経済審議会 地球社会と我が国の役割部会報告 95.11

地球社会と我が国の役割部会 報 告

平成7年11月
経済審議会

目 次

要 旨

I. 我が国の対外経済政策の基本方針・・・・・・・・・・・・・・ 1
1.各国の国内経済システムの多様性・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
2.地球的規模の諸課題の解決に向けて・・・・・・・・・・・・・・・ 2
3.多様な国々の地球社会における共存を目指して・・・・・・・・・・ 2
4.国内外に開かれた経済社会の創造・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
5.国民にわかりやすい透明な手続きによる方針の決定・・・・・・・・ 3

II. 国内外に開かれた経済システムを目指して・・・・・・・・・・ 4
1.制度・仕組みの国際的調和の推進と市場アクセスの一層の改善・・・ 4
(1) 我が国の経済システムの改革と国際的な検討・・・・・・・・・・ 4
(2) 我が国の経済構造の改革とそのための市場アクセスの改善、対内直接投資の促進等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
(3) 具体的施策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
2.貿易・投資の拡大均衡と国際分業の進展・・・・・・・・・・・・・ 6
(1) 貿易・投資の拡大均衡・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
(2) 分業関係の姿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
3.調和ある対外均衡の達成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
(1) 経常収支黒字の国際的側面と国内的側面・・・・・・・・・・・・ 7
(2) 調和ある対外均衡を目指して・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
4.為替レートの変動への対応と円の国際化・・・・・・・・・・・・・ 8

III.世界経済の枠組み作り等への積極的参画・・・・・・・・・・・10
1.マクロ経済政策協調・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
2.貿易・投資の枠組み作り・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
(1) 貿易と労働基準・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
(2) 緊急措置、産業調整・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
(3) 貿易と環境・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
(4) 貿易と競争政策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
(5) 投資・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
(6) 地域経済統合・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12

IV. 地球社会への貢献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
1.地球的規模の課題への貢献、国際的な協力の推進・・・・・・・・・13
(1) 地球環境問題への対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
(2) エネルギー面の貢献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
(3) 保健・医療面、麻薬問題での貢献・・・・・・・・・・・・・・・15
(4) 食料問題への貢献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
(5) 旧計画経済圏諸国の市場経済化への支援・・・・・・・・・・・・16
(6) 科学技術面の貢献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
(7) 情報通信の高度化に関する貢献・・・・・・・・・・・・・・・・16
2.我が国ODAの新時代の構築に向けて・・・・・・・・・・・・・・17
(1) ODAの新時代の構築に向けての取り組み・・・・・・・・・・・17
(2) 広範な経済協力の推進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
(3) 援助実施体制の整備・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

V. アジア太平洋協力・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
1.貿易・投資の自由化・円滑化・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
2.多面的協力の重視・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
3.更なる発展の確保・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

VI. 国際的に開かれた社会の創造・・・・・・・・・・・・・・・・23
1.外国人にも住みやすい環境の整備・・・・・・・・・・・・・・・・23
2.人と文化の交流・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
3.外国人労働者問題への対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

VII.自由化・国際化の下での金融システム・・・・・・・・・・・・25
1.地球社会における我が国金融・資本市場の役割・・・・・・・・・・25
(1) 国際金融取引の一体化と我が国金融・資本市場の役割・・・・・・25
(2) 我が国金融・資本市場をめぐる問題点・・・・・・・・・・・・・25
(3) 我が国金融・資本市場の機能発揮のための方策・・・・・・・・・26
2.金融システムの安定性確保のための方策・・・・・・・・・・・・・27
(1) 金融機関等の経営の健全性の確保と投資家等の自己責任原則の確立 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
(2) 金融派生商品取引の拡大への対応・・・・・・・・・・・・・・・28


I. 我が国の対外経済政策の基本方針

 貿易、投資、さらには、人、情報の国際的交流が活発化する中で、各国間の相互依存関係は、ますます深まってきている。我が国経済も世界の動向と分かち難く結び付けられており、世界の平和と繁栄無しには、我が国の平和と繁栄も望み得ないものとなっている。
 しかし、世界の平和や繁栄も、我が国の動向と無関係に実現されるものではない。既に、我が国経済は世界経済の中で、大きな比重を占めており、その経済動向は世界経済に様々な影響を与えている。我が国の世界の平和に向けた取り組みも世界から注視されている。我が国は世界の平和と繁栄の、目立たない受益者に留まることはできない。
 我が国としては、経済システムを改革し、その国際的な調和を図るとともに、世界の望ましい在り方や、その実現のための道筋(グランド・デザイン)についても、自らの考え方を率直に提示した上で、世界の国々と様々な意見交換を行うという形で地球社会に参画していくことが重要である。

1.各国の国内経済システムの多様性

 世界経済の枠組みは、市場メカニズムを基本原理として形成されており、国際間の経済の枠組みのみならず、冷戦終結後は、大多数の国の国内経済システムも、この原理の下に形成されている。東アジアの国々も、市場メカニズムを生かしながら発展してきた。我が国としては、貿易・投資のルールをはじめとして国際的な経済の枠組みについては、市場メカニズムが、より発揮されるものとなるよう積極的に働きかけていく。
 一方、各国の国内経済システムは、それぞれの国の発展段階や、社会的・文化的背景と無関係ではありえない。等しく市場メカニズムを基本とする国々の中でも、国毎に、市場メカニズムの貫徹と、所得分配の平等性や、社会の安定との間のバランスをどうとるかについての考え方は、少しずつ異なりうる。特に、発展途上にある国々の中には、いわゆる「開発主義」といった考え方により、経済発展のための政府による市場への関与と経済発展の中で社会の安定を重視する政策をとる国もある。
 このような経済システムや、経済政策の考え方の差異は、冷戦構造の下では西側の結束を図るとの観点もあり、あまり重要視されてはこなかったが、冷戦が終結し、また、各国間の経済の相互依存関係が深まるに従い、それぞれの国の経済システムや、経済政策の考え方に差異のあることの問題が顕在化してきている。特に、社会的・文化的背景も発展段階も異にする国々の集まりであるアジア太平洋協力においては、貿易・投資の枠組み作りなど具体的な問題の検討に際し、各国間の考え方に少しずつ違いが存在しており、その中で、先進国であると同時にアジアに位置する我が国に対し、どのような立場をとるのかとの重要な問い掛けがなされている。

2.地球的規模の諸課題の解決に向けて

 また、世界には、地球環境問題、貧困、飢餓など、市場メカニズムを補完するための枠組みや、直接的な対応を必要としている多くの課題が存在する。我が国としては、国際的な協力・協調の下、これら地球的な諸課題の解決に貢献していかなければならない。
 特に、地球温暖化等の地球環境問題については、喫緊に取り組むべき課題となっており、我が国としても、世界の「持続可能な開発」の実現を目指し、地球環境問題の解決にむけ率先した役割を果たしていく必要がある。

