第3部 経済の姿と経済計画の役割

第9章 経済の姿

第1節 適切な経済運営による景気の着実な回復


我が国経済は、平成5年10月に景気の谷を迎えて以降、その景気回復のスピードは過去 の回復局面と比較しても極めて緩やかである。その背景には様々な構造的問題があり、そ れが循環的な要因と相まってこうした経済状態をもたらしていると考えられる。 このため、政府は、累次にわたる経済対策に加え、平成7年9月には、
  • 1) 思い切った内需拡大策の実施により、先行き不透明感の払拭と消費者・企業 マインドの改善を図り、消費・設備投資の活発化を通じ早期に景気回復を確実なものとす る。 このため、過去最大規模の公共投資等を確保し、その効率的実施を図るとともに、現 下の経済社会情勢に的確に対応するため重点的な投資等を行うこととする、
  • 2) 資産価値の下落に伴う諸問題を含め、現在直面している課題の早期克服に努める 。土地の有効利用の促進や証券市場活性化策等を進めるとともに、金融機関の不良債権 問題についても早期処理が必要である。また、雇用情勢や中小企業の経営環境に対応 して適切な対策を講じる、
  • 3) 中長期的発展に資する構造改革を推進するため、研究開発・情報化の推進、新 規事業の育成等による経済フロンティアの拡大、規制緩和や輸入・対日投資を促進する、
の3つの点に重点を置いた経済対策を取りまとめ実施しているところである。今後とも、 本対策の着実な実施と機動的な経済運営を行っていくことにより、景気の回復は確かなも のとなると考えられる。

第2節 経済構造改革と経済の姿


こうした景気回復を中期的に持続的安定的な内需主導型の成長につなげていくためには、 以上の施策に加え、本計画で示した規制緩和等の構造改革に直ちに積極的に取り組むこと により、新たな成長軌道を構築していくことが必要である。構造改革の過程ではある程度 の摩擦が生ずることは避けられないが、これらをできるだけ少なくするとともに、適宜、 適切な対応を実施していくことにより克服していくことが重要である。
構造改革の成果の上に実現される計画期間中の経済の姿を展望すると、民間最終消費は、 景気の回復による消費者マインドの改善と高コスト構造の是正による実質賃金の上昇等を 背景に堅調に推移する。民間設備投資は、規制緩和が企業の自由な創意工夫を引き出し新 規事業が創出されることや、情報通信の高度化に伴う新たな投資が増加すること等により 拡大する。公的総固定資本形成については、財政の健全性を確保しつつ、積極的な「公共 投資基本計画」の促進に努めることとする。
外需については、世界経済が堅調な成長を続け、世界の工業品貿易も順調に拡大すると 考えられる一方で、我が国企業の海外生産も増加し、また市場アクセスが一層改善するも のと考えられる。これに加え、米国の財政赤字の削減が計画通りに進むこと等を前提とす れば、輸入の伸びが輸出の伸びを上回ることとなり、我が国の経常収支黒字の十分意味あ る縮小につながっていくこととなろう。
以上の結果、平成8年度以降計画最終年度(平成12年度) までの経済成長率は実質で年 平均3%程度、名目で年平均31/2 %程度と見込まれる。我が国の潜在的な能力が活かされ 、環境と調和した持続的安定的な内需主導型の成長とそれに基づく自由で活力があり、豊か で安心して暮らせる、国内外に開かれた経済社会の実現が期待される。

第3節 雇用の確保と物価の安定


雇用の動向に関しては、規制緩和等の構造改革の実施や製造業を中心とする国際分業の 進展等を背景に産業構造が変化する過程において、需給のミスマッチ等による失業問題が 発生するおそれがある。このため、適切かつ総合的な雇用対策を実施することとし、平成 12年度(2000年度)の完全失業率については23/4 %程度を目安として、できる限り低くす るよう努める。
消費者物価については、高コスト構造の是正、輸入の促進、適切な公共料金政策等によ り、平成8年度以降計画最終年度(平成12年度)までの年平均上昇率を3/4 %程度と することを目安とする。なお、卸売物価については、同期間中年平均1/4 %程度下落 すると見込まれる。

