第4回地球環境・エネルギー・食料問題研究会概要
1 日時
平成8年12月9日(月)14:00~16:00
2 場所
経済企画庁特別会議室(1230号室)
3 出席者
(委員) 田中座長、
石川竹一、内田光穂、栗原史郎、巌善平、篠崎悦子、石井彰、
柴田明夫、坪田邦夫、中上英俊、 藤田幸一、古沢広祐、柳原透
(事務局) 五十嵐審議官、西川経済構造調整推進室長、
古賀電源開発官、小原計画官
4 議題
食料問題の現状と課題について
5 審議内容
主な意見は次のとおり。
○ 環境問題の解決は食料問題、エネルギー問題を解決することによりなされる。その意味で、
総合的、グローバルなアプローチが必要。その解決策のひとつとして、日本の国際協力があ
る。70年代のインドネシアの米不足に対し、日本は環境問題も含めた総合的なアプローチを
提案し、インドネシアは米の自給を達成した。日本の果たせる役割は確実にある。
○ 食料については、この資料で整理しつくされているが、「食料問題とは何か。」ということ
について、説明が必要。多くの途上国が経済発展にしたがって食料需要が伸びていくのに対し、
いかに安定供給していくかということ。イモを食べれば食料問題が解決するということではな
く、そうならないようにすることが重要。
○ 食料需要の拡大はどの予測も一致している。また、耕地面積もこれ以上の増加は見込めない。
異なるのは単収の見通し。米国の研究者はバイオ技術の進歩により、現在の単収を2倍、3倍
にすることも可能と言うが、バイオ技術はまだ不安定なものであり、これによって楽観するこ
とは危険。
○ 穀物の国際マーケットは、・18億トンの生産に対し、2億トンの貿易量であり、生産の増減
が貿易に直接反映する。・貿易量の大部分を米国に頼っている。・日本、韓国、台湾等大量輸
入国が存在する上に中国もこれに加わる。このようにマーケットが脆弱な状態にあるなかで、
減反政策等生産調整を放棄した米国の新農業法はマーケットの変動性をさらに大きくする。
○ 中国が95%自給しても、5%の輸入は2~3千万トンに相当し、世界市場の大きな攪乱要因
となる。また、国内の都市部住民のニーズが生産現場に伝わっていないという問題もある。
○ インドは最近の豊作で輸出国となっているが、需要は伸びているなか、農業投資の停滞、水
の制約等の問題により、今後の見込みは不安定。
○ 今年の穀物価格の高騰は、80年代を通じて農産物の相対価格が上がらず、農業投資のインセ
ンティブが薄れ、生産が伸び悩んだことによるもの。今後は価格が高止まりするのではないか。
これは60年代から、70年代への変化に似ている。
○ 水産漁業資源についてはふれられていないが、自由に生産を増やせるものではなく放ってお
くと魚がいなくなるということにならないか。所得増加につれて肉類消費が増加していくと、
生産と消費のバランスが崩れるのではないか。また栄養のバランスについても考慮する必要が
あるのではないか。
○ 中国の単収の水準は高く伸びも大きいが、今後の単収をどう見るかはその高低の要因や国に
よる特殊性が生産にどう寄与しているかの検討が重要。
○ 生産については、単収、耕地面積等により、消費については人口、一人当たり消費量、GD
P等の関数で表せる。生産と消費のバランスを調整するのが貿易である。食料サミットにおい
ては、輸入国は国内生産の重要性を、輸出国は貿易の拡大を主張し意見が分かれたが、適正な
貿易というものをどう位置づけるかが重要。国際市場が不安定ななかで、価格が高騰した場合、
途上国等にどのようなインパクトを与えるのかこれが貿易を考える場合の重要なファクターに
なる。
○ 農業投資に関し、インドの例では、新規のかんがい投資はha当たり2500~3000ドルのコス
トを上回るとペイしない。このため、新規建設より既存施設の更新維持管理が重要であり、こ
れを進めるために農民組織の充実も重要。
○ ASEANを中心とする東アジアの経済発展により、食料問題は農工間の所得格差の問題へ
と変化し、農業保護政策につながっていくと考えられる。これが食料需給にどの様な影響を与
えるのか考える必要がある。
○ インドは米の輸出国であるが、これは膨大なストックがあること等によるもので、高収量品
種の普及等による単収増加も一巡していること、地下水位の低下等の環境問題もあり、今後そ
れ程大量の輸出は期待できないのではないか。消費については、ベジタリアンの風土もあり牛
乳・乳製品の消費が大きく、食肉は少ない。今後鶏肉の消費は多少伸びようが、それ以外の食
肉はそう増えないだろう。また、粗粒穀物の生産余力もあることから、大量の穀物輸入国とな
る可能性は薄いのではないか。
○ ポストハーベスト等も含め、食料の流通の問題も重要。
耕地面積の推移等もう少し日本のデータを入れた方が説得力があるのではないか。
○ 需要については、人口抑制の視点を入れてもよいのではないか。また、合理的な消費パター
ンを指導する政策が重要との観点も必要。
○ 世界の供給については、北米、EU等の潜在生産能力はまだあるのではないか。また、途上
国については、先進国からの技術協力による単収増加は必ずしも環境悪化にはつながらない。
価格が高くなれば、増産は可能。
○ R・ブラウンの予測には価格が反映されていない。価格が需給を均衡させるのであり、政治
的には分配の問題があるが、経済学的には食料不足は存在しない。
○ 中国の食料政策は食料白書、食料サミットで明らかにされているが、国内には、中国も購買
力を持っており、農産物の中には国際価格を上回るものもあることから、95%の自給にこだわ
らないという意見もある。
○ 中国では放牧による畜産が多く、欧米ほど食肉の増加が穀物消費の増加にはつながらない。
また、中国は国内で需給の均衡を図っているが、流通インフラの整備が遅れているので、北の
生産地から南の消費地に運ぶより、北は輸出、南は輸入して純貿易で均衡を図るとの意見もあ
る。しかし、大量の輸入は、農村の雇用問題を招くため政策的には難しい。
○ マルサス的危機は技術革新と投入の増加によって避けられた。ブラウンはこれらがすでに限
界に達していると警告している。投入については、かんがいコストはha当たり1万ドルを超
えるものもあり、新規投資が難しくなりつつある。また、70~80年代に建設された施設のメン
テナンスもされておらず、その点も不安が残る。技術革新については米国ではバイオの新たな
動きがあり、これが楽観論の根拠となっているが、原子力問題のように安全性の問題が出てく
るのではないか。
○ 中国の今後については、WTOへの加盟がカギとなる。現在は経済合理主義にのっとった輸
入政策と、白書や食料サミットで表明された国内政策との間で葛藤があるがWTOへの加盟は
農業にとっては影響が大きい。
○ ブラウンの仮説は水産業の「1億トンの壁」(技術、資本を高度化するほど生産力の持続性
が危うくなる。)からのアナロジー。中国の穀物消費が今後300kgから400kgに増加するか
どうかは、経済成長していく段階で水産物の消費がどう伸びていくかにかかっている。これが
中国の食料問題を考える上で非常に重要。
○ かんがい等の投資とともに重要なことに、トランスポーテーションの問題がある。南米の増
産のボトルネックは国内流通のインフラが未整備なことによる。
○ 先進国の収穫面積が減少しているが、これは余力が多少あるということではないか。
○ 旧ソ東欧による需給への影響をどう考えるかが重要。
(以上)