3.多様な国々の地球社会における共存を目指して

 我が国としては、先に述べたような経済システムや経済政策の考え方の差異については、それが対立の芽となるのではなく、それぞれの国が競い合い、また、互いにシステムの調和を図りあいながら世界全体の繁栄を図っていく道を探っていくべきであろう。
 即ち、日、米、欧等の先進国では自由と民主主義との共通の理念の下、市場メカニズムに基づくより透明で開かれた経済システムを実現し、互いに競い合うとともに地球的な諸課題の解決に向け協力していくことが重要であろう。その意味でも、次に述べるように我が国の経済システムをより内外に開かれたものとしていかなければならない。また、発展段階の違いによる経済システムの差については、これを許容しつつも、途上国の経済発展を支援し、発展段階の差を埋めていくことにより、これらの国々が、より市場メカニズムが発揮される経済システムへと早期に移行しうるよう促していく努力も重要である。
 さらに、どのようにして途上国の経済発展を支援していくのか、貿易・投資等のルールなど世界経済の枠組みについてどうあるべきか、また、地球環境問題をはじめとする諸課題に対し、どのような国際的枠組みで対応していくのか等に関し、我が国として、第3章以下に述べるような考えに基づき、各国と意見交換を行い、調整をしつつ、世界の枠組み作りに積極的に参画していくことが重要である。
 既に、先進国間では先進国首脳会議、OECDなどの場で、途上国も含めたものとしてはAPECなどの場で、各国間の協力・協調のための協議・意見交換が活発に行われている。IMF、WTO、世界銀行等の国際機関も広範な活動を繰り広げてきている。地球環境問題を始め各国が協力し合わなければ解決のできない問題もある。多くのNGOは国家の枠を超え、様々な地球的課題の解決のため の活動を活発に行っている。
 我が国としては、このような国際的な協力・協調の動きを一層促進しつつ、市場メカニズムを基本とするとの考え方の下、多様な国々が、競い合い、また、協力し合いながらこの地球社会において共存する道を探求していくべきである。

4.国内外に開かれた経済社会の創造

 以上のような考え方に基づき、世界に対し積極的に発言していくと同時に、前述のように国内的には我が国経済社会を真に内外に開かれたものとしていかなければならない。既に経済のキャッチアップ段階を終了して久しい我が国としては、市場メカニズムがより一層発揮されるよう我が国の経済システムの改革を進めていかなければならない。また、我が国の社会を、異なる価値観の人々に対し、より受容力の高い社会としていくことも必要である。このような形で、我が国経済社会を国内外に開かれたものとしていくことは、我が国自身にとって現下の喫緊の課題であると同時に、我が国が世界の経済の枠組み作りに積極的に参画していく前提ともなるものである。

5.国民にわかりやすい透明な手続きによる方針の決定

 また、我が国が国際的な交渉や協議において積極的に発言し、また提案を行っていくためには、対外経済政策の基本的方向について、国内においてコンセンサスを作り上げておくことが重要である。また、対外経済政策の検討に際しては、透明な手続きの下、国内において、現実に即し、広範な論議を展開していく。

II. 国内外に開かれた経済システムを目指して

1.制度・仕組みの国際的調和の推進と市場アクセスの一層の改善

 次章から第6章までに述べるように、我が国として、世界の経済の枠組み作りや、地球的諸課題の解決に向け、積極的な役割を果たしていくと同時に、国内的には、制度・仕組みの国際的な調和を進め、市場アクセスの一層の改善を図ることが、緊急の対応を要する重要課題となっている。

(1) 我が国の経済システムの改革と国際的な検討

 国際的には、これまで、我が国経済の制度・仕組みに対し、「日本に特殊で閉鎖的なものがある」との批判がされてきた。たしかに国際的な批判のうちには耳を傾けるべきものも多く、また、我が国の制度・仕組みのうちには、戦後のキャッチアップ段階で形作られたものが、既に経済合理性を失ったにもかかわらずそのまま残されているなど、我が国自身にとっても問題と考えられるものもある。このため、制度・仕組みの国際的調和を進め、市場アクセスの一層の改善を図るなど、諸外国からの批判も踏まえ、我が国の経済システムの改革を進めていく。また、これら制度・仕組みのうち、民間の取引慣行については、政府としては、競争の促進等により、その問題点の是正が図られるよう環境整備を行う。
 むろん国際的な批判の対象となってきた我が国の制度・仕組みのうちには、経済合理性にかなうものもあり、我が国の経済の力強さの源泉となっているものもある。また、各国間で制度・仕組みの調和が図られていくことは、貿易や国際間の投資の拡大のため重要なことではあるが、世界の全ての国々の制度・仕組みが、全て同じものとならなければならないということではなく、それぞれの国が一定の範囲内で特色のある制度・仕組みを有していることが、それだけで直ちに国際的に非難されるべきことではない。従って、国際的には、我が国も含め各国の制度・仕組みの問題点につき、多国間協議の場等を活用し、冷静かつ客観的な国際的な議論を進めていくことも必要である。

(2) 我が国の経済構造の改革とそのための市場アクセスの改善、対内直接投資の促進等

 制度・仕組みの国際的な調和を進め、市場アクセスの一層の改善を図っていくことは、我が国が、諸外国からの要請に応えていくためのみならず、我が国自身の経済構造の改革、経済の活性化のためにも必要なことである。経済構造の改革は、国内において痛みを伴うこともあるが、それらの痛みに対しては、経済の活性化を進める中で、適切に対応を行いつつ、これを進めていかなければならない。規制緩和を進め、国内における競争を促進していくことは、我が国経済を自由な企業と個人のイニシアティブにより活力あるものに変革する鍵となるものである。
 我が国経済を内外に一層開かれたものとし、我が国の輸出産業が、海外市場において国際的に競争するだけでなく、我が国の輸出産業以外の産業が、輸入された財・サービスと国内において国際競争を行い、その中で、各企業が多様で品質に優れ、そしてより安価な財・サービスを供給すべく努力していくことが、国民の生活を豊かにし、また、経済を活性化する道である。
 さらに、貿易財産業のみならず、流通業、サービス業等いわゆる非貿易財産業においても、規制の緩和を進めるとともに、対日直接投資の拡大を通じ新しいノウハウの導入や国内での競争の促進が図られることは、概して低いと見られているこれら産業の生産性の向上にも資するものである。
 我が国の制度・仕組みの改革は、諸外国から批判があるからということだけではなく、我が国経済の活性化、国際的な競争に十分さらされず、生産性が低いままとなっている産業の生産性の上昇と、それによる内外価格差の是正など、国民生活の向上のためこれを進めていくべきものである。

(3) 具体的施策

 このような観点に立ち、制度・仕組みの国際調和、我が国への市場アクセスの一層の改善並びに輸入及び対内直接投資の促進のため、以下の施策を講じていく。
 1) 本年(1995年)3月策定した規制緩和推進計画を3年計画として前倒しして実施するとともに、同計画に盛り込まれた事項について、フォローアップの充実を図るとともに、毎年度見直しを行っていく。また、競争政策の積極的展開を図るため、独占禁止法の運用強化を図る。
 2) 情報提供や金融、税制面の支援策の活用や総合的土地政策の推進による高地価の是正等投資環境の整備を図ること等により製品輸入と対内直接投資の拡大を図る。
 3) OTO(市場開放問題苦情処理体制)の機能を一層活用する。また、輸入協議会の機能を積極的に利用するとともに、対日投資会議の活用を図る。
 4) 基準・認証制度等については、基準や、認証方法等に関し、国際的な整合性を図るとともに、外国データの受入れ等を図る。また、規格・基準の相互承認制度の導入のため、各国・地域との協議を進める。
 5) 輸入促進地域(フォーリン・アクセス・ゾーン)、輸入関連インフラ等の整備を、地域経済の発展、地域社会との共生との視点も踏まえ進める。

