地球環境・エネルギー・食料問題研究会報告書要旨

1997.3.11

第1章 地球的規模の問題と経済成長

第1節 地球的規模の問題の顕在化
・80年代後半から、新たな科学的知見の蓄積、冷戦構造の終焉、グローバル・マーケットの成立 を背景に地球的規模での問題が顕在化。

第2節 アジア経済の発展と地球的規模での問題
・アジア経済の発展に伴い、今後地球的規模問題に占めるアジアの重要性も増加。

第3節 本報告書のねらいと構成
・ 本報告書では地球的規模の問題のうち、地球環境・エネルギー・食料の分野において、持続的 経済成長を実現するためにどのような問題があるかを分析し、対応の方向を提示。
・地球的規模問題が経済成長に対する単なる与件とのアプローチではなく、経済成長や人口の動向 から出発して、それらが地球規模問題にどのような影響を与えるか、及びその結果として地球規模 問題がどのような形で経済成長に再び影響を与えるかを分析するというアプローチ。
・地球的規模問題の各分野を個別のものとしてではなく、各分野の有機的連関を視野に入れ統合的 に分析。
・ 期間はおおむね2020年を念頭に置きつつ、それ以降についても必要に応じ検討。地域的にはアジ ア地域を重点に世界経済全体を対象。

第2章 食料問題と持続的経済成長

第1節 世界の食料需給展望
・これまでの世界の食料需給は、過剰と逼迫を繰り返して推移してきた。
・ 世界の中長期的な食料需給の見通しについては、各種国際機関等により楽観的なものから悲観的 なものまで幅があるが、逼迫・価格上昇の可能性は否定し得ない。
・途上国では、人口増加とアジアを中心とした所得上昇に伴う食の高度化・多様化により、食料需 要が増加し、輸入依存度を強めるというのが共通した見方。

第2節 長期的な食料需給展望をめぐる不安定要因
・ 世界の食料の需要が大幅に増加するとみられる一方、供給については、途上国における工業化・ 都市化の進展、世界的な環境問題の顕在化等、生産拡大を図る上での種々の制約要因が明らかになっ てきている。
・ 特に、農業投資の低迷傾向が将来の単収増加に与える影響、バイテクによる新品種の開発・普及 には長時間要すること、さらに今後環境問題への取り組みが重視されること等を考慮すると、現状の ままでは、「緑の革命」でみられたような画期的な単収の伸びが期待できるかどうかは不透明な点が 多く、場合によっては食料生産は低迷する可能性。

第3節 食料需給の逼迫とその影響
・仮に食料需給が逼迫した場合、輸出国の急激な生産拡大は環境問題の制約等から困難な面がある。 過度の集約的生産等により、土壌流亡等の環境問題を悪化させ、ひいては、持続的食料生産を阻害す る。
・先進輸入国では、食生活の質的低下が余儀なくされる等国民生活上の問題が生じる。他方、経済力 にまかせて輸入した場合、そのしわ寄せは経済力の劣る途上国に及ぶ。
・途上輸入国では、栄養不足人口の増加や工業部門等の交易条件の悪化等により、経済社会の発展が 制約される。

第4節 今後の対応
・将来、食料需給逼迫という事態を招かないためには、持続可能な食料生産を目指し、特に途上国で の生産力の高位平準化に向けた研究開発とその普及、インフラ整備、教育の普及・人材育成・組織化 等に取り組むことが重要。このため、この裏付けとなる農業投資の維持・拡大が必要。この場合、民 間投資の促進を図るため、適正な価格水準の実現が重要。
・途上国では、農業と工業の均衡ある発展を図ることが、長期的には失業や都市のスラム化等の社会 的な構造調整コストを高めることなく、安定・着実な経済発展につながる。
・先進各国が協調して、途上国の食料事情の改善、とりわけ生産力の向上・安定に向けての協力をこ れまでに増して充実することが必要。

第3章 エネルギー問題と持続的経済成長

第1節 将来の世界のエネルギー需給及び価格の動向 今後の世界のエネルギー需要は成長するアジア地域に牽引される形で増加していく。需要に対する供 給は2020年程度までは量的な対応は可能であり、エネルギー価格も安定的に推移していく。しかし、 これらの前提に影響を与える不確実性、あるいはリスクが存在することから、エネルギー需給の逼迫 や価格急騰の可能性は否定できない。

