境、慈愛や奉仕といった社会活動の成果が含まれ、「安心」には、健康の維持、治安、安定した収入、セ-フティネットとしての社会保障、くらしの基盤である住宅や社会環境などの平常時の安心に加えて、災害に対する予防対策や災害時の迅速な対応が含まれると考えられる。
 これらの「豊かさ」と「安心」は表裏一体のものであり、豊かさが安心を生み、安心が豊かさを育てるものということができる。20世紀のラストステ-ジを生きる私たちは、「豊かさ」と「安心」を確固たるものとし、これを将来の世代に確実に引き継ぎ、世代を越えて分かち合えるものとする義務があると考えられる。
 また、ソフト(社会制度、社会参加の機会)・ハ-ド(社会資本、生活環境整備)の両面において、文化の視点を盛り込むとともにさまざまな障害を除去するくらしのバリアフリ-化を進め、豊かで安心できるくらしへの配慮がゆきとどいた社会を目指す必要がある

(2) 豊かで安心できるくらしの8つの要素

 豊かで安心できるくらし部会では、21世紀に向けた「豊かで安心できるくらし」を実現するため、次の8つの施策を検討した。

1) 「男女共同参画社会」など「意欲あるすべての人が社会参加できる社会の実現」のための方策
2) 家庭時間、労働時間、地域時間のバランスのとれた「ゆとりある生活時間と自己実現確立」のための方策
3) 自助、共助、公助の適切な組合わせによる「自立のための社会的支援システムの構築」のための方策
4) 国民の生命を守る観点からみた地震、台風、火山噴火、異常渇水等の「災害に備えたくらしづくり」のための方策
5) 規制緩和、競争政策の促進などによる「消費生活の充実のための内外価格差是正・縮小」のための方策
6) モビリティを確保し、情報通信インフラを整備する等「地域の多様性に応じた社会環境等の整備」のための方策
7) 生活の質の向上を目指した「ライフスタイルの多様性に応じた住宅及び住環境の整備」のための方策
8) 環境配慮を内在化した経済社会システムを構築するなど「環境と調和したライフスタイルの確立」のための方策
(3) 豊かで安心できるくらしの実現のための政策の総合化

 豊かで安心できるくらしの実現のためには、個々の政策手段が自己目的化した政策展開に陥ることを避け、関連する施策の連携・総合化を図ることが必要である。
 例えば、「労働時間」と「余暇の活用」、「就業」と「育児・介護」、「高齢者政策」と「住宅政策」、「福祉」と「生涯学習」、「医療・介護」と「機器の技術開発」、「都市・住宅政策」と「通勤問題」、「都市と農山漁村の生活環境整備のバランスのとれた推進」、「良質な水資源の確保」と「安全でおいしい水の供給」、「製造物責任制度を中心とした総合的な消費者被害防止・救済の推進」等々、省庁別の個々の施策分野を超えた施策展開に留意することが重要である。

II.豊かで安心でき、自己実現ができる社会と生活に向けた具体的施策

1.意欲あるすべての人が社会参加できる社会の実現

(1) 施策の基本的な考え方

 意欲あるすべての人が社会参加できる社会をつくりあげるためには、就業、ボランティア活動など個人が自らの能力・趣向に応じて社会参加を選択することのできる機会や環境を社会システムとしてすべての人に対して確保することが重要である。様々な選択肢の中から、年齢、性別等により制約されることなく、自発的に社会参加する方法を選択し、社会参加の機会を活用することにより、自己実現を達成し、満たされた豊かなくらしを送ることができる。
 一方、こうした社会参加を選択し、その機会を個人が活用できることによって、個人の潜在力を開花させることになる。さらにこれらの潜在力の結集が、例えば就業による社会負担力、ボランティア活動・地域活動の活力の増大と形を変え、社会を全員で支えあっていく共生社会を構築する原動力となる。
 今後、社会参加に対する選択とその機会を保障するためには、男女の固定的役割の見直し、女性の能力発揮等により男女共同参画社会の実現を図るとともに、高齢者や障害者の社会への参加を積極的に図る必要がある。このため、雇用期間、勤務形態等様々な就業形態を視野に入れた、年齢・性別の如何を問われることのない雇用環境の整備、社会参加を行うための自己啓発支援、ボランティア活動や地域活動支援などの必要な施策を推進することが重要である。また、個人も社会参加の機会を積極的に活用するよう、生涯学習や自己啓発に努めることが肝要である。

(2) 女性の社会進出に対応した雇用環境の整備

1) 職業生活と家庭生活の両立支援
 女性の職場進出が進み、一方で、ゆとりと豊かさを実感できる社会が求められる中で、男女の機会及び待遇の均等の実現など女性がその能力を有効に発揮することができる条件を確保するとともに、男女労働者がともに充実した職業生活と家庭生活を営むことのできる環境づくりを進めることが一層重要となっている。特に少子・高齢化の急速な進展、核家族化等に伴い、育児や家族の介護の問題は労働者が働き続ける上で重大かつ深刻な問題となっている。
 このため、育児休業制度等の定着、介護休業制度等の普及促進に努めるとともに、雇用保険制度において支給される育児休業給付の活用を図る。
 また、育児・介護休業後の円滑な職場復帰に向けた休業取得者に対する職業能力の維持・向上のための職場復帰プログラム(情報提供や講習等の措置)を実施する事業主への支援等により休業を取得しやすく職場復帰しやすい環境づくりを進める。さらに、事業所内託児施設の設置の促進、育児・介護費用の助成等労働者が働き続けやすい環境づくりを進める。加えて、育児・介護等のために退職した者に対する再就職支援対策等家族的責任を有する労働者の職業生活と家庭生活との両立支援対策を総合的体系的に推進する。

2) 女性の能力発揮支援
 雇用における男女の均等な機会と待遇を確保するため、男女雇用機会均等法の趣旨の一層の徹底を図るとともに、実態面での男女の均等な取り扱いと女子労働者の能力の積極的活用を一層推進するため、企業に対する指導、援助、相談を積極的に実施する。また、企業の雇用管理の実態を把握し、問題点を分析した上で、法の趣旨をさらに徹底させるための方策について必要に応じ法令等の見直しを含め幅広い検討を行う労働基準法の母性保護を除く女子保護規定については、今後解消する方向に向け具体的な検討を行う。その際には労働時間をはじめとした労働条件及び女性の就業と家庭生活との両立のための条件整備の状況等を勘案する。
 また、女性の労働市場への参加の障害となるような制度については見直しが必要であるという観点からも、社会保険の適用等社会制度のあり方について検討を進める。この他に、自己の能力を活かす別途の就労機会として自ら企業を起こすことを希望する女性の支援施策を特に推進する。
 さらに、女性がその能力を発揮することができるよう家庭、職場、社会における男女の固定的な役割分担意識の是正を図る。

3) パートタイム労働対策の総合的な推進
 パートタイム労働者等については、十分能力が発揮できるよう適正な労働条件の確保や雇用管理の改善に向けたパートタイム労働対策を進める。

4) 就業女性の健康管理支援
 就業している女性は、実際には、就業していても家事の大部分を負担しており、仕事と家事に追われている。そのため自分の時間を持つことができず、肉体的、精神的なストレスが発生しやすいと考えられる。このような状況を改善するため、男性の意識改革と労働時間の短縮など男性の家事参加のための環境整備により、就業女性に対してはその過重な家事負担を軽減するとともに、仕事と家事との両立から生じるストレスに対して適切な助言、治療を受けることができるよう、気軽にアクセスすることのできる医療相談体制の充実を図る必要がある。

(3) 高齢化に対応した雇用環境の整備

1) 65歳までの継続雇用の推進
 高齢者の高い就業意欲に対応し、その知識、経験を生かすためには、雇用と年金の連携を図りながら、65歳までの雇用機会を確保することが必要である。こうしたことから、60歳定年が義務化される平成10年(1998年)4月前のできるだけ早い時期に60歳定年に移行するように企業に対し指導等を実施するとともに、65歳までの継続雇用を促進するため、原則として希望者全員を対象とする60歳を超える年齢までの継続雇用制度の企業における導入を促進する。また、適正な賃金・人事管理のあり方等条件整備に必要な相談・援助を推進し、併せて高齢者雇用に関する各種助成措置の有効活用を図る。さらに、60歳時点の賃金に比して賃金額が相当程度低下した高齢者に対して、雇用保険制度において支給される高年齢雇用継続給付制度の適正な運営を図る。

2) 早期再就職の促進
 就業を希望する高齢者の早期再就職を促進するため、高齢者の多様な就業ニーズを踏まえて、職業能力開発を積極的に実施するとともに、高齢者の雇用職業情報の提供総合的な相談体制の整備等により高齢者の労働力需給調整機能の強化に努める。

3) 多様な就業ニーズに対応した多様な形態による雇用・就業の促進
 高齢者の就業ニーズに対応し、高齢者が自らの選択や裁量の効く形で働けるようにするため、高齢者に係る労働者派遣事業の特例制度の適正な運営に努めるとともに、高年齢者職業経験活用センターの活用により、職業経験を通じて得られた知識及び技能の活用を図ることができる就業機会の提供を促進する。また、職業生活からの引退過程において、高齢者が生きがいを持って社会参加できる条件の整備が必要である。このため、シルバー人材センターの活用により、高齢者の就業ニーズの多様化や地域の需要に応じた臨時・短期的な就業の場の提供を促進する。

4) 高齢期における職業生活の設計の援助
 労働者が、早い段階から自らの職業生活の設計を行い、高齢期において、多様な働き方の中から自らの希望と能力に応じた働き方を選択し、実現できるようにすることが重要であるため、高齢期における職業生活の設計のための助言、指導の実施に努める。

5) 高齢者が働きやすい職場環境の整備
 高齢者の知識、経験、技能等が有効に発揮できるような働きやすい職場環境を整備するため、高年齢者職場改善資金融資制度の活用等により、高齢者の心身の機能の変化等に配慮した作業環境、作業方法、機械設備の改善等諸条件の整備・充実を図る。