2.貿易・投資の拡大均衡と国際分業の進展

 我が国の対外直接投資は、1980年代半ば以降活発化した。特に、近隣のアジア諸国への対外直接投資の活発化は、これら諸国の経済発展の一つの契機となるとともに、これら諸国と我が国の間で様々な形の分業関係の深化をもたらしている。

(1) 貿易・投資の拡大均衡

 我が国とアジア諸国を始め世界各国との間で、適切な環境配慮の下、分業関係が深化していくことは、各国における生産要素の賦存量の違いを基に、それぞれの国が比較優位の財・サービスを生産していくことであり、我が国にも、それぞれの国にも貿易の拡大均衡による利益をもたらすものである。
 確かに、このような分業関係の深化は、一部の産業に産業調整への圧力を及ぼし、国内に保護主義圧力を生じさせることもある。しかし、保護措置によって国内経済の活性化が図り得ないことは、かつて、日本からの輸入の増大に対し、保護主義で対応しようとした他の先進諸国の経験が示しているところである。我が国としては、貿易・投資の拡大を通じ、各国との間で、経済の拡大均衡を図っていく。
 困難に陥っている産業に対する措置としては、国内での構造改善措置を基本とすべきである。なお、我が国への輸入の急増に対する緊急措置(いわゆるセーフガード措置)については、必要な限度及び期間等発動が厳しく限定されたWTO協定のルールに従って行う。

(2) 分業関係の姿

 我が国とアジア諸国を始めとする世界各国との分業関係の姿については、市場メカニズムにより、ダイナミックに変化していくものである。国際的な分業関係の中で、我が国のために確保されている産業分野が決まっているわけではない。アジア諸国との間でも既に労働集約的な財のみならず、いわゆるハイテク分野など従来我が国が得意と考えてきた分野においても、様々な競争が始まっている。重要なことは、我が国においても諸外国においても、各企業が、国際的な競争の中で、よりよい財・サービスを競争力ある価格で供給できるよう努力していくことで、我が国も含め、それぞれの国が互いに拡大均衡の利益を享受していくことである。

3.調和ある対外均衡の達成

 近年の各国の経常収支の動向をみると、西ドイツが東西ドイツの統一後、ドイツとして若干の赤字国となって以降、主要国では、我が国だけが大幅な経常収支黒字国となっている。このような経常収支の大幅な黒字は、我が国にとって、国際的な問題であるだけでなく、国内経済の問題を考える契機ともなるものである。

(1) 経常収支黒字の国際的側面と国内的側面

 まず、国際的には、このような大幅な経常収支の黒字は、「我が国市場が閉鎖的」との諸外国の認識とも相まって、保護主義的な政治圧力を増大させるのではないかと懸念されてきた。また、我が国の経常収支の動向等我が国の経済動向は、世界経済に様々な影響を与えるものである。このような状況の下、我が国は、平成5年(1993年)に中期的に十分意味のある経常収支黒字の縮小に向け努力することを国際的に表明した。
 一方、国内的に見ると、経常収支黒字は、事後的には貯蓄と投資の差に一致しており、家計の貯蓄率が高水準にあるなかで、我が国の経済構造をどのように変革していくかを考える契機ともなるものである。
 21世紀の本格的な高齢社会の到来を控え、豊かさを実感できるような国民生活の基盤を築くとの観点から、公共投資基本計画の考え方を踏まえ着実な社会資本の整備を図るとともに、将来にわたり、経済の活力を維持できるような基盤を築くため、規制緩和を進め、民間の投資を活発化するなど我が国経済の構造改革を進めていくことが、内需主導型の安定的な成長を目指す観点から重要であり、それが結果的には適切な対外均衡の実現に資するものである。

(2) 調和ある対外均衡を目指して

 このような考え方に基づき、これまでも景気回復、経済構造改革のための各般の施策を講じてきたところであり、このような施策の効果もあって我が国の経常収支黒字(円ベース)は、平成4年(1992年)のピーク以来、着実な減少傾向を示してきている。
 経常収支の黒字額は、我が国の景気動向や経済構造のみならず、世界の経済動向等によっても、大きく影響を受けるものである。従って、我が国の政策のみによって、コントロールできるものではないが、我が国としては、現在縮小傾向にある経常収支の黒字をさらに大幅に削減するとの強い決意の下、内需主導型の経済成長の定着を図るとともに、我が国経済構造の改革や輸入促進策等をさらに進めることにより、国際的に調和のある対外均衡の実現に努める。

4.為替レートの変動への対応と円の国際化

 円の為替レートは、固定相場制時代の 360円/ドルから、次第に増価してきており、これまでも円高が急激に進んだ局面においては、我が国輸出産業に影響を与えるなど、我が国経済に様々な影響を与えてきた。
 為替レートについては各国経済のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましく、今後とも短期的・思惑的な為替変動に対しては、主要国と協議・協調しつつ対応していく。
 また、本来、円レートの上昇は、我が国経済にデメリットのみならずメリットをももたらすはずのものであるが、我が国経済においては、前述の輸出産業への影響などデメリットの面が強調される傾向が強い。我が国としては、国内において競争の促進、規制緩和等を進め、円レートが上昇したとしても、それが輸入された消費財の価格下落や輸出産業等への投入コストの低下に速やかに結びついていくようにするなど、円高のメリットをも享受しやすい体質へ我が国の経済構造を転換していくことが必要である。
 また、これまで、趨勢的に円高傾向が続いてきているが、市場アクセスの一層の改善を図ることにより、同じレートの下でも、より多くの輸入が可能となるようにしていくことも、中長期的な為替問題への対応として重要である。
 なお、最近、円が一層国際化していく動きが生じている。円の国際化の進展は、基本的には我が国企業等の為替リスクの管理を容易にする、あるいは、我が国の金融機関のビジネスチャンスを広げる等望ましい方向であると言える。しかし、将来、円がアジアでの基軸通貨としての一翼を担うこととなれば、我が国が金融面での対応を域内諸国から求められる可能性があるなど基軸通貨国の一員として責任を担っていかなければならないことにも十分留意しておく必要がある。
 今後、円の国際化が進むと考えられる中で、我が国としては、これに備え、金融資本市場へのアクセス改善等一層の環境整備を進めていく必要がある。