第2節 エネルギー供給面でのリスク 今後需給の逼迫するアジア地域では石油を中東にほとんど依存するものと見られる。中東地域は様々 な政治経済上の不安要因があり、アジア地域の域内においても種々の紛争要因を抱えているため、供 給途絶が生じる可能性は否定できない。その場合、アジア地域においては危機管理の不十分さから、 各国経済に混乱が生じる可能性がある。

第3節 環境面でのリスク 地球温暖化問題については、厳しい二酸化炭素排出抑制を行うこととなった場合、エネルギー需要自 体を抑える必要が生じる可能性が高い。また、SOx、NOxの排出による酸性雨問題等については、これ らの除去装置に巨額な投資が必要なため、途上国においては経済成長との板挟みになる可能性がある (第4章参照)。

第4節 エネルギーインフラの整備上のリスク アジア地域ではエネルギーインフラ整備は今後民間に負うところが大きくなるが、民活に伴うリスク を政府が取ることを回避する傾向が出てきているため、整備が需要増に追いつかず、経済成長の制約 要因となる可能性がある。また原子力発電所が急増していくが、大規模事故による経済活動への影響 を与える懸念がある。

第5節 今後の対応 エネルギー対策については、長期にわたるものが多いこと等を踏まえ今から対応を行うべく準備をし ていくことが極めて重要である。 このためには、第一にエネルギーインフラプロジェクト導入促進のための制度的な環境整備を行うこ とが重要である。また、アジア地域での原子力発電安全強化のための技術協力等の拡充が重要である。 第二に、環境問題への取り組みの強化が重要である(具体的には第4章参照)。 第三に、省エネルギ ー技術移転の積極的実施、新エネルギー導入促進のための共同開発等が重要である。第四に、中東を はじめとする産油国との関係の強化、エネルギー源の多様化、石油備蓄体制の構築、シーレーンの確 保等アジアにおけるエネルギー安全保障体制の整備が重要である。

第4章 地球環境問題と持続的経済成長

第1節 地球温暖化とその展望
・ 18世紀後半の産業革命以降、石炭・石油等の化石燃料の使用は一貫して増大。その燃焼によって発 生する二酸化炭素などの温室効果ガスの大気中における濃度の増大は、すでに地球気候の温暖化傾向 を示唆。
・ IPCCは、大気中の温室効果ガスの濃度がこのまま上昇を続けた場合、21世紀末までに地球の平均気 温が約2℃、海面水位が約50cm上昇し、異常気象が頻発すると予測。その影響は大気・水・土壌・生物 圏全てにわたる地球規模での分布・動態の変化となって現れ、人間生活を支える基盤を著しく損傷する おそれ。
・ 現在世界全体での二酸化炭素の排出割合は、先進国が2/3、途上国が1/3。しかし、世界人口の8割 近くを占める途上国では、現在成長著しいアジアを中心に、今後一層排出のウエイトを増加。 第2節 地球温暖化のリスク
・ 温暖化による損害について、不確実性があるものの、IPCCの評価例では、二酸化炭素濃度倍増によ る損害額は、おおむね年間当たり世界のGDP比で数%程度となり、途上国ではその比率が高い傾向。
・ 温暖化対策のネットのコストについて、IPCCは、OECD諸国に関し、ボトムアップ型の分析によれば 今後20~30年の間に20%の排出削減のためのコストが無視できる程小さいか若しくはマイナス、トップ ダウン型の分析によれば今後数十年の期間内に二酸化炭素の排出量を1990年レベルで安定化させるた めのコストが、おおむね年間当たりGDP比で▲0.5~2%の範囲、と評価。
・ 温暖化対策の生み出す省エネなどの副次的便益が、対策の一次的コストを上回る範囲で講じられ、 ネットの対策コストがマイナスまたはゼロとなる 暖化による損害発生のリスク回避等の観点も踏まえると、それを超えた行動にも合理的根拠。