(4) 障害者の雇用促進のための環境整備

1) 障害者の就労機会の確保
 障害者の雇用機会を確保するため、すべての企業において法定雇用率が達成されるよう、引き続き雇用率制度の厳正な運用を行うとともに、障害者雇用に関する援助・相談の充実を図る。
 また、障害の種類・程度に応じたきめ細かな対策を総合的に推進する。特に重度障害者の職業的自立の促進を図るため、福祉部門とも連携を図りつつ、地域レベルできめの細かな職業リハビリテーションを実施するとともに、第3セクター方式による重度障害者雇用企業の設置を促進すること等により、障害者の特性に応じた雇用・就労機会が確保されるよう諸条件の整備に努める。さらに短時間勤務や在宅勤務等多様な勤務形態の普及により雇用を促進する。

 2) 障害者が働きやすい環境の整備
 雇入れ企業が行う就業環境整備に対する助成措置を積極的に活用するとともに、職場定着推進チームの育成等による適切な雇用管理を推進することにより、障害者の働きやすい職場環境を整備し、障害者の雇用の安定を図る。
 また、障害者の職業能力開発、障害者の雇用に係る情報の提供、障害者に対して指導・相談・援助を行う専門職員の養成・研修等を推進する。

(5) 社会参加を行うための自己啓発支援

 経済社会環境が大きく変化する中、職業能力の開発・向上を促進し、職業生活の安定・充実を図るためには、職場における教育訓練とならんで、一人一人が自らの能力開発について絶えず関心を持ち、あらゆる機会をとらえて自己啓発に努めることが重要である。
 今後、自己啓発支援として、各種助成金の活用による有給教育訓練休暇の普及や教育訓練費用の負担軽減を図るとともに、労働者個人の自発的・主体的な能力開発に係るプランづくりを強力に推進し、さらに長期休暇制度、リフレッシュ休暇制度等について、一人一人が自由に利用できる時間の確保が図られるよう普及に努める。
 職業能力の向上だけにとどまらず、社会参加の観点からも自己啓発・生涯学習は重要である。これらは人生を豊かで実りあるものとするために必要であり、自立性・創造性の涵養、国際化への対応、情報活用・発信能力の育成、地域・コミュニティを担う人材の育成も自己啓発・生涯学習の重要な目的である。社会参加の方法として、ある人は就業、ある人は福祉、環境保護などのボランティア活動、地域活動と個人の自由な選択により様々な方法をとりうるが、多様な学習ニーズに対応した自己啓発・生涯学習の機会を活用することにより、個人はその創造性と指導性を発揮し、満ち足りたくらしを送ることができ、さらに社会全体では豊かで安心できるくらしを支える人材の育成に資することになる。

2.ゆとりある生活時間と自己実現確立のための方策

(1) 施策の基本的な考え方

 我が国は、内外価格差等の問題はあるものの、物質的・経済的には豊かになり、この意味では、ゆとりある生活を営んでいる。しかし、生活のゆとりには、他にも精神的側面、時間的側面等多様な側面がある。こういった面では、我が国が十分な水準に達しているとはいえない。
 特に、生活の時間的ゆとりについては、その量的な拡大のみならず、質的な充実が重要な課題となってきている。ゆとりある生活は、家族と触れ合う家庭時間、労働時間、地域活動等を行う地域時間のバランスが程よくとれることから得られる。また、時間的ゆとりの源泉である自由時間を自らにとって意義深いものとしていくことが精神的なゆとりにつながっていく。自由時間を精神的なゆとりを得て、自己実現を行うための時間的資源として積極的に評価していくことが重要である。
 ゆとりの源泉である自由時間の量的拡大については、まず、労働時間の短縮によるところが大きい。このため、年間総労働時間 1,800時間の達成・定着を図らなくてはならないまた、労働時間については量的な短縮のみならず、労働時間の質的対策、いわゆる「働き方」の問題に一層目を向ける必要がある。すなわち、一律の労働時間管理が困難な業務については裁量労働制など労働時間制度のあり方について検討するとともに、フレックスタイム制のより一層の普及促進を図り、個人の能力を活かした自律的・創造的かつ効率的な働き方の実現を図らなくてはならない。
 また、家族で過ごす時間を増やすため、月2回まで段階的に進められてきた学校週5日制についてさらに拡大することなど今後の在り方について検討すること等子供の側から自由時間を考えた施策も必要である。同時に、通勤についても、特に大都市圏での混雑と時間の長さを改善し、ゆとりある通勤を実現していくことが必要である。
 さらに、コミュニティ活動等地域での交流を積極的に行い、地域で過ごす時間を充実させることが必要である。

(2) ゆとりのための労働時間の短縮

1) 年間総労働時間 1,800時間の達成・定着
 我が国の労働時間の短縮の流れを一層確実なものとし、年間総労働時間 1,800時間の達成・定着を図るため、(i) 年次有給休暇の取得促進、(ii) 完全週休二日制の普及促進、(iii) 所定外労働の削減を柱として、取組を進める。
 年次有給休暇の取得促進については、年次有給休暇が取りやすい職場の雰囲気を労使が一体となって醸成することが重要であり、ゆとり休暇推進要綱により、労使の自主的な取組みを促進する。具体的には、年次有給休暇が十分に消化されていない現状にかんがみ、業務計画との調整を図りながら年次有給休暇の取得スケジュールを作成するなど、計画的付与・取得による消化の促進を図り、その完全取得を目指す。また四季折々の連続休暇、職業生涯の節目節目に与えられるリフレッシュ休暇制度や、ボランティア休暇制度等、多様な休暇制度の普及に努める。
 完全週休二日制の普及促進については、週40時間労働制への円滑な移行を図る。特に労働時間短縮を進めにくい中小企業に対しては、省力化投資への支援措置などにより、週40時間労働制への移行を奨励する。
 所定外労働の削減については、時間外労働協定の適正化指針等の適正な活用を図るとともに、所定外労働削減要綱により、労使の所定外労働の削減に向けての取組を促進する。また、いわゆるサービス残業や持帰り残業などが発生しないよう、企業に対する指導などにより労働時間管理の適正化に努める。
 なお、運輸従事者など特定の勤労者の長時間労働解消のため、労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法に基づく業種ごとの取組みを促進する。

2) 自律的・創造的かつ効率的な働き方の実現
 企業活動の国際化に伴う競争の激化など、我が国の経済社会情勢が変化する中で、ホワイトカラーに関しては、企業の側においては仕事の進め方を勤労者に委ねたり、成果による勤務評価へ変更したりする動きなどが、勤労者の側においては自律的あるいは専門的な働き方を志向する動きなどが見られる。このように、一律的な時間管理がなじまない状況が徐々に拡大しつつある。今後、より適切な労働時間管理を進めていくため、より弾力的な労働時間制度の拡充について検討する。具体的には、裁量労働制の対象業務について、当該業務の実態と時間管理のあり方等を十分踏まえつつ、その拡大を図る。また、フレックスタイム制のさらなる普及に努める。こうした多様な働き方に応じた制度の拡充により、個人の能力を活かし、自律的・創造的かつ効率的に仕事を行うことが可能となり、労働時間の短縮に資することが期待される。

(3) ゆとりある通勤の実現

 勤労者の通勤の状況については、東京都区部への通勤・通学者の約半数の者が1時間以上を要し、鉄道の混雑率も 200%近い現状にあるなど、大都市圏を中心に良好とは言えない状況にあり、長時間通勤の是正、鉄道の混雑率の改善、道路交通渋滞の緩和を図り、ゆとりある通勤の実現に努める。
 このため、おおむね平成12年(2000年)には、東京圏における鉄道の混雑率を180%程度に改善することを目指して、鉄道新線の建設、複々線化等の鉄道整備を推進するとともに、輸送需要の平準化に資する時差通勤制度、フレックスタイム制度のさらなる普及に努めるほか、これらのインセンティブ付与に資する料金制度の検討を一層進める。
 併せて、道路ネットワークの効率的な整備を図るとともに、相乗りの推進や公共交通機関への乗継ぎ促進(パーク・アンド・ライド)等により、道路の利用の仕方に工夫を求める交通需要マネジメント施策を推進する。
 また、ゆとりある通勤の実現に向けての抜本的な解決策として、職住が近接した都市構造を形成し、都心において居住機能を確保するための都市・住宅政策や、業務核都市等への通勤を図る業務分散政策、テレワークセンター等における就業を図る情報通信政策等を総合的に実施し、豊かさを実感できる都市生活の実現に努める。

(4) 自由な生活時間の充実

1) 自由時間の質的充実のための条件整備
 自由時間は、人生のゆとりの源泉であり、自己実現のための時間的資源でもある。これをどのように活用していくかは、個人のまさに自由な選択に委ねられるべきものであり、公的部門はその自由な選択を妨げないよう環境整備に努めなくてはならない。まず、文化、スポーツ、観光、レクリエーション、自然との触れ合い志向等の多様なニーズに対応した各種施設の整備を順次図る。その際、社会教育施設や学校施設を地域のレクリエーション活動に活用する等、既存の施設の有効活用を十分考慮するとともに、自然公園地域での自然との触れ合いや農山漁村地域での自然環境・文化を活用した農林漁業体験等の滞在型余暇活動等地域の特性を活かした様々な余暇活動が容易にできる条件を整備する。
 余暇活動の場への円滑なアクセスも必要である。それには、交通網の整備とともに個人の休暇取得の促進や閑散時期の低廉な料金設定等によって、余暇活動を行う休暇時期の分散を積極的に図る。
 同時に、余暇に関する情報へのアクセスも容易となるよう情報通信網の整備に努めるとともに、公的な情報の発信にも積極的に取り組む。

2) 自由時間を活用したボランティア活動
 充実した自由時間活用の一環として社会参加活動に取り組むことが考えられる。もとより、社会参加活動には多種多様なものがあるが、ことにボランティア活動は青少年、中高年などすべての世代にとっての生きがいや自己実現に連なるものとして、その意義が強く意識されるようになってきている。
 ボランティア活動を様々な分野で積極的に位置づけ、活性化を図るために次のことが重要となる。第一に、いつでも、誰でも、どのようなことからでも活動に参加できる条件づくりである。そのために、知識や技術習得のための研修の充実、社会福祉施設等の受け入れ体制の整備、ボランティア休暇制度の導入、企業のフィランソロピー活動の支援等を推進する。また、ボランティア団体や市民活動団体の公益性を担保する法的枠組みを検討する。第二に、福祉や生活環境保全等のためのボランティア活動に関する学習機会の整備である。そのために、生涯を通じたボランティア活動に関する学習の場を設けること、啓発普及活動、ボランティア活動の評価のシステムづくりの検討等を行う。第三に、ボランティア活動に関する情報へのアクセスを容易にすることである。そのために、情報の集積、発信の場や組織運営のノウハウを蓄積する場として市町村及び都道府県ボランティアセンターを整備し、ボランティア情報のネットワークづくりを行う。同時に、企業や個人にそのような情報を得る手段があることの広報に努める。情報の有機的活用のため、コーディネーターの養成、サービス提供におけるコーディネート機能の充実を図る。