III. 世界経済の枠組み作り等への積極的参画

1.マクロ経済政策協調

 マクロ経済運営に当たっては、まずは、自国のインフレなき持続的成長を図ることが重要であり、そのことが結局は世界全体の経済発展にも資することになる。しかし、国際的な経済の相互依存が深まる中で、我が国も含め各国のマクロ経済の動向が、貿易、金利、為替等の変動を通じ、他の国々に影響を与える度合いも無視しえないものとなってきている。
 経済運営に際し、国際的な協調を重視するあまり、自国の経済運営を歪めてしまってはならないが、可能な範囲内で、それぞれの国が、自国の経済動向が他国に与える影響をも考慮していくことが必要である。我が国としても、各国間の政策当局者間で経済動向について共通認識を得、また、政策運営において協調していくとの視点から、先進国首脳会議、OECD、G7等の場を通じ、国際的な政策協調に努める。また、このような場においては、他の主要国の経済運営に問題点があれば、率直にこれを指摘していく。特に、米国の財政赤字の削減、貯蓄率の向上を始め、米国の規律あるマクロ経済運営は、米国にとっても、また基軸通貨であるドルの信認の低下防止など我が国を含め世界経済全体にとっても重要課題であるとの認識が共有されるよう引き続き努める。
 さらに、いわゆるマクロ経済運営に関連する事項のみならず、ヨーロッパにおける高失業率の問題など構造問題等についても、様々な場を利用し、意見交換を行うとともに、政策面の協調を図る。

2.貿易・投資の枠組み作り

 我が国は、自由で開かれた貿易の枠組み、即ちGATT体制の下で発展してきた。我が国としては、一昨年(1993年)のウルグァイ・ラウンド交渉の成功裡の終結、本年(1995年)のWTOの設立に至る過程で高まった世界的な多角的自由貿易体制の維持・強化へのモメンタムを維持し、今後、より多くの国々がこの枠組みに参加し、また、WTO協定の着実な実施と自由で開かれた貿易・投資の枠組みのさらなる発展が図られていくよう、一層の努力をする。
 しかし、多角的自由貿易体制の維持・強化へのモメンタムが高まっているとはいえ、一方では保護主義の動き、特に偽装された形での保護主義に対しては、常に警戒が必要である。また、東アジアをはじめとする新興経済圏の出現が、先進国内に様々な構造調整圧力を与え、これが保護主義に転化する可能性もある。自由貿易体制を支えてきた大きな政治的要因の一つであった、西側の結束を重視するとの考え方が、冷戦構造の崩壊により失われ、各国の個別の利害が国際的な交渉の場に持ち出されやすいとの点にも留意が必要である。
 このような状況の中で、多角的自由貿易体制の維持・発展を図っていくためには、各国のWTO協定の実施状況を厳しく監視し、貿易相手国の政策に問題があれば、WTOの紛争解決手続を適切に活用していくとともに、ウルグァイ・ラウンド後の新たな課題として既に国際的な論議が始まっている諸テーマや、各国の規制制度の改革等に関し、我が国の考えを明らかにしつつ、以下に述べるように国際論議により一層積極的に参画していく。

(1) 貿易と労働基準

 ポスト・ウルグァイ・ラウンドのテーマの一つとして「貿易と労働基準」が提案されているが、その背景には、開発途上国の労働条件を改善すべきとの考えとともに先進国内にある東アジアを始めとする新興経済圏の安い労働力への警戒感がある。このテーマをめぐる国際的な論議が、偽装された保護主義に結びついていかないよう、OECD等の場で我が国として、積極的な働きかけを行うことが必要である。

(2) 緊急措置、産業調整

 また、輸入増大への緊急措置としては、一時的な輸入制限(いわゆるセーフガード措置)が認められているが、貿易制限のみに安易に頼ることなく、産業の構造改善及び転換を円滑にするための国内政策も重要であることについて、国際的な議論を喚起していくことも必要である。

(3) 貿易と環境

 環境保全のための貿易制限が必要な場合や、環境保全のための措置が貿易に副作用を持つ場合もある。しかし、環境の保全と自由貿易体制の利益が両立するよう、このような制限や副作用をできるだけ少なくすべきである。
 この問題については、既に「環境と開発に関するリオ宣言」等において、原則的な考えが示されており、我が国としては持続可能な開発の実現に向け、貿易と環境を相互に支持的なものとするべく、今後WTO等の場を通じて、十分な検討を進めていく。

(4) 貿易と競争政策

 貿易と競争政策との関係の問題については、市場アクセスの問題とも関係の深いテーマである。我が国としては、自らの経済構造の改革を進めつつ、競争政策の推進、競争制限的な貿易政策への規律の強化を始め、規制制度の改革についても、多国間協議の場を利用し、冷静かつ客観的な論議を行っていく。

(5) 投資

 投資のさらなる自由化はポスト・ウルグァイ・ラウンドの重要テーマの一つとなっている。我が国としては、現在、OECDで進められている「多数国間投資協定」策定に向けた作業やAPECでの投資自由化の議論に積極的に参画していくなど、国際的な論議に積極的に参画していく。このような投資ルールについては、開発途上国もその枠組みの内に入ることが重要であり、その際には、発展段階の違いへの配慮も必要である。

(6) 地域経済統合

 EUやNAFTAなどの地域経済統合の枠組みに属していない我が国としては、地域経済統合の動きが、多角的自由貿易体制の維持・強化への努力を減殺することのないよう、また、個別の地域統合が、域外に対し貿易制限的にならぬよう、WTO等の場で監視を行なう。なお、我が国が参加した地域協力の枠組みであるAPECについては、「開かれた地域協力」を目指す。

IV. 地球社会への貢献

1.地球的規模の課題への貢献、国際的な協力の推進

 世界には、各国が協力しあいながら解決をすべき課題が山積している。地球環境問題、エネルギー問題、人口爆発、これに伴う食料問題や貧困問題への対応、エイズ問題など、いずれも、一国のみの対応では、問題解決は不可能である。
 これらの課題の中には、エネルギーの安定供給確保、越境による酸性雨の降下の防止など、我が国の利害に直接関係する課題もあるが、人口爆発や貧困問題への対応など、一見我が国の利害に、直接には関係しないように見える課題もある。幸い、これら直接的な利害には関連しないように見える課題であっても、我が国が有している経済力・技術力・科学的知見をこれら課題の解決のため活用すべきとの点については、多くの国民の支持を得ている。これらの課題解決のためには、国民の負担が必要であり、今後とも、国民の理解と支持を得ながら施策を進めていく必要がある。
 そのためには、国際的に合意された枠組みに従い、我が国として、応分の協力をしていくというだけでは不十分である。我が国として、どのような地球社会を目指していくのか、そのために、地球環境問題、人口爆発や貧困問題等の課題についてどのような枠組みで対応するのか、それが我が国の長期的利益とどう関係していくのか国民の前に示し、理解を得、また、世界にも提案していくことが望まれる。
 既に、このような視点も踏まえ、人口、エイズなどいくつかの重要な課題について日米が協力して、問題解決に当たるための枠組み(コモン・アジェンダ)の下で、我が国からも積極的に提案し、APECにおいては、域内で解決すべき課題等について、我が国として多くの提案を行ってきており、また、第4回世界女性会議においても、我が国は途上国の女性支援のための包括的な取り組みを提案したところである。
 我が国としては、今後とも、国際的に協力しつつ対応すべき課題や、課題解決の枠組みについて積極的に提案するとともに、地球環境問題等当面する地球社会の諸課題等については、以下のような施策を行っていく。

