補論 第2節 熊本地震からの復旧・復興

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2016年4月14日以降に熊本県、大分県において発生した「平成28年熊本地震」は、地震の被害に加え、サプライチェーンの寸断などの供給制約から輸送機械を中心に他地域の生産にも影響を及ぼした。ここでは、その後の復興状況を確認する85

1)製造業生産の動向

(域内製造業の回復を主導したのは電子部品・デバイス、電気・情報通信)

熊本県の鉱工業生産指数の推移をみると、地震の発生した4月と翌5月は低下したものの、6月には上昇に転じ、その後は全国や九州の水準を上回って推移してきた(補論2-1図)。

産業別に上昇要因をみると、「電子部品・デバイス、電気・情報通信」の寄与が最も大きく、次いで「はん用、生産用、業務用機械」が貢献している(補論2-2図)。熊本県にはこうした業種の事業所が集積しており、震災直後にはサプライチェーンの寸断によるリスクが懸念されたものの、2016年後半から顕著となっている世界的なスマートフォン等の電子部品需要の拡大が追い風となったことから、急速な回復を遂げることになったと言えよう。

2)小売・観光サービスの動向

(小売販売も回復し、マインド面も回復)

次に、百貨店・スーパーの販売額(実質)をみると、震災の発生した4月は大きく落ち込んだが、5月から増加に転じ、震災前の水準を回復したのは7月頃であった(補論2-3図)。その後は全国や九州が横ばいとなっているところ、熊本では、被災に伴う家具等の買換えや生活再建の復興需要もあり、震災前の水準を超えて推移している。販売側においても、熊本を代表する老舗百貨店の場合、震災発生直後の4月15日に臨時休業に入ったが、同月23日より一部で営業を再開し、6月1日には屋上を除く全店で営業を再開した。店舗営業の早期再開も小売販売の回復に寄与したと考えられる。

実販売額に加え、熊本地震がマインド面に与えた影響について、「景気ウォッチャー調査」の地域別現状判断DI86を用いて評価すると、過去の震災(東日本大震災、新潟県中越地震)87時における被災県を含む地域(過去の場合はいずれも東北地域)の動きと同様、発災月のDIは大きく落ち込んだ。その後は緩やかに持ち直しを続け、百貨店・スーパーの販売額と同様、3か月後に発災前の水準を回復した(補論2-4図)。

(国内観光客は戻り基調だが、外国人旅行客は被災前の半数程度)

次に観光業への影響をみよう。震災直後は、国内外の観光客から宿泊のキャンセルが相次ぐなど、観光業にも多大な影響が生じ、風評被害は熊本県や大分県に止まらず、九州各地で宿泊のキャンセルが発生した88。九州への国内観光客の延べ宿泊者数の推移を平年(2011-2015年の平均)と比べると、震災の発生及び直後の4-6月期は、熊本県で大きく落ち込んでおり、九州全体でも平年を割った(補論2-5図)。しかしながら、7-9月期以降には、「九州ふっこう割」等の支援もあり、九州全体ではおおむね平年並みの動きとなった89

一方、外国人延べ宿泊者数の推移をみると、2016年は平年対比で大幅なプラスから始まったが、発災した4-6月期は、熊本県はマイナス、大分県はプラスを維持するものの、前期から大幅に減速する結果となった。九州全体も大幅な減速となったが、7-9月期には、大分県の平年比変化率が全国並みに回復したこともあり、九州全体としても下げ幅が縮小した。熊本県の復調には時間がかかり、平年並みに戻ってきたのは10-12月期であるが、その後回復の基調は強まっている(補論2-6図)。

(観光資源の早期復元・復活が必要)

今回の地震では、熊本城などの景勝地が被災しており、その復興が急務であるが、例えば、熊本城は、20年の計画で復旧が進められる予定となっている。熊本城の被害総額は、634億円である。