3) 豊かな学習・文化環境の形成
 自由時間を豊かで実りあるものとするためには、生涯を通じて学ぶこと、文化に触れることも重要である。
 生涯を通じた学習機会を提供するためには生涯学習関連施設の整備はもとより、内容をニーズにあった参加しやすいものにするなど内容の充実が必要である。さらに情報化の進展にかんがみ、学習情報のデータベース化やネットワーク化による生涯学習情報提供システム整備事業、放送や衛星通信を活用した遠隔教育などを推進し、より多くの学習機会を提供していく必要がある。
 特に、今後の一層の高齢化の進展にかんがみ、高齢者の学習機会を積極的に拡充する。
 さらに、生涯学習への参加意欲を促進するために、学習の成果を社会的に評価する仕組みを整備する。また、学習成果や習得した知識、技術を有効に活用するための方策について広く検討する。
 一方、人々が文化に気軽に触れ、自らも創造的な文化活動を行うことができるような環境づくりをする必要がある。たとえば、音楽、絵画等様々な芸術を鑑賞する機会及び自らが文化活動に参加する機会の拡充を図るとともに、文化活動に携わる人材の養成や文化に関する総合的な情報提供を行う。また、企業や地域の文化団体による文化活動の促進を図る。
 さらに、史跡の整備や地域の伝統芸能の保存振興等を図っていくことにより、人々が地域の歴史や伝統に親しめる機会を拡大する。

3.自立のための社会的支援システムの構築

(1) 施策の基本的な考え方

1) 「くらしの不安」から「くらしの安心へ」
 少子・高齢化の進展に伴い、年金、医療、福祉面における給付が増加していくことが見込まれるが、これに伴う負担増に対する社会の対応について漠然とした不安がある。
 一方、高齢化の進展に伴い、家族による在宅介護など、家族の物理的・精神的な負担が高まるとともに、仕事に就けないことにより収入が減少するなどの国民の不安がある。また、将来の経済社会を支える世代を生み育てる「子育て」と「女性の社会参加」の両立という課題もある。このまま家族の負担を高めていくと、「介護や育児等の負担」により「生き生きとした豊かなくらし」が犠牲になることも考えられる。
 このような社会と国民ひとりひとりがもっている「くらしの不安」を解消し、安心できるくらしを築くためには、介護を必要とする状態などの発生そのものをできるかぎり予防するとともに、それにもかかわらず発生してしまった場合には人間の尊厳を重視して適切に対処し、その負担を軽減する必要がある。さらに、家族や政府(公的部門)に加え、「くらしの安心」を提供する多様な新しい担い手を確保することが要請される。
 こうして少子・高齢社会にあっても、個人の自立や家庭の健全な役割を基礎にして人々が自己の能力や希望に応じた参加と選択を行うことができるような公正な機会を保障することを目指す。

2) 自助、共助、公助の適切な組合わせによる安心の確保  このためには、自助、共助、公助を適切に組み合わせることによって、人々が、必要に応じて活用することのできる社会的支援策を整備し、くらしの安心を確保する必要がある。つまり、各人が直面する課題を自らが解決すること(自助)や地域活動やボランティア活動を通じた社会的な助け合い(共助)を支援していくこと、また、多くの人々が必要とする基本的ニーズに対する公的なサービス(公助)を効率的に充実していくことによって、人々が自己解決能力を高め、自立した生活を送ることができるようになる。
 このような自立のための社会的支援システムの構築にあたっては、国民、企業、政府(公的部門)のそれぞれが適切に対応することが必要である。
 具体的には次のような考え方に立って、施策を展開する。
  (i)健康の維持、寝たきりの防止など、社会的支援ニーズの発生そのものの抑制
  (ii)個人の自助能力の向上と自助努力の支援
  (iii)社会的支援インフラやソフトの整備等、公的システムによる基礎的安心の確保
  (iv)公的サービスと適正価格で購入できる民間サービスの多様な組合せ
  (v)ボランティア活動やNPO(民間非営利団体)の活動によるサービス提供とその支援(個人や地域が有する自助能力を社会的に再分配する)

(2) 国民の対応

1) 国民による自助、共助
 国民の自助能力を高めるとともに、その能力を社会的に再分配していくこと(社会連帯による国民相互の助け合い)が必要である。また、家族の支え合いを支援することも必要である。その際、国民に対し、健康管理の知識、簡単な介護技術の習得、住宅のバリアーフリー化等の機会を提供し、介護問題等に対する自助努力を支援することにより、自助能力向上へのインセンティブを与える。

2) ボランティア活動やNPO活動の支援
 ボランティア活動やNPO活動による国民の活動を支援するため、ボランティア団体や市民活動団体の公益性を担保する法的枠組みを検討する。また、これらの団体が活動資金の確保を容易にするための方策を検討する。

3) 利用者負担の適正化
 社会的支援サービス提供を充実することにより、国民の物理的・精神的な負担感を軽減させる一方、公的サービスに対する国民(受益者本人)の利用者負担を適正化する。
 この場合、社会的支援サービスを受ける者が一部の者に限られないこと、負担の上限の設定や低所得者層への軽減措置等を講ずる、といった点を考慮する。

4) 能力に見合った適正な負担
 社会的支援サービスを充実させるためには、国民各世代が能力に見合った広く公平かつ適正な負担を分かちあうことが必要である。特に、高齢世代は平均的に見れば他の世代に比して多くの資産を有する一方、高齢世代の家計における公的負担は他の世代に比して低くなっている。このため、高齢世代内の所得・資産格差が高いことを踏まえながら、高齢世代も能力に見合った適正な負担を担う方策を検討する。

(3) 企業の対応

1) 企業の社会的支援サービスへの取組みの支援
 社会的支援サービスの質の向上に資するため、医療保健・福祉関連産業等に係る分野への企業の進出や投資が重要である。また、他産業からこれらの医療保健・福祉関連産業等への円滑な労働力の参入の実現に努める。
 さらに、競争原理を働かせることができるよう、公的部門と民間部門との競争条件を整備し、サービスを必要とする国民がサービス内容に応じた適正な価格で多様なサービスを購入できるようにする。
 この際、サービスの質の確保、公正な情報の提供、契約内容の明確化により、利用者の保護に十分配慮する。また、市場を通じたサービス提供を行う場合、介護や育児などといった社会的支援としての公共的な性格や対人サービスとして大幅な省力化が難しいことを踏まえ、市場による自由な競争を促進しつつ、公的補助等の政策的な支援の充実を図る。

2) 企業の社会貢献活動等、企業によるサービスの提供
 企業による女性や高齢者、障害者などの積極的雇用や従業員に対する支援サービスの提供、さらにボランティア活動やNPO活動に対する支援(企業の社会貢献活動)を促す施策を講ずる。

(4) 公的部門の対応

1) 総合的な施策の展開
 国民のニーズに応じた適正なサービスの提供や効率的な資源配分等の観点から、雇用、年金等の所得保障、医療・保健、育児や介護等の福祉サービス、住宅施策等の総合的・効率的な連携を行うことによって、寝たきりの予防など健康の確保、介護負担等の軽減を図るとともに、資産や所得等を適正に活用した社会的支援サービスの充実を図る。
 特に、限りある社会的資源のなかで、多くの人々が必要とする普遍化された社会的支援ニーズに対応するためには、システムを総合的・効率的に構築し、各個人の市場価格では計れない個別的費用も含めたトータルコストの増大をできるかぎり抑制することが必要である。このような視点から考えると、別表1のような施策を推進する。また、要介護状態の予防及び介護負担の軽減の観点から、健康診断や住宅のバリアフリー化等を充実するとともに、これらの施策による介護ニーズ等の予防効果や介護負担の軽減効果等の検証に努める。
 また、介護支援や育児支援の充実、高齢者支援サービスの提供等によって、人々の多様な選択が保障されることになり、女性や高齢者にとっても、雇用機会への参入につながり、国の経済活力や社会保障負担を支える力になる。同時に、支援サービス供給の担い手としての雇用機会の発掘や生きがいの確保につながっていく。このような世代間にまたがる、社会全体としての総合的な効用に留意する必要がある。
 以上のような施策の総合的展開を踏まえつつ、社会的支援にかかる主な課題を整理すると次のような課題が考えられる。
  (i)公的サービス供給の最適化と効率化
 家族による介護等の物理的・精神的な負担を軽減するため、「自立した生活」を送るために必要な基礎的部分については公的サービス(福祉等)を充実する。
 また、社会的支援ニーズのうち公的責任で担う部分についても、民間部門を含めたサービス提供者間の適正な競争を促進するとともに、ボランティアの協力を得ることによって、最適かつ効率的な公的サービスを提供する。
  (ii)社会保障給付全体の適正水準のあり方
 高齢化の進展に伴い、社会保障給付が増加していくことが予想される。寝たきり発生の予防など、介護等の予防的施策の効果並びに年金等の現金給付と医療や福祉等のサービス給付の連携等を検討しつつ、社会保障給付全体の増加や公的負担の上昇をできるかぎり抑制する。

  (iii)政府支出における配分のあり方
 少子・高齢化の進展を踏まえ、政府支出全体にわたり、真に必要な分野へ配分し必要性の薄れた分野への支出を削減する。

2) 介護サービス等、高齢者保健福祉サービスにかかる総合的な社会的支援の基盤整備平成12年(2000年)には約 140万人に達すると見込まれる介護を必要とする高齢者の介護問題等への適切な対応を図り、高齢期における不安感を解消するため、高齢者保健福祉サービスの供給を量的、質的に強化する。このため、「高齢者保健福祉推進十か年戦略」を見直して、平成6年(1994年) に策定された「新ゴールドプラン」(主な具体的目標は別表2のとおり)を着実に推進する。
 施設整備やサービス提供体制の整備にあたっては、それぞれの地域によって高齢化の進展や社会的条件等が多様であることから、都道府県老人保健福祉計画や市町村老人保健福祉計画に基づき、それぞれの地域の実情にあった整備を行う。
 また、介護の公平な費用負担のあり方や社会全体での介護リスクの支え合い等の観点を踏まえ、多様な介護サービス提供に対応した介護費用の社会保険化について検討し、併せて医療、福祉等の各制度にまたがって提供されてきた当該介護サービスの一元化を図る。その際、施設、在宅を通じた介護費用負担の公平化を図るとともに、医療や福祉の各制度間の利用手続等における不合理な格差を解消する。
 さらに、介護を家庭において行いたいという要望も多いことなどを踏まえ、一般の家庭における介護技術等を適切に習得させることも、自立支援として必要である。このため、ホームヘルパー養成研修の充実や公共職業能力開発施設における介護関係の訓練科目の整備等のみならず、国民だれもが介護に関する実践的な知識・技術やプライマリーケアの知識等を身につけていくための施策の充実を図る。