(1) 地球環境問題への対応

 地球環境問題は、一国のみでは解決できない人類共通の課題であり、全ての国の参加と取り組みが求められている。我が国は、その経済社会活動の様々な面で地球環境と関わるとともに、過去において深刻な環境問題に直面し、その克服に向けた努力をしつつ経済成長の維持を実現させてきた。我が国は、そうした経験や有する能力を活かし、率先して国内的に環境と調和した持続可能な経済社会を構築するとともに、対外的には、その国際社会に占める地位にふさわしい国際的取組を積極的に推進し、世界全体としての持続可能な開発の実現に向けてリーダーシップを発揮する責務を有する。このため、具体的には、以下の施策を実施す る。
 地球環境保全に関する国際協力等を推進するため、地球環境保全に関する国際的な連携の確保を図ることとし、特に、国際的な枠組み作りへの貢献、国際機関の活動支援を図る。
 開発途上地域の環境の保全においては、環境と開発の両立に向けた自助努力の支援、密接な政策対話の推進、環境分野のODAの拡充・強化、専門家の派遣、研修員の受入れを通じた人づくり協力、技術、ノウハウの移転等を推進する。その他、国際的に高い価値が認められている環境の保全に協力するとともに、国際協力の円滑な実施のための国内基盤の整備を推進する。
 また、調査研究、監視・観測等に係る国際的な連携の確保、地方公共団体の自主的な活動の支援と民間団体等による活動の推進、国際協力の実施等に当たっての環境配慮、地球環境保全に関する国際条約等に基づく取組等を促進する。
 さらに、地球温暖化問題について、気候変動に関する国際連合枠組条約を着実に実施し、CO2 等の温室効果ガスの排出抑制及び吸収・固定化の拡大の一層の促進等のため、国内外における取組を強化する。
 なお、排他的経済水域等における適切な資源管理をはじめ、海洋環境の保護・保全等に関する規定を持ち、海洋に係わる法的問題一般を包括的に規律する条約である国連海洋法条約の早期締結に向け諸準備を進める。

(2) エネルギー面の貢献

 世界のエネルギー情勢をみると、石油の賦存状況が中東に偏在している下で、アジアを中心とした発展途上国のエネルギー需要の増大、旧ソ連における石油生産の低下等の要因により、石油の中東への依存度が今後増大すると見込まれているなど長期的には厳しいものになっていくものと考えられる。また、世界のエネルギー消費の増大による地球環境問題も顕在化してきており、これへの対応も喫緊の課題となっている。
 以上のような状況の下、我が国への主要な石油供給国である中東諸国等産油国との友好関係の増進を図るとともに、世界のエネルギー需給に能動的に働きかけ、我が国も含め国際的なエネルギー安全保障の確保等を図っていくためには、我が国自らが原子力や自然エネルギー等石油代替エネルギーの開発・導入を進めるとともに、経済協力、技術協力、海外投資への支援など様々な政策手段を活用し、各種の政策を講じていく必要がある。具体的には、エネルギー需要の拡大が予想されるアジア・太平洋地域においてエネルギーの効率的利用や、供給サイドのベストミックスの形成等を二国間あるいはAPECの枠組み等を活用して推進する。また、中東産油国、旧ソ連等との協力、さらにはIEAをはじめとする先進国間協力等を積極的に推進していく。

(3) 保健・医療面、麻薬問題での貢献

 世界の人々の生活向上に真に役立つ取り組みとして、エイズ、がん等の疾病の予防や治療、麻薬乱用問題への対応、さらに発展途上国の保健医療水準の向上に向けた支援は重要な貢献である。我が国としては、技術協力、共同研究、研究者の養成等による人的な支援、エイズ対策、人口問題等の事業に関する総額30億ドルの援助(平成6年度(1994年度)から平成12年度(2000年度)まで)をはじめとする支援など、WHO(世界保健機関)(平成8年(1996年)1月よりエイズ国連共同プログラムが発足予定)、二国間等を通じた積極的な貢献を行う。また、国際的な麻薬対策を推進するため、UNDCP(国連薬物統制計画)への支援を強化する。

(4) 食料問題への貢献

 現在、地球上には、最貧国を中心に約8億人の栄養不足人口が存在しているとされている。また、今後、途上国を中心とした人口増加や所得の向上を背景とした消費の多様化等に伴う食料需要の増大が見込まれる一方、世界の食料生産の伸びは鈍化し、その結果として中長期的には食料需給の逼迫、価格上昇が起こる可能性もある。このような食料問題は、土地、気候、技術進歩といった条件が大きく影響するものであり、また、食料生産力の増強には資本等の蓄積や地球環境との調和の確保という長期的な課題が重要である。
 我が国としては、このような認識の下、貿易の一層の自由化に向けた国際的な取り組みや地球環境問題等への対応と整合性をとりつつ、いわゆる国際分業論を単純に当てはめることなく、長期的・世界的な視点に立って食料の安定供給確保のために協力、努力し、またその合意形成に努める必要がある。その際、途上国への農業、食料問題への協力については、途上国の自立的な発展を支援するとの視点が重要である。
 また、食料需要の増大に影響を与える人口問題については、人口・家族計画への直接的な協力に加え、基礎的保健医療・初等教育、女性の地位向上を含めた包括的なアプローチをとることが必要である。

(5) 旧計画経済圏諸国の市場経済化への支援

 ロシア連邦、中・東欧諸国等の旧計画経済圏の諸国は、市場経済移行への努力を続けているが、これら諸国では、依然、高インフレ、生産低迷が続き、市場経済の基盤も十分に整備されているといい難い国が多い。このため、我が国としては、これら諸国に対し、国際機関や他の支援国と協調を図りつつ、国ごとの実情に配慮し、資金面での支援、市場経済の基盤整備のノウハウを移転する知的な面での支援を適切に組み合わせ、支援を行う。

(6) 科学技術面の貢献

 科学技術は経済発展の原動力である。また、地球環境問題、エネルギー問題等地球規模の課題の解決のためにも科学技術の果たす役割は大きい。国際的に枢要な地位を占めるにいたった我が国としては、科学技術の意義を一層深く認識し、「科学技術創造立国」を目指すことが必要である。そのため、新たな経済活力の源泉となる研究開発や、上記課題を解決するような研究開発を国境にとらわれず積極的に推進し、その成果を世界へ向けて発信していく。また、国際的な人材交流や国際共同研究の推進、研究協力のスキームの充実を通じ、我が国自らの研究活動の活性化を図りつつ、その国際的な地位に見合った貢献を積極的に行っていく。

(7) 情報通信の高度化に関する貢献

 GII構想等の動きを踏まえ、ハードやソフト面の技術開発、公的機関を始めとして日本からの情報発信の推進、著作権やセキュリティ等制度面での国際調和への対応など、世界的な情報通信の高度化に関し積極的な貢献を行う。また、真にグローバルな高度情報通信社会の実現等のため、開発途上国におけるそれぞれのニーズに応じ資金・技術両面の協力を行う。特に、アジア地域に関しては、地域の一員としての視点に立って積極的に取り組む。