第4節 構造改革が進展しない場合の経済の姿


本計画で示した規制緩和等の構造改革が進展しない場合には、我が国経済の潜在的な能 力を活かすことができないため、平成8年度以降計画最終年度(平成12年度) までの経済 成長率は実質、名目ともに年平均13/4 %程度となろう。その場合、平成12年度 (2000年度)の完全失業率は、33/4 %程度となろう。
したがって、本計画で示した構造改革を直ちにかつ積極的に実行することが、持続的安 定的な内需主導型の成長の実現のために極めて重要である。

表) 本計画における経済の姿(平成8~12年度)

実質経済成長率
 うち内需寄与度
3 %程度 ( 13/4 %程度)
3 %程度 ( 11/2 %程度)
名目経済成長率 31/2 %程度 ( 13/4 %程度)
消費者物価上昇率 3/4 %程度 ( 1/2 %程度)
卸売物価上昇率 ▲1/4 %程度 (▲3/4 %程度)
完全失業率(最終年度) 23/4 %程度 ( 33/4 %程度)

(注)
1.( )内は、構造改革が進展しない場合の経済の姿である。
2.経済成長率は実質、名目ともGDP(国内総生産)の伸び率である。
3.内外諸情勢には流動的要素が多いこと等から、上記の諸数値はある程度幅をもって考えられるべきである。
4.上記の諸数値のうち経済成長率、物価上昇率については、平成8~12年度の期間における平均的な伸び率を示したものである。

第5節 21世紀の経済社会の姿


本計画の着実な実施により、現在の若年層が社会を担う21世紀初頭には、政策対応の基 本的方向で示したように、自由で活力があり、豊かで安心でき、地球社会に参画する経済 社会が実現することが期待される。そのような社会においては、知的資本の整備が進み、 創造的な研究開発が行われており(科学技術創造立国)、また、情報通信の効率化、高度 化により、くらしの仕組みや産業経済活動も大きく変革されていく(高度情報通信社会) ものと期待される。また、そうした社会においては、人々は、生涯を通じて能力開発を図 ることが可能となっており(能力開花型社会)、必要に応じて活用できる社会的支援シス テムが構築され(自立的福祉社会)、老若男女の意欲と能力に応じた社会参加が可能とな っている(老若男女共同参画社会)ものと期待される。また、その社会は内外に開かれた ものであり、地球社会の発展に積極的に貢献している(地球社会参画型国家)ものと期待 される。

第10章 経済計画の基本的役割とその実施

第1節 経済計画の基本的役割


市場経済を基調とする我が国においては、経済計画の基本的役割は、 1望ましく、かつ 実現可能な経済社会の姿についての展望を明らかにすること、 2中長期にわたって政府が 行うべき経済運営の基本方向を定めるとともに、重点となる政策目標と政策手段を明らか にすること、 3家計や企業の活動のガイドラインを示すこと、にある。
重層的な時代の転換点にある現在、21世紀の入口までの指針を示す今次の経済計画の持 つ意味合いは極めて高い。

第2節 経済計画の実施と情勢の変化への弾力的対応


(1) 計画の実施に当たっては、内外情勢の変化に弾力的に対応するとともに、計画に掲げ る政策の着実な推進を図る必要がある。このため、流動的な内外経済情勢の下でガイド ライン的な性格を持つ経済計画の実効性ある推進を図るため、毎年、経済審議会は、内 外経済情勢及び施策の実施状況を点検し、毎年度の経済運営との連携を図りつつ、その 後の政策運営の方向につき政府に報告するものとする。<> (2) 我が国を取り巻く諸情勢に急激な変化が生じた場合、または、その発生が予想される 場合には、経済審議会は、随時、この計画に示した展望を見直すとともに、我が国が取 るべき方策について提言する。