3) 高齢者等に配慮した住宅・社会資本の整備
 高齢者、障害者等を含む全ての人々が安全・円滑に日常生活を送ることができるようにするため、以下のような住宅・社会資本の整備を推進する。
  (i)バリアフリー化など高齢者、障害者等に配慮した住宅の整備
  (ii)歩道の段差切り下げ、交通ターミナルや公共的建築物におけるエレベーターの設置などバリアフリーのまちづくり
  (iii)病院、福祉施設、鉄道駅等の周辺を中心とした幅の広い歩道の整備
  (iv)福祉施設や医療施設と一体となった公園の整備
  (v)高齢者、障害者等にやさしい官庁施設の整備

4) 子育てにかかる総合的な社会的支援の基盤整備


 子育てにかかる物理的・精神的な負担の多くが母親である女性にかかっている現状において、育児期にある女性が就労等の機会選択を阻まれることが多い。子育てについて、男性も家庭において女性と共同してあたることが、女性の育児負担を軽減し、多様な選択肢を保障する第一歩になる。このため、男性の意識改革と行動が必要であり、労働時間の短縮など男性の育児への参加のための環境整備を図る。
 また、社会全体としても、女性の育児と就労の両立等多様な選択を可能にするなど子どもをすこやかに産み育てられる環境を整備し、女性や家庭の育児支援と負担軽減を図る。このため、乳児や多子世帯の保育料の軽減や保育所の設備の改善を図るなど平成6年に策定された「緊急保育対策等5か年事業」(主な具体的目標は別表3のとおり)を着実に推進する。
 一方、公共施設等を利用して、児童に対し伝統的な遊び、しつけ、おけいこごとや子供の自学自習などを手助けする高齢者ボランティアや女性ボランティアをはじめとする地域住民等の取組みを支援する。また、子育てに関する相談体制等の整備を図る施設整備や保育サービス提供体制の整備にあたっては、各地方公共団体における具体的な住民ニーズに適切に対応するため、地方公共団体による自主的な子育て支援のための計画の策定を支援する。
 さらに、今後の多様な保育サービスに対する需要を踏まえ、公的保育所制度の改善見直しを含めた保育システムの多様化、弾力化を進め、公的保育所についても契約型の保育サービス提供の導入を検討する。また、民間による市場を通じた様々な創意工夫ある保育サービスの円滑な供給環境の整備や各利用者に対する利用料補助の仕組みについて検討する。また、企業が事業所内保育施設を整備したり、外部の保育サービスを利用して従業員のために保育サービスの提供を行う場合や保育料の補助を行う場合の支援、優遇策を講じる。
 また、幼稚園への就園を希望するすべての3~5歳児が就園できるよう、入園料・保育料を減免する就園奨励事業等を推進する等、幼稚園の整備を図る。

5) 社会的支援における地方公共団体の役割の重視、措置制度の再検討
 地域によって社会的支援に対するニーズは様々に異なることから、地域的な課題を的確に把握して、それぞれの地域において様々なサービスやアイデアを実行していく必要がある。このため、在宅福祉及び施設福祉を各市町村が一元的に提供する体制を最大限に活用していくことが必要である。また、様々なサービスやアイデアを地方公共団体が直接に提供するだけではなく、ボランティア活動等の取組みや民間サービスへの委託等もあわせて、柔軟なサービス提供を行っていくことが必要である。
 さらに、多くの人々が必要とする社会的支援ニーズを踏まえ、特定の弱者対策を中心に構築されてきた従来の措置制度を総合的に再検討し、公的な関与の下、広く一般の人々が自由に選択し利用できる普遍的なサービス提供のあり方を検討する。特に、様々なサービス提供主体の自由かつ柔軟な発想に基づく、市場を通じたサービス提供によって、提供主体間の適正な競争を促進し、サービス内容の向上を支援する必要がある。さらに、利用者が自己の責任や意思に基づき、適切なサービスを主体的に選択できる仕組みを検討する。

(5) 公平かつ適切な給付と負担のあり方

1) 社会全体の負担の抑制
 高齢化の進展や年金制度の成熟化等に伴う社会保障需要の必然的な増加により、社会保障給付費は増大する。また、一方、核家族化の進行等社会や家族の変容によって多くの人々が介護需要や育児需要等の社会的支援を求めるようになるとともに、技術革新の進展によるサービスの質的な向上などに伴って、社会的支援ニーズが多様化していくことも予測される。
 このため、予防的施策を充実することによって、社会的支援ニーズの発生をできる限り抑制するとともに、個々の施策間の連携を図ることにより、社会保障給付全体の増加や公的負担の上昇並びに各家庭における私的負担の上昇をできるかぎり抑制するこの際、家計における租税や社会保険料等の公的負担と各家庭における民間サービスの購入費用や介護等を直接提供する私的負担のあり方を総合的にとらえ、社会全体としての負担の抑制を考慮する必要がある。

2) 社会保障制度の長期的な安定と効率化
 また、社会保障制度における公平かつ適切な給付と負担のバランスを確保するためには、今後とも、社会保障制度の長期的な安定、効率化等を図っていくことが必要である。
 年金制度については、平成6年の財政再計算において、雇用と年金の連携を図るとともに、給付と負担の均衡を確保するための制度改正を実施したところであり、制度の円滑な運用に努めていく。また、被用者年金制度全体の長期的安定と制度間の給付と負担の不均衡を是正する等の観点から、公的年金制度の一元化のあり方を検討し、必要な措置を講ずる。さらに、年金制度の効率的な運営を図るため、基礎年金番号制の平成9年からの導入を目指す。
 医療保険制度については、慢性疾患の増加など、医療需要の変化等に対応した医療供給体制の整備を踏まえつつ、医療保険財政が赤字構造に変化してきている中にあって医療費の適正化を総合的に進めるとともに、各保険制度内、保険制度間の給付と負担の公平のあり方等を検討する。

3) 社会保障財政に係る中長期的な見通しの検討
 今後の社会保障の給付と負担の具体的なあり方やその水準については、負担に見合う給付の内容を吟味した上での国民的論議を展開し、あらゆる世代を通じたコンセンサスを得ることが必要である。このため、今後の少子・高齢化の進展や経済社会の変動に対応した社会保障財政についての中長期的な見通しを提示し、給付内容とそれに伴う負担の水準等に関する選択肢を示すことが必要である。
 例えば、厚生省が平成6年3月に発表した「社会保障に係る給付と負担(社会保障負担,公費負担)の将来見通し(試算)」によれば、年金改正を行い、医療について効率化を図り、介護対策、児童対策、障害者対策等の充実を図るものと仮定した場合(ケースII)には、社会保障給付費は対国民所得比で平成5年度(1993年度) の16.3%から平成12年度(2000年度) には20%~ 201/2%程度に上昇するものと見込まれ、これに伴い社会保障に係る負担(社会保障負担及び公費負担)は17.8%から21~22%程度に上昇していくものと見込まれる、との試算結果など4通りのケースが示されている(別表4)
 社会保障の財源構造のあり方については、制度に対する貢献が給付に反映されるという点で、受益と負担の関係が明確である社会保険料負担中心の枠組みを、今後とも基本的に維持しつつ、この場合においても、世代内、世代間の公平の実現について勘案していくことが必要である。この際、所得や資産等の格差の存在、現役世代と高齢者世代の給付と負担のバランス等に配慮する、等の視点を踏まえることが必要である。

(6) 情報通信システムや技術革新の動向を踏まえた社会的支援の充実

 社会の情報化が急速に進展し、情報通信インフラが整備されていくに従い、多くの者が高度な情報通信システムの便益を享受できるようになり、情報通信ツールが社会参加や社会的支援のための重要なツールとなる。たとえば、効率的で質の高いサービス供給が課題となっている医療面においては、ICカード等による各自の健康情報の集積化や医療情報等のネットワーク化、情報通信機器を利用した遠隔医療や在宅医療への応用が予想されるまた、育児期の女性等や高齢者にとって、情報通信機器の活用は雇用機会の拡大や生活支援につながっていくことが考えられる。こうした可能性をのばせるよう、情報通信インフラのハード・ソフト両面にわたる整備を行う。
 また、新しい治療、診断方法の研究開発や先端技術を活用した医療福祉機器(初期がん等の早期発見のための診断機器、肉体的負担の少ない治療機器、長期間使用可能な臓器の代替機器等)、日常の生活の中で利用することのできる在宅医療・介護機器及び身近な福祉用具等の研究開発・普及が望まれている。このため、標準化の研究及び規格化の充実を含め、ユーザーの視点に立ち、使いやすさ等に配慮した良質な医療福祉機器及び福祉用具の研究開発の促進、支援を行う。

4.災害に備えたくらしづくりのための方策

(1) 施策の基本的な考え方

 我が国は、その気象、地形・地質から、地震、台風、火山噴火、異常渇水等の災害に対して脆弱な状況にある。また、近年の都市化の進展等により、従来の自然災害とは異なるタイプの都市型の災害が発生する危険性が高まっている。これまでも、国土保全事業の積極的推進、防災体制の充実、防災思想・防災知識の普及、気象観測設備の整備、災害情報伝達手段の発達普及等により、災害による被害の軽減に努めてきた。今後とも、これらの施策を引き続き推進するとともに、今般の阪神・淡路大震災による大規模な被害の経験を礎として、人命の救助を第一とし、あらかじめ、予防、応急、復旧、復興のそれぞれの段階において災害に強いくらしの実現、国土の形成を図る必要がある。