2.我が国ODAの新時代の構築に向けて

(1) ODAの新時代の構築に向けての取り組み

 我が国の国際貢献の重要な柱であるODAは、政府開発援助大綱の「人道的見地から途上国の飢餓と貧困を看過できないこと、国際社会の相互依存関係の認識、環境の保全、途上国の離陸へ向けての自助努力への支援」の理念、原則等を踏まえ、実施されている。今後我が国の財政事情は厳しくなると予想されるが、国民の理解と支持を得ながら、我が国ODAを、中長期的観点から、以下のように多面的に拡充する。
 我が国は、既に世界で第一位の援助供与国となっているが、これにより、途上国の諸課題に機動的かつ包括的に対処しつつ、ODAの内容を拡充し、ODAにおいて、世界に対し指導力を発揮できる我が国ODAの新時代を構築していく。
1) ODAの拡充、改善
  ODAの量的拡大と質的改善を通じ、我が国の国際社会への貢献を充実させるため、第5次中期目標の達成に引き続き努める。
2) ODA実施の着実な改善
  今後とも、国民の期待を反映した公正、透明で効果的、効率的な援助の実施、内外への広報活動の推進等、ODA実施の着実な改善に努める。
3) ODAの新フロンティアへの取り組み
  従来からの途上国の開発課題については、引き続きその解決に努めるとともに、冷戦終結等により顕在化した新たな課題に対応するため、地球的規模の問題への取り組み、民主化・市場経済化努力に対する支援、途上国の女性支援(WID)への取り組み、南南協力支援を、ODAの新フロンティアとして積極的に取り組んでいく。
  特に、地球環境問題、人口・エイズ、難民・被災民問題、麻薬問題、累積債務問題等の地球的規模の問題については、今後とも指導性を発揮し、その解決に向け取り組む。
4) グローバルな視点に基づいた経済協力の強化
i 援助のグローバル展開に対応した知的支援の強化
   我が国ODAは、グローバルに見て、ほとんどすべての途上国に供与されており、今後とも効果的、効率的な援助を実施するため、援助の前提としての途上国の開発政策やあるべき援助理念について調査・研究を行い、ODAの知的資産の構築に努める。その成果を途上国、他の援助国、国際機関との意見交換、開発経済学の発展等に活用していく。
   具体的には、第一に、日本、東アジアの経験について、学界、援助機関等が相協力して、開発政策の観点から整理するとともに、途上国側のニーズに応えるため、日本の経験の分野毎の整理に努める。
   第二に、今後の途上国の開発政策に対する我が国の知的支援については、途上国側の求めに応じ、その政策受入能力等をチェックの上、各国の実情に則し、日本、さらには適当なアジアNIEs、ASEAN等の経験の活用の仕方について、助言に努める。
   また、アジアNIEs、ASEAN諸国等が自らの開発経験を他地域の途上国に知的支援しようとする場合には、これを促進するため適切な支援を行う。
   第三に、世界銀行等の国際援助機関、内外の学識者等と協力し、日本、東アジアの経験を参考にして、今後の途上国にとって、グローバルに見て
   望ましい開発政策のあり方の検討に努める。
ii 国別援助方針の拡充
   国別援助方針については、今後、その対象国数を拡充する。
iii 地域別開発の現状と課題
   我が国のODAが、経済活動の国境を超えたグローバル化及び相互依存化、地球環境問題等への国境を超えた取り組み等に的確に対処するため、国単位を超えた地域単位での開発の現状と課題を把握するよう努める。
iv 地域ベースの経済協力の推進
   インドシナ地域等、地域内の特定の局地(サブリージョン)においては、その広域的発展のための局地開発協力を行うことが適切な地域があり、今後とも熟度の高い局地の案件について、このような協力を推進する。
   また、APECを始め様々な地域内又は地域単位の協力・連携の動きが見られ、このような地域協力の動きが、開放的な対外経済システムを構築し、世界経済の成長と発展に寄与するよう可能な支援に努める。
5) 国民参加型援助の促進
  国民参加型の援助を推進するための枠組みとして、従来から、草の根無償資金協力、NGO事業補助金、地方公共団体補助金等を行ってきており、今後ともその拡充に努めるとともに、これを更に促進するため、以下の諸点の改善に努める。
  第一に、経済協力における国、援助機関及び地方公共団体の間での有機的連携を強化するため、地方公共団体の途上国向け国際協力事業についてのデータベースの作成に努めるとともに、これらの間でネットワークを形成し、必要な情報交換、業務の連携に努める。
  第二に、企業として、企業の社会貢献への道を拡げるためにも、その援助要員の派遣制度を整備することが期待される。
  第三に、日本のNGOは、組織、財政等の面でいまだ脆弱であり、今後、一層の国民の理解と支援を得ていく必要がある。
  このため、NGOの法人格の付与のあり方につき検討するとともに、NG Oの活動資金の確保を容易にするための方策を検討する。
  また、NGO活動への理解を深めるため、これを今後とも学校教育の場で取り上げる。

(2) 広範な経済協力の推進

1) 包括的アプローチの推進

  途上国を支援するための貿易、直接投資、援助等を含む包括的な取り組みについて、これまでのASEAN諸国での実績を踏まえ、インドシナ諸国等においてもこのアプローチが実施されうるかを検討する。
2) 資金協力計画
  途上国に対する公的資金の供与を一層拡充するため、開発途上国への資金協力計画の達成に引き続き努める。
3) 途上国の新たな開発スキームへの対応
  途上国は、自国の経済発展のため、市場メカニズムを活用し、事業活動の一部を民間部門に任せる方式であるBOT等を積極的に活用してきている。このため、BOT等が成功するための種々の条件を満たしている国及び事業のうち、フィージビリティーのある案件で、支援することが適当な場合には、事業関係者からの要請に応じて、各種関連スキームを用いて、支援していく。

(3) 援助実施体制の整備

 ODA新時代に向けて、援助を効率的かつ円滑に実施するため、援助要員の拡充と援助人材育成・活用の推進、開発教育・研究の推進と援助研究の交流拡大、他の援助国、国際機関との連携の強化等に努める。

V. アジア太平洋協力

 アジア・太平洋地域は、太平洋の東西間の経済交流の中で、発展してきており、世界経済の中でも、活力に満ちた地域となっている。この地域においては、APEC等地域協力の枠組みが形造られてきており、我が国の役割に対する期待も大きい。
 APECにおいては、我が国の経済力、技術力等を地域の課題解決のため活用することや、あるいは、我が国の市場アクセスの一層の改善等を図り輸入を拡大するといったことだけではなく、域内で協力しながら解決すべき課題の選定、課題解決のための枠組み作り、域内の貿易・投資の枠組み作りへの我が国の積極的な参画が期待されている。
 アジア・太平洋地域には、経済の発展段階や、文化的、歴史的背景を異にする国々が存在しており、それぞれの国は市場メカニズムを基本としつつも多様な経済システムと、経済発展のための多様な課題をもっている。このため、貿易・投資の枠組みや協力して対応すべき課題等について、メンバー間で意見が異なることもある。また、時として我が国に対し、対米重視か、アジア重視かとの問いかけがなされることもある。しかし、我が国としては、メンバー間の意見の違いに対し、常にどの国の立場を支持する、あるいは、単に仲介の労をとるといったことではなく、我が国として、この地域の持続的な発展のため、望ましいと考えられる地域の協力のあり方について具体的提案を行いつつ、各メンバーと意見交換を行い、考え方の調整を行っていく。