熊本城の被災によって生じる費用は復旧だけではない。再開するまでの間に期待された収入も失うことになる点にも配慮する必要があろう。具体的には、年間入園者は170万人(2015年)であり、入場料は大人500円、子供200円である。一人当たり入場料を平均の350円と仮定した機械的な計算では、年間6億円の収入になる。当然、入場に伴って各種の物品販売機会も生じるため、この金額は更に大きいだろう。熊本城の復旧に向けては、20年の間に生じるこうした120億円超90の機会損失も勘案することが必要であり、復旧に伴う代替イベント等によって収入を得ていくことも重要である。

3)今後のポイント

(被災後1年でインフラ復旧が進む)

熊本地震から1年以上が過ぎ、インフラの復旧が進展している。道路・橋梁の復旧状況についてみると、震災直後は111か所で通行止めであったが、1年後には11か所を残すだけとなった(補論2-7図)。農地・農業用施設についても熊本県内全2,357件の査定が完了し、農地海岸(直轄代行)は7海岸のうち3海岸で復旧に着手(1海岸は応急工事済)、災害廃棄物処理も72%が完了している91

(暮らしの面では、医療福祉系は復旧しつつあるが、文化財等には遅れ)

暮らしの面では、予定していた応急仮設住宅が、地震から7か月後の2016年11月に全て完成した(補論2-8図)。今後は、災害公営住宅の整備を進める予定となっており、2017年5月29日時点では、設計着手戸数は、計画戸数全体の18%程度である。ただし、この段階では整備予定戸数の多い益城町はまだ着手に至っていない(補論2-9図)。そのほか、医療施設、社会福祉施設等、県立図書館、青少年教育施設の復旧は、80~100%と進捗しているものの、公立・私立学校の復旧は約45%、体育施設等や観光資源となりうる国・県指定等文化財の復旧方針も確定しているのは20%程度にとどまっており、遅れが目立つ(補論2-10表)。

(熊本城の復旧を含む平成28年度2次補正等の成立)

今後の復旧を加速し、復興に至るため、国は、平成28年度第2次補正予算(総額32,869億円92)において復旧・復興関連事業の予算化を行った(補論2-11表)。同予算では、公共土木施設等の復旧や、熊本城等の復旧、学校施設、医療施設、介護施設、児童福祉施設等の災害復旧に加え、被災自治体が地域のニーズに応じ長期にきめ細かく利用可能な復興基金の創設支援(特別交付金の追加)が盛り込まれている。

また、第3次補正予算(2,133億円)においても、追加的な事業の予算化を行っており(補論2-12表)、廃棄物処理費用の負担等と並んで、農林水産事業者や中小事業者への追加負担が盛り込まれている。


脚注85 発生直後の影響や、地震によるストック毀損額やGDPの損失額など経済的な震災被害の試算等については、堤ほか(2016)を参照されたい。
脚注86 DIは景気の現状、または、景気の先行きに対する5段階の判断(良い、やや良い、どちらともいえない、やや悪い、悪い)に、それぞれ点数(+1、+0.75、+0.5、+0.25、0)を与え、これらを各解答区分の構成比(%)を乗じて、算出した指数である。
脚注87 ここでは、過去の震災として東日本大震災(2011年3月11日、岩手県沖から茨城県沖、深さ24km、マグニチュード9.0)、新潟県中越地震(2004年10月23日、中越地方、深さ13km、マグニチュード6.8)との比較を行っている。景気ウォッチャー調査によるデータは、2001年からとなっているため、阪神・淡路大震災(1995年1月7日、淡路島北部、深さ16km、マグニチュード7.3)については、比較対象に含めていない。
脚注88 内閣府政策統括官(2016)によると、2016年5月8日時点で九州全体での宿泊キャンセル数は75万人にのぼった。
脚注89 2017年1-3月期は「九州ふっこう割」終了に伴い、熊本県、大分県で反動減がみられたが、両県によれば、4月には平年並みに回復している。
脚注90 年間収入(6億円)に復旧するまでの期間(20年間)を単純に掛けて算出した。
脚注91 平成28年熊本地震復旧・復興支援連絡調整会議(第2回)資料1「平成28年熊本地震からの復旧・復興の進捗状況(H29.3.31現在)」より引用。
脚注92 うち、熊本地震からの復旧・復興として、4,139億円を計上している。
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