(2) 阪神・淡路地域の復旧・復興への政府の取組み

 平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災は、死者及び行方不明者が約 5,500人、建物及び社会基盤施設等の被害額が推定で約9兆6千億円にのぼる大災害となり、阪神・淡路のみならず日本の経済・社会全体に大きな影響を及ぼすことが懸念される。被災地の復旧・復興については、阪神・淡路復興対策本部が設置され、4月28日、阪神・淡路復興委員会の意見を踏まえて「阪神・淡路地域の復旧・復興に向けての考え方と当面講ずべき施策」を決定し、復旧・復興のために当面必要な施策が講じられてきた。また、7月28日には、「阪神・淡路地域の復興に向けての取組方針」が決定され、今後、生活の再建、経済の復興及び安全な地域づくりを基本的課題として被災地の復興に取り組んでいくこととされた。なお、これまでに、16本の特別立法措置が講じられたほか、6年度2次補正、7年度1次補正及び2次補正において、大震災等に対応するために必要な経費が追加されたところである。

(3) 東京一極集中の是正・全国的視野にたった分散型国土構造の形成

 東京は、我が国の首都であると同時に経済の中心地でもあり、政治、行政や金融・情報等に関する中枢機能が集中している。このため、ひとたび首都圏において災害が発生すると、日本の政治・経済は大きな打撃を受け、国民生活も大きな影響を被ることとなる。したがって、まず、首都圏における都市の防災構造化をはじめとした各種防災対策を推進する。さらに、東京一極集中の是正・分散型国土構造の形成は、良好な住宅・都市環境の確保、職住近接の実現という平常のくらしの観点に加え、災害による経済的・社会的ダメージを最小限なものにとどめ、国民が安心して暮らせる社会を構築するという観点からも重要である。このため、「国会等の移転に関する法律」に基づく新首都の建設等首都機能の移転について積極的な検討を進めることを含め、その一層の推進を図る。

(4) 今後発生が予想される災害への取組み

 我が国は災害列島であり、今後とも、大規模な災害が発生することが予想される。特に震災対策については、あらかじめ、以下のような施策を講ずる必要がある。

1) 発災時等における情報の収集及び伝達の徹底・充実
 発災時の情報の収集・伝達は、その後の災害対策を大きく左右する重要な要素であることから、防災無線の充実等により、被災状況、災害規模等に関する情報の迅速な収集、災害情報の官邸等への迅速な伝達を図るとともに、災害対策に係る指示の一元化を図る。また、パブリック・メッセージ等災害に関する広報の充実に努める。さらに、情報伝達手段についても、通信衛星等による無線ネットワークやパソコンネットワークを活用するなど、その多様化を図る。

2) 災害救助
 災害救助においては発災後3日以内の人命救助活動が特に重要であると指摘されていること等を踏まえ、防災関係機関の役割分担の明確化、連携の強化を図る。また、地域において、食料、飲料水等の備蓄の充実を図る。さらに、災害時の行政活動には限界があることから、応急手当に関する知識の普及等により、国民の自主防災能力を向上させる。

3) ボランティア活動への行政の支援
 災害時におけるボランティア活動は日常のボランティア活動の集積であることから日常のボランティア活動を支援する。また、災害時における適切な官民連携、公的施設の積極的な提供、募金等によるボランティア活動の運営資金の援助の促進等により災害時におけるボランティア活動を支援する。さらに、ボランティア団体の組織化、ネットワーク化等により、災害時におけるボランティア活動の一層の円滑化を図る。

4) 災害復旧・復興
 被災者の生命、生活を守るためには、ライフラインや公共施設等の早期復旧を含む被災市街地の迅速な復旧・復興が不可欠であり、国等はそれに十分な配慮を払う。

5) 国土構造
 幹線交通網・情報通信網の整備を進め、大都市圏に集中した人口・機能を分散することにより、経済的、社会的なリスクの軽減を図り、災害につよい国土構造を構築する。また、国土構造の形成に当たっては、各種ネットワークシステムの多重化を一層進めるとともに、ゆとりをもたせた構造、いわゆるリダンダンシーの発想の導入を行う。

6) 災害に強いまちづくり
 災害に強いまちづくりを推進するため、既存の構造物に係る耐震性の点検・補強、新設の構造物に係る耐震性の確保、耐震基準の整備、老朽建築物の建替え促進等を図る。また、防災拠点としての防災安全街区、貯水槽・備蓄倉庫等を備えた都市公園、延焼防止・避難・緊急物資輸送に必要な幅員の広い幹線道路や緩衝緑地等の整備を、住民の意見を取り入れつつ進める。さらに、ライフライン共同収容施設としての共同溝・電線共同溝の整備を、各種ライフラインの特性等を勘案し、各事業者と調整を図りつつ進める。加えて、地震保険の活用・充実を図る。

7) 防災マニュアル
 国等において、大地震等による被害想定の見直しや、防災基本計画、防災業務計画地域防災計画の見直しを行うとともに、自治体相互間の広域応援体制を確立する。また、民間企業等において、特に通信・物流等の確保に留意しつつ、緊急時の対策マニュアルの策定、見直しを促進する。さらに、国民個々の自主防災を支援するため、国等において、自主防災マニュアルの作成やその充実を図る。

8) 国際協力
 医師団や救援物資、救助犬などの海外からの支援について、被災地のニーズに合った受入れを迅速に実行できるようなシステムを整備する。

9) 地震予知の調査・研究等
 調査・研究の充実や観測施設の整備等により災害予知能力を向上させるとともに、防災対策に関する研究開発を推進する。

5.消費生活の充実のための内外価格差是正・縮小

(1) 内外価格差是正・縮小の基本的な考え方

 我が国は、名目所得が世界で最も高い国の一つとなったが、物価水準が他の諸国と比較して割高であり、名目所得の高さほどには生活の豊かさを感じることができない。内外価格差を早急に是正・縮小し、消費者の多様な選択の幅を拡大し、国民に豊かさをもたらす必要がある。
 食料品、衣服・履物、家賃・水道・光熱費、交通・通信などの消費ウエイトが高いものについては大きな内外価格差があり、家計の行う最大の投資である住宅建設についても大きな内外価格差が存在する。これは、国際競争にさらされているごく一部の輸出産業のみが国際的な水準の生産性を持つのに対して、サービスなどの国際競争にさらされていない産業の生産性が、規制や競争制限的な民間慣行等によって他の先進国に比べて低くなっていることなどにより価格が高くなっているからである。
 消費者の利益のために、このような低生産性部門の生産性を上昇させ、内外価格差を是正・縮小することが必要である。

(2) 内外価格差是正・縮小のための施策

1) 規制緩和の推進
 規制緩和を推進することにより、競争を活発化し、生産性の低い分野の生産性を上昇させ、内外価格差を是正・縮小する必要がある。規制緩和政策の推進にあたっては「規制緩和推進計画」を踏まえ、以下の原則で行う。
 経済的規制については、原則自由・例外規制を基本とする。競争的産業における需給調整の観点から行われている参入・設備規制等については、事業の内容・性格等を勘案しつつ、廃止を含め抜本的に見直す。また、社会的規制については、技術革新等の進展に伴いその意義、必要性が薄れてきたものもあるので、不断に見直しを進め、本来の政策目標に沿った必要最小限なものとすることを基本的な考え方とする。規制緩和策を計画的に推進するとともに、定期的にその見直しを行い、改定する。規制の新設は必要最低限度にすることを基本方針とし、原則として当該規制を一定期間経過後に見直すこととする。
 地方公共団体においても、国・地方を通じる規制緩和の推進の観点から規制の見直を進めることが重要である。
 なお、安全・健康の確保、環境の保全等の社会的規制等の観点から、どうしても規制等が必要な場合もあるが、その場合にも、必要以上に新規参入等による競争を阻害することのないよう、直接的規制等の手段を選択するなど、可能な限り競争が行われるような環境を整備する。その際、特にその必要性が認められるもの以外については規制の国際的整合化を図ることも重要である。
 また、規制緩和のためには、企業、消費者の自己責任原則の確立が重要である。

2) 競争政策の積極的展開
 公正かつ自由な競争を一層促進することにより、我が国市場をより競争的かつ開かれたものとし、また、規制緩和後における市場において競争制限的行為が行われることのないよう、独占禁止法の厳正な運用を行うなど競争政策の積極的展開を図る。
 事業活動等に対する規制制度をもつ産業において、事業者団体が、各事業者の事業計画等の申請に関して事業者団体との協議が必要であることとし、協議を経た上で各事業者に申請させることがある。このような公的規制に関連した違反行為を含め事業者団体による独占禁止法違反行為の未然防止の徹底を図る。
 個別法による独占禁止法の適用除外カルテル等制度については、平成10年度末までに原則廃止するという観点から見直しを行い、平成7年度末までに具体的結論を得る再販売価格維持制度については、これまでの指定品目の範囲の縮小後の状況等の調査を行い、平成10年3月末までに全ての指定品目( 一般用医薬品14品目、小売価格が030円以下の化粧品14品目) について、取消しのための所要の手続の実施を図る。医品については、現行指定品目に関し、上記調査を行い、調査の結果を踏まえ、平成8年度中に指定取消しのための手続を実施する。また、再販適用除外が認められている著作物(書籍、雑誌、新聞、レコード盤、音楽用テープ及び音楽用CD)について、平成10年3月末までに、その範囲の限定・明確化を図る。
 競争政策の徹底を図り、公正な競争を確保する観点から、公正取引委員会の組織、人員等の面で体制を強化する。

3) 適切な公共料金政策
 公共料金等価格規制については必要最小限のものとしつつ、低廉で良質なサービスの確保を図るため、競争的環境の整備、経営の効率化等の推進に併せ、事業の内容・性格等を勘案しつつ、価格設定の在り方の検討、料金の多様化、弾力化を推進する。また、速やかに円高差益還元を図る。

4) 輸入・対内直接投資の推進
 輸入の促進や対内直接投資の拡大による競争を促進させる観点から、市場開放措置や輸入促進地域、輸入関連インフラの整備、税制、金融上の措置等の輸入促進支援策を実施するとともに、我が国の高地価等の対内直接投資阻害要因や競争制限的な慣行等の輸入阻害要因の是正に努める。また、対内直接投資を行う外国企業等に対し、事業展開や資金調達の円滑化等を目的とした税制、金融等における政策的支援等を行い積極的な広報の展開、情報センター機能の充実などの情報提供を積極的に行う。さらに政府調達については、より一層透明かつ公正な手段により内外無差別の調達を行うため、手続きの改善や情報提供の改善等累次のアクション・プログラム等を確実に実施するとともに、平成8年1月1日発効予定の新政府調達協定の実施に努める。