1.貿易・投資の自由化・円滑化

 APECにおいては、昨年(1994年)のボゴール宣言を受け、域内の貿易・投資の自由化・円滑化が重要な課題の一つとなっている。この目標達成のため、我が国としては、本年(1995年)の大阪会合において採択された包括性・WTO整合性・同等性・無差別・透明性・スタンドスティル・同時開始、継続的過程及び異なるタイムテーブル・柔軟性並びに協力を一般原則とした「大阪行動指針」に沿い、今後、明年(1996年)のAPEC閣僚会議に向け我が国としての「行動計画」を策定する。

2.多面的協力の重視

 また、発展段階の異なる国々等の集まりであるAPECにおいては貿易・投資の自由化・円滑化のみならず、メンバーの特性をいかした経済・技術協力も進めるべきである。このため、我が国としては経済・技術協力についても、持続可能な成長及び衡平な開発の達成を目指した「大阪行動指針」に沿い、これまで我が国が提案してきたいわゆる「3Eスタディ」に基づいたエネルギー・環境面の協力、「前進のためのパートナー(PFP)」による協力、税関手続・基準・認証分野における協力、中小企業大臣会合を通じた中小企業等育成のための協力など域内の諸課題の解決に向けた協力等を進めていく。

3.更なる発展の確保

 アジア太平洋地域における急増する人口及び急速な経済成長により、食料及びエネルギーの需要並びに環境への負荷が急激に増大すると予想され、この地域の経済的繁栄を持続可能なものとするため、長期的課題として、これらの相互に関連した広範な問題を取り上げることとし、共同行動に着手する方法について更に協議を行うべきである。

VI. 国際的に開かれた社会の創造

 我が国が、対外政策として、多様な国々が地球社会において共存していく道を探求し、世界に対し様々な提案を行なっていくとすれば、国内においても、異なる価値観の人々に対し、より受容力の高い社会を構築していく必要がある。
 このような受容力の高い社会の構築は、我が国経済を真に国際的に開かれたものとし、また、活力に満ちたものとしていくためにも必要であり、また、我が国において、「自立した個人が豊かで安心した暮らしができる参加と選択の社会」を築いていくことにもつながるものである。
 外国人や外国の文化・慣習をも受け入れる受容力の高い社会の構築のためには、国民一人ひとりが日常生活のなかで、どのように外国人や外国文化に接するかに係るところが大きいが、国、地方公共団体等の公的部門においても、以下のような施策を進めていく。

1.外国人にも住みやすい環境の整備

 教育、社会保障等の面での、公的サービスについては、不法滞在者を除き、内外人無差別の原則に立って外国人に対しても提供されるようになっている。また、これら公的サービスは、市町村等の窓口を通じ提供されていることが多く、日本語を十分に理解できない外国人とも接することが必要な市町村等では、各種パンフレットの外国語による表記等、外国人が公的サービスを受け易いよう様々な努力が計られてきている。今後とも公的サービスへの外国人によるアクセスを容易にする工夫が求められている。また、労働関係法令については、原則として、不法就労者に対しても適用があることとなっている。
 不法滞在者については、不法滞在者を発生させないための施策を行うことがもとより重要ではあるが、例えば現実に滞在している不法残留者が緊急かつ重大な疾病にかかった際には、現実に対応せざるを得ない立場にある医療機関や一部の自治体が回収努力を行なっても回収できない医療費を負担しているという問題等もあり、こうした点について早急に取り組みを講じていく必要がある。

2.人と文化の交流

 日本人の国際理解の促進を図るとともに外国人の対日理解を図るため、自国及び他国についての理解を重視した国際理解教育の推進、語学指導等を行う外国青年招致事業(JETプログラム)等によるコミュニケーション能力に重点を置いた外国語教育の推進、国際コンベンションの振興等国際観光交流の推進を図る。また、芸術文化関係者の海外への派遣や世界的な文化遺産の保護に対する協力等の文化交流の推進を図る。
 また、有識者・文化人の派遣招請計画の充実、研究者・留学生の受入体制の整備充実を図るとともに、草の根レベルでの国際化・国際交流の充実、地方公共団体による地域レベルの国際交流・国際協力の充実、青少年の国際交流の充実等への支援を図る。また、学術交流及び知的交流の推進にあたっては、自然科学のみならず、人文・社会科学の分野における交流も重視する。

3.外国人労働者問題への対応

 専門的・技術的分野の外国人労働者については可能な限り受け入れる。このため、我が国経済、社会等の状況の変化に応じて在留資格に関する審査基準の見直しを進める。一方、いわゆる単純労働者の受入れについては、我が国経済に多大な影響を及ぼすとともに、送出し国や外国人労働者本人にとっての影響も極めて大きいと予想されることから、中長期的な視点に立って慎重に検討すべきである。また、技術協力の観点から、技能実習制度の推進を図る。

VII. 自由化・国際化の下での金融システム

1.地球社会における我が国金融・資本市場の役割

 我が国金融・資本市場は、これまで産業・経済の急速な進展や金融資産の蓄積等を背景に、世界の三大金融・資本市場の一つとして重要な地位を占めてきた。今後、ますます世界経済の一体化が進み、我が国と先進諸国やアジア等途上国との経済的結びつきが深まっていくと見込まれる中にあって、内外の資金需要者に対して円滑に資金を供給し、内外の投資家に対して十分な投資機会を提供していくという我が国金融・資本市場の役割は、地球社会的規模で一段と重みを増していくものと考えられる。内外に開かれ、革新的でかつ安定的な金融・資本市場を提供することは、地球社会の発展に資すると同時に、我が国の利益にも資するものである。

(1) 国際金融取引の一体化と我が国金融・資本市場の役割

 世界経済がグローバル化し、相互依存性が高まる中、規制緩和や金融技術革新の進展等を背景に世界各国の金融・資本市場が一体化してきている。また、近年発展の著しいアジア諸国の資金調達状況をみると、東アジアを中心に年々その規模が拡大してきており、高い経済成長を背景にして資金ニーズは今後一層増大するものと見込まれる。同時に、所得水準の高まり等から、これら諸国の資金運用ニーズも今後増大することが予想される。
 また、国内的に我が国の個人金融資産は1千兆円を超える規模に拡大しており、これを有効に活用し、内外の経済発展に寄与していくことが求められている。
 こうした状況の中で、我が国の金融・資本市場には、国内の投資家や企業等に対して円滑に内外の資金を供給し、資金運用の場を提供するとともに、アジア等海外諸国の資金調達需要及び資金運用需要にも十分応えていくことが期待されている。