第3節 地球温暖化問題への対応
・ 国際的に一体となって取組むための気候変動枠組条約が1994年発効。先進国については2000年まで に温室効果ガスの排出量を1990年レベルに戻すことが当面の努力目標とされているが、多くの国でその 達成が困難な状況。さらに、2000年以降の目標設定などについての議論が本格化。途上国等とも費用効 果的な共同実施活動が開始。
・ 温室効果ガスの排出削減等のため、エネルギー分野を中心に技術開発・普及を長期的に講じていく ことが重要。また、先進国が途上国の温暖化対策を資金面で支援していくことをはじめ、国際的に効果 的に取組を進めていくための経済面の取組も重要。経済的手法も検討課題。

第4節 地球温暖化以外の地球環境問題と対応
・ アジアをはじめとする経済成長著しい途上国では、酸性雨問題などの越境性環境汚染が深刻な状態。 このため、簡易型の汚染物質除去装置の普及、省エネルギー対策、交通部門における対策などが必要 であり、温暖化対策との組合せも有効。実効性あるものとしていくためには、先進国からの公的資金 援助の重点化等も必要。
・ 森林減少等についても、地球サミット以降国際的な取組レビュー等が本格化。

第5章 地球環境・エネルギー・食料問題と経済成長

第1節 人口問題の展望
・国連の中位推計によれば、世界の総人口は1994年の56億人から2020年には79億人に増加。特に途上 国での人口増加が顕著。
・今後の人口動向を左右する出生率については、アジア地域では地域により開きがあるもののおおむ ね低下傾向。東アジア、東南アジアの一部の国々では急速に低下。一方アフリカ等最貧途上国では依 然高い水準で推移。
・出生率の決定要因として、近年経済社会の発展による女性の地位の向上、教育の普及が重視されて いる。さらに、アジアの経験から、家族計画政策の役割が注目されている。これらを考慮に入れた人 口政策の推進が期待される。

第2節 持続的経済成長
・市場経済の部分(経済成長・食料・エネルギー)では市場機能を通じて問題が緩和されることもあ るが、そこには一定の限界。
・市場経済活動の結果、市場経済の外部(地球環境・人口問題)において問題が生じ、その問題が今 度は市場経済の制約となる可能性。
・従って市場経済の健全な発展のためには、その外にある問題とも調和した形での「持続的経済成長」 が目指されねばならない。
・具体的問題例として、食料供給に関して、人口増加や食生活の高度化・多様化による需要増加に対し 持続可能性を無視した生産拡大が行われた場合、環境問題の顕在化が供給を制約し、需給の逼迫により、 最貧途上国では貧困層の拡大等により経済成長が低迷、アジア地域等の途上輸入国でも交易条件の悪化 により経済成長が鈍化するおそれがある。
・エネルギー供給に関しても、人口増加や経済成長に伴うエネルギー需要の増加に対し、二酸化炭素や 硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)排出抑制に対する適切な対応が採られなければ、地球温暖化や 酸性雨の影響は深刻なものとなり、経済成長の持続性を脅かすおそれがある。

第3節 持続的経済成長への対応
・持続的経済成長の実現のためには、市場機能を活用しながら、技術・投資・国際協力といった各方面 での積極的対応が不可欠。

地球環境・エネルギー・食料問題研究会委員名簿

氏名 現職
座長  田中  努 中央大学総合政策学部教授、三菱総合研究所顧問
  石井 彰 石油公団企画調査部企画課長
  石川 竹一 国際熱帯木材機関本部情報部長
  内田 光穂 電力中央研究所経済社会研究所副所長
  小川 直宏 日本大学人口研究所次長、日本大学経済学部教授
  栗原 史郎 一橋大学商学部教授
  厳 善平 桃山学院大学経済学部助教授
  篠崎 悦子 東京電力(株)ホームエコノミスト
  柴田 明夫 丸紅(株)調査部産業調査課長
  坪田 邦夫 農林水産省国際農林水産業研究センター海外情報部長
  十市 勉 日本エネルギー経済研究所理事
  中垣 喜彦 電源開発(株)取締役企画部長
  中上 英俊 住環境計画研究所代表取締役所長
  西岡 秀三 国立環境研究所統括研究官
  藤田 幸一 東京大学大学院農学生命科学研究科助教授
  古沢 広祐 国学院大学経済学部教授
  細田 衛士 慶応大学経済学部教授
  柳原 透 法政大学経済学部教授
  横堀 惠一 アジア太平洋エネルギー研究センター所長
(五十音順、敬称略)