5) 合理的な商慣行と消費者行動
 再販価格維持制度によるものを含めメーカーが小売価格に関与しようとする民間慣行は価格形成の伸縮性を阻害し、価格を割高で硬直的なものとする傾向があった。またこれは、品質や業態による価格差を生み出しにくく価格選択の幅を狭くするため、日本人の消費者行動に、外国に比べ価格感応度が低く、品質、品揃え、ブランドイメージ等を重視するという傾向が観察される要因の一つとなっている。これがコストを上昇させ、内外価格差の一因になってきた。
 このため、規制緩和等を促進することにより、競争制限的な民間慣行が是正され、価格弾力的な消費者行動が可能となるような環境整備を図る。また、コスト構造や制度面の違い等を含めた広範な内外価格差調査及び要因分析を実施し、その結果を規制緩和の推進に反映させるとともに、調査結果の適宜適切な公表等による情報の一層の提供を行うことにより、情報格差をなくし、事業者、消費者の合理的な行動を促進する。

6.地域の多様性に応じた社会環境等の整備

(1) 施策の基本的な考え方

 首都圏は、今後とも世界を代表する圏域として発展していく必要がある反面、過度の集中に伴う歪みも大きく、豊かな国民生活の観点から、その是正に大きな努力を払う必要がある。高い地価、遠・高・狭の住宅事情、長距離化し、激しい混雑が続く通勤・通学、深刻な交通渋滞、行きづまりをみせるごみ処理問題等に直面している。さらに、近時、東京都区部のほとんどの地域で、高い地価や生活環境の劣化等を反映して、人口減少や、空洞化現象がみられるようになってきている。このように、首都圏の住民の多くが、多大な時間コストと地価コストを無為に負担しており、さらに、既存の社会資本ストックの遊休化の面も指摘されている。
 このため、首都機能の移転及び地方分権・分散等による中枢機能の選別・純化に加え、既成市街地の整備や職住近接を可能とする住宅供給、コミュニティの確保等によりバランスのとれた国民生活の実現を図る必要がある。
 一方、その他の都市圏の国民生活については、近時、所得、物価、就業、地価等を含む総合的な生活水準の観点から、東京・地方の格差が縮小傾向にあることがうかがわれる状況にある。今後は、これを助長し、国民が要望する地方定住を可能とし、推進するため、就業機会の充実、都市的機能の向上等を図りつつ、地域の自然環境や伝統・文化を活かしてゆとりとうるおいのある地方生活の享受を確保する必要がある。
 また、農山漁村については、住宅や自然環境等の面では恵まれているが、就業機会や基礎的な生活環境基盤等の面では都市に比べ立ち遅れており、特に中山間地域においては、人口の減少と高齢化が顕著となっている。このため、域内資源の活用や都市とのアクセスの改善を通じた多様な就業機会の確保に努めるとともに、生活環境基盤の整備を進める。また、農山漁村景観の保全、農林地等の適切な利用・管理等を進める。

(2) 社会資本整備の推進

1) 公共投資基本計画の着実な実施
 社会資本整備については、平成6年10月に策定された「公共投資基本計画」の考え方に沿ってその着実な実施を図る。同計画に示されたように、国民生活の豊かさを実感できる経済社会の実現に向け、下水道、都市公園、廃棄物処理施設、住宅・宅地の整備等の直接的に国民生活の質の向上に結び付くものへの配分の重点化を継続しつつこの中で、急速な高齢化の進展に対応した福祉の充実を図るとともに、高度情報化等にも適切に対応する。公共投資の地域別配分については、地域の活性化を通じた多極分散型国土の特色ある発展を図ることを基本とし、重点的、効率的配分を行い基礎的条件整備を積極的に推進する。なお、施設の運営に当たる要員、運営のための仕組み機器や資材、サービスなどの施策が揃って初めて機能するものについては、必要に応じ社会資本の運営のための人材・ソフト等の確保にも配意する。

2) 社会資本の整備目標
 社会資本整備は、様々な政策目的に沿って実施されている。それぞれの政策目的は相互に密接に関連しており、ひとつの社会資本が複数の政策目的のために整備されている場合も多いが、先進諸外国に比較して立ち後れた国民生活の質の向上に結び付くものを重視する必要があること、阪神・淡路大震災の経験等を礎として、各種の自然災害に強く安心できるくらしの実現が求められていること、本格的な少子・高齢社会の到来を間近に控え、高齢者の介護問題等への適切な対応を図る必要があること,我が国の現下の経済情勢等にかんがみ、高度な情報通信インフラや基幹的交通ネットワーク等を利用した活力ある経済社会の基盤の整備が重要であることなど、我が国が現在直面する主要な課題を踏まえると、政策目的は大きく以下の3つに整理される。
  (i)快適な生活環境の形成
  (ii)安全で安心できる生活の確保
  (iii)新しい日本経済の発展基盤の構築
 国民が真に豊かさを実感できる社会を実現するため、これらの政策目的を踏まえつつ、利用者の視点に立って社会資本の整備目標を分かりやすく示すことにより、それぞれの施策の方向を示すとともに、これらの整備目標等を踏まえて社会資本の着実な整備を図る(別表5)。
 なお、都道府県、市町村等地域のレベルでみた場合、政策目的は必ずしも全国一律である必要はない。住民に身近な社会資本の整備は地方が主体となって行うことが基本であり、地方公共団体は、それぞれの個性を踏まえて政策目的を整理し、地域の総合的な政策主体として長期的なビジョンに基づき、地域の特性に応じた個性豊かな社会資本の整備を実施することが求められる。その際、地方公共団体それぞれが総合的な観点から各地区の整備状況を適切に評価していくことも重要である。

(3) 大都市圏における豊かなくらしの実現

1) 地方分散・分権の推進による過度の集中の歪みの是正
 首都圏においては、単に、政治、行政機能のみならず、経済、学術、文化、情報、ファッション等あらゆる種類の高次都市機能が、生まれ、育っている。東京は、世界とのネットワークの形成を図りつつ、世界を代表する都市として成長してきた。
 過度の集中に伴う歪みを是正しつつ、東京が21世紀においても国際中枢都市としての貢献を果たすためには、金融、情報、国際拠点等の中枢機能の選別・純化を図るとともに、可能な限り、業務の分散を推進する必要がある。
 このため、東京都のなかにおいては、中枢機能を新宿、池袋、渋谷、臨海副都心等へ分散する。また、多極分散法や頭脳立地法等に基づき、都市的業務全般にわたって首都圏では、立川、大宮、横浜等の業務核都市等への分散を、また全国的には、札幌・仙台・広島・福岡等の地方中枢・中核都市等への分散を図る。
 さらに、「国会等の移転に関する法律」に基づく新首都の建設等首都機能の移転について積極的な検討を進める。地方分権の推進は、こうした首都圏の機能の地方分散に資するとともに、地方圏だけでなく、首都圏においても、住民参加型の地域経営を可能とし、地域のニーズに合った自立・地域密着型の生活環境の実現を図るものであり、積極的に実施する。

2) ゆとりある都市空間の形成
 首都圏をはじめ、大都市においては、狭隘な敷地や周辺住宅・都市環境は改善の余地が大きい。このため、既成市街地の都市構造を、住む人の豊かさの実感の享受に向けたものとすることが必要である。特に、東京都心部においては、商業併用住宅の居住者も含め居住の空洞化が進み、併せて商店街における利便施設等の居住支援機能の衰退がみられるが、都市・住宅環境を整備することにより、職住のバランスのとれた良好な都市空間を形成する必要がある。このためにも、街づくりとあわせて地下鉄網・道路等の生活に関連する利便性の高い社会資本の整備を進め、水と緑ゆたかでゆとりある都市空間としての再生を図る。これらを通じて、大都市を高齢化の進展に対応した、ふれあいのあるコミュニティとして再構築する。さらに、高度情報通信の普及は、大都市圏のくらしにおいて生活利便性の向上、過密の緩和、移動性の確保、災害時の情報伝達の確保等に有効であるため、その整備・利用の一層の推進を図る。

3) 首都圏等大都市圏における災害対策の推進による安全性の確保
 大都市圏が地震等の災害を受けた場合の被害が甚大であることは、今次、阪神・淡路大震災の被害で改めて明らかになった。首都圏において、再度関東大震災や直下型地震が発生した場合の国民の生命・生活が被る被害を少しでも軽減するため、地震予知の調査・研究、発災時の災害情報、迅速な災害救助等について、あらかじめ対応を講ずる。また、国土構造についても、被災の場合に諸機能を大都市圏内を含む地域間で分担しうる構造を形成し、国民生活の安定の確保を図る。

(4) 地方都市における豊かなくらしの実現

1) 複数府県にまたがる都市間の連合等による魅力ある都市機能の向上
 北九州・福岡・長崎・熊本等からなる福岡圏のように、地方中枢・中核都市圏においては、広域的なネットワークを形成する都市間の連合等による経済・生活圏域の形成が進展しており、これを一層推進する。とりわけ、芸術・文化活動のための余暇・教養基盤、ショッピングセンター等の商業基盤、高度な医療機関等の生活基盤等を分担して整備し、圏域における高次都市機能の一層の集積を推進する。また、行政活動についても、広域的な行政の枠組みづくりを行い、積極的に利活用する。

2) 質の高い交通体系、高度な情報通信インフラの整備と活用
 質の高い交通体系、高度な情報通信インフラを、全国均質でユニバーサルな社会基盤として整備し、全国的規模での社会・経済の連携・交流を円滑なものとする。このことにより、大都市圏はもとより、地方中枢・中核、地方中心都市から農山漁村に至るまでの地域住民が同じ水準で、同じボリュームの高次都市機能を含めた社会・経済のサービスを享受することを可能とする。
 このなかで、情報通信インフラは、いつでも、どこでも、誰にでも利用可能な基盤として整備し、情報を自由かつ多様に流通させることにより、生活の質の向上を図る特に、今後は音声、データ、映像など多様な形態の情報を相互に送受信できる高度情報通信社会が到来することにより、遠隔地の住民も、距離に制約されず多様な娯楽、ショッピング、文化・芸術等の活動を行うことが可能となり、地方の生活機能が飛躍的に向上する。さらに、国民生活に密着する医療、教育、道路交通等の情報化を進めることにより、豊かで、安心できる生活の実現を図り、地方定住を推進する。こうした高度情報通信社会の実現に地方が遅れることのないよう全国津々浦々までの基盤整備を推進するとともに、情報通信利用分野における諸制度の見直しやサービス手法の開発支援等を進める。