(2) 我が国金融・資本市場をめぐる問題点

 我が国金融・資本市場においては、経済・金融環境の変化や国民のニーズの多様化を背景に、自由化・国際化が進められてきている。しかしながら、その一方で、近年一部先物取引が国内においては減少する一方で、海外市場では増加傾向にあったり、多くの国内企業が海外市場で起債したりするなどの例がみられ、こうした現象を捉えて「金融の空洞化」と呼ばれることがある。
 しかしながら、このような現象については、我が国の景気低迷を背景とした循環的要因に基づく部分もあり、また、海外の投資家が日本の金融商品に関心を持つようになる等、むしろ我が国金融・資本市場の国際化と捉えられるものも含まれていると考えられることから、これらの現象をひとくくりに「空洞化」と捉えて議論することよりも、個々の現象の実態に即して効果的な対応を図っていくことが重要であるとの指摘もなされている。
 また、我が国市場について、金融取引等の手法に一定の制約があること、土地代、オフィスコスト、人件費等のコストが高いものとなっていること、言語・習慣等の違いが大きく、外国金融機関等が我が国でビジネスをする上で利便性に欠ける面があること、市場関係者のビジネスマインドが弱いこと等が指摘されている。
 このような問題も踏まえ、我が国金融・資本市場が今後とも健全な発展を遂げ、地球社会において重要な役割を果たしていくためには、以下の方策を着実に実行していくことが必要である。

(3) 我が国金融・資本市場の機能発揮のための方策

 今後の我が国金融・資本市場の健全な発展を図るためには、取引のグローバル化の進展、市場間競争の強まり、円の国際化に対するニーズの高まり等の状況変化を踏まえ、市場機能が円滑に発揮され、国内外の資金需要者及び投資家からみて、より魅力的な市場とするための環境整備に努めていくことが必要である。また、担保力・信用力は不足しているが、研究開発力等を有する将来有望なベンチャー企業等に対する資金供給がより一層円滑に行われることも重要である。
 こうした観点から、金融制度改革、外国株市場活性化策、投資信託改革、店頭市場改革等各般の措置が講じられてきたところであるが、今後とも、引き続き金融の自由化・国際化を推進し、金融・資本市場における有効かつ適切な競争を促進するとともに、資金調達・運用手段の多様化を進め、市場のより一層の効率化・活性化を図る必要がある。
 このため、オフショア市場の環境整備や外為市場における取引慣行の国際基準に合わせた整備等を進めるとともに、株式市場における新規公開の促進を図るほか、社債の適債基準の撤廃等を踏まえ社債市場の整備を進めるなどの措置を講じていく必要がある。短期の資金調達手段としてのCP(コマーシャル・ペーパー)についても、有価証券の中での位置付け等に留意しつつ、そのあり方を検討していくことが重要である。また、有価証券取引税のあり方については、我が国の税体系における資産課税のあり方についての議論も踏まえつつ、株式譲渡益課税を含む証券税制全体の中で検討を進める。さらに、今後は格付が本格的に投資家情報として位置づけられることとなるため、格付機関自身が適切な改善を図っていくことを通じて投資家から高い評価を得ていくことが期待される。これらに加えて、情報通信システムの整備等、国際金融センターとしてのインフラ整備も必要である。
 なお、このような金融の自由化・国際化を進めていく際には、市場の公正性・信頼性や投資家保護に欠けることのないよう留意することも必要である。

2.金融システムの安定性確保のための方策

 地球社会的観点から、我が国金融・資本市場は内外に開かれた活力のある市場であると同時に、健全で安定したものであることが必要である。このため、金融の自由化・国際化を進めるとともに、バブル崩壊により発生した金融機関の不良債権問題を解決し、金融システムの安定性を確保することが必要であり、これにより健全で活力のある金融システムの構築に努めていくことが重要である。

(1) 金融機関等の経営の健全性の確保と投資家等の自己責任原則の確立

 金融の自由化・国際化が一層進展することにより、金融機関等のみならず預金者や投資家にとっても収益及びリスク選択の幅が拡大すると考えられるが、同時に、より多様なリスクへの対応が求められることとなる。
 このような状況の下で金融システムの安定性を確保するためには、まず、金融機関等が経営の健全性を確保していくことが重要であり、そのためには、金融機関等による不良債権の早期処理に向けた厳しく真剣な取り組み努力が必要である。不良債権の処理に当たっては、信用秩序の維持や預金者保護に配慮しつつ、概ね5年以内のできるだけ早期に積極的な処理を進め、問題解決の目処をつける必要がある。その際、単なる帳簿上の処理にとどまらず、不良債権の担保となっている不動産の流動化の促進を図ることが重要である。また、これと同時に、個々の金融機関等が自己責任原則の下に、自らのリスク管理能力を高めていくことも重要である。
 また、金融機関等の経営の健全性のチェックに当たっては、金融機関等が経営内容のディスクロージャーを一層充実させつつ、預金者、株主、債権者といった市場参加者が、市場を通じて、様々な形のシグナルを発する機能に着目し、これを活用していくことが適当である。
 金融システムの安定化を図るための対応としては、検査・モニタリング体制の強化を図るとともに、これまでのような金融機関等に対する競争制限的規制に代えて、自己資本比率規制等の健全性諸比率基準の活用等を図るなどより透明なものとすることが必要である。また必要とされる場合には、監督当局が金融機関等の経営の健全性を確保するための所要の是正措置を早期に講じていくことが重要である。さらに、万一金融機関等の経営破綻が生じた場合には、その影響が金融システム全体に波及することを防止し、利用者を保護することが必要である。このため、破綻処理手続の迅速化・多様化を図るとともに、預金保険の拡充等について検討を進める必要がある。
 また、金融の自由化・国際化の進展に応じて、金融機関等には、多様化、複雑化した金融商品・サービスの内容に関して客観的かつ正確な情報を分かりやすく提供していくことにより、これまで以上に創意工夫を凝らしながら積極的に利用者のニーズに応えていくことが求められる。一方、預金者や投資家においては、商品選択に当たってリスクは自分自身が負うという自己責任の認識を持つことが必要であり、その際、監督当局、金融機関等はあらゆる場を通じてこのような考え方についての国民の意識の啓発に努めるべきである。

(2) 金融派生商品取引の拡大への対応

 金融派生商品取引は、市場参加者に対してリスク・ヘッジ手段等を提供するものとして、その取引規模が近年急速に拡大している。他方、こうした金融派生商品取引については、リスク自体は目新しいものではないものの、リスクが複雑に絡み合っていたり、価格変動幅の特に大きい商品もあるため、十分な理解と管理が行われなければ、不測の損失につながる可能性がある。このように、金融派生商品取引にはそのリスク管理が困難な面もあるが、国民経済的有用性も大きいことから、金融機関等の市場参加者が、自らの責任においてその業務の特性に応じたリスク管理手法や体制を確立するとともに、適切なディスクロージャーに努めていくことが重要である。