3) 就業の場の誘致、立地、業務の集積
 頭脳立地法、地方拠点法等に基づく施策等の推進により、地域の拠点となる地方中核・中心都市等において、本社機能をはじめ、企画・管理、研究開発など高度な専門性と創造性を必要とする業務の育成・誘致を図り、大都市と同様の魅力ある就業機会を創出する。また、テクノポリス法等に基づく施策等の推進により、研究開発基盤等を整備し、高度な技術を要する先端産業や都市的なサービス業等の集積を図り、地方における多様な就業機会の確保に努める。
 さらに、テレワークなど情報通信インフラの活用により可能となる新たな就業形態は、ソフトな就業形態として、遠隔地にいながら、都市的業務を可能とするものであり、地方における多様で高度な雇用機会の創出に繋がるものであることから積極的に推進する。

4) 豊かな自然や個性的な伝統文化の保全と地方定住の推進
 地方の豊かな自然環境や個性的な伝統文化を積極的に評価する人々が増えている。地方中心・中小都市をはじめとした地方においては、地域のイニシアティブにより、独自の文化、独自の活動、自然環境の保全と自然とのふれあいの場としての活用による「かお」を生み出し、情報発信力を高め、地方定住志向の定着を図ることが必要である。こうした地域の独自性を生かすためには、住民に身近な行政は住民に身近な地方公共団体において処理することを原則として地方分権を推進する等支援を図る必要がある。

5) 地域を引っ張るリーダーとなる企画力のある人材の育成
 地方都市全般において、今後、地方分権・分散や国際化の進展により、本社機能等を含め高度で専門的な企画力を必要とする業務の集積が進むと考えられることから、これらの業務を担う人材の育成を推進する。そのため、大学等の地方学習拠点、研究開発拠点の充実等を図る。また、国民の価値観の変化により地方定住志向が高まっていることを生かし、コミュニティに愛着を持ち、指導力を発揮している人材の活動を支援することが重要である。

(5) 中山間地を含む農山漁村における豊かなくらしの実現

 農山漁村においては、域内資源の活用による所得の確保と併せ、就業機会の確保にも資する集落内外の道路等アクセス条件の改善を図るとともに、地域社会の活性化を図る観点から人材の確保・育成に努める。また、都市と比べ遅れている上下水道等の整備、情報通信の高度化の促進、生活圏域内における医療・保健・福祉、教育・文化施設の整備等の計画的な推進により、農山漁村の住民の利便性享受の機会を拡大し、くらしやすい農山漁村を形成する。生活排水について、21世紀初頭には農業集落排水処理施設の整備集落数の約35千集落への増加を図る(平成6年:7千集落)等、地域の実情に応じ、下水道、コミュニティ・プラント、集落排水施設、合併処理浄化槽等の効率的な整備を進める。
 農山漁村地域の農地、森林、海域等は、地域住民だけでなく都市住民にもゆとりと潤いを与えるものであり、農山漁村集落及びその周辺の景観保全に努めるとともに、農地の有効利用、間伐等の適切な実施、藻場・干潟の整備等を通じ、農林地等の持つ公益的機能の十分な発揮を図る。同時に、都市住民がこれら農山漁村のアメニティを享受できるよう、農山漁村での滞在型余暇活動が容易に行えるための条件整備を進める。
 情報化については、情報の受信だけでなく、地域からの発信により、開かれた農山漁村の形成を図るとともに、情報化の進展が生活環境改善に与える可能性に留意しつつ、必要な社会資本の効率的・効果的な整備を進める。
 これらの取組みにおいては、各省庁の密接な連携を図る。

7.ライフスタイル等の多様性に応じた住宅及び住環境の整備

(1) 施策の基本的な考え方

 住宅政策の推進にあたっては、幅の広い住宅選択が適切な支出により可能となるよう、価値観、ライフスタイルの変化に伴い高度化・多様化する居住へのニーズに対応し、単身世帯用・ファミリー世帯用、持家・貸家等のバランスの取れた良質で多様な住宅ストックの形成と住み替えの円滑化を図ることが重要である。
 我が国の住宅ストックを、規模、性能、価格、立地の面から評価した時、規模、性能面は、戦後一貫して改善し、持家を中心としておおむね良好な水準に達しているものの、価格、立地面は、大都市圏を中心として良好とは言えない状況にある。
 今後の住宅政策の推進にあたっては、引き続き、規模、性能面の向上を図るとともに、特に、大都市圏において、豊かで安心できるくらしの実現に向けての大きな阻害要因となっている価格、立地面の向上に一層の力点をおく必要がある。
 特に、価格面については、近年首都圏においても、良質な住宅の価格が、勤労者世帯の平均年収の5倍程度(住宅の取得のための調達可能な資金額)という現行計画の目安は達したものの、立地面では、都心部の人口の空洞化、郊外部の人口増加により、都市構造の職住のアンバランスが拡大し、都心居住においては、地域コミュニティの衰退、居住支援機能の悪化が問題となるとともに、郊外居住においては、通勤負担等の問題が生じている もとより、都心部又は郊外の居住地の選択は、生活者が、通勤負担も含め、価値観、ライフスタイル等により行うものであるが、規模、価格とのトレードオフから、現状では、いずれの選択においても豊かで安心できるくらしの実現がむずかしい状況にある。
 このため、鉄道の混雑緩和、道路交通渋滞の緩和等による郊外居住者の通勤負担の軽減や大都市近郊、業務核都市周辺等における良質な住宅地の供給促進と併せ、都心部における居住機能の回復、コミュニティの活性化に向けて、まちづくりと一体となった良質な賃貸住宅の供給の促進等により、都心居住を推進する必要がある。併せて、多極分散型国土形成を目指す国土政策等を推進し、できる限り多くの国民が、職住が近接したゆとりあるくらしを実現できるよう努める必要がある。
 また、住環境についても、通勤の利便性とともに立地面の魅力を決める重要な要素であり、多くの住宅地において、道路、公園等の公共施設が不十分なことに加え、景観、快適性の点でも立ち遅れがみられることから、その改善を一層図る必要がある。

(2) 生活者の多様なニーズに応じた良質な住宅及び住環境整備

1) 所有重視から利用重視へ
 我が国住宅ストックの規模は、おおむね良好な水準に達しているものの、持家・借家間の格差が大きく、また、新たに建設される住宅も同様で、ストックの格差是正が進まない状況にある。国民全体の居住状況の向上のためには、大都市圏を中心として賃貸住宅ストックの質・量を拡大し、安定的な居住を確保することが必要であり、このことは、今後の住宅投資の持続的拡大の観 点からも重要と考えられる。
 ライフスタイル等に応じた住宅選択の幅を拡大するためには、利用面を重視した住宅ストックの充実が望ましく、これと併せて、いわゆる土地神話と 言われる国民の土地保有に対する意識が変化することが重要となり、土地基本法に示された理念の一層の定着を図る。

2) 利用面を重視した良質な住宅建設の促進
 利用面を重視した良質な住宅建設を促進するためには、利用者の意識の変化だけでなく、土地の所有者等が、貸家経営を躊躇する阻害要因を解消するとともに、土地が適正に有効利用されるような条件整備を行い、公共賃貸住宅による適切な補完を行いつつ、民間主体による良質な賃貸住宅の建設を促進する必要がある。このため、不動産共同投資の手法の活用による不動産投資の促進のための条件整備を進めるとともに借地借家法に基づく定期借地権制度等の普及を促進し、その定着動向等を踏まえ、良好な借地・借家の供給促進を図るため、定期借家権とでもいうべきものを含め検討する。
 特に、大都市の老朽木造住宅の密集する地区等においては、防災対策の観点も含め道路、公園等の公共施設整備による住環境の改善と併せて、これらの建替えを促進し規模の小さな貸家ストックの改善を図る。

3) ライフ・ステージ等に応じた住み替えの円滑化
 住宅ストックを有効活用するとともに、国民の居住状況を向上するため、世帯員の増減等のライフ・ステージの変化やライフスタイル等の個人の選好に応じた住替えの円滑化を図り、ゆとりや豊かさにつなげる必要がある。世帯が住宅を選択する際に、持家・借家、新築・中古等の選択がより自由なものとなるよう環境整備を進め、またマンションストックの充実等も勘案し、住み続けるという選択に対しても、リフォーム市場の整備を図ることが重要である。
 このため、住情報の整備、不動産流通市場の充実、住宅の維持管理体制の充実を図る。

4) 高齢社会に対応した住宅の整備
 住宅ストックの高齢社会への対応を図るため、高齢者等に配慮した仕様のための標準的設計指針の普及等により、住宅内部及び住宅周辺のバリアフリー化を進めるとともに、公共住宅団地において福祉施設との併設を促進することにより、福祉施策と連携した住宅の整備を促進する。この際、多世代向けの多様な住宅ストックが一定範囲の地域において形成されるよう促進することにより、高齢者が住み慣れた家庭、コミュニティ等で安心して生活できる条件整備を進める。

(3) 都心居住の推進

 職と住のバランスのとれた都市構造の実現と勤労者の通勤負担の軽減によるゆとりある生活の実現に向けて、都心居住を推進する必要がある。
 また、都心部の地域社会と文化を守り、都心の豊かな生活を再生する必要性や、国民のニーズが多様化するなかで、高齢期に、質の高い福祉サービスが集積し、公共交通サービスが充実している都心部で生活したいとするニーズや、都心部で各種の都市サービスの享受に主眼をおいたライフスタイルを実現したいとするニーズにも対応する必要がある。
 このため、住宅・宅地をその関連公共施設や利便施設とともに整備しつつ、ファミリー向けの良質な賃貸住宅の供給を促進する等、都心部においてまちづくりと一体となった住宅供給を推進する。このことにより、21世紀初頭までに大都市圏の都心部において、良質な住宅を 160万戸供給する。

(4) 良好な居住環境の形成

 豊かで安心できるくらしを実現する上で、環境への負荷に十分配慮しつつ、良好な居住環境が整備され、安全性、保健性が確保され、快適性、利便性等にも優れた日常生活を可能にすることが重要である。このため、都市計画制度、建築規制、誘導制度等を適切に活用し、公開された空地等の開放空間の確保や良好な街並みの形成を進める。
 また、大都市の都心地域の人口の空洞化、地方都市の中心市街地における商業機能の空洞化等の都市構造の歪みに対処するため、既成市街地の再編・整備に着眼し、狭小な敷地狭隘な道路等の問題に対処しつつ、歴史、文化、環境等を活かし、水と緑ゆたかでゆとりある空間の形成に向けて、土地利用の適正化を推進する。
 この際、医療、福祉、教育、文化など住民の生活に密接に関連する分野も含めた将来の都市像全体を提示し、まちづくりに対する住民の関心を喚起し、まちづくり専門家等人材の育成を図ること等により、多くの住民の参加を得ていくよう努める。
 さらに、まちづくりの推進に際しては、土地に関する権利の制限が、結果的に個々の住民の利益となることについての理解を深めるよう努める。

8.環境と調和したライフスタイルの確立のための方策

(1) 環境と調和したライフスタイルの確立に向けた基本的な考え方

 豊かで安心できるくらしを享受していくためには、日々のくらしを環境と調和した持続可能な経済社会システムの中に位置づけていくことが不可欠となっている。
 特に、現在の環境問題は、廃棄物に起因する問題やエネルギー消費の増大を背景とするCO2 排出増加等に起因する地球温暖化問題、大気汚染問題、水質汚濁問題等といった、一般生活者の日々のくらしに関連深いものが多い。このため、産業等での環境問題への対応と並行し、また産業等での対応を加速する原動力としても、国自ら事業者・消費者としての環境保全の取組みを率先実行しつつ、国民のライフスタイルやそれを包含する経済社会全体の変革を進め、資源・エネルギーの持続可能な利用、環境負荷の削減を促進する。

(2) ごみゼロ社会の構築

1) 廃棄物・リサイクル問題に関する基本認識
 大量生産・大量消費・大量廃棄社会の帰結としてわが国の廃棄物の量は増加し続けており、資源浪費、処理費用増、処分場不足等の問題が深刻化し、資源採取から廃棄に至る各段階での環境負荷が高まっている。一般廃棄物は、使い捨て商品(容器) の利用拡大やオフィス・オートメーションの普及等を背景とする紙消費拡大の中で増加してきている一方、一般廃棄物及び産業廃棄物の最終処分場問題等は極めて厳しい。
 廃棄物・リサイクル対策の第一は、廃棄物を出さないことである。出てしまった廃棄物に対しては、再使用、再生利用、熱回収を伴う焼却処理等、埋立等の優先順位で処分を行うこととし、環境コストを含めた廃棄物処理の社会全体としての費用と便益の視点から、この優先順位に従いつつ、適切な処分方法を選択することとする。このため、国、地方自治体、事業者、消費者等すべての社会構成者の主体的参加と協力、役割分担により、ハード(設備)、ソフト(社会的仕組み)を総合した社会インフラを整備・確立し、廃棄物循環型の「ごみゼロ社会」の構築を目指す。具体的には、平成6年度に約42%である一般廃棄物の循環型処理率(市町村が処理する一般廃棄物のうち、再使用、再生利用、熱回収を伴う焼却処理等で処理される割合)を21世紀初頭を目途にほぼ 100%とすることを目指す。

2) ごみゼロ社会構築のための具体的方策
 ハード(設備) の面では、21世紀初頭を目途に、一般廃棄物のほとんどすべてを、単に燃やして埋める処理から、極力リサイクルを推進するとともに焼却処理の際に熱エネルギーを活用する循環型の廃棄物処理に転換するべく処理施設の整備、ごみ発電等の導入を進める。
 ソフト(社会的仕組み) の面では、廃棄物発生の抑制、回収、再使用、再生利用、適正処分に至る社会制度を確立し、そのためのインセンティブメカニズムの導入・活用に努める。
 特に、ごみゼロ社会の構築を目指すためには、国・地方自治体の役割に加えて、企業側での、廃棄物となる量が少なく分別回収、再生利用しやすい製品の開発や相応の負担及び、家庭での分別回収への協力の確保が重要である。このため、先ず、具体的には、以下の方策を組み合わせて実施し、家庭、地方自治体、事業者の間で、各々の廃棄物の減量化・環境負荷低減へのインセンティブを確保しつつ、役割と費用の分担を図る。
  (i)企業における事前評価マニュアルの活用等による、製品の環境負荷への配慮の励行。
  (ii)市町村における、一般廃棄物の減量化及び容器包装廃棄物の分別排出促進のための、一般廃棄物収集時における、従量制等による手数料の適切な措置。
  (iii)容器包装については、「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律」の下に、市町村による分別収集と、事業者責任によるリサイクルの実施。
 また、廃棄物・リサイクル問題については、不法投棄を防止し、リサイクルを推進するという観点から、一層の啓発を行うとともに、預託払戻制度(デポジット制度)の活用についても検討を行う。
 一方、廃棄物循環型のごみゼロ社会を構築していくためには、リサイクルされた製品等が実際に広範に利用され「循環」することが重要である。このため、国、地方自治体、事業者、消費者等すべての社会構成者がリサイクル製品を積極的に利用することなどにより、リサイクル製品の利用・市場の育成等を推進する。

(3) 省エネに向けたライフスタイルの確立

1) 地球温暖化問題に関する国際的枠組みとわが国の責務
 地球温暖化は、深刻な影響が生じるおそれがあるのは将来のことであるとしても、いったん影響が顕在化してから対策をとっても回復することが困難な不可逆な現象である。一方、地球温暖化問題は地球規模の問題であり、一部の国のみによる取組みでは不十分である。特に、今後、世界全体のCO2 排出に占める途上国の比率の上昇が予測されており、途上国での取組みが不可欠と考えられるが、途上国の取組み・参加を確保していくためにも、「共通だが差異ある責任」の考えを踏まえ、先進国が率先して対策に取り組む必要がある。
 このため、わが国としては、国際的に定められている気候変動に関する国際連合枠組条約を着実に実施し、国際的連携を図りつつ、地球温暖化防止行動計画に定める目標を達成するものとする。
 他方、この地球温暖化問題では、上記条約で措置を明確に定めていない2000年以降の扱いが国際的には大きな課題となっている。先進国には例えば、2005年、2010年、2020年といった時点でのCO2 等の温室効果ガス排出量の抑制及び削減目的の設定や政策手段の設定の検討が求められており、わが国としても、国際的な枠組みづくり等 に向けて積極的に努めるものとする。

2) わが国のCO2 排出と省エネ
 CO2 の排出量の動向は、経済成長や石油価格の動向と関連が深いが、近年、わが国では低成長のわりにはエネルギー消費・CO2 排出量が増加している。特に、CO2 総排出量に占める部門別比率としては依然、産業部門やエネルギー転換部門の比率が高いものの、このところ家庭や事務所、運輸部門の比率が上昇してきている。このため、省エネに向けたライフスタイルの確立に努めるものとする。

3) 省エネに向けたライフスタイル確立のための具体的方策
 省エネに向けたライフスタイルの確立に当たっては、可能な限り個人の生活・選択への直接的な介入は避け、啓発やインフラ等環境の整備や、インセンティブメカニズムの導入等を中心として対応するものとする。具体的には産業における対策と並行し以下の対策を実施する。
  (i)家庭に対しては、
   ・室温の適切な調節 (冷暖房の温度を1℃省エネに向けて調節することにより、日本全体のエネルギー最終消費は、0.9%程度の省エネとなる)等の自発的行動促進のための啓発、環境教育等の一層の充実を行う。
   ・住宅の断熱化や、太陽光発電システム導入等を促進する。
  (ii)運輸部門では、環境負荷の小さい物流交通体系の整備や、公共輸送機関の整備・利用を促進し、全体として、エネルギー消費の少ない交通体系を確立する。
  (iii)都市全体を環境と調和したものとするとの考え方の下に、ごみ焼却や工場等の廃熱利用型の発電・地域冷暖房等、省エネ促進型のインフラを整備する。
  (iv)省エネの観点から、サマータイム導入に関して検討する。

(4) くらしの中の環境配慮が生きる経済社会システムの構築

1) 国民の環境への問題意識と行動に関する認識
 廃棄物問題や地球温暖化問題・省エネにとどまらず、酸性雨やオゾン層破壊、SOx、NOx等の大気汚染、水質汚濁、有害化学物質、さらには身近な緑や水辺の保全、野生生物の保護等、国民の環境への問題意識は高く、日々の生活において環境配慮を実行しようという意欲も旺盛である。しかし、
  (i)環境問題に関する正確な基礎知識・情報が普及していない、
  (ii)日々の購買活動における商品の選択等、生活の具体的局面において環境配慮実行のために必要となる情報の入手が困難である、
  (iii)リサイクル製品のほうが、初めて資源を使用して生産される製品より割高となりがちである等、環境配慮を実行したほうが、実行しない場合より高くつく場合が多い、等の制約のために、必ずしも適正かつ積極的な理解や行動に結びついていない

2) くらしの中の環境配慮を生かす経済社会システムのための具体的方策
 国民の高い環境への問題意識を、具体的な行動として生かすために、環境問題の原則である汚染者負担の原則の下、上記の制約を克服・軽減するための政策を体系的に整備・実施する。具体的には、以下の施策を促進する。
  (i)正確な基礎知識・情報の普及のため、
   ・環境問題に関する情報提供、啓発活動、環境教育を一層促進する。
   ・正確な情報・知識の基礎を拡充するため、環境に関する調査・研究を充実する。
  (ii)生活の具体的局面での情報の入手困難性の緩和のため、
   ・環境ラベル事業を適切に指導する。
   ・リサイクル等に関する具体的な環境情報の流通・ネットワーク化を支援・促進する。
  (iii)環境配慮の実行を有利なものとするため、
   ・環境関連産業の発展基盤を整備し、多様な環境保全関連製品・サービスの安価な供給を促進する。
   ・大量公共輸送機関、下水道等、国民の環境に配慮した行動の促進に資する社会インフラを整備する。
   ・環境コストを価格に反映させるというルールを国民の理解を得て確立し、その実現のための経済的措置の活用について検討を進める。また、その具体的措置の導入に際しては、国民の理解と協力を得るよう努力する。


別表1 社会的支援の